銃を持たない人は裸で歩いてる人より少ない世界   作:こまつな

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006 白石ウタハ

「ウタハ先輩、なんだかそわそわしていますね?」

「あぁ、分かるかい? ようやくテスターが見つかってね。開発が波に乗りそうなんだ」

 

 普段より気合を入れた格好で時間を気にしている白石ウタハは通りかかった部員に朗らかに言葉を返す。

 返事を聞いた少女がア、ハイと若干引いた様子で去っていくのを怪訝な顔で見送りながらも、再びスマホの時計をちらちらと視線を向け始める。

 

 デートの待ち合わせでもしているかのような雰囲気。

 だがしかし、場所はエンジニア部の開発倉庫、待ち人は――露出癖の変態なのだ。

 

 

 ミレニアムサイエンススクール。

 キヴォトスにおいて最先端、最新鋭と呼ばれるものの多くはこの学園で開発されており、その高い技術力から古参の学園にも劣らないほどの影響力を誇る。

 そのため歴史の古いゲヘナ学園、トリニティ総合学園と並び、歴史の浅い学園でありながらキヴォトス三大学園の一角に数えられる巨大な学園自治区だ。

 

 そしてエンジニア部はミレニアムにおいてもトップクラスの実績を残す部活である。

 マイスターと呼ばれる機械製作と修理の天才が多く所属し、当然ながらウタハもそう呼称されるひとり。

 

 だがここはキヴォトス。

 優秀であることと有能であることがイコールとは限らず、まして変人であることを否定できる要素など皆無。

 

 光学迷彩下着セットの開発者である彼女は、優秀で有能だが、割と変人寄りの感性を持つ技術者と言えるだろう。

 

 そう、光学迷彩下着セットである。

 そんなもんを大真面目に開発してるのはぶっ飛んでいるし、それをミレニアム最大級のコンテストに出展しようとしてるのは割と正気を疑う。

 

 彼女には光学迷彩を開発する技術はあっても、下着制作の経験はなかった。

 試行錯誤を繰り返しようやく形にはなったものの、モノが下着である以上は長期間の着用を前提としてデータを取得しなければならない。

 

 その為に誰かに試着してもらうというのは別におかしな発想ではない。

 のだが光学迷彩下着セット、言い換えるなら――透ける下着を装着してくれる誰かを探すのは当然の如く難航した。

 

 普段は三人並んで姦しく文殊の知恵を寄せ合っている友人達にも残念ながら頼れない。

 開発段階ではノリノリで技術を詰め込んでいたにもかかわらず、いざ試着となったら速やかに逃亡したからだ。

 

 正直気持ちは分かる。

 なんでこんなもん作っちゃったんだろうという思いは頭の片隅には残っている。

 

 だが、ブラッシュアップも終わっていない未完成品を出展するなど、マイスターのプライドにかけて否だ。

 

 バストやヒップのサイズだけではなく、身長や体格、もっと言えばパットを盛る盛らないでも必要なデータに差は出てくる。 

 サンプルが自分ひとりではデータが不十分なのは火を見るより明らかだろう。

 

 ミレニアム内部でテスターを募集しても応募がなかったのは、ぶっちゃけ本人的にも薄々予想していたことだった。

 

 だが、最終的に出力されるのは控えめに言ってもアレな物品だが、本人は大真面目に開発に挑んでいるのだ。

 培った技術を注ぎ込んだ作品を人目にさらすのに躊躇う理由などありはしない。

 

 それ故に公募を一般募集に切り替え、ミレニアムの技術に興味を持った誰かが協力してくれるのを心待ちにしていたのだ。

 エンジニア部はミレニアムに限らず、キヴォトス全土で保守点検の業務にも携わっている。

 外部に協力を求めること自体はそれほど難しいことではない。

 

 最初のテスターとなり追加の面子を集めることに成功しやがったどこぞのスレの露出狂の目に入ったのは、そういう経緯の末の出来事であった。

 

 

「こんにちはー!」

「やあ、待っていた……よ?」

 

 そして約束の時間の五分ほど前。

 現れたのは全裸の痴女だった。

 

「……はっ!製作者の私でも裸と見紛う完璧な迷彩!試作品の調子は良好のようだね」

 

 需要なんてあるかは分からないが、こんなもんを欲しがるのは露出癖のある相手であることは分かっていた。

 であるからには彼女達が求めている要素を突き詰めるのに否はない。

 

 いくら透けて見えるとはいえブラジャーを着用すればバストは裸とは異なる形でカップに収まる。

 パンツを履けば尻肉に食い込みも見られるだろう。

 

 だがそれは本当に露出趣味の少女が求めていることなのかと、ウタハは疑問に思ったのだ。

 

 下着を着けているのであれば見えるはずの食い込みもパッと見では気付かない。

 それでいてしっかりと身体にフィットする的確な着け心地。

 

 彼女が無駄にこだわり抜いた、本当に裸に見える光学迷彩下着セットは完璧な動作を製作者に見せ付けていた。

 

「え、途中で動かなくなっちゃったから普通に脱いだけど」

 

 しかし現れたのは――全裸の痴女だった。

 

「う、うん……? フル稼働でもバッテリーが切れることはないはずだけど、ちょっと見せてくれるかい?」

 

 これが本物の露出狂かと戦慄きながらも、その言葉に含まれる改善点を彼女が聞き逃すことはなかった。

 

「はーい。あ、洗濯しちゃったけど大丈夫なのかな?」

「防水加工は徹底してるよ。汗や皮脂だって故障の原因に繋がりかねないからね」

 

 全裸の変態は随伴していた撮影用ドローンが吊り下げていた鞄からメタリックな下着を取り出す。

 チラリと中身の見えた鞄の中には普通に着替えも入っていたのに裸なのはとりあえず見なかったことにして。

 

「ふむ……配線が何箇所か断線してるね。銃撃戦にでも巻き込まれたのかい?」

「そんなことないけどなぁ。裸で歩いてるとみんな避けてくれるからね!」

「そ、そうなのか。とりあえず修理はするとして、他に何か気になったことはあるかな?」

「着けてると妙に暑くって、夜中に散歩してても谷間に海が出来るくらいで……」

「排熱関係にも問題ありと。やっぱり実際の使用感は違うのか。自分で試したときは気にならなかったんだけどな」

 

 大振りなブラジャーを小脇に抱え、全裸の少女にメジャーを走らせながら真面目な顔で呟き始めるマイスター。

 

 ランジェリーショップでなら良く見る光景かもしれないが、ここはエンジニア部の開発倉庫。

 彼女はいたって真面目に取り組んでいるのだが、その絵面はどう見ても事案の一言である。

 

 そしてその背後では倉庫の入り口に身を寄せながら、他のテスター候補の少女たちも顔を赤くして覗き込んでいた。

 

「え、あたしらもあのノリでやらなきゃダメなの?」

「ゴメンムリィ……」

「予想はしていましたがデザインがイマイチですわね……」

 

 ミレニアム最大の祭典、ミレニアムプライスまではまだ遠く。

 光学迷彩下着セットの開発秘話は始まったばかりである。

 




・補足
ウタハが光学迷彩下着セットを開発してるのは公式設定です
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