───妙に気まずい空気が漂う中、バタバタと逃げるようにリコが部屋を後にして、暫く。
あれっきり、ミカサは此方と全く口を利いてくれなくなってしまった。
「……」
「……なぁ、ミカサ」
「……」
「おーい」
「……」
「俺が悪かったって、ホントに……頼むから、返事だけでもしちゃくれねぇか……」
「……」
「あと、おでこで胸んとこぐりぐりすんのもやめてくれ……痛いから、今めっちゃ身体痛いから」
「……〜〜〜!」
「ゔぐっ!?いだだだだだ!!痛い痛い痛い痛い痛い、ギブギブギブギブ!!」
情けなく悶絶の声を上げるが、一向にミカサは止まってくれない。
ベッドの上に押し倒された状態で為す術もなく、延々と額で攻撃され続ける。
「ゔ、ゔぅ……いてぇって、言ってんじゃんか……」
「……か」
「え?」
「ばか……馬面……悪人面……カッコつけ……スケコマシ……馬面……」
「おい何で二回言った」
「……うるさい」
此方の胸の上に突っ伏したままべしべしと、雑に顔をはたいてくる。
目にも口にも鼻にも頬にも、ありとあらゆる所に彼女の掌が降り注いだ。
……けれど。
その手は、先程の
微かに、震えているのが分かった。
「……心配、した」
「……!」
「本当に、心配、した……!」
此方のシャツを掴んで、ミカサはまた顔を伏せる。
時折すすり泣くような声が、胸元から痛々しく響いてくる。
「怖かった……またあなたが、居なくなってしまうんじゃないかって……折角、帰ってきてくれたのに……」
「……ミカサ……」
「あなたが瓦礫の中に消えた、あの時……私はもう、どうしたら良いのか、分からなかった……」
「……」
「もういっそ、死んでしまえたらとさえ、思った……そうすれば、もしかしたら
「……っ」
「でも……諦めたら駄目だって、前にあなたに言われたから……私、頑張った……あなたの分まで頑張らなきゃって、頑張ったの……助けてくれたあなたに、報いたかったから……」
そう言って、手繰るように小さくシャツを引っ張るその姿が。
あまりにも儚くて、痛々しくて。
───ジャンはそれ以上、口を開く事が出来なかった。
「あなたが、女性にだらしのない人じゃないのは分かってる……今更、そんな事疑わない……でも、さっきは本当に、胸が苦しくて仕方なかった……」
「……」
「……ずっと、あなたが目を覚ますのを待ってて……その手でもう一度、触れて欲しくて……なのに、そこには私じゃない、他の
……あぁ。
これは。
こればっかりは。
何も、反論出来ない。
「……私の……なのに……」
つくづく。
己の情けなさを恥じ入る他なかった。
「……お願い……行かないで……何処にも、行かないで……」
大事な嫁に。
大事な、家族に。
何をやってやがんだ、てめぇは。
辛い思いをさせた挙句、傷つけ、悲しませ、あまつさえ泣かせて、か?
