前の投稿から、かなり空いてしまいました……。
日本語ってやっぱ死ぬ程ムズいですね、ホントに……。
今回の話で、今後の物語の軸が決まったと思います。
コメント欄で色々と予想をして頂いたりして、とても嬉しかったです。
……ただ、もしかしたら皆様の見たい展開と外れているかもしれません。その時はごめんなさい、ですね。
しかし、自分は『こういうの』が見てみたかった、ということで当小説を書いてます。
どうか今暫く、お付き合いして頂けたら嬉しい限りです。
本文の最後に後書きとして、この小説の『コンセプト』を別に記したいと思います。
それも踏まえて。
今後も、この作品に全力で臨んで参ります。
「───アッカーマン、避けろ!!」
「っ!!」
イアンの言葉を頭で理解するよりも早く、大きく後方に飛び退く。
直後、ミカサの居た場所を数体の巨人の手が猛烈な速度で横切った。
「巨人、全方位から複数体接近……!!扉からも更に五体侵入、此方に向かって来ています!!」
青褪めた顔で班員の一人が叫ぶ。
波のように押し寄せる巨人達の群れに、戦線がジワジワと後退していく。
ミカサ一人の手で補える戦力の差にも、限界が見え始めていた。
囲まれてしまえば、自分だけではどうしても皆を守り切る事が出来ないだろうと、眉を顰めて歯噛みする。
……でも。
やるしかない。
自分は、自分に出来る事を全うするまでだ。
アルミンがエレンを目覚めさせてくれるまで、この場を死守し続けてみせる。
幸いにも、彼はあの時と同じように此処へ駆け付けてくれたらしい。
彼に託した以上、どれだけ絶望的な状況でも自分が諦める事は許されない。
一人でも多く仲間を救う。
一体でも多く巨人を殺す。
それが今の、自分の
「一旦、大岩まで退くぞ!エレンの状況に応じて判断を───」
───その、イアンの声は。
別の班員の声によって、遮られてしまう。
「……っ!?班長、後ろです!!」
気付いた時には、遅かった。
ミカサ達の死角から突如這うようにして現れた大型の巨人が、建物を乗り越えてイアンに掴みかかろうと手を伸ばしていた。
驚愕のあまり、周囲に居た班員達の動きが一瞬、しかし完全に停止してしまう。
咄嗟にミカサもアンカーを打ち込んで飛び掛かったが、その距離と速度が僅かに、あと一歩の所で及ばない。
「イアン班長───!!!」
ミカサの叫びも虚しく。
イアンは巨人の手の中に、あっという間に吸い込まれていき……。
……次の瞬間。
「え……?」
呆けたような声が、ミカサの喉から漏れ出る。
……何が起こったのか、全く理解出来なかった。
ミカサだけじゃない、他の班員達もまた、自分達の眼前で起きた筈の出来事に頭が追いついていない様子で、呆然と立ち尽くしている。
巨人の手が身体ごと地面に滑り落ちて行き、その陰から間一髪で難を逃れたイアンが姿を現す。が、彼もまた事態を把握し切れていないようで、困惑に目を瞬かせながら辿々しく口を開いた。
「……い、一体……何が……?」
辺りが異様な空気に包まれる中。
ミカサはその巨人の死体を上から覗き込む事で、その『死因』だけはどうにか見て取る事が出来た。
───うなじが、削ぎ落とされている。
それも恐ろしい程に深く、鋭く。
まさか、あの一瞬で?
そんな
「……『兵長』……?」
慌てて周囲を見渡すが、それらしき影は何処にも見当たらない。
そもそも今、
けれど……。
「お、オイ!!見ろ、巨人共が……!!」
イアンの声に、ミカサはハッとして顔を上げる。
見れば、此方に押し寄せてきていた巨人達の群れが一体、また一体と倒れ、みるみる数を減らしていく。
……やはり、誰かが戦っている。
それも、たった
速い。
速過ぎて、目で追う事さえままならない。
あの尋常でない動き。
嘗てこの目で見た『彼』の姿と重なる。
───しかし。
何故だろうか。
……
何かが、ミカサの中で違和感を訴えている。
同じ『アッカーマンの力』を持つ者としての直感、とも言うべきか。
……何処か、
よく似ているが、彼の立ち回り方はもっと研ぎ澄まされていた……ようにも感じる。
だが単純な強さだけで言えば、紛れもなく彼そのものだ。
まるで
ミカサは思わず、目を見開いた。
(……もう一人、アッカーマンが……?)
