銃を持たない人は裸で歩いてる人より少ない世界   作:こまつな

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064 来檎ミミミ

 シャバの空気は旨い。

 そんな表現があることは知っていたが、実際に身を持って経験してみると想像以上に気分がいいものだった。

 

 学園の金でつつがなく保釈手続きを完了させ、後腐れなく留置所をあとにした。

 

 直後、背後に佇んでいた建造物が爆発で吹っ飛んだ。

 

「あー……最近外で動いてたから勘が鈍ったかなぁ」

 

 もくもくと黒煙を上げる建物を見上げながらぼやいてしまう。

 ゲヘナの留置所が無事であるはずもないという常識が頭からすっぽ抜けるほど、友人たちと遊びまわるのは充実した時間だったということなのだろうか。

 

 襲撃犯と警備隊のドンパチに巻き込まれないように距離を取り、周辺で店を開けている猛者の屋台で適当な軽食を頼む。

 

 とりあえず私服で解放されたのは幸運な点だろう。

 一応は統治機関である万魔殿(パンデモニウム・ソサエティー)の制服を着込んでいたら、襲撃者たちについでと言わんばかりに轢かれていたかもしれないのである。

 

 まあ、その辺歩いてるだけで特に意味もなく襲撃に巻き込まれるのがゲヘナではあるのだが。

 

 銃撃と爆発音を肴にサンドウィッチを頬張っていると、端末に連絡が届くのに気付いた。

 表示されているのは、外で出来た友人の名前だ。

 

「ほいほい、どしたん? 電話してくるなんて珍しいじゃん」

『まったく、モモトークに反応がありませんでしたので、これでも心配しておりましたのよ?』

「あぁごめんごめん、飯食ってたから気付かなかったわ」

『アビドスで活動していた傭兵が引き上げたそうですが、さぞ香りの強い料理だったのでしょうね』

 

 ばれてーら。

 

 今食べているのはフルーツサンドだが、臭い飯を食っていたという意味では彼女の言い分も正しい。

 そういったやり取りが出来る程度にあちら側の言い回しに慣れたのは、良いことなのか悪いことなのか。

 

「前科持ちは嫌い?」

『互いの趣味を今一度確認したほうがよろしいかと』

 

 自分にとって露出はある種の威嚇手段だったのだが、それ自体を目的とした集団に飲み込まれてはや二ヶ月。

 

 ゲヘナにだって浅い付き合いの知人は多いし、一緒に出かけるくらいに仲のいい友人も居る。

 だけど、一緒に裸になって暴れ回るなんてアホなことをやらかすような生徒は、身近にはいなかった。

 

 ある意味ではゲヘナの校風より自由に生きている連中が、学園の外の、しかもトリニティにまで生息しているだなんて、彼女たちと出会う前の自分に教えたってきっと信じたりはしなかっただろう。

 

『そろそろ本題に入ります。……実は少し知恵を借りたいと思いまして』

「え、お嬢に分からんことなんてあたしに分かるわけないだろ」

『わたくしでは良案が出てきませんの。話だけでも聞いてくださいな』

 

 パンからはみ出たフルーツを口に押し込み、手に付いたクリームも舐め取って、スカートの裾で軽く拭う。

 包み紙を店員のおっちゃんにパスしたついでに屋台に背中を預け、ジト目で抗議してくる視線をどこ吹く風と受け流す。

 

『実は結構大掛かりな襲撃計画を察知してしまいまして……』

「え、面白そうじゃん。どこが主催してんの? あたしらも参加する?」

『流石にその返しは予想外過ぎますわね……』

 

 今日もゲヘナでは爆発音と黒煙が上がっている。

 ここじゃ襲撃なんて日常茶飯事だし、なんなら生徒会に当たる万魔殿だって、襲撃を掛けたり掛けられたりするくらい。

 

 自由と暴動が日常のゲヘナっ子にとって、たかだか襲撃だなんて面白いかどうかくらいしか判断できる基準がない。

 

『しかし、なるほど……それも()()ですか』

 

 だけど、あれで趣味以外は割とまともな感性をしているトリニティのお嬢様にはそうではなかったようで。

 

「なんか参考になった?」

『ええ、やはり貴女の声を聴いて正解でした。お礼はまたいずれ』

「いいっていいって、高いもんだと気後れしそうだし。あ、でもお嬢の手料理なら興味あるかも」

『…………あの、わたくし、料理は得意ではないのですが』

「そんならあたしが教えたげる。どうせ失敗するだろうし食材は安いやつ適当に買っとくからさ」

『ぐぬぅ……これで勝ったと思わないことですわね』

「何でそんなラスボスっぽい反応なの? もうちょい女の子らしい悔しがり方しなよ……」

 

『こんな醜態、貴女にしか見せませんわよ』

「……そういう不意打ちはずるいんじゃないかなぁ」

 

 何気なく視線を逸らして頬を掻く。

 

 デザートにも主食にもなる甘いものを売っている大人(ワンコ)の生暖かい円らな瞳がこちらを見ていた。

 なんか無性に恥ずかしくなってきて、ばさばさと羽で顔を仰ぎながら、熱くなったのを誤魔化した。

 

「イッチの方が仲いいと思ってた」

『きっかけになってくださったのは感謝していますし、あの子も大切な友人なのは間違いありませんけど……その、口さがなく言ってしまうなら、彼女は珍獣か何かでは?』

「あー……わかる。なんかこう、なんかだよね」

 

 本質的に、本能的に。

 裸であることへのスタンスがあたし達ともどこか違うのがイッチという全裸なのだ。

 

 それ自体が悪いことではない……いや、悪いことではあるが同じ趣味を持つのなら気にすべき点ではないし、それはまあいいとして。

 

 うまく言語化できないけれど、服を脱いでいる姿しか想像が出来ないという時点でかなりアレだと思う。

 他のメンバーは趣味で脱いでいるのに対し、イッチはなんかもう生態として全裸が組み込まれている雰囲気がある。

 すっぽんぽんが自然体なのって、生徒というよりマジで獣に近いんじゃなかろうか。

 

「んじゃそろそろ切るわ。あいしてるぜはにー」

『3点。文学書を用意するのできちんと口説き方を学んでおいて下さい』

 

 通話を終えると、近隣で発生していた馬鹿騒ぎもキリの付いたところだった。

 留置所から脱走している不良たちと怒った警備の集団が仲良く追いかけっこ、第二ラウンドに突入している。

 

 逃亡を始める店主の屋台に相乗りして追加のサンドと飲み物を頼む。

 

 銃声なんてキヴォトスでは子守唄に等しく、爆発と喧嘩はゲヘナの華だ。

 

 たかだか大規模な襲撃程度、ランチのつまみにちょうどいいものである。

 




原作ルートとの相違点
・全裸「来ちゃった❤」
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