キルシュタイン夫妻の逆行物語   作:1sen

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お久しぶりです。
ちょっとまた、間が空いてしまいましたね……

諸々のお話は、またep.17の方で詳しく。







ep.16 Never Stop

 

 

 

 

 

 ───力を抜いて、半身(はんみ)に構える。

 そのまま正面の空間に向かって、渾身の突きを一発。

 すかさず二度、三度と拳を放った後、即座に体軸を切り返して上段への回し蹴り、同じ脚で中段への横蹴りを続けて叩き込む。

 

 淀みなく繋がったその連撃は、概ね理想通りの動きで。

 一人だけ()()()()()()()()貰えただけの事はあるかと、大きく息を吐いて苦笑した。

 

 「……大分、身体の痛みも引いて来たな……」

 

 ベッドの上に腰を下ろしながら、ジャンは軽く肩を回したり、腕を曲げ伸ばしさせてみる。

 これと言った違和感は、もう何処にもない。

 

 あれから更に数日が経過し。

 肉体の方は殆ど万全の状態まで調子を取り戻している。

 たった数日でここまで回復出来るとは、自分でも予想外だった。()()()()を思えば尚の事、その()()()()()()()()()()に驚かざるを得ない。これも、例の『残り火』の影響なのだろうか。

 

 『───全身、至る所が筋断裂。骨や関節にもダメージあり。加えて高熱の発症、か。()()がこんなボロ雑巾みたいな状態で、よくもまぁケロリとしていられるものだな』

 

 自分を診てくれた医官が、呆れたように首を振っていたのを思い出す。

 

 『……しかしそれよりも不可解なのは、()()()()()()()()()()()()()()()()、という事だ。聞けばお前の身体は一度、降ってきた瓦礫の山に押し潰されたらしいじゃないか。なのに此処に担ぎ込まれたお前には、裂傷挫創はおろか擦過の跡すら無かったと言う。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、だ』

 

 怪訝な顔を向けられたが、何とかシラを切り通して乗り切った。

 心当たりは当然あったが、説明なんて出来る筈もない。

 

 ……()()()

 恐らく『残り火』が、この世界の進撃(エレン)()()()()のだ。

 

 既に『道』と繋がっていたせいか、瓦礫の外の状況は何となく把握出来ていた。

 例の『()()』からの血や体液が、そのままこの身体を()()させる質量とエネルギーとして機能したのである。

 ヤツが言っていた『()()()()()()()』の本意は、恐らくそこにあったのだろう。

 

 『まぁ良い……一つ、忠告しておくぞ。今、お前の肉体に残っているダメージは全て、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()だと言っていい。例えるなら、【火事場の馬鹿力を()()()()()()()、延々と動き続けてしまった】と言った所か。人間は普通、本来持ち得る力の数割程度しか引き出せないようになっている。その壁を強引に乗り越え、ましてや()()()()()()()()()()()()()()()()()()、待っているのは必然的に破滅の道だ』

 

 持っていた鉛筆を此方の眼前に突き付けながら、医官が厳しい表情でそう言った。

 

 『……1()0()()。当時のお前を知る兵士達に様子を聞いて、ざっくりと導き出してみた【目安】だ。それを、お前が()()()()()()()()()()限界の時間だと思え。超えたが最後、また【こう】なる可能性が高くなる事を肝に銘じておいた方が良い。……これからも、()()()()()()()()()()

 『……』

 『では、私はもう行く。やり残している仕事もたんまりとあるんでな。せいぜい、安静にしていろ』

 『あ、は、はい!ありがとうございました、わざわざお忙しい中……!』

 『司令から直々のご命令だ。無下にする事は許されん』

 

 淡々と荷物を纏め、医官は席を立った。

 その()()()()()()()()()()()に、何処か見覚えがあるような気がしないでもなく。

 

 『……無茶は程々にな、訓練兵』

 