まさか。有り得ない。
今この時代に、自分達と同じ血を引く者は
他には、もう───。
「……誰?」
得体の知れない謎の人影の大立ち回りは尚も続き。
やがて『それ』は、群れの最後の一体へと飛び掛かった。
猛烈な加速と共に、影が高々と舞い上がる。
瞬間、急降下。
落下の運動とワイヤーの巻き取りを相乗させた渾身の一撃がその巨人のうなじを大きく刈り取った後、『それ』は振り子のように自らを大きく振り上げ、此方に向かって真っ直ぐに飛来してきた。
その姿が。
漸く、ハッキリと見えて───。
「……生き残りの兵はいるか!?」
───。
「動ける者は今すぐエレンの護衛に向かってくれ!!あのヤローが目ぇ覚まして、岩を運び始めた!!このままアイツを扉まで援護すれば、俺達の勝ちだ!!」
──────。
「ミカサ、アルミンが今一人でエレンの誘導に当たってる!!アイツらの進路を切り開くぞ!!扉側から来る巨人共を、俺達で片っ端から殲滅する!!」
────────────。
「全員、一匹たりとも巨人をエレンに近付けさせるな!!ヤツらに殺された仲間を思うなら、『ここ』で全部に
……。
…………。
世界から。
音が消えたような気がした。
何も、頭に入って来ない。
喉が掠れて、言葉が詰まる。
やっと。
やっとの思いで、絞り出したその声は。
自分自身の耳にさえ、朧気にしか聞こえなくて。
「…………あ、なた…………?」
生きて、いたの?
待って。
ジャン。
本当に、ジャンなの?
そんな。
そんな。
だって、あなたは。
私を庇って───。
「……っ!!」
突然、目付きを変え。
彼はまたも急加速する。
自分達の頭上を飛び越え、その軌道は真っ直ぐに空を裂き。
……瞬間、見えた。
屋根の上を蛙の如く跳ね回る、一体の巨人。
身軽にも、そこかしこを大きく飛び跳ねながら此方へと向かって来ている。
行動が不規則な、奇行種だ。
───それを。
彼は
巨人の動きに合わせ、ブレードと共に己の身体を
伸びてきた腕を刃で受け、流し、切り裂く。
そのまま、まるで車輪のように手先から肩までを強引に
一切迷う事なく、そのうなじに両の刃を振り抜いたのだった。
「──────……」
あまりにも。
あまりにも荒々しい戦い方に、言葉を失う。
これでは、本当に……。
「───
彼の咆哮が、轟いた。
───その顔は、不敵に笑っていて。
何だか、
「……死守せよ!!!」
唐突な背後からの叫び声に、ミカサの肩が跳ね上がる。
振り向くと、そこには鋭い目付きで街の一角を凝視するイアンの姿があった。
……その視線の先にあるのは、大地を離れてゆっくりと扉に向かう、途方もない質量の大岩。
岩の真下から覗く巨大な影と立ち込める蒸気が、
「イェーガーはあそこだ!!何がどうなってるのかさっぱり分からんが、我々のすべき事に変わりはない……!!この機を逃すな!!我々の命と引き換えにしてでも、アイツを扉まで守れ!!」
弾かれるように飛び出したイアンに続き、他の班員達も皆一斉にエレンの下へと向かい始める。
ミカサも力の入らない身体に何とか鞭を打ち、慌ててその後を追う。
(そうだ……とにかく今は、エレンを……!)
