ラブコメに女装は必要ですか? 作:その日見た空は赤かった
グループが決まり、その日の集会が全て終了すると阪上先生は解散を宣言した。曜日当番は来週から仕事開始で、次回の集会は来月だそうだ。周囲の図書委員も帰宅するべく室外へと向かう流れが形成される。
さて、帰ってアクアロンドのアンソロジーコミックでも読むか。
俺もいそいそと仕度をしてそのビッグウェーブに乗るべく退出を、
「宗谷。お前は図書棟の掃除が終わってからだ」
「……はい」
出来なかった。
いや、あの時の阪上先生の言葉は冗談かと思ったから、本気で残って掃除させられるなんて思ってもみなかった。
せめて同じグループになった桂川には別れの挨拶をしておくか。
そう考えて見回すが居ない。流石と言うべきか、終わった瞬間さっさと出て行ってしまったようだ。らしいと言えばらしいけども。
阪上先生に着いてこいと言われて仕方なくとぼとぼ歩く。
掃除用具入れは本の貸借を行うカウンター背後にある部屋にあった。
「道具は大体この中にある。ゴミ箱は横のこれだ。ああ云ってしまったが、今日は一階を軽く掃く程度でいいぞ。図書棟のエントランスとか二階まで掃除していたら完全下校時刻を過ぎてしまうからな」
「は、はあ……。分かりました」
おいおい、軽くと言っても結構広いぞ。これを一人でやれと? 戦力不足甚だしいだろ、せめてもう一人欲しい。
あ、阪上先生も手伝ってくれるってことかな、流石に。
しかし俺のそんな藁をも縋る視線を振り切り、阪上先生は背中を向けた。まじかよこの人。
「じゃあ悪いが頼んだぞ」
悪いって思う感情、あったんだ。
ついそう思っていれば、俺の生返事にニヒルな笑みを浮かべて阪上先生は図書棟の出口の方へ歩いて行ってしまった。
先生の癖に仕事を押し付けて生徒を放置かよ……。
軽く恨み節を零しそうになったが、阪上先生は図書棟専任の司書というわけじゃない。日常業務、つまり国語教師としての仕事も抱えているのだろう。教師という仕事は業務量的に多忙で残業代もほぼ出ないと聞くし、それを鑑みたら多少は溜飲が下がる。
俺は諦めてモップを手に取って、振り向くと花宮が何故か慌てたように立ち竦んでいるのが視界に入った。
え、いつの間に後ろに立ってたの? 何で?
「あの、花宮委員長だよな。何か用でも?」
声を掛けると、花宮は肩を大きく一度揺らした。
「あ、そのね! 別に変な事とか何も全然考えてなくて! ただ掃除を一人でやらされるなんて可哀想だから私も手伝ったりしちゃったりしようかなあ~~って思って!」
なぜか俺以上に混乱してるらしく、言い訳がましい弁明と共に凄まじい勢いで両手が動く。余りにアガっているもんだから新種の生き物を見てる気分になった。
でも手伝ってくれるなら有り難い。図書棟の一階部分だけと言ってもそこそこ広範囲だ。なんたって俺の中学の図書室の5倍以上の広さはある。
「俺は良いけど花宮委員長は大丈夫? この広さだと多分時間かかるけど、後の予定とか」
「ううん私は何も無いよ! 心配してくれてありがとね! じゃあさくっと掃除しちゃおう!」
花宮はモップとちり取りを持つと、先導するように足を進めた。何か言おうと思ったが、まだ虚を突かれ思考が中断された後遺症が残っていたこともあり、終ぞ言葉が出てこなかったので俺も無言で後を追うことにした。
一階部分の入り口手前から掃除を始める。軽くで良いと言っていたので、その言葉に甘えてさらっと一回掃いては手早く塵を一か所に集めていく。
俺がモップで塵を集めて、花宮がちり取りで回収する。示し合わせているわけじゃないのにヤケに息が合ってる気がする。相性が良いというと違う気がしたので、多分、花宮が俺に合わせている。
そうして掃除を進める内に花宮のことが気になってきた。不意に目線がぶつかると、華やかながら控えめな笑みを向けられた。可愛い。待て待て俺は桂川単推しだ……!
