キルシュタイン夫妻の逆行物語   作:1sen

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ep.11 Through My Blood

 

 

 

 ───巨人となったエレンが岩を運び、前門の穴を塞ぐ。

 ピクシス司令の口から発せられたそのあまりにも突飛な内容の作戦に、誰もが耳を疑った。

 

 「……人類は遂に巨人を支配したのか……!?」

 「嘘だ!!」

 

 任務を放棄しようと駐屯兵の上官と揉めていた訓練兵───ダズは、泣き叫びながら壁上の司令を睨み付けた。

 

 「そんな訳の分からない理由で命を預けてたまるか!!俺達を何だと思っているんだ!?俺達は……使い捨ての刃じゃないぞ!!」

 

 彼の慟哭に、他の訓練兵だけでなく、駐屯兵達の間にもざわめきが広がる。

 

 「人間兵器だとよ……」

 「そんなまやかし、真に受ける奴が何割いるって見積もっているんだろうな……馬鹿にしやがって」

 

 そしてとうとう、ダズは上官の静止を振り切って逃げ出した。

 

 「人類最後の時を家族と過ごします!!」

 

 彼に続き、何人もの兵士がその場を離れようと背を向け始める。

 中には駐屯兵の上官までもが、娘に会いに行くと吐き捨ててその一群に混ざろうとしていた。

 集団の秩序の内に生じた僅かな亀裂は徐々に(ひび)となり、その崩壊の兆しが目に見える形として現れる。

 今まさに兵団が、機関としてのその機能を破綻させつつあった。

 

 ───その時。

 

 「……僕はやるぞ……!!」

 

 乱れかけた隊列の中から、一人の訓練兵が叫ぶ。

 

 声を掠れさせ、脚を震わせながら。

 それでもその瞳は、真っ直ぐに()を見据えて。

 

 「ほんの少しでも勝てる可能性があるなら、僕はやる!どうせ後門が破られれば、遅かれ早かれ人類は終わりなんだ!この狭い壁の中で人同士が生き残りを賭けて殺し合うくらいなら、僕は()()()()巨人に勝つために命を使う!!」

 

 そう言い放ち、『彼』は隊列を掻き分けて前に進み出る。

 逃げようとする者達とは真逆の方向に。

 ……まるで、自ら地獄に近付くように。

 戸惑い、立ち尽くす他の兵士達の間を抜け、隊列の前方に躍り出た『彼』はそのまま姿勢を正し、壁の上を見つめてじっと司令(うえ)からの指示を待っていた。

 

 ダズ達が逃げる事も忘れてその光景を呆然と眺めていると、別の所からもちらほらと声が上がり始める。

 

 「……まぁ、それしかないってんなら……なぁ?」

 「えぇ、やるしかありませんねぇ」

 「めっちゃ嫌だけどな」

 「めっちゃ嫌ですけどね」

 

 ケラケラと苦笑しながら、二人の訓練兵が『彼』の後ろに付くように前に出る。

 それからも続々と、()()()()()()()を中心に、作戦の開始を望む集団が現れ始めた。

 しかし全員が、先の三人のように強い意志を持っている様子では無い。ある者はブツブツと文句を垂れながら、ある者はガタガタと震えながら、ある者はグズグズと泣きながら。とてもではないが、恐怖に打ち克っている人間達のようには見えなかった。

 

 ……だが、それでも。

 彼らは、前に踏み出したのだ。

 

 「な……何で……」

 

 ダズは困惑していた。

 彼らも同じ戦場を経験して、同じ地獄を味わったというのに。

 巨人の恐ろしさを、嫌と言うほど思い知らされた筈なのに。

 

 何故、立ち上がれるんだ。

 何故、前を向けるんだ。

 

 「何で……お前ら、怖くねぇのかよ!!なぁ……()()()!!」

 

 思わず、ダズは『(マルコ)』に尋ねた。

 ───あの地獄を見て何故、まだ戦おうと思えるのか。

 全く以て、理解が出来なかったから。

 