頭を振って、ざわつく心を抑え付ける。
前を行く夫の背中を一瞥だけして、ミカサは静かに目を閉じた。
……考えるな。
今は、自分の役割を全うしろ。
そうして己を叱りつけ。
それでも、脳裏にチラつくのは、
ほんの少ししか見えなかったけれど。
見間違いじゃなかった。
……見間違いで、あって欲しかった。
彼の頬に浮かんでいた、痣のような痕。
そして、淡く光る
どちらも、『酷く見覚えのあるもの』で。
ミカサの背筋に、冷たいものが走る。
───ジャンの。
夫の身に。
何か、
そう思わずにはいられなかった。
××××××××××××××××××××××××
───あぁ。
あつい。
全身の血管に、溶けた鉄を流し込まれてるような気分だ。
肉も、骨も、まるで燃え盛る石炭に置き換わっちまったみたいで。
めちゃくちゃ、
それに、何だか呼吸が上手く出来なくて。
やけに息が苦しい。
……けど。
頭だけは、これ以上ない位にしっかり冷えてやがる。
気持ち悪いくらいに視界が
鼻をくすぐる匂いも、肌を撫でる風も。
全部が、美しく澄んでいるように感じられた。
世界が面白いくらいに、
自分の身体そのものが、どう動けば良いのかを分かっている。
───気付けば、俺は笑っていた。
自分がやりたい事、やりたかった事。
その全てが、今なら出来る気がする。
そんな奇妙な全能感に、口角が吊り上がっていくのを抑えられない。
歪な笑みを浮かべながら、迫り来る巨人達の群れに向かって躊躇なく飛び掛かる。
伸びてくる手も、喰らいついてくる口も、あまりにのろい。
隙だらけの巨体に迷わずアンカーを打ち込み、瞬時に巻き取ってうなじを一太刀で削ぎ落とす。
間断無く、無駄も無く、淡々とその動作を繰り返し続けている内に、あっという間に屍の山が出来上がっていった。
……いける。
これなら、
───ブチ、ブチ。
「……ぅ……!!?」
乾いた音と共に、身体中のあちこちに鋭い痛みが走る。
(……くそ……もう
半ば
……そりゃそうか。
なにせ、
(もってくれよ……俺も、『コイツ』も……!!)
悲鳴を上げているのは、己の身体だけではなかった。
急場しのぎで仕上げた継ぎ接ぎの立体機動装置が、そろそろ限界に近い。もはや無視出来ない程に、至る所がガタつき始めている。
小さな歯車のズレは、やがて大きな破損を生む。装置ごとに個癖が生じるものを半ば強引に繋ぎ合わせて使うと
───根比べといこうぜ、巨人共!
痛みを押し殺して、また飛び上がる。
想像しろ。思い描け。
あの、『最強』の姿を。
もっと、速く。
もっと、鋭く。
……絶対に、エレンの邪魔はさせねぇぞ。
己の心身に、絶え間なく鞭を打つ。
歯を剥き出すように笑って、俺は新たに湧いた巨人達の群れを睨み付けた。
××××××××××××××××××××××
……凄い。
エレンの前を必死に走りながら、アルミンはその光景に息を呑む。
扉までの道に立ちはだかっていた巨人達が、尽く葬られていく。
彼らがエレンに近付こうとするよりも早く、その首元に刃が襲い掛かる。
一方的で、圧倒的な、まさしく『蹂躙』。
『彼ら』の通った後には一切の命の存在が赦されず、ただ屠られた無数の巨人の屍体が道のように続くだけとなっている。
───それは、さながら。
人類にとっての、勝利への
僅かな灯火でしかなかった希望が、今。
形を帯びて現実になりつつある。
真っ暗な地獄に射し込んだ一筋の光明が兵士達を奮い立たせ、彼らの纏う空気を一変させる。
「……い、良いぞイェーガー!!扉までもうすぐだ、踏ん張れ!!」
「やっちまえ、クソガキ!!とっとと終わらせてずらかるぞ!!」
そんな周囲の叫びに応えるかのように、エレンの脚が一歩ずつ、力強く地を踏み鳴らしていく。
扉に向かってゆっくりと、しかし確実に。
あと少し。
もう、あと少しだ。
───だが。
アルミンは『知って』いる。
その希望が決して、
『……俺は、このまま精鋭班を掻き集めてくる。多分
息を荒げ、何処か熱に浮かされたようにフラフラとしながら、それでも力強く此方の頭を撫でて、彼は再び空へと舞い上がっていった。
……彼の身に、一体何があったのか。
何も、何も分からないけれど。
想像に難くなかった。
(……ジャン)
───祈っててくれ、だって?