電子レンジでチンッ! とされかけた思考を整理すべく、俺は目を反らしながら考える。
短い期間で俺が花宮に抱いている第一印象は、性格が良く容姿端麗な優等生。クラスが変わって初日の自己紹介で言っていたのだが、花宮はイギリス人と日本人のハーフらしい。輝かしい金色の長髪は紺野のような紛い物と違って染髪した訳ではない。その遺伝によるものだ。だからなのか紺野のそれより色が鮮やかで、一本一本が絹で出来たみたいに艶やかで洗練されて見える。あと高身長なのもきっと遺伝だろう。滅べ遺伝……じゃなくてだな。俺のコンプレックスは置いておく。
金髪碧眼で完璧超人を体現する花宮エリンに対する周囲の評価は高い。しかも周囲と打ち解ける能力もあって、俺と紺野が教室端で井戸端会議をしている一方で花宮はクラス内でも中心に位置する人物だ。クラスは違うが、或る種では桂川の裏返しみたいな女子生徒である。桂川が孤高を保ち選んだ極々一部の同性としか関わらないのに対して、花宮は誰に対しても優しく手を差し伸べる。だから桂川と違って、花宮は週に1回は告白を受けて週に3回は下駄箱にラブレターを投げられているという噂すらある。現実的にはあり得ないはずなのに、それが憶測と思えないくらい魅力を放っているのが、目の前でちり取りを握り締める花宮エリンに対する俺からの見解だった。
静謐を保つ図書棟で仕事をしていればふつふつと疑問が浮かんでくる。
何で花宮は掃除なんか手伝おうと思ったのか。優等生を演じるにしてもここまでやる必要はないはずだ。それに図書委員に入った理由も気になる。カースト上位の花宮なら俺と違ってスケープゴートにされるはずもない。まさか自己推薦で図書委員会に?
疑問を口にしようとして、止めた。
ここは図書棟だ。図書棟では他の生徒の迷惑にならないように静かにしなくてはならない。例え掃除中に読書に勤しむ生徒を殆ど見かけなくてもだ。それにもし阪上先生に花宮と喋っている場面を見つかってしまえば、今度こそ生徒指導室に叩き込まれて説教小一時間。うわぁ、あり得る話だから嫌すぎる。うん、面倒なことはちゃっちゃと終わらせてしまおう。
俺はモップを動かすペースを上げる。花宮にも俺の意志が伝わったのか、ちり取りさばきが素早くなった。
そうして大体30分ほどして、書架のある1階部分のゴミを集め終えた頃になって阪上先生が戻ってきた。
阪上先生は首はそのままに目の動きだけで辺りを一瞥すると、鼻を鳴らした。
「ふん。終わったみたいだな」
「まあ、はい」
「それで花宮まで何で手伝っているんだ? 私は飽くまで罰として、宗谷だけにやらせるつもりだったんだが」
獲物を目にした鷹のような視線が花宮を襲う。花宮は身を強張らせたように右手がピクリと一回跳ねた。いやいや、悪いことしてないのに何でこの人こんな怖いの?