 「……ダズ。僕だって、すっごく怖いよ。さっきから手の震えが止まらないんだ。正直、やりたくなんかないさ。皆揃って絶対に戦わなきゃいけない、なんて僕の口からは言えない。でも……」

 

 背中越しに、マルコはダズに己の腕を掲げて見せた。

 遠目からでも分かるその固い動きから、彼の()()がどれだけ怯えているのかが見て取れる。

 しかし彼は、その手をゆっくりと握り、作った拳で震える己の脚を殴り付け、大きく息を吐いた。

 

 「これが僕の……僕達、()()の……『今すべき事』だと思ったからだ……!!」

 

 その声は低く、鋭く。

 少年の覚悟に、揺るぎは無かった。

 

 「……言っとくけどよー、ダズ。俺達も別に、誰かに説得されて自分の命を賭けるわけじゃないかんな?」

 「そうですねぇ。こればっかりは、自分で決めずに務まる仕事じゃないですから」

 

 マルコの隣で、コニーとサシャがダズに笑いかける。

 しかしその笑顔は何処か自嘲気味で、引き攣った頰を無理矢理誤魔化しているような不自然さとぎこちなさが混在していた。

 

 「……でもやっぱり、怖いなぁ……!なしてこげんこつしとるんやろ、うち……」

 「あぁ、ホント……俺も全く同じ気持ちだぜ……俺いつからこんなアホになっちまったのかなあ」

 「それは前からだったと思いますが……」

 「うっせえよ芋女」

 

 二人で顔を見合わせて、溜め息をつく。

 

 「……あの馬鹿のせいか」

 「……あの馬面のせいですよ」

 

 そう言って、互いに吹き出した。

 何かを諦めたように、しかしさっきよりも幾分かマシな笑顔を冷や汗と共に浮かべながら。

 

 並んだ三人の背中が、随分と大人びて()()()()()()()

 ダズの中に、恐怖以外の感情が()()()()()()()()

 

 「……畜生……!」

 

 ───何なんだ、あいつらは。

 自分と同じくらい、滅茶苦茶に怖がってるのに。

 

 「……畜生……畜生……!!」

 

 あんなに、身体が震えてるのに。

 あんなに、嫌がってるのに。

 

 ───まだ、前を見ていやがる。

 

 「……クソ……クソ……クソったれ……!!!」

 

 涙を流し、悪態をつきながら。

 ダズはもと来た道を、ゆっくりと引き返した。

 

 ……『格好いい』と。

 そう、()()()()()()()から。

 

 「そうだ……娘に、殺し合いをさせる訳には……」

 

 駐屯兵の上官が譫言のように呟きながら、重い足取りで隊列に戻り始める。

 背を向けていた他の兵士達も、そこから一人、また一人と徐々に列の中へと帰って行く。

 亡者のように生気のない顔付きになりながら、それでも。

 ()()()()()()()()()()()を思い出して。

 

 「……発破は、要らなんだか……」

 

 そう独りごちたピクシス司令の嬉しそうな呟きは、誰の耳に届くこともなく風に流され、静かに消えていった。

 

 「お主の愛した男は、彼処にも生きておったぞ……のう、アッカーマンよ……」

 

 

 

 

×××××××××××××××××××××××××

 

 

 

 

 「またお前と任務を共にすることになるとはな、アッカーマン」

 「はい……イアン班長も、ご無事で何よりでした」

 

 そう言って、ミカサは軽く頭を下げる。

 

 トロスト区奪還作戦の要となるエレンの護衛は、駐屯兵団の精鋭班を軸とした少数の兵達によって執り行われる事となった。

 先刻と同様、その腕前を買われたミカサは精鋭班の中へと組み込まれ、穴から侵入して来る巨人達を退けるための戦闘要員として同行するよう命を受けている。

 

 「巨人を操る人間兵器……か。俄かには信じ難い話だが……穴を塞げるなら何でも良い。私達はお前を最優先で守る。頼んだぞ、イェーガー」

 「は……はい!」

 

 イアンに肩を叩かれたエレンは、その顔に一抹の緊張と不安を残しつつも、確かな決意を宿した瞳でイアンの目を見つめ返し、力強く頷いた。

 