巫山戯ないでくれよ。
『あの時』、どれだけの人間が悲しんだと思ってるんだ。
どれだけの人間が、その死に報いようとしたと思ってるんだ。
(……君の遺した『言葉』が、僕らをここまで進ませたんだ)
『今、何をすべきか』。
それを考えて、自分達は動いた。
恐怖も、迷いも。
悲しみも、後悔も。
きっと誰もがそれを抱えていて、誰にも取り払う事は出来ない。
その在り方こそが『人』であり、『生』なのだろうから。
でも、だからこそ。
自分達は『優先すべき事』を間違えてはならなくて。
そのために、『何を捨てるのか』を問われるのだ。
故に、彼は自らを一度捨てた。
そして
彼や、ピクシス司令の姿を見ていて、漸く理解した。
───何かを変える事が出来るのは、何かを捨てる事が出来る人だ。
それが出来る者だけが、この残酷な世界に抗える。
この戦いに、勝てるのだと。
だが。
(僕は君にだけ、
彼を死なせない。
穴も塞ぐ。
どちらも必ず成し遂げてみせる。
例え、どんな手を使ってでも。
とにかく最速で、最短で。
エレンを扉まで導く。
───祈ってやるつもりなんて、毛頭ない。
絶対に、自分達の力で『勝ち取ってやる』のだ。
「もうちょっとだけ、耐えてくれよ……ジャン!」
歯を食い縛って、只管に足を動かす。
……一刻も早くこの戦いに終止符を打つ。
その強い思いだけが、恐怖や疲労の一切を凌駕し、アルミンの身体を突き動かしていた。
××××××××××××××××××××××
「ゼェ……ゼェ……!ゲホ、ゲホ……ぅぐっ……」
───ジャンの様子がおかしい。
さっきから、ずっと呼吸が乱れている。幾ら激しい運動を続けているとはいえ、あの息の荒げ方は異常だ。
それに、動きも。
何だか徐々に、
時間が経てば経つほど、それに比例するかのように彼の消耗と疲弊が著しく増している事に気付き、ミカサははっとした。
(……もしかして……)
『身体の動かし方』を知っていても、『身体そのもの』がそれに見合った強度でなければ耐えられない。
目に見えるだけでも、心肺機能が追い付いていないのは明白だ。それだけならまだしも、骨や筋肉、内臓の損傷だって十分に考えられる。
彼が時折見せる、苦痛を堪えるかのような表情が、『それ』由来なのだとしたら───。
(───これ以上、彼に動かせてはダメ!)
このままでは彼は、
そう確信したミカサは不意に、己の中に『嫌な予感』を感じた。
……考える前に、動いていた。
悲しい事に、己の勘は戦いの中でこそ真価を発揮する。
そして、それは往々にして。
『危機』の察知であるのだ。
「……っ!!や、べぇ……っ」
空中で、ジャンの姿勢が崩れる。
───バキン!……と。
金属が引き裂かれるような音が響いたのは。
彼が振り絞るように叫んだ直後の事であった。
「……ジャン!!!」
巨人の手が届く前に何とか彼の身体を抱き止め、一度戦線から距離を取る。
……熱い。
服越しにもありありと伝わってくる、明らかに異常な
これだけ身体が熱を帯びれば、普通ならとうに意識を失っていてもおかしくない筈なのに。
「あぁー、畜生……やっぱ、もたなかった、か……!いや、逆に急拵えでここまでよく耐えたって、褒めてやるべきか……」
息も絶え絶えに、ジャンは小さく苦笑しながら弱々しく自らの立体機動装置の
本体部分が最早手の施しようがない程に大きく破砕し、完全に変形してしまった彼のそれは、そもそも至る所に
……ここまで、こんな装置で戦っていたのか。
否、ボロボロなのは装置だけじゃない。
全身から伝わってくる微かな震えが、彼の肉体が既に限界を迎えている事を如実に物語っている。
「すまねぇ、ミカサ……ゼェ……ったく……ゼェ……あと、ちょっとの所で……」
「ジャン、もういい!あなたはもう休んでいて!これ以上動いたら、あなたの身がもたない!」
「俺も、出来れば……ハァ……そうしたいが……ゲホッ……ミカサ、今……巨人は進路に、あと何体ぐらいだ……?」
「……あと、十体以上は、いる。扉からだけじゃない、既に中に入り込んでた連中も……こんなにエレンに引き寄せられるなんて……どうして……?」