───馬鹿でいるのも大概にしろ、この大馬鹿野郎。
「……ミカサ。そのままで良い、聞いてくれ」
ゆっくりと、彼女の頭を胸に抱き寄せる。
互いに決して離れぬよう固く、力強く。
その綺麗な黒い髪を優しく撫でながら、ジャンは囁くように呟いた。
「本当に、本当にすまなかった……お前に、辛い思いをさせちまって。あの時も、今も」
「……うん」
「……約束する。何処にも行かねえ。お前を、置いていったりなんかしねえよ。……俺がくたばるのは、婆さんになったお前をきっちり最期まで看取ってからだ。俺がお前から離れるとしたら、あの世でお前がエレンとまた会えてからだ。それ以外で、お前の前から消えたりしない……絶対に」
「……っ」
「傍に居る。何があろうと、ずっと」
───これ以上。
お前に家族を、失わせてたまるかよ。
「……愛してるぜ。
例え、
この愛だけは、奪わせてやるものか。
ニッと、ミカサに笑い掛ける。
腕の中で感じる彼女の体温は、とても暖かくて。
漸く、『帰って来たのだ』という実感が湧いてきた。
「……ズルい」
「ん?」
「ズルい、ズルい、ズルい……」
胸の中で、ミカサが首を振る。
イヤイヤと顔を擦り付けるような仕草がどうにも愛らしくて、思わず苦笑が溢れてしまった。
「そんな……そんな風に言われたら……もう、怒れない……」
「ん……まだ、
「……いじわる……」
「かもな」
彼女の頬を、優しく擽る。
指先に触れる白く柔らかな肌が、ほんのりと赤く染まっていた。
───全部が、愛おしい。
きっとこの先、何度生まれ変わっても、自分は彼女に恋をする。
その時にまたこうして。
想いを伝えられたら良いんだが。
「───……!」
「うん?……うぶっ」
するり、と。
突然、ミカサが腕の中から消えた。
驚く間もなく、今度は此方の顔が二つの手で鷲掴みにされる。
……がっちりと固定され、首から上が全く動かせない。
「お、おい。何を……」
「ジャン」
「えっ、あっ、おう」
彼女の、夜空のように美しい漆黒の瞳の奥に。
───もっと
「……奥さんを困らせるのは、このお口?」
「はい……?何言って……むぐっ!?」
聞き返す暇もなく。
唇が、暖かいものに包まれる。
目の前には、仄かに上気した妻の顔。
粘り気のある水音が、静かな部屋の中で反響する。
……溶け合う。
……絡まり合う。
こんなにも激しいのはいつぶりだったろうと、熱くなった頭でふと考える。
もしかしたら肉体の若さに、精神も幾らか引っ張られている部分があるのかもしれない。
きっとその瞬間、自分達二人は『夫婦』ではなく。
ただの、『男女』に
「ぷはっ……私……私の……」
唇から滴りかけた唾液を舐め取り、指先で小さく拭いながら譫言のようにそう呟く彼女の姿は。
あまりにも、扇情的で。
「ミ、カ……サ……」
……思わず自分も、喉を鳴らしてしまった。
また、距離が近付く。
また、互いの吐息が重なる───。
───と。
「……おお。ここかの、
「……いえ、滅相もない。それに私も、彼に用がありましたので。しかし、まさか貴方がこんな所にいらっしゃるとは思いませんでした……」
声が、聞こえる。
部屋の外に、誰かが……。
「「っ!!」」
咄嗟に、互いの身体から離れる。
コンコンと、扉をノックする音が響き渡ったのは、その直後の事であった。
「……キルシュタイン。私だ、イアンだ。入っても良いか?」
「は、はい!問題ありません!」
ガチャリと、扉が開かれ。
その向こうから、安堵の表情を浮かべたイアンが顔を覗かせる。
「……やっと目を覚ましたか。リコの奴から、お前が起きたと聞いて飛んできたが……元気そうで、安心したぞ」
「あ、ありがとうございます。班長方も、ご無事なようで……!」
「ああ……
「……お客人?」
首を傾げながら、扉の向こうを見つめる。
道を開けるようにして退いたイアンの奥から、ぬるりと現れたのは───。
「おう、すまんすまん。ワシが我儘を言って、連れてきて貰ったのじゃ。お主の顔を、
ひょっこりと、その風体にそぐわない気さくさで部屋に入って来た人物を見て。
ジャンはまたズルリと、ベッドから転げ落ちそうになってしまった。
「……ピ、ピクシス、司令……!!?」
「久しいの、キルシュタイン。以前の
カラカラと笑う、自分達の
ジャンは呆気に取られ、目を瞬かせる事しか出来ずにいた。
「む、アッカーマン?お主もおったのか!いやはや、無事だったようで何よりじゃ」
「あ……はい。え、と、ジャンとはどういった……?」
「いやなに、ちぃとばかし前にな。中々に面白い勝負事があったのじゃ。のう、キルシュタイン?」