 「私達に出来ることはそう多くないが……それでも、この命がある限りは任務の達成に尽くそう。必ずやり遂げるぞ……()()()のためにも」

 「……!」

 「お前達の同期連中から話を聞いたよ……何せ、この作戦に奴も招集するつもりだったからな。彼らに行方を尋ねて、その時に知った。最初は我々も耳を疑ったが……残念だ。惜しい男を亡くした。この損失は我々にとって間違いなく、大きな痛手になるだろう」

 「……」

 「お前も辛いだろうが、アッカーマン。現状、我々の中で最も実力があるのは間違いなくお前だ。此方の不甲斐なさを承知で言うが、お前には奴の……キルシュタインの分まで、存分に働いて貰うぞ」

 「……勿論です」

 

 ミカサは口元を覆うようにマフラーを引き上げ、目を伏せながら静かに答えた。

 ───もう、泣くまいと。

 己の心に固く誓いを立てて。

 

 それから暫くして、遠くの空に信煙弾が撃ち上がった。

 別動隊の方で、区内の巨人達を街の隅にあらかた引き付け終わったらしい。

 

 「よし、そろそろ頃合いだ。例の大岩付近まで移動するぞ」

 

 イアンの後に続いて、ミカサとエレンは走り出す。

 そうして壁の上を駆けている途中の事だった。

 

 「……ジャンが、死んだのか……?」

 

 信じられないと言った顔で、エレンがミカサに尋ねた。

 ミカサはちらりとエレンと目を合わせ、小さく首肯だけを返してすぐに前を向く。

 

 「まさか、アイツに限って……ありえねえ。巨人に喰われちまったってのかよ……?」

 「……言いたく、ない。エレン、今は作戦に集中して……」

 「いいや、今言うべきだろう。アッカーマン」

 

 精鋭班の一人である女兵士が、二人の横に並びながら声を掛けた。

 

 「……リコ!よせ……」

 「イアン、私達は兵士だ。兵士たるもの、自分達が扱おうとしている武器の()()()を知らないまま闇雲に扱う、なんて事はあってはならない。そうだろう?」

 「それはそうだが……しかし、それで今士気を下げる必要はないだろう!もし作戦に支障が出るようなことになれば……」

 「それはコイツ次第だよ。幾ら私達が口を噤んだ所で、事実は事実なんだから。それを知って尻込みするか、それとも己を御する糧にするか……ここで、見極めさせて貰う」

 

 リコと呼ばれた女兵士の目が、ミカサへと向けられる。

 ミカサは言い淀み、迷いながら呟くように言葉を絞り出した。

 

 「……私が、建物の崩壊に巻き込まれそうになって……それを、ジャンが助けてくれて、代わりに……」

 「……え?」

 「アッカーマン、隠すな。私達はもう知っている。今この場で知らんのはイェーガー()()だけだ。お前の口から言えんのであれば、私が代わりに言うが?」

 「……」

 「……沈黙は、肯定と見なすぞ。イェーガー、心して聞け」

 

 リコはそう言って、エレンの顔を睨み付けた。

 『兵器』ではなく『兵士』として、その覚悟を問うように。

 

 「巨人になって見境なく暴れていたお前が、アッカーマンの居た建物を他の巨人共ごと破壊したらしい。その衝撃で頭を打って動けなくなった彼女をキルシュタインが身を挺して救い、自分は瓦礫の下敷きになった……言い換えれば、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 「……ぇ……」

 「アッカーマンの態度からして、お前を責める気が無いというのは理解出来た。だがここからは話が違うぞ。お前の肩には今、人類存亡の命運が懸かっている。この事実を受け止め、お前は死物狂いで自分を支配しろ。私達がお前に期待するのはそれだけだ」

 

 リコの言葉は重く、エレンの身体にのしかかった。

 何処か救いを求めるように、エレンは恐る恐るミカサの顔を覗き込む。

 しかし彼の目には、苦しそうに唇を噛み項垂れる幼馴染の姿が映るばかりだった。

 

 言葉を失い呆然とするエレンに、イアンはゆっくりと語り掛ける。

 

