銃を持たない人は裸で歩いてる人より少ない世界   作:こまつな

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061 浅黄ムツキ

 便利屋68の少女たちがカイザーグループから不審者討伐の依頼を受けてから、既に一ヶ月が経過した。

 もはや砂に足をとられず歩くことも苦ではなくなり、人が少ないが故に顔を合わせる現地民とも残らず顔見知りだ。

 

 今日もちびっこに警備のお仕事頑張ってねと手を振られ、にこやかに手を振り返した陸八魔アルは、はたと気付く。

 

「あれ!? もしかしてこれ、いいように使われてるんじゃないかしら!?」

 

 ようやく気付いたのかと苦笑を浮かべる頭脳班たち。

 

 いつから騙されていたのかは定かではないが、あまりにも不審者との遭遇件数が少なすぎる。

 というかカメラ越しの映像こそ確認しているものの、彼女達が直接不審者と遭遇したことなど一度もない。

 

 最近は廃墟にたむろしているヘルメット団と銃撃戦を繰り広げるばかりであり、話に聞いた全裸の不審者など影も形もない。

 直接の戦闘こそ行っていないものの、彼女達に恐れをなして河岸を変えたというのなら、それはそれで依頼達成となっていても別におかしくはないのである。

 

 実際に見かけたという現地民が居る以上、実在はしているのだろうが、まだアビドスで活動しているのかと聞かれれば疑問が残るところだ。

 

 なんだかんだ馴染んでしまうほどには、今の生活も悪くない。

 弾薬や爆薬はもちろん食費だって経費で落ちるし、そこそこのホテルも宛がわれて寝る場所にも困らない。

 

 だが、そうではない。そうではないのだ。

 アルが憧れるアウトローというのは、そんな飼い犬みたいな生活を送る人物ではないはずなのだ。

 

 

「作戦会議をするわよ!」

 

 もはや常連となったラーメン屋でアルは高らかに宣言をする。

 

 バイトの少女からはよそでやってくれないかと白い目を向けられているが、テーブルに四人前のラーメンが並べられている以上は客なのだ。

 文句を言われる筋合いはないだろう。

 

 ラーメンを啜る音を交えながらの会議は遅々として進まない。

 というか前に不審者の情報をくれたバイトちゃん曰く、学校をサボってるのがバレて補習合宿に放り込まれたらしく最近は見てないとのことだった。

 

 これを指摘すれば円満解決できるのでは?

 いや自分達とは関係ない理由で徘徊をやめたなら報酬をぶっちされるかもしれない。

 

 大人たちに食い物にされては建物ごと爆破している彼女達にとってある意味慣れた状況ではあるものの、だからと言って簡単に解決策が浮かぶわけでもない。

 

「……うげっ」

 

 ガラガラと引き戸が開く音が聞こえてきたと思ったら、次いでぼやくような誰かの声。

 何となしに視線を向ければ、そこに立っていたのは私服姿のゲヘナっ子。

 

 ――慣れ親しんだアビドスでは見かけない顔だった。

 

「あっれー? ゲヘナの子がなんでこんなところに? ほらほらこっちおいでよ、相席しよーよ」

「いや、知り合いから薦められて……ってかなんで便利屋が居るんだよお前ら苦手なんだよ前に吹き飛ばされたの忘れてないからな……!」

 

 なんか恨み言を吐かれているがどこ吹く風。

 体格に劣るムツキに引きずられながら、がらがらの店内で無理矢理に相席させられる少女。

 

 アルはカヨコに視線を向けるが、静かに首を振られる。

 彼女に覚えがないのなら本当に誰かわからない。

 便利屋68が施設を吹っ飛ばしたのは数えられないほど多く、いちいち誰が巻き込まれたなど把握しきれないからだ。

 

 とはいえそこはゲヘナ学園。

 一回や二回ボコボコにされた程度では挨拶とさほど変わらない。

 

 既にアビドス高等学校の総人口と同数のゲヘナ生が集まりつつあるテーブルに、五杯目の柴関ラーメンが運ばれてくる。

 

「あっ、これマジで美味いな……」

 

