銃を持たない人は裸で歩いてる人より少ない世界   作:こまつな

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063 不知火カヤ

 不知火カヤは書類の束を胸に、矯正局の廊下を歩いていた。

 

 彼女に任された指示はそう難しいことではない。

 ただ、生徒に事情を説明して署名を集めるというだけ。

 

 冤罪によって捕縛された少女たちの減刑手続き。

 とはいえ学園自治区への不法侵入自体はしっかりと問題行為である為に、書類上は複雑な手続きが必要になる面倒な作業でもある。

 

 全ては敬愛する超人、連邦生徒会長に頼まれたこと。

 そのことを誇りに思うことはあれ、疑問を差し込む余地などはありえない。

 

 収監された生徒たちはざっくり四種類に分けられた。

 

 ひとつはむっつりと黙り込んで粛々と従っているグループ。

 全体で見ればこれが圧倒的多数であり、この集団はこれがスタンダードなのだろう。

 

 ふたつめは憑き物が落ちたように力を抜き、周囲と談笑を始めていたグループ。

 主流派からは外れた非好戦的な性格なのだろう。

 近場のD.U.の甘味処を局員に尋ねてきた子もいたとのこと。

 離間工作を仕掛けるなら彼女たちにするべきだ。

 

 みっつ、おそとこわいと震え上がっている少女たち。

 そうなった要因は容易に想像が付く。

 おそらく正義実現委員会のワンマンアーミーに追い回されたのだろう。

 平時に相対するだけでも結構恐ろしげな風貌をしている彼女だ。

 敵として相対したらどうなるのかは想像に難くない。

 

 そして最後……に、分類してもいいのか悩むところ。

 服がぼろっぼろにされてえぐえぐと泣きながら互いを慰めあっている子達。

 全裸の変質者に襲われて服を破かれた挙句に写真を撮られてしまったと。

 明らかに加害者ではなく被害者側に見える彼女たちはいずれも似たような証言を上げていた。

 

 最後だけもうなんか異質である。あまりにも異質過ぎる。

 どうしようもないレベルで尊厳を踏みにじる暴挙にお嬢様学校の闇を感じる。

 人の心とかないのだろうか。

 

 慌てて先に現地入りしている部下に確認を取ったが、全裸の変質者の噂など流れておらず、見てもいないと答えが帰ってきた。

 

 同時に矯正局の職員にも緘口令を敷いた。

 何故かって、トリニティでは全裸の変質者が犯罪者を取り締まってるなんて噂が流れたりしたら大惨事になるからである。

 

 百万歩譲ってトリニティ内部だけで完結する噂であれば放置でも構わない。

 が、矯正局――連邦生徒会から発信されたとなれば、それはもう外交問題というか全面戦争の引き金にしかならないのだ。

 

 

 それはさておき、気になったことがひとつ。

 見慣れない制服に身を包んだ少女たちではあったが、いくらなんでも箱入りが過ぎるのではないかということ。

 

 連邦生徒会防衛室長として他意はなく署名を受け取ったのは間違いない。

 だが、あまりにもこちらの言葉を疑わずほいほいと記名が進んだのは流石に面食らってしまうほどだった。

 

 件の生徒たちはトリニティ学園自治区で捕縛されていた。

 冤罪に到ってしまったのも条約関係でピリピリしているからなのだろう。

 他校の生徒との関係は連邦生徒会であっても気を使う部分ではあるから、仕方がないと言えなくもないが。

 

 防衛室も当日の警備には一枚噛んでいる。

 というのも、トリニティとゲヘナは開校当時から続く不倶戴天の関係だ。

 中立である連邦生徒会が間に入らなければ、不可侵条約が締結されるなど夢のまた夢と言えるほどに。

 

 そこに飛び込んできたのが今回の騒動だ。

 何を企んでいたにせよ未遂に終わっており、収監されている少女たちは一応従順に矯正プログラムを受講している。

 学年に比してやけに平均学力が低いのも気になるけれど。

 

 だが何を目的として侵入していたのかは頑なに話そうとしない。

 それはそうだろうという感じではあるが、穏健派の少女たちも何かに怯えるように口を噤むのだ。

 キナ臭いのに変わりはない。

 

 エデン条約は連邦生徒会長の主導する重要な条約ではあるが、連邦生徒会の立ち位置は結局のところ立会人である。

 不安であるからと不用意に警備を増員するわけには行かないし、そもそもその判断をしなくてはならないのは両校の行政執行機関だ。

 だが調整に失敗すれば用意された武力は容易く互いの脳天を撃ち抜くだろう。

 

 かの超人に追い付こうと日々努力を続けてはいるものの、今だその背は遠く、至高の思考に触れることも叶わない。

 武力担当の部下も何やら密命を帯びて動いているようだし、信じて動き続ける他ないのだろう。

 

 ロビーまで引き返し、サンクトゥムタワーの執務室まで戻って書類の処理を進めることになるだろうと思っていた矢先。

 

 この数時間で見慣れてしまったジャケットに身を包む生徒が二人、受付に噛み付いて抗議の声を上げていた。

 アリウス分派の校章を背負う少女たちが、人攫いなど冤罪だと無実を訴えている。

 

 思ったより穏当な手段を取っているなというのが素直な感想だった。

 目的は未だ不明だが、大部隊で潜伏していた組織とは思えない理性的な対応である。

 あるいは、誰かに入れ知恵という名の誘導でもされているのか。

 

 頭の中で算盤を弾き、彼女たちもまた騙されやすい箱入りなのだと判断して。

 

「失礼、お話が聞こえてきたもので……少し聞かせてもらってもいいでしょうか?」

 

 にこりと笑みを浮かべながら声をかける。

 

 冤罪であることは把握していて、被害者として助けられてしまった本人がいるのならより効果的に手続きが進められると宥めすかし、言葉巧みに彼女たちの署名も手に入れる。

 

 あとそれはそれとして()()()()()()()少女たちも矯正局にぶち込んだ。

 

 冤罪は消えても不法侵入の罪が許されるわけではない。

 その程度であれば本来は数日の拘留ではあるものの、煩雑な手続きが必要になる冤罪の解消も行わなければならないのだ。

 たまたま全く関係のない条約の調印式の日付を跨いでしまっても、それは仕方のないことだろう。

 

 彼女もまた連邦生徒会の一部門を統括するに足る優秀な人物だ。

 優れたトップが居る限り、分不相応な野心を抱くこともなく。

 

 防衛室長はその名に相応しい役割を全うし続けるのだろう。

 




原作ルートとの相違点
・連邦生徒会長が健在のためカヤがまとも
・サオリ以外のアリスクが矯正局行き
・治安が悪化してないので七囚人が脱走していない
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