 「……イェーガー。さっきも言ったが、私達はお前が穴を塞げればそれで良い。そしてそのために、全力でお前を守るだけだ。後悔なら後で幾らでもしろ。だが今は、己に与えられた使命をこなす事だけを考えるんだ。同じ轍を踏まないためには、自分がどうすべきなのか……それを考えて動く事が、お前の()()()()()だと思うぞ。そうだろう、アッカーマン?」

 「あ……え、と……聞いて、いらしたんですか……」

 「当然だ。さて……」

 

 さらりと答えつつ、イアンは懐から信煙弾を取り出した。

 気付けば、目的の大岩が遠目に見える所まで来ている。

 

 「……もう少しで作戦開始地点に着く。総員、立体機動に移る準備をしろ!ここからは最短距離で大岩まで向かう!」

 

 合図と共に、全員が装置の柄を抜き払う。

 勝利か、死か。

 来たる正念場に、己の全てを(なげう)つ覚悟を決めながら。

 

 ……ただ、一人を除いて。

 

 

 

 

×××××××××××××××××××××××××

 

 

 

 

 ───俺が、殺した。

 

 大岩まで、残り1km。

 

 ───俺が、仲間を殺した。

 

 残り、500m。

 

 ───俺のせいで、ジャンが死んだ。

 

 残り、400m。

 

 ───ミカサも、殺す所だった。

 

 残り、300m。

 

 ───なんで、俺が生きてるんだ。

 

 残り、200m。

 

 ───巨人に喰われて、ただ死ぬ筈だった俺が。

 

 残り、100m。

 

 ───なんで他人(ひと)の命を、奪ってんだ。

 

 残り、50m。

 

 ───ごめん。

 

 残り、20m。

 

 ───ごめん、ミカサ。

 

 残り、10m。

 

 ───ごめん。

 

 残り。

 

 ───ごめん、ジャン。

 

 無意識の内に、己の手を噛み千切る。

 

 内から迸る質量に身体を取り込まれながら。

 

 少年は、ただ只管に虚空に向かって謝り続けていた。

 

 

 

 

×××××××××××××××××××××××××

 

 

 

 

 ……エレンは無事、巨人化に成功した。

 建物の上から巨人体となった彼を見下ろし、ミカサはほっと胸を撫で下ろす。

 

 しかし、肝心なのはここからだ。

 嘗てのようにエレンが暴走を始め、此方目掛けてその拳を振り抜いて来るかもしれない。

 万一の事も考慮し、ミカサは精鋭班達にある程度の距離を取って備えておいて欲しいと伝え、自分はそれよりも近い位置にてエレンの動きを注視している。

 

 ───最悪の場合、彼の巨人体の手足を斬り落としてでも動きを封じるしかない。

 

 そう考えた、直後の事だった。

 

 「……アイツ……()()()()()()()()……?」

 

 不可解そうに、イアンが眉を(ひそ)める。

 

 岩の前でエレンはゆっくりと振り向き、ある方向をじっと見つめ出した。

 他の兵士達を見ている?……違う。

 別の巨人達を見ている?……違う。

 その視線の先には何も見えない。

 ただ、荒れた街の姿があるだけだ。

 

 エレンの意図が読めず、ミカサも思わず首を傾げる。

 暴走するような気配も無く、かと言って岩を持ち上げようとする気配も無い。

 凍りついたように、ピタリと動かなくなってしまった。

 

 それから暫しの沈黙の時間が生まれ、とうとう痺れを切らした精鋭班の一人が苛立ったように叫ぶ。

 

 「……おい、イェーガー!!動けるならさっさと動け!!何をぼさっとしてるんだ!?今がどんな時だか分かってんのか!?」

 「ミタビ、待て……!」

 

 イアンがその兵士を静止しようとした、次の瞬間。

 ───唐突に、エレンの身体が動いた。

 

 ……()()()()()()()()()()()()()

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 「……は……?」

 

 ……呆けたようなその声は、一体誰の口から出たものだったか。

 きっと誰にも分からないだろう。

 だって。

 その場に居る全員が、全く同じ顔で固まってしまっていたから。

 

