000 百合園セイア
永い、長い夢を見ていた。
どうしようもなく馬鹿馬鹿しくて。
あきれるくらいに肌色で。
ドン引きするような悪夢だった。
けれど出来たばかりの友人は道を踏み外さずに済んだ。
身の振りを見返して欲しい知人はギリギリのところで踏み止まれた。
ほんのわずかな掛け違いで奈落の底まで落ちていくような、ぎりぎりの綱渡りの連続。
それを成し遂げたのは、成功に導いたのは、あろうことか全裸の変質者達だった。
この時点でだいぶ悪夢だ。
風邪を引いたときに高熱にうなされて見るような、性質の悪い支離滅裂な悪夢だ。
だが……彼女は自覚してしまっている。
――それは自分の能力によって閲覧してしまったいずれ起こる未来の光景だと。
百合園セイアは夢を見る。
間違えようのない未来の出来事を、予知夢として体験する。
アビドス自治区で起きることも。
ミレニアムで発生する事態も。
このトリニティでいずれ引き起こされ、未遂に終わる事件も。
全裸の少女から始まった馬鹿馬鹿しい蝶の羽ばたきが、その全てを巻き込んでしまうことも。
彼女は自分の予知夢に疑念を持ったことは一度としてなかった。
だが、よりによってこんな未来を見るだなんて想像もしていなかった。
何が酷いって肌色なのに目を瞑れば間違いなくハッピーエンドの類であることである。
悪い大人は懲らしめられて、生徒達は大なり小なり幸福を得ている。
その先で何が起きるかまではまだ分からないが、先々まで続いていることだけは分かるのだ。
だが、それには必要不可欠なことがひとつある。
夢の中――未来において、ナギサが、アズサが、そして全裸が語っていた無視できない事象。
――あの未来に到達するためには、自分が変質者の背中を押し覚醒させなければならないという、悪夢のような現実だ。
顔も名前も分かっている。
既にこちらの派閥を選んだことも知っている。
だが、現時点で既に露出をしているのかは定かではない。
セイアが予知能力を持っていることはまことしやかに囁かれている。
今思えば彼女がサンクトゥス分派に所属したのは、その予知で醜態を見られたとしても問題ないようにということだったのだろうか。
トリニティ総合学園は権力闘争の坩堝だ。
いずれエデン条約が結ばれ、紆余曲折の末に派閥間の対立も軟化するだろう。
だがそれは今ではなく、接触の仕方を間違えれば彼女のやり口からして露出をネタに強請ってくるのも想像に難くない。
最悪なのは、仮にセイアが何も行動を起こさなかったとしても夢で見た光景は現実のものとなるということだ。
つまるところ、どこぞの議長のように暴走した全裸の変態共が勝手に責任を押し付けてくる可能性を全く否定できないのである。
その時点で関わらずに静観するという選択肢は実質的に消え失せた。
己の尊厳の為に、なんとしてでも状況をコントロールしなければならない。
――もう脱いでしまえば全部解決しないだろうか。
彼女は実に安易な解を選択した。
寝起きでだいぶ頭が参っていたのかもしれない。
肌色に塗れた未来予想図をずっと見せられていたのだ、毒されるのも無理はない。
裸で出迎えれば彼女はこちらを同好の士と認識するだろう。
まだ露出に目覚めてなかったとしても、これで嗜好は歪むはずだ。
何せ未来は既に証明されている。
いや、いきなりの全裸じゃなくてスク水とかマイクロビキニから始めるのが良いだろうか。
ミカに送るイラストの練習もしなければ。
幸いなことに準備期間は十分過ぎるほど用意されている。
多少ロスしたところで全く問題にならないだろう。
そして全てを隠し通し、準備を整え。
――セクシーセイアですまないと、彼女たちに告げなければならないのだから。
銃の引き金は罵詈雑言よりも軽く、その程度なら痛いで済む世界。
銃を持たない人は裸で歩いてる人より珍しい。
そう言われる程に治安が終わってるのがキヴォトスである。
だからこそ、銃を持たない人より珍しくない人というのは、案外そこら中にいるのかもしれない。
・
イッチ
モチーフはメジェド。ヘイローは○に猫目のメジェド様フェイス。
それはオシリスの家におり、目によって撃ち、姿は見えない。
頭から布を被ったような姿で記録されている神秘であり、その衣の中身は現代においても定義されていない。
立場上は連邦生徒会ネームドなのでチエ=知恵の実=林檎。
メジェドのもじりでもあり、楽園の全裸にも関係のある名前である。
連邦生徒会長が見出したイレギュラー。
極めて希少な定義されていないと定義されている神秘であり、それ故に神秘に縛られることが無い。
先生のいないキヴォトスにおいて、ほぼ唯一制限無く行動が可能なワイルドカード。
ただし全裸の場合のみ。
アビドス出身かつ闘神の側面も持つ神秘なので基本性能がやたら高い。
また生徒たちの戦闘能力は精神状態で上下するため、変質者に襲われるという超絶メンタルデバフを強制してくる上に常時ハイテンションで最大スペックを発揮してくるこいつは対生徒の戦闘能力が異様に高い。
反面、全裸デバフの通用しない機械やガチな災厄相手だと上澄みにはやや劣る生徒のひとりという性能しか発揮できないという欠点もある。