 思わずもれ出た呟きに、バイトの少女と何故かアルまでもが自慢げな表情を浮かべる。

 

「ねえ、裸の不審者って貴女のこと?」

 

 そしてキレても許されるレベルの爆弾発言が投下される。

 

 幼馴染の蛮行にアルは白目を剥き、そこに少女の噴出した醤油ベースの濃厚スープが飛び込んだ。

 

「うあっつい! 目がっ! 目がああぁぁぁぁ!?」

「アル様!?」

「ちょっと!? 誰が掃除すると思ってんのよ!!」

「ごふっ、げほっ! おまっ、げほっ」

「はい、水」

 

 混沌と化していくテーブルでにんまりと笑みを浮かべながら頬杖を突く。

 

「よくもアル様を……!」

「まって! 待ってハルカ! これで襲い掛かるのは流石に人としてダメよ!?」

 

 スイッチの入った平社員を社長がなだめ、黒い羽の付いた生徒は涙目になりながら水を呷り、呼吸を落ち着かせてから改めてムツキを睨みつける。

 

「いきなりなんだよ!? つーか飯時にそんな話するな!」

「えーだってこれ貴女でしょ? ()()()()()()なんてゲヘナじゃ滅多に見ないもん。髪の色も同じだし、ね?」

 

 端末に表示させた画像を見せながら小悪魔は笑う。

 

 監視カメラに映っていた全裸の不審者は全部で四人。

 それぞれ別の学園の生徒らしく特徴もばらけているが、その中に一人、ゲヘナ生っぽい見た目の全裸も居た。

 

 他校の生徒ならともかく、地元であれば特徴の掴み方には馴染みがある。

 特に角、羽、尻尾の三点セットは分かりやすい部分だ。

 それぞれ生徒によってある部分とない部分があるし、あるならあるで形も色も一人ひとり違う。

 

 荒い画像では顔の識別までは難しくても、その形状がどうなっているか程度は分かる。

 

「……お前らが悪いんだろ」

 

 観念したのか、鼻から逆流していたラーメンをティッシュで処理しながら、不審者の少女は不貞腐れたようにぼやき始めた。

 ちょうどラジオが切り替わったのか、まるで犯人が自白を始めるかのような悲しげな音楽が店内に流れ始める。

 

「お前らが……あたしが露天風呂入ってるときに施設ごと吹っ飛ばしたから! 素っ裸で市街地に放り出されたんだぞ! あたしがどんな思いで家まで帰ったか分かってんのか!?」

「何時の話!? それ絶対アビドスでの話じゃないわよね!? 今関係あるの!?」

 

 律儀にツッコミを入れるアルも甲斐甲斐しくハルカに染み抜きをされている。

 

 ゲヘナなら絶妙にありえそうなラインを突いてくるのがもう笑いの種である。

 正直お風呂入ってるときにゴメンという気持ちはなくもないのだが、それとこれとは関係ないよねというのがムツキの素直な感想なのだ。

 

「お前らには分からないだろうな……普段は見向きもされないってのに、裸で歩いてるだけでみんな悲鳴を上げて逃げてくんだ。それがどれだけ気持ちよかったのか……お前らに分かってたまるか!」

「そんなこと分かりたくもないんだけど!?」

 

 露出願望が発露した経緯など一生知りたくもなかったアルが悲鳴を上げる。

 

 せめてラーメンだけは全部食べさせてくれという希望を叶えた後、少女は連行されていった。

 

 自分は変態じゃない、仮に変態だとしても変態という名の淑女だと主張していたが。

 ゲヘナに淑女など居るわけないだろという完璧な理論の前に、フウカちゃんのこと知らねえのかよと逆ギレを返し、でもそれあなたじゃないですよねと正論で殴られて口を噤む姿も見られたそうだ。

 

 こうして便利屋68のアビドス出張は終わりを告げた。

 ただひとつ、醤油ベースの芳しい匂いを染み付かせた社長の一張羅だけが、この事件の傷痕と言えるだろう。

 




原作ルートとの相違点
・カイザーから受けた依頼が変質者の確保
・柴関ラーメンが爆破されてない
・資金に余裕があるため事務所を追い出されていない
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