 一切の予兆もなく、一切の躊躇も見せず。

 ───目の前の巨人が、()()()()()()()()()

 

 驚愕と、混乱。

 ミカサを含め、誰もが目を見開いた状態のまま動けずにいた。

 

 ……しかし。

 まだ、終わらない。

 

 「お、オイ……()()()()()……コイツ……!!」

 

 班員の一人が、恐怖に顔を引き攣らせながら叫んだ。

 

 首から上を失ったエレンの身体が。

 まだ、動いている。

 

 ミカサは更に困惑した。

 ……巨人体の脳が損傷したら、身体を動かせない筈なのに。

 どうして……?

 

 未来での知識がある彼女にすら事態が分からないまま。

 エレンの身体は尚も動き続ける。

 脳を失っているとは思えない程、流麗に。

 まるで、何かに()()()()()()のではないかと思える程に。

 

 その脚を高々と上げ、力強く踏み込み。

 大きく腰を回し、腕を振るう。

 ───腕の先には、もぎ取った己の頭。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 「な!?」

 「コイツ、何を……!?」

 

 空に舞った巨人の生首が、街の中に吸い込まれて消えて行く。

 

 全員が唖然としてその行方を見つめる中、それを最後にエレンは完全に動かなくなり、大岩の傍らへと倒れ込んだ。

 

 時が止まったように、辺り一帯が静まり返る。

 ……そこから、果たしてどれだけの間そうしていただろうか。

 酷く冷たい空気の中、一人の兵士の声がそれを破った。

 

 「……作戦、失敗だ……!」

 

 失望したような顔で、リコが苦々しげに吐き捨てる。

 

 「分かってたよ、最初から……人間(ヒト)が巨人を理解出来る日なんて、一生来やしないって事くらい……!」

 

 歯噛みしながら天に向かって、赤い信煙弾を放つ。

 目の前に立ち昇る赤い煙の柱を力無く眺めながら、弱々しくミカサは呟いた。

 

 「───一体、何があったの……エレン……」

 

 ()()を遥かに凌ぐその不可解な少年の『奇行』に。

 少女はただ、呆然とする他無かった。

 

 

 

 

××××××××××××××××××××××××

 

 

 

 

 ……生首が辿り着いたのは。

 

 とある、()()()()()()

 

 肉から滴る血の奔流が、蒸気を上げながら瓦礫の中へと染み込んでいく。

 

 染みて。

 

 滲みて。

 

 沁みて。

 

 やがて山一帯が赤黒く塗り潰された頃、今度は生首そのものが蒸発を始める。

 

 ───その時。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 その瞳がそのまま、己の『首元』へと向けられる。

 

 何かを祈るように。

 

 誰かに託すように。

 

 ……蒸発を終えるその瞬間まで、その視線が動く事はなかった。

 

 そうして、巨人の骸が一つ、この世から消え失せた瞬間の事。

 

 「……」

 

 ガラ。

 

 「…………」

 

 ガラ、ガラ。

 

 「……………………」

 

 ガラ、ガラ、ガラ。

 

 瓦礫が音を立てて崩れ落ち。

 

 内から、何かが顔を出す。

 

 産声をあげた雛のように頭を大きく振って、『それ』は静かに立ち上がった。

 

 全身から、蒸気のような煙を吹き出しながら。

 

 己の血で濡れた髪を、乱雑に掻き上げて。

 

 「…………今、行くぞ……ミカサ……エレン……」

 

 そう言って、フラフラと歩き出した『男』の顔には。

 

 その頬に、何本もの。

 

 ───()()()()()()が刻まれていた。

 

 

 

 

 




 
お久しぶりです!また結構時間空いちゃいました……

気付けば、お気に入り数が500を突破しておりました。
自分の拙い文を読んで頂いて、更にこれだけ気に入って下さる方がいるというのは感無量以外の何物でもないです……

感想や評価の方も、本当に励みにさせて頂いております。
まだまだ長くなるお話だと思いますが、今後とも頑張っていきたいと思います!
 
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