思わぬ展開に慌てて口を出すことにする。
「俺が頼んだんです。1階だけと言えどこの広さ全部を一人でやったら1時間以上はかかるので、つい図書委員長の肩書きを見て花宮さんにお願いしました。なので花宮さんは悪くないです」
「……まあちゃんと掃除してくれたならいいか。初日だしな。よろしい、では君たちも下校時刻までに帰るように」
俺の横槍に眉を顰めたが、最後には自己解決したようであっさりと俺達を放逐すると阪上先生はすれ違って去って行った。事務室に行くらしい。
……微妙に口火を切りづらいな。
「……花宮委員長、帰ろうか」
「そ、そうだね」
苦し紛れにそう言えば、緊張の残る身体で花宮は肯定した。
俺達は会議室に戻ると、置いたままにしていたスクールバックを肩にかけて、阪上先生のテリトリーたる図書棟を後にした。
外は既に深い茜空が広がっている。あと30分もしない内に夜が降りてくる。スマホの時計を見れば午後17時半。もうこんな時間か。
「あの……! 宗谷くんと帰りご一緒しても良いかな!」
今日は疲れたな、とか平凡な感想を考えていると花宮が緊張した声音で俺へと話しかける。なんか、さっきから積極的なんだよな。本当になんでだろう。
「いいよ。あ、そうだ。ジュースか何か奢るよ、手伝ってくれたお礼……にしてはショボいかも知れないけど」
「そんなそんな良いよ宗谷君から奢ってもらうなんてそんな!」
一呼吸で3回も『そんな』と言う人を初めて見た気がする。平常心じゃないのは分かるけど、俺相手にそんな緊張する要素ってあるか?
下校路を歩きながら首をブンブン横に振る花宮を見て、さっき考えた疑念を思い出したので聞いてみることにする。
「その前に一つ、聞きたいんだけどさ。花宮委員長って何で俺の事手伝ってくれたの?」
「…………委員長って呼ぶの止めたら教えてあげる」
意地が悪そうな顔をして、唇の前に人差し指を立てた。後ろ日が花宮の顔を赤く染める。
週一で告白される話の真相が分かった気がするぞ。花宮はこんな感じに親しげな態度で誰にでも分け隔てなく接するが故に、勘違いする哀れな男子生徒を増産しているのだ。つまり魔女だ。花宮は日英同盟が生んだ幼き魔女だ。なるほど、一つ理解を深められた気がする。
絶対に俺は落されないという強い覚悟を持って俺は仮面を被るように笑みを作った。
「花宮、これでいいか?」
「───う、うん」
なんで照れてるんだよ。妙な空気感だし。本当にそうだと勘違いしちゃうだろうが。
「それでさっきの答えは教えてくれるのか?」
「も、勿論だよ! そう、これは借りを返しただけ! 去年私が困っていたところを宗谷君、助けてくれたでしょ!」
「……そうだっけ?」
「えぇ覚えてない!?」
目を見開いてショックを受ける花宮を尻目に、思い出してみる。本気で記憶がない。
だって花宮だろ? その目立つ容姿も相まって、もし関わりがあれば俺だって流石に覚えてるはずだ。
「ごめんだけど、本気で覚えが無い。手伝ってもらって申し訳ないけど人違いじゃないか」
「ぜーったいに違うって! 女の子みたいに身長低くて茶髪の男の子なんてこの学校だと宗谷君くらいだよ!」
「は?」
俺が何だって? 身長が低くて誰の視界にも入らないから、集合写真でシャッター切ってから写ってなかったことに気付かれて改めて最前列に並ばされるような存在感のないクソチビ似非メスガキだって?
「ご、ごめん……」
「あーこっちこそごめん。ちょっと盛大にイラっと来ただけだから気にしないでくれ」
「あはは……それかなり怒ってるよね……」
ついコンプレックスが刺激されて膝蓋腱反射の如く思考が過去の劣等感で塗り潰されてしまった。花宮にはすまないと思う反面、俺だって好きで低身長に産まれた訳じゃない。そもそも世の中がデカすぎるんだよ。だって今が江戸時代だったら俺くらいが平均身長だ。つまり俺は江戸っ子の血を引く純血ってわけ。はい証明完了。異論は認めない。
真冬の日本海のように荒れ狂うコンプレックスは前頭葉の別室に何とか隔離して、再度考える。