「そ、う言えば、そんな事もありましたね……
「はて、まだ一年程しか経っとらん筈じゃが……まぁ、それはさておき。『話』は既に、このイアン達から聞いておる。随分とまぁ、無茶をしたようじゃの?」
此方を一瞥し、深い溜め息を一つ。
……一体何を言われるのかと、内心でビクついていると。
「……一人の『大人』として、お主らのような若者が身を投げ出す事を肯定したくはないが……それでもワシは、一人の『兵士』として、お主に
ツカツカと、司令はベッドの横に歩み寄り。
唐突にその場にしゃがみ込んだかと思うと、そのまま膝に手を付いて、此方に向かって深々と
「───恩に着る。その無茶で、大勢が救われた。いつか必ず、その勇に報いると誓わせてくれ」
「ちょっ!?やめてくだ、いいいいてててて……!」
慌てて立とうとして、また身体中に痛みが走る。
しかし何とか気合いで起き上がり、息を切らしながら司令と向き合った。
「っぐ……あ、頭を、上げて下さい……!貴方のような立場の方が、そんな……!」
「……『立場』とは、厄介なものじゃな。気付けば責任ばかりが増えていって、己の一挙一動に常に何かが付き纏う。実に面倒な事ばかりじゃ、のう?」
「───っ」
……その感覚には。
少しだけ、覚えがある。
世界を救った英雄として名を馳せ、国政にすら関与出来る程の地位を得て。
机と紙の上が戦場となり、言葉とペンが武器となった未来では。
───確かに、窮屈に感じる事は多かった。
己の行く足一つで、周りの人間がバタつく。
己の下げる頭一つで、国の情勢が動く。
自分の行動全てに、気を払い続けなければならない日々だった。
「この重圧から解き放たれたいと、何度思ったか……途中から、数えるのも馬鹿らしくなってしまったわい」
「……」
「じゃが……嫌だ嫌だと喚いても、今のワシの仕事は『これ』なのじゃ。ならば、何があっても勤め上げるしかあるまい。それが兵士としての義務でもあるが故、な」
半ば自嘲するように、小さく司令は笑った。
……きっと。
今の自分には、彼の気持ちが
「……違う……」
「む?」
「……それだけじゃ、ないんでしょう。貴方が、立場を投げ出さない理由は」
この人は。
『未来』の、己だ。
為政や外交に疲れ果てて、時々仲間達やミカサに愚痴を聞いてもらって。
面倒と問題が山積みの職務に、頭を抱える毎日で。
それでも目の前の使命から、目を背けられないのは。
「……
「!」
───地ならしが起こった、あの日。
感情と理屈の狭間で揺れていた自分の前に現れた、仲間達の影。
「自分達の捧げた心臓がどうなるか、彼らも知りたい筈だから。彼らに、自分の生き様を誇れるように在りたい一心で、己を
あの影は、今もずっと変わらず。
自分の背中を見ているだろう、と。
「……
真っ直ぐに、司令の目を見つめる。
その後ろにある自分自身の幻影に、今一度問い掛けるように。
……年季を感じさせる穏やかなその瞳の奥が。
僅かに、輝いたような気がした───。
「……不思議じゃな」
「はい?」
「前に会うた時は、年相応の若さが見えておったが……たった一年で、人はここまで熟するものかの……」
ボソリと呟きながら、司令は静かに立ち上がった。
「……寝起きに、騒がしくしてすまなんだな。ワシらはそろそろお暇するとしよう。この本部は好きに使ってくれて構わん。調子が戻るまでは此処におると、ワシの方から訓練兵団側にも伝えておく。それと……そうじゃな、手の空いた医官に後でお主を診て貰うよう、声を掛けておくとするかの」
「えっ、あ……は、はい!すみません、お手数をおかけして……!」
「うむ、大事にの。あとはゆっくり、二人で
「ぶっ!?」
吹き出すジャンに一度目配せをして、司令の足が扉へと向かう。
その去り際、ふと部屋の隅に居たミカサに対し優しく微笑み掛けるのが見えた。
「なるほど、お主が言っていた通りの男じゃな、アッカーマンよ。……これだけの器、何処にも逃がすでないぞ」
「……言われずとも、そのつもりです。私の、
「ふふ、そうじゃったの。愚問も良い所じゃわい……ワシも耄碌したか」
頬を搔きながら軽く苦笑を浮かべ、司令はイアンと共に部屋を後にする。
……残されたジャンとミカサは一度互いに顔を見合わせ、大きく息を吐いた。
「……なんか、アレだな」
「……?」
「俺は、まだまだ半端なガキだなって、思い知らされたわ」
……真実も。現実も。
全部見てきて、全部味わって。
漸く、今の自分がある。
それだけ沢山の事を経験して来ても尚。
……
度胸も、度量も、柔軟さも、器も。