アビドスを離れたのはユメ先輩の失踪前であり、そのため面識があるのはホシノのみ。
ユメ先輩の失踪時には当然ながらホシノと連絡を取っており、大丈夫だから戻ってくるなと言われてしまったがために成果を求めて奔走し、だが結果を出すことが出来なかった。
そして夜の公園で運命と邂逅した。
自宅が砂に埋もれたためにユメ先輩と同居していたという裏設定がある。
シロコが目撃した際に佇んでいた廃墟というのがその自宅だったりする。
原作ルートだと連邦生徒会モブ(カヤ派)をやっている。
脱ぐか脱がないかで神秘が大きく変質するので、着衣状態のままだと結構強いけど目立たないモブ生徒となる。
全裸だとしっかりテンションが上がるが、露出癖ではなくお風呂好きとかだと思われてるはず。
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露出徘徊お嬢様
モチーフはサマエル。ヘイローは蛇の目。縦に割れた蛇の瞳孔。
神の毒、神の悪意の名を持つ、火星を司る天使。
その神秘は堕落。自身が堕ちることも、他者を堕とすことも拒まない。
割と一般的なトリニティメンタルに加え、自身が堕ちることに対する忌避感の無さがブレーキを破壊している。
再三外見で語られている目隠れ要素は、モーセの杖で打ち据えられて盲目になった逸話が由来。
叩かれないように立ち回るというよりは盛大に周囲を巻き込んで自爆する準備を整えてから表に出るタイプ。
下手に突くとプラスよりマイナスのほうが大きいので容認せざるを得ないという政治屋。
何気に起業しているので大人のやり口をラーニングしてえげつない手を普通に打ってくるという厄介なタイプのトリカス。
原作ルートだと一般トリカスに紛れて暗躍している。
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ちょいワル
モチーフはサマエル。ヘイローは赤リンゴ。
エデンの園に棲んでいた蛇とも呼ばれることもある、赤い蛇。
お嬢様とはトリニティ・ゲヘナ間のどこかには居そうな堕天前の天使と堕天後の堕天使の関係。
趣味が似通っていたり忌避感が薄いのはそのため。
むしろ魂レベルで趣味が合うためすさまじい勢いで仲を深めた。
出会い方によっては同属嫌悪で不倶戴天の敵となる可能性もあった。
だが全裸だ。
お嬢様が親友と呼んでいるのはイッチではなくこの子。
イッチも友人ではあるものの、あっちはどちらかと言うと珍獣枠。
原作ルートだと普通に万魔殿モブをやってる。
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陰キャ
モチーフはノアの箱舟に乗せられなかった名も無き誰か。語られはしないが確かに存在した神話的モブ。
外見はミレニアム生徒B。ヘイローもモブ仕様のモブ生徒。
戦力は低いがミレニアム生だけあって地頭は悪くない。
適度に悪い子で適度にいい子な、本来であれば語るべき特徴もないような端役。
その神秘の薄さから神秘由来の汚染への抵抗力が低く、ぶっちゃけお嬢様たちの影響で全裸堕ちした。
元はえっちな自撮りをアップしてドキドキする程度の普通の子だったのに……。
でもモブ顔の地味な子がえっちな下着付けてるって興奮するよね。
名前のない誰かという神秘であり、それ故に自分に名前がないことに違和感を覚えない。
その神秘の特性上、救済の箱舟である原作ルートのキヴォトスに存在していない生徒である。
百合園セイアは予知能力者ではあるが、大きな欠点がある。
確かに彼女は未来を見るという破格の能力を持っている。
だが、それは彼女の人格が未来視という力を扱うに足るだけの成熟を見せているということとイコールではない。
見たくもない光景を、これから起こる悲劇を、無限に繰り返される夢幻の苦しみを、彼女は耐え難い苦痛に耐えてまで直視する覚悟を持つことは出来ない。
あくまで未来視という道具を持っているだけの、普通の少女。
完全な未来視が、完璧ではない一番の理由。
それが百合園セイアという予知能力者の致命的な欠陥だ。
アビドス高等学校の借金問題は表面上の解決を見せ。
ミレニアムサイエンススクールの勇者はクエストを達成し。
トリニティ総合学園の歴史の闇も、ジョークのように暴かれた。
見ているだけで恥ずかしい未来を見せられ続けた普通の少女は、安心してしまったのだ。
これから先も、この馬鹿らしくも愛おしい光景が続いてくのだろうと。
だがしかし、この世界に
避けようのない悲劇は起こるべくして起こるだろう。
聖十文字の預言者たちが証明を違えることはなく。
廃墟に放置された終末の鍵は女王を取り戻す為に動き始め。
色彩と呼ばれるナニカの降臨を押し留める者もいない。
マエストロはいずれ太古の教義を手に作品を練り上げるだろう。
ベアトリーチェの末路は観測されておらず、黒服が彼女との取引で得たものも明示されていない。
そして何よりも、定義されていないと定義されているという神秘は。
――
次で最後です