『前』を遥かに凌ぐ数の巨人が、一斉に此方を目指して向かって来ている。
いくら『九つの巨人』が『無垢の巨人』の標的対象だからといっても、この規模は明らかに普通じゃない。
エレンの巨人たった一体に対して、何故……。
「ゲホッ……あぁ、それ多分な……
「……え?」
呟くようにそう言って、ジャンは震える手でエレン達の居る方角と
「……ミカサ、頼みがある。今から俺が、
「は……?」
「この一帯の巨人共は、それで全部こっちに来る筈だ。その隙に、エレンに穴を塞がせる。お前は最後の『詰め』を守れ……いいな?」
「……何を、言ってるの……?」
「こうしないと、精鋭班にヤツらの注意がいっちまう。奥の手の『切り札』だが、ここで切るっきゃねぇ……!」
ミカサの返事を、待つ事なく。
ジャンは深く息を吸い、そして、『咆えた』。
「───こっちだ、巨人どもおおおおおおおお!!!」
ビリビリ、と。
大気を揺らすようなその叫びは。
瞬く間に、巨人達の目を此方へと向けさせた。
進む足を止め。
行く手を変え。
彼らは一目散に、『彼目掛けて』走り出す。
「な……何を!?ジャン、今のは……!!」
……その言葉の続きを、言えなかった。
彼の真っ直ぐな瞳が、それを良しとしてくれなかったから。
「……信じてくれ、ミカサ。お前の
顔色は酷く、額に脂汗を浮かべ。
それでも彼は、優しく微笑んでいた。
いつも自分や子供達に向けてくれる、暖かな笑顔で。
「──────っ!!!」
否とは、言えなかった。
気付けば、ミカサはアンカーを撃ち込んでいた。
可能な限り遠く、可能な限り高く。
そして飛び出すと同時、もう片方のアンカーをジャンの壊れた立体機動装置に向けて放つ。
そのまま、両のワイヤーを最高速度で巻き取り、彼への加速度を最大まで引き上げ───。
「はあぁぁぁぁぁあああああっ!!!」
全霊を込めて、彼の身体を空へと放り投げた。
美しい放物線を描きながら宙を舞う彼を、巨人達の群れが餌を与えられた家畜のように追い続ける。
……その時。
ふと、
彼の示した壁の一角。
その、『直上』に。
××××××××××××××××××××××
───俺ぁ、別に。
『自分一人で全部何とか出来る』なんて、
出来ないのが当たり前。
出来たら儲け物。
それが人間ってもんだ。
危ないもんは危ないと、ちゃんと理解して。
その上で、『対策』を考えて『準備』をする。
特に俺みてぇな臆病者は、それを入念にやっとくのさ。
……さて。
この心地良い浮遊感も、もうすぐ終わりだ。
徐々に、地面との距離が近付いている。
視界の端から、巨人共が俺に向かって群がって来ているのも見て取れた。
このまま行けば墜落して即死か、それを免れても巨人に襲われて死ぬか、そのどちらかしかないだろう。
……ま。
『このまま行けば』、だが。
「……うぉぉぉぉおおおお!!!」
「……だりゃぁぁぁあああ!!!」
聞き馴染みのある、二人の声が聞こえる。
あぁ。
そりゃ、お前らは来てくれるよな。
なんてったって───。
「「───掴まれ(捕まって)、ジャン!!」」
ずっと、俺が戦って来れたのは。
お前らに背中を預けてたから、なんだからよ。
コニー。
サシャ。
……ありがとな。
「……おう……!」
震える腕を精一杯、二人に向けて伸ばす。
そのまま二人分の手にがっちりと捕らえられ、再び身体が浮かび上がる。
「くそ、まずいぞ……巨人共がもう近え!!」
「急いで上がりますよ!!上に行けば『皆』も、問答無用で
抱きかかえられながら、壁上に向かって急上昇していく。
……そうか。
つーことは、『アイツ』はちゃんと
巨人の手をギリギリの所で躱しつつ、俺は一人ほくそ笑んだ。
(やっぱ、お前はすげぇヤツだよ)
我ながら、無茶を押し付けたものだ。
『今すぐ兵士と大砲を使えるだけ、前門付近まで引っ張って来てくれ』、なんて。
当初の作戦に反した動きである以上、これは明らかな命令違反だ。勝手に兵士を動かした上に兵器の無断使用など、後で何を言われるか分かったもんじゃない。