 最後に小さくそう言い残し、『彼女』は去っていった。

 

 「……10分間……か」

 

 思いがけず入手出来た、貴重な情報だ。

 これを把握しているのとそうでないのとでは、今後の戦いの指標がまるで変わってくる。

 

 あの、大幅な戦闘能力の強化状態……仮に、『アッカーマン化』とでも呼ぶべきか。

 言ってしまえば、()()()()()()()()()()()()()()()()()()訳だ。効果は間違いなく絶大。しかしその分、本来の『器』たり得ないこの身体には、桁違いの負担が伸し掛かる。

 使い所は、慎重に見極めなくてはならない。

 少なくとも、おいそれと発動させて良い代物でない事だけは確かだ。

 

 10分間。

 果たしてそれが、今後の戦いに於いて『十分』か、『不十分』か。

 ───()()()()()()事には、まだ分からない。

 

 (……ま、『そっち』はおいおい考えれば良いさ。今は『こっち』を意識しろよ、俺)

 

 言い聞かせるように頬を軽く叩いて、自分を戒める。

 今はそれとまた別に、()()()()()()()()()()()事態があるのだ。

 

 ……まさに、今日。

 この日を待っていたのだ。

 己の『目論見』が、果たして上手くいくのか。

 全ては自分の立ち回り方に掛かっている。

 

 気合いを込めて一息に立ち上がり、事前に持ってきて貰っていた()()()戦闘服にテキパキと身を包んでいく。

 ついでに鏡を覗き込んで、身嗜みの確認も少々。

 

 何せ、()()()()()()()()()

 僅かな失礼さえ、此方の不利に繋がりかねない。

 『交渉』の基礎は隙を見せず、礼を欠かさず、且つ『格』を見せる事である。

 ───特に、()()()()()()()()()()()に対しては。

 

 「うし……行くぜ」

 

 顔を一度張って、ジャケットをむんずと引っ掴む。

 勢い良く開けた扉から久方振りの(シャバ)の空気を存分に浴びつつ、目的の場所を目指して歩き出した。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()

 ()()()()()()()()()()

 

 ……いざ、『()()()』へ。

 

 

 

 

×××××××××××××××××××××

 

 

 

 

 巨人の力を発現させたエレンの処遇については、嘗てと同じく異例の事態による通常の法が適用されない兵法会議が開かれる事となった。

 憲兵団と調査兵団、どちらの兵団に彼の動向を委ねるのか。

 両者の案を公の場で公開し、議論を交える。

 その最終的な判断を行う立場としてあるのが、三兵団のトップに君臨する───。

 

 「───君の生死も……今一度改めさせていただく。異論はあるかね?」

 

 ……ダリス・ザックレー総統である。

 

 彼の発する一言で、兵団内の人間全てが右にも左にも動く。

 まさに、この壁の中で王に次ぐ最大級の権力者だ。

 

 彼の言葉を受け、連行されてきたエレンも従順な態度で問い掛けに頷いた。

 それを見届け、アルミンはより一層緊張感を高める。

 

 ここから先は、『彼ら』にエレンの命運を託すしかない。

 半ば祈るような思いで、少し離れた場所に居るその()()へと目を向ける。

 

 ───調査兵団。

 犠牲を覚悟に壁外の巨人領域に挑み続ける、『自由の翼』を背負う者達。

 駐屯兵団や憲兵団が人類の『盾』として在るならば、彼らの存在は間違いなく『矛』そのものだ。

 目下、彼らの目標がウォール・マリアの奪還である以上、エレンの力の有効性は決して無視出来るものではない。

 ほぼ間違いなく、彼の身柄を獲得するために何かを仕掛けて来るだろう。

 

 「……なので、せめて出来る限りの情報を遺して貰った後に、我々人類の英霊となって頂きます」

 

 高度に政治的な存在になってしまったエレンは、その身体を徹底的に調べ上げた後で速やかに処分すべき。

 憲兵団代表であるナイル・ドーク師団長はそう発言した。

 