全部が、『違う』。
上に立つ者とは
そう、教えられた気がした。
「いつか、あの人くらいの歳になった時……俺も、
「……なれる。あなたなら、きっと」
「……だと良いけどな」
額を押さえて、またベッドに倒れ込む。
目指すべき背中は、今も多い。
「……ま!せいぜい、目指すだけ目指してみるさ。お前の
「!」
───ミカサと司令の間に、どんなやり取りがあったのかは分からないが。
彼女にそう言って貰えただけで、自分は何処までだって高く登ってやろうと思えるのだ。
『彼女の隣に立つに、相応しい存在で在り続けたい』。
これは多分生涯変えられない、
「……って、これはこれでちょっとカッコつけ過ぎか」
「……カッコよかったから、問題ない」
「お前も大概、俺に甘いよなぁ」
「どの口が言うの」
視線を交わし、互いに小さく笑い合う。
……司令もああ言ってくれた事だし。
このまま二人で、ゆっくりと『
───と、思っていた矢先。
ドンドンドンと、またもや部屋の扉を叩く音がする。
「こ、今度は誰だよ……」
……若干、顔が引き攣ってしまった。
起き掛けだというのに色々な事が一気に起こり過ぎて、流石に脳みその容量が限界に近い。
申し訳ないが一度お引き取り願おうかと、喉元まで声が出かかった所で……。
「……ジャン!僕だ、マルコだ!さっき、君が目を覚ましたって聞いて……今、入っても大丈夫かい!?」
「面倒くせぇ!マルコ、強行突破だ!押し入るぞ!!」
「コニー、それはまずいです!中にまだミカサが居たら、私達ただじゃすみません!」
……やめた。
「ミカサ、悪りぃ……扉、開けてやってくれ」
「う、うん……」
アイツらは。アイツらだけは。
ぞんざいに扱えない。扱いたくない。
「どうやら、まだ暫くは落ち着けそうにねぇみてぇだな、こりゃ……すまん」
「……仕方ない。皆もあなたの事、凄く心配していたから」
そう、諦めたように答えるミカサの顔が。
───何だかちょっぴり、残念そうで。
「……
「!」
「俺も、全然
「……うん……!」
そうして、少しだけ表情の晴れた彼女が、扉を開けに行くまでの僅かな間に。
ジャンはふと未来での生活を思い出し、『家で子供達に家族サービスしてる時も、丁度こんな感覚だったっけか』と、半ば呆れたように一人笑っていた。
×××××××××××××××××××××
「いやはや、実に面白い男じゃ……よもや、あれ程までに成っていたとは。若いというのはまっこと素晴らしい事じゃの」
静かな廊下をイアンと連れ立って歩きながら、ピクシスはぼんやりと窓の外を眺めた。
夕暮れに染まる遠くの空は、残酷なまでに美しく。
……思わず、溜め息を溢してしまう。
「あやつも、
「……はい。そのつもりのようです。私も、偶々耳にしただけですが」
「やはり、か。これまた、何とも歯痒い物じゃ。目の前の大きな魚が他人の手の中に飛び込んでいくのを、ただ指をくわえて見ている事しか出来んとは!……せめて、エルヴィンの
───あの男もまた、珠玉の逸品であるが故に。
その目は必ず、彼へと向けられる筈である。
人類最大の矛が、彼の力をどう活かすのか。
それはそれで、興味の種が尽きない。
「……不思議な、少年ですね」
「……」
「初めて任務を共にした時から、何処か普通の兵士達とは一線を画していました。訓練兵としてだけでなく、我々精鋭班と比べても、遥かに肝が据わっているというか……。仮にも上官としては、何とも恥ずかしい話です」
「……ふむ」
バツの悪そうな顔をして頬を掻くイアンの前で、ピクシスはぴたりと立ち止まり。
ゆっくりと後ろを振り返って、軽く微笑んだ。
「───
「……は……?」
「
驚いて目を見開くイアンを尻目に、ピクシスはまたカラカラと笑って歩き出す。
あの時、対峙していたのは。
それさえも、今は確証が持てずにいる。
「この世界は実に、奇天烈な事で満ち満ちておる。のう……イアンよ?」
胸の内に燻る、奇妙な違和感。
しかしそれが、やけに血を騒がせる。
───とびきりの美女を見つけた時でも、もう少し穏やかな心持ちでいられるだろうに。
久方ぶりに出会った、紛れもない『本物』の存在に。
ピクシスは己の身体が、期待で沸き立つのを感じていた。
×××××××××××××××××××××
「……今……何って言った……?」
ジャンの顔が、驚愕に染まる。
見開かれた目が、『彼』の瞳を捉えて離さない。
「言葉通りの意味だよ。まぁ半分びっくり、半分予想通りって所かな」
「んな、馬鹿な……!命令違反っつったって普通は厳重注意か、悪くても懲罰房行きくらいだろ……!