「でも本当に花宮と会った記憶なんて無いと思う。ここ1年で話した金髪の女子なんてコンビニ店員くらいだぞ」
「あ……そっか! それじゃ分からないかもね!」
花宮はそう言って長い髪の毛を隠すように覆う。
「これで分かるかな?」
「珍妙な女子生徒だなあって思う」
「もー! そうじゃなくってさ!」
頬を膨らませた。これは分かった上で言った俺が悪い。
「悪い悪い。つまりアレか、昔は金髪じゃなかったとか、そういうこと?」
「そう! 昔の私は黒髪だったんだよね……それに今みたいに長くも無かったから分からなくてもしょうがないかも」
「黒髪ショートカット……」
再度脳内を検索してみる……あー。思い出したかもしれない。
「もしかして去年の4月に先輩に絡まれてた?」
「やっと思い出してくれたんだ!」
正直あまり覚えていなかったから、花宮が頷いて漸く確信する。
1年前の4月中旬。俺はまだ紺野とも大して仲良くはなく、1人で校内探索していた途中だった。
確か、丁度三階の誰もいない科目別の移動教室付近に足を踏み入れた時だった。黒髪の女子生徒───今思えばそれが当時の花宮だったのだろう、多分金髪じゃなかったのは黒く染めていたからだ───がバスケ部の女子部員から強引な勧誘を受けていた。
『申し訳ないんですが姫月(ひめづき)先輩、私は高校ではバスケをやる気はないです!』
『勿体無さすぎる。その才能を腐らせるなんて同中の私は認められない。これ入部用紙』
『要りません……!』
『良いから受け取って』
今思うと凄い内々な話だったと思うけど、揉め事を見て見ぬふりを出来なかった俺はそこに介入した。
その先輩からは部外者は口を出すな的な事を言われたが部外者から口を出される方が悪いと無茶苦茶な強弁を振るって何とか撃退。その後、花宮と少し話した気がする。当時の花宮は今より暗くて、大人びた空気を身に纏っていた。
『私……中学でバスケ部をしてて、でも別にやりたかった訳じゃないんです』
『なるほど、でも何で? 初対面の俺に話せないって言うなら別に良いけど』
『いえ……大丈夫です。寧ろ知らない人の方が楽かも……。バスケは両親の為です。文武両道って手放しで賞賛されるじゃないですか。だから取り合えず中学でバスケをやって、上手くプレイ出来ちゃって、でもそれは本当の私じゃないんだなって思うと息苦しかったんです』
『うん。でも今見た感じだと、君が言う本当の自分にはまだ成れてないんだよな?』
『はい……。本当の自分になるってつまり、自分を変えるってことじゃないですか。言ってしまえば高校デビューみたいな感じになるんですけど……でも変わろうとする勇気が無かったんです。今まで周囲に合わせて来たのにそれを壊すのが怖い……というか。姫月先輩みたいに同じ出身中学の人も少なくないですし、また変な目で見られるんじゃないかと思うと、どうしても一歩が踏み出せなくて』
うろ覚えだけど、こんな感じの会話を交わしたと思う。思い返せば結構、根の部分まで花宮の事情をカウンセリングしてたんだな俺。
最後はなんて返したっけ。確か、他人は他人を大して注意深く観察していないから、変わった部分がサイゼの間違い探し程度の変化であれば、すぐに周囲も適応するよとか何とか。凄い無責任なことを言ったような、取り繕うようにもう一言二言付け足したような。
「そっか……花宮ってあの時の……」
過去回想を挟んで、思わず口から漏れる。あの時は結局互いの名前も交換せず、それっきり関わることはなかった。
ともかく花宮が俺に妙に関わりを持とうとする理由の一端には納得だ。
「そう! こっちこそ数か月後に宗谷君が同級生って知ってビックリしたんだから」
「いや俺、そんな上級生に見えた?」
「だってだよ? 入学一カ月目から堂々と先輩と口先を交える新入生なんていないからね! 凄い度胸だよね、宗谷君って」
「まあ……それは訳有りで」
過去に色々あったんだよ。過度な女扱いをされてブチぎれたり、ロリ扱いされて理性が消えたり、友人とニコイチで男児メスガキ同盟とか纒られて本気で喧嘩したり。俺の小中時代は煽り煽られが起因して喧嘩ばっかしていた。別に不良じゃないのにな。だから非常に遺憾ながら、そういった荒事には慣れっこだ。