 確かに、彼らの言わんとしている事も分かる。

 ナイル師団長曰く、壁内ではエレンを脅威として見る者と英雄として見る者で評価が二分しているらしい。

 下手にその分断を煽れば、領土を巡る内乱にも発展しかねない。

 壁内の統治を司る彼らにとっては、何よりも避けたい事態の筈だ。

 

 「……次は、調査兵団の案を伺おう」

 「はい。調査兵団第13代団長、エルヴィン・スミスより提案させて頂きます」

 

 至極淡々とした口調で、エルヴィン団長はエレンを正式な団員として調査兵団に迎え入れ、巨人の力を利用しウォール・マリアを奪還する算段であるとの旨を述べる。

 ……しかしあまりにもその発言が簡潔に終わったため、アルミンは少し困惑した。

 

 てっきり、エレンを兵団内で管理する上での安全性等を事細かに説明して来るとばかり思っていた。そうでなければ、ただでさえ保守派の意見が多い中で、尚の事この場の優位性を得るのが厳しくなってしまう筈なのに。

 

 それか、若しくは。

 ───それ以上に()()()()()()()()、『何か』を切るつもりなのか。

 

 ……話は、少しずつ縺れを見せ始めていった。

 民間の保守派としては、壁の扉を塞いで頑丈にし、これ以上の巨人の侵入を許したくない。

 しかし一方で宗教側───ウォール教と言ったか───は、壁を神聖視しており、そこに手を加えることを認めたくない。

 

 個々の利益と感情とか複雑に絡み合い、徐々に審議所内の空気が混沌として来た所で。

 ……コツコツと机を叩き、ザックレー総統がキラリとその目を光らせる。

 

 「静粛に……話を戻そう。イェーガー君、私から君に質問がある」

 

 そう言って、総統は手元の紙をペラペラと捲り出した。

 恐らく、先のトロスト区奪還作戦の報告書だろう。

 

 「君自身、調査兵団への入団を強く希望しているようだが……君はこれまで通り兵士として人類に貢献し、『巨人の力』を行使出来るのか?」

 「は、はい……出来ます!」

 「ほう……」

 

 力強く言い切ったエレンの目をじろりと覗き込みながら、総統の手が一枚の紙の上で止まる。

 眼鏡をかけ直し、その内容を確認しつつ、総統は更に言葉を続けた。

 

 「今回の奪還作戦の報告書にはこう書いてある……君は今回、計三回の巨人化を行った。その内、一度目に……()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 「……!」

 「加えて、三度目……奪還作戦遂行時、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、と。それは事実で相違ないか?」

 

 ……やはり。

 その点については、言及は免れないだろうと思っていた。

 

 エレンの表情に、微かに陰りが差す。

 

 「……三度目の件に関しては、今初めて知りましたが……一度目は、そうだったと聞いてます……」

 「ふむ……『聞いている』という事は、()()()()()()()()()、ということか。つまりはどちらも、『巨人の力』が君の支配下を外れた状況にあったと言える。我々としては、君が果たしてその『力』の矛先を人類に向ける事がないかどうか……それを知りたいのだ」

 「……」

 

 唇を噛んで、エレンは言い淀んでしまう。

 

 無理もない。

 これだけ不穏な要素を突き付けられた以上、彼の口から『問題ない』とは───。

 

 「───総統。発言を宜しいでしょうか」

 

 耳が痛い程の静寂を割って。

 自分の真横から、そんな声が響き渡る。

 驚いてそちらを見ると、『彼女』が凛とした姿勢で静かにその手を挙げていた。

 