「何せ、規模が規模だったからね。数十人単位の兵士に、大砲十数門。
「『張り切り過ぎた』って、お前……つか、そうしてくれって頼んだのは、こっちなんだぞ……?何でそこでお前に話が行く……!?」
「目撃者───主に現着した、調査兵団の帰還兵達かな───が、何人も居てね。勿論、
「じょ、冗談言ってんじゃねぇぞ……!だからって、お前が不利益を被る理由はならねぇだろうが!事の
「よせよ。折角、
「は……?お前、何言って……」
ジャンの表情が、だんだんと青褪めていく。
何か、大変なことに『気付いてしまった』みたいな……。
「お前、まさか……
「……ご想像にお任せするよ」
肩を竦めて、『彼』は答える。
その様子が、あまりにも
対するジャンの狼狽が、より一層酷く見えてしまった。
「お前、何やってんだよ……!なぁ、
悲痛な面持ちで、ジャンは『彼』───マルコを睨み付ける。
……この二人が、ここまで激しくぶつかり合うのを。
『嘗ての自分』は、見たことがあっただろうか。
「……ジャン。僕は別に、何も後悔はしていない。本当だ。あの戦いで僕は間違いなく、
「……」
「さっきのだって、あくまで結果論だ。そもそも本来なら僕は、
きっぱりとそう言い切って、マルコはジャンを制止するように手を立てる。
その姿には確かに、一切の迷いも後悔も感じられず。
ただただ、自分達は押し黙る事しか出来なかった。
何も言い返せないまま、ジャンの頭がゆっくりと項垂れていき。
それから暫くして、呟くように彼はマルコへ問い掛けた。
「……コニーとかサシャは、知ってんのか……この話を」
「他には誰も知らないよ。話すのは此処が初めてだ。二人を先に帰したのも、それが理由。後で怒られちゃうかもだけどね」
「……なんで、俺に話したんだ……こんな反応をされることくらい、お前が予想出来ねぇ筈ねぇだろ……」
「そうだね、何でかな……言わない選択肢も、あるにはあったんだけど」
マルコは静かに、窓の外を見つめた。
帳の降りかけた夜の暗がりの中では、しとしとと小雨が振り始めている。
その雨音がどうにも、物悲しげに聞こえてしまって。
「……こればっかりは、
照れ臭そうに微笑むその姿が。
───何処か、痛ましく見えた。
「それじゃあ、僕もそろそろ帰るとするかな。また近い内に顔を見せに来るよ。ミカサも、邪魔したね」
「い、いえ……マルコ、あなたは……」
「ミカサ」
ニッコリと、マルコが笑う。
「ジャンの事、頼んだよ」
そう言って、彼は部屋を後にした。
……ドスン、と。
ジャンが枕を殴り付ける。
「……
歯を食い縛りながら、身体を震わせてジャンは自分への怒りを露わにする。
そんな彼に、ミカサは言葉を掛けてあげることが出来ず、ただその背を静かに撫で続けていた。
× × × × × × × × × ×
───私的な兵の動員、及び無許可での武器弾薬の使用。
その主たる実行者、マルコ・ボット。
兵団の名の下に彼の功罪の如何を検討、及び処分の詳細を決定。
並びに
組織の書き方って、本当に難しいですよね……。
もうそろそろ、調査兵団の方にフォーカスを当てていきたいです。
※6.11.11 03:37 補足
最後辺りの文を大幅に変更しました。
既に読まれてしまった方は、申し訳ありません。
どうにも、納得がいかなかったもので……。