「まあそれは置いて。その恩返しで掃除を手伝ってくれたって言うなら分かったよ。素直に助かったし、ありがとう」
「どういたしまして! こちらこそあの時はお礼言えず仕舞いだったからさ、ありがとうね! それとさっき阪上先生に怖い顔された時も守ってくれてありがと!」
「大したことはしてないって」
「そこは素直にお礼を受け取るところだよ宗谷君!」
ぷくぷく膨らむ頬に、愉快な子だなあと感心する。
「その様子だと本当の自分って言うのには成れたみたいだね」
「うん! 宗谷君の助言のお陰だよ!」
「俺は何もしてないよ。殻を破ったのは花宮の勇気と努力だ」
「だから素直に受け取りなってもー!」
遠慮とかじゃなく事実を述べたつもりだったが、また頬を膨らませてしまった。このペースで頬を大きくしたら破裂しそうで少し心配だ。
そんな俺の杞憂は「じゃあさ」という花宮の羞恥が混ざった声に遮られた。
「連絡先教えてよ。同じクラスの図書委員として連絡する機会もあるだろうしさ」
「う、うん。それもそうだね」
俺は動揺した。こんなに女子って気軽に連絡先を聞いてくるもんだっけ。俺の記憶だと寧ろ渋る傾向にあると思うんだけど、これぞ花宮クオリティーということか。コミュニケーション能力が高い。気づいたら懐に潜られている感じ。ガゼルパンチとかデンプシーロールとか打たれないと良いけど。
下らないことを考えながらも連絡先の交換を終える。今日だけで4つも増えてしまった。個人的快挙かもしれない。
花宮は自分のスマホを仕舞うと、一度深呼吸をして、良く通る綺麗な声を出した。
「一つ、宣言をしてもいいかな?」
「宣言?」
「うん。私、宗谷君と……その、すごく仲良くなりたいからさ! 今度一緒に遊ぼうよ!」
「……え?」
何だ。何を言われているんだ俺は。
身体から熱が込み上がってきて、脳機能を麻痺させる。
花宮から誘われた? 遊びってプライベートな遊び?
「私こっちだからじゃあねっ! また明日!」
羞恥心からか、弾かれたように花宮は足を動かしてT字路を右へと走り去ってしまう。その後ろ姿はどこか浮かれ気分を感じさせて……。
「え?」
俺は間抜けにも1分くらい立ち止まったままになった。
思考を立て直して帰宅したその日の夜、一本のショートメッセージが届いた。珍しいと思いつつまたスパムかと辟易しながら開いてみる。
【土曜日の午前8時に公園で良い?】
内容に目が点になり、電話番号をちゃんと見直すと桂川からだった。桂川とはRINEでも電話番号でも繋がっているが、ほーちゃんとしての連絡先は電話番号一本である。なのでメッセージを送るにはSMSを使うしかないのだ。
【分かった、大丈夫】
そう送るとすぐに返信が来た。
【早すぎたりしない? 無理してない? もし難しければ時間遅くするけど】
目がツーンと来た。ほーちゃん相手になると桂川は凄い甘いなあと実感。俺相手だと他人扱いされて、極みにはめっちゃ避けられるのに。自業自得だとはいえ何だかとっても悲しくなってきた。来世があったら女子に生まれて桂川と隠すものなく遊びたかったかもしれない。
我ながら屈折した願望を考えて、いやキモイから無し無し、などと邪念を振り払ってから返信を書く。
【本当に大丈夫だって。心配性だなあ。そっちこそ大丈夫なの?】
これでよしっと。
俺はSMSの画面から変えずに返信を待つ。まるで好きな子からRINEを待つ乙女みたいだ。まあ乙女以外は合っているのだが。
次の返信は2分後にやって来た。
【大丈夫。私も早く会いたいから早起き頑張る】
───っ。
なんて健気なんだ桂川は。今日は花宮に一瞬惚れかけたけど、やっぱり俺は桂川派だ。うん。
でもほーちゃんとしては友人関係でも、俺としては告白はもう出来ないし恋人になるのも無理に等しいんだよな……。
浮かれた気分が地中へと沈められた気持ちになりながら、俺は諦めて寝ることにした。