 「……君は、ミカサ・アッカーマン君かね?」

 「はい。先程、当事者として私の名前が出て来ましたので、此方からも彼に関しての所感を申し上げたいと」

 「ふむ……良いだろう、発言を許可する」

 「ありがとうございます。では、単刀直入に。彼の行動によって私が死にかけた、というのは否定致しません。ですが……それは全て、()()()()()()()()()()()です。私は私の判断で一箇所に巨人を集め、そこへ純粋に巨人を狙っていた彼が現れた……その流れに一切の故意はなく、あくまで偶然が引き起こした結果の『事故』であると、私は主張します。それに、彼はその『力』で、私達を駐屯兵団の砲撃から救ってくれました。彼が岩を運び切った事実と共に、そちらも彼が『力』を制御出来た例として考慮して頂きたいです」

 「……それはどうだろう」

 

 淡々と言い連ねるミカサに、憲兵団のナイル師団長から待ったが掛かる。

 

 「君の意見には主観性が多い。我々はあくまで、客観的に見た結果を踏まえて議論を交えなければならないのだ。……それに、君がイェーガーに肩入れする理由も分かっている。彼の素性を調べていく内に、六年前の事件の記録が見つかった。驚くべき事だが……君達二人は当時九歳にして、強盗である三人の大人を刺殺している。そうだな?」

 

 審議所内に、どよめきが走る。

 

 ……そこまで徹底して調べ上げてくるとは思っていなかった。

 アルミンは苦々しげに、奥歯を噛み締める。

 

 「その動機内容は正当防衛として一部理解出来る部分もありますが、根本的な人間性に疑問を───」

 「……はい、殺しました。()()()()()()()()()?」

 「───は?」

 

 呆けたような声を上げ、ナイル師団長が手元の資料から顔を上げる。

 度肝を抜かれたアルミンが、慌てて隣を見ると。

 ───そこには、優しげな微笑みを浮かべる幼馴染の少女の姿があった。

 

 堂々と、胸を張って佇むその姿には。

 まるで()()()()()()()()()()()()()()()()()

 ……思わず、息を呑んでしまう。

 

 「彼があの時、手を血で染めてくれたから、今私は生きている。私があの時、手を血で染めたから、彼もまた生きている。()()()()()()()、二人共殺されていた。その決断を人間(ひと)として否定されるなら、私も彼と一緒に化け物の烙印を押されて良い」

 

 彼女の暖かい瞳が、エレンへと向けられる。

 彼の顔に落ちていた仄暗い陰が、少しずつ薄れていく。

 

 「……ミ……カサ……」

 「私は、彼の『家族』だから。幾らでも肩入れするし、幾らでも味方する。その結果どれだけ罵られても、どれだけ痛めつけられても構わない。けれど……」

 

 ……空気が、変わる。

 その表情も、その口調も、何も変わっていない筈なのに。

 

 彼女から発せられる()()が、間違いなく。

 鋭く、重く、荒々しくなる。

 

 「……彼の命をどうこうする気であれば、まず先に私を討つことを、強くお勧めします」

 

 にこりと、ミカサは小さく笑った。

 

 再度の、静寂。

 審議所の中に明らかな恐れと、戸惑いの気配が漂い始める。

 ……と。

 

 「……化け、物……!」

 「あ、アイツも化け物の仲間だ……化け物を庇ってやがる……!」

 「あの女も人間かどうか疑わしいじゃないか……!巨人の小僧と一緒に解剖でもして……!」

 

 ミカサの圧に怯んだ周囲の人間が、口々にそんな事を言い出した。

 恐怖に囚われた人間というのは、こうもまともな判断が出来なくなるものなのか───。

 

 「───違う!!」

 

 咆哮が、轟く。

 自らの拘束具を打ち鳴らして、彼は必死の形相で叫んだ。

 

 「俺は、化け物かもしれませんが……コイツは関係ありません!無関係です!」

 

 声を上げた聴衆達を睨み付けて、エレンは更に咆える。

 そこには、先程までの何処か迷いの見えた少年は居らず。

 