だが、それでも。
『アイツ』は応えてくれた。
『任せてくれ』と。
ただ一言だけ返して。
(……ありがとよ、
───そうして、壁面を登りきり。
俺は上昇の勢いそのままに、壁上の更に上へと飛び上がった。
そこで目にしたのは。
ズラリと並んだ大砲と、その周りを囲む何人もの兵士達。
その、一番先頭で。
『アイツ』はじっと俺達を待っていた。
今まさに、
「───やれ、マルコ……!」
目を合わせた、その時。
……親友は少しだけ、笑っていた。
「……撃てぇぇぇぇぇえええええ!!!!!」
響き渡る号令と、爆音。
下から聞こえてくる、血と肉が弾ける音。
……これで巨人達を仕留め切るのは流石に厳しいだろうが、エレンが穴を塞ぎ切るまでの僅かな時間であれば十分に稼げる筈だ。
転がるように三人揃って壁上に降り立ち、全員で大の字になって倒れ込む。
「あ、危なかったぜ……!お前、どんな無茶してんだよ!吹っ飛んで来るとか……!」
「そうですよ、馬鹿じゃないですか!?危うく死ぬ所だったんですよ貴方!」
やんややんやと捲し立てる二人に、苦笑いで返す。
正直、意識を保ってるだけでもやっとだ。というか、多分もう落ちる。
薄れかけた視界の中で、ふとマルコが此方に振り返っているのを見た。
緊張は解かず、されど安堵の色を仄かに顔に浮かべて。
「……おかえり、ジャン」
「……おう」
一度だけ互いに目配せをして、またマルコは大砲の指揮へと戻る。
……色々あったが、ここで
結果的にではあるが、マルコをライナー達に会わせずに済んだ。
俺にとっちゃ、それだけでも身体を張った甲斐があったってもんだ。
───暫くして、壁伝いに大きな衝撃が走った。
恐らくエレンが無事、穴を塞いだんだろう。
身体から、力が抜けていく。
音が徐々に遠くなり、瞼が完全に閉じ切ってしまった。
段々と、暗闇の中へ落ちて行く……。
「…………オイ、ガキ共……これはどういう状況だ…………?」
遠くで、誰かの声が聞こえたような気がした。
それもまた、酷く聞き馴染みのある声が。
けれど、それ以上はもう何も考えられなくなり。
俺はとうとう、意識を手放した。
××××××××××××××××××××××
その後。
駆け付けた調査兵団と駐屯兵団工兵部の活躍により、ウォール・ローゼは再び巨人の侵入を阻んだ。
謎の巨人の力を発現させたエレン・イェーガーは奪還作戦終了後、イアン・ディートリッヒら駐屯兵団精鋭班により拘束、及び隔離され、審議所の地下牢へと幽閉されることとなる。
また作戦遂行中、独断行動により命令違反を犯した訓練兵を複数名確認。
彼らの処遇は現在、未定である。
……と、いうことで。
恐らくここが、この作品の『第一部』ということになります。
ここまでお付き合い頂いた皆様、本当にありがとうございました。
そして今ここで、当小説の『コンセプト』を改めてお伝え致します。
◯不完全な『アッカーマン』の、泥臭い戦い
◯エレンとは別の、もう一つの『道』の存在
◯『並行世界』としての歴史の改変
……これらを、一つに纏める事が目的でした。
どうしてその白羽の矢がジャンに立ったのか。
単に、自分の最推しキャラということもありますが……。
それ以上に、彼の器なら『上手く使ってくれるだろう』と思ったからです。
生まれも育ちも普通、直接の悲劇は言ってしまえば親友一人の死のみ。
しかし誰よりも『調査兵団』の本質を理解し戦い続けた彼なら。
自身が力を得た時、きっと何かを良い方向に変えてくれる筈だ、と。
何となく、僕は信じているからです。
長くなってしまい、申し訳ありません。ここらで自重致しますので笑。
それではこれにて、『キルシュタイン夫妻の逆行物語』第一部、結びとさせて頂きます。
自分もなかなか文を書くのに手間取るタイプなので、次の更新も時間が空いてしまうかもしれませんが、気長に待って下さる方がいらっしゃるのであれば、これからも精一杯書き上げたい所存ですので、今暫く宜しくお願い致します。