 「……そうやって……自分達に都合の良い憶測ばかりで話を進めたって……現実と乖離するだけでロクな事にならない……!だいたいあなた方は……巨人を見た事もないクセに、何がそんなに怖いんですか……!?」

 

 ……代わりに、己を阻む全てに対して牙を剥きそうな、紛う事無き『猛獣』が座っていた。

 

 「力を持っている人が戦わなくてどうするんですか……!生きる為に戦うのが怖いって言うなら、力を貸して下さいよ!……この、腰抜け共め……!!」

 

 憂いの晴れた彼の心は。

 最早、誰にも押さえ付けられない。

 

 「……いいから黙って、全部俺に投資しろ!!」

 

 ───その瞬間。

 視界の端で、アルミンは捉えた。

 

 エルヴィン団長の横から突然飛び出した、小柄な人影。

 目で追う事さえままならない速度で、()()は脚を振り上げ。

 エレンの顔面に、鋭い一撃(蹴り)を叩き込もうと……。

 

 「───()()()、『死に急ぎ野郎』……!」

 

 ……した所で。

 

 バシィッ、と。

 乾いた音が、審議所の中を駆け巡った。

 

 「……あ?」

 「え……?」

 

 ()()()()()張本人も、()()()()()()エレンも。

 驚いたように目を見開く。

 

 二人の間に、強引に割り込むように。

 ()()()()()()()()()()()()()()()姿()()()()()

 

 所内のど真ん中で、『三人』の視線がかち合う。

 

 「……何だ、お前は」

 「……すみません、()()()()()()。少しだけ、自分に時間を頂けますか?」

 

 そう言って『彼』は、()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 その姿を見ながら、エレンは更に困惑した様子で問い掛けた。

 

 「お、お前……何で、こんな所に……?」

 「ようエレン、『奇遇』だな。()()()()()()()()()()()()()()()。ついでにお前の()()()になってやっから、ちぃとばかし大人しくしとけな」

 「は……はぁ……!?」

 「ま、安心しろよ。悪いようにはしねぇさ」

 

 エレンの額を指先で弾きながら、『彼』はふと此方に目を向ける。

 

 ……ほんの一瞬だったが、アルミンは見逃さなかった。

 その目元に見えた()()()()()()()が、少しずつ薄れて消えていく。

 その瞳が放っていた()()()()()()()が、徐々にヘーゼル色へと戻っていく……。

 

 「───()()()

 

 『彼』が小さく、親指を立てる。

 それに応えるように、『彼女』もまた小さく頷いた。

 

 「……()()()()

 

 アルミンの耳に漸く届く程の、微かな声に。

 しかし『彼』は目配せをして、軽く微笑みを返す。

 

 「さて、と……お騒がせしてしまって申し訳ありません、ザックレー総統。ただ、エレン(コイツ)の今後の動向を決めるに当たって、是非とも自分からもご提案したい話がございまして」

 「……成程。噂には聞いていたが……もしや君が、例の『壁の英雄』かね?」

 「そんな大層な呼ばれ方をされて良いガラじゃありませんがね」

 「()()はしないのだな」

 「えぇ。今回はその、分不相応な『立場』を有り難く()()()()()()()に来ましたので。と言っても、()()()()自分がこの場に立つ事を認めて頂ければの話ですが……」

 

 肩を竦めて、苦笑を浮かべる。

 しかし、その顔には一切の躊躇いも畏れもなく。

 ただ只管に毅然とした面持ちで、続く総統の言葉を静かに待っていた。

 

 「……ふむ。ならば『英雄』の名に免じて、君の立会を私が許可しよう。して、その話とやらを詳しく聞かせて貰おうか……ジャン・キルシュタイン君」

 

 重々しく、しかし何処か()()()()に。

 組んだ手に顎を乗せ、ザックレー総統は頷く。

 

 自身に深く頭を下げた少年を見下ろす、その瞳には。

 何か、大きな期待が込められているようにも感じられた。

 

 

 

 

 

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