キルシュタイン夫妻の逆行物語   作:1sen

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ep.5 The Last Wielder

 

 

 

 

 〜〜〜ライナーとベルトルトの場合〜〜〜

 

 「───ジャンとミカサについてどう思うかって?」

 

 ライナーはそう聞き返し、少し悩むような素振りを見せた。

 

 「どう、って言われてもな……そりゃあまぁ最初は驚いたもんだが、最近はもう割と慣れてきたっつーか。なんか、ああしてるのが逆に普通、みたいな空気まである。なんでだろうな」

 「……二人とも、あんまり恥じらってる様子とかが無いからじゃないかな。甘酸っぱい感じが無いというか、妙に落ち着いてるよね」

 「ああ〜、それだ!よく見てるなベルトルト!」

 「い、いや。何となくそう思っただけだよ」

 

 頬を掻き、気恥ずかしそうにするベルトルトの横で、ライナーは腕を組みウンウンと勿体ぶって頷く。

 

 「そうだよなぁ、やっぱ想い人がいるヤツは目の付け所が違うぜ……」

 「ちょっ!!きゅ、急に何を言い出すんだライナー!!」

 「おお?その反応は意外と当たりだったか。カマかけて正解だなこりゃ。ちょうど良かった、ジャン達にからかい甲斐が無くて困ってたんだよ。今夜は男同士、水入らずの恋愛話と洒落込もうぜ」

 「き、君ってヤツは……」

 

 肩を落とすベルトルトの小脇を肘で突付きながら至極愉快そうに笑うライナーだったが、すぐに真面目な表情に戻って咳払いをしつつ「話が逸れてスマン」と手で空を切った。

 

 「最初の話題に戻るが……俺としては素直に目出度い事だと思うし、普通に応援させてもらうさ。何よりあれからの二人……特にジャンがメキメキと力を伸ばしてるんだ。結果的に、兵士として良い変化を遂げたって事じゃないか。俺達も負けてられねぇな」

 「……うん、そうだね……」

 「あとは、アイツがどうやってミカサを落としたのか教えてくれりゃ良いんだが。あのエレン一辺倒だった鋼の女をモノにしたんだ、きっと相当なテクを持ってる筈だぞヤツは。それがあれば、俺もクリスタと……」

 「う、うん……そう、だね……?」

 

 急に興奮し鼻息を荒げる同郷の幼馴染に、ベルトルトは若干引き気味になりながら答えていた。

 

 

 

× × × × × × × ×

 

 

 

 〜〜〜コニーとサシャの場合〜〜〜

 

 「───どうって言われましてもねぇ」

 「だな。俺にもよく分からん」

 「奇遇ですねコニー。貴方と意見が一致するなんて」

 「全くだ。今回ばかりは、天才の俺もお手上げってヤツかな」

 「……貴方のその自信って、一体何処から来るんですかね……?」

 「?」

 

 見るからに頭の上に疑問符が浮かんでいる様子のコニーに、サシャは溜め息をつきながら続けた。

 

 「あ!でも二人とも何だか最近、すっごく優しいんですよ。私が前にパンを貰いに突撃を仕掛けた時、二人揃ってパンを分けてくれまして。ジャンなんてちょっと目を潤ませながら、『今度美味いもん腹一杯食わせてやっから』って約束してくれたんですよ!いやぁ、普段から徳を積んでると良いことがあるんですね〜」

 「それ、お前にパンを強奪されて泣いてたんじゃなくて?」

 「失礼な!私はそんな非常識な事はしません!」

 「非常識な事しないヤツは、調理場から芋も盗まねぇんじゃねぇかな……」

 

 あくまで自分は常識の範疇にいると主張する芋女ことサシャに、コニーもまた溜め息をつく。

 

 「……けど、確かに変わったよな。大分丸くなったっつーか……この間ジャンが、俺の座学の課題を手伝ってくれてさ」

 「ええ。二人とも、よく周りの面倒を見ているような気がします。私なんて、ミカサに服の解れを直して貰っちゃいまして」

 「こりゃ世話焼き夫婦ってか」

 「お父さんお母さんって所ですかね」

 

 ケラケラと、問題児二人は顔を見合わせて楽しそうに笑った。

 ……「また馬鹿なこと言ってるなコイツ」と、互いに思いながら。

 

 

 

× × × × × × × ×

 

 

 

 〜~~クリスタとユミルの場合〜~~

 

 「───さあ。そこら辺の青臭い話には疎くてね。まぁ、どうだって良いんじゃねぇの?」

 「ちょっと、ユミル!またそんな言い方……」

 「だってそうだろ?誰と誰がくっつこうが、あたし達外野がそれにあれこれ口出す権利なんてこれっぽっちも無い。全部はアイツら次第だ」

 「それは……そうだけど」

 「ま、端から見てる分には頗る面白いんでね。このまま暫くは楽しませて貰うぜ」

 

 ニヤリとほくそ笑むユミルに、クリスタは眉をひそめる。

 

 「そうやってすぐ悪い顔する……」

 「こればっかりはあたしの性分だからな。人生、楽しく生きたモン勝ちさ」

 「もう……でもあの二人、確かに最初は凄く驚いたけど、今はホントにお似合いだと思う。円満な旦那さんと奥さんって、あんな感じなのかな。いつも息ぴったりで、お互いに能力があるから支え合えて……何だか、隙がないって感じ」

 「はっ、何だそりゃ。誰かと戦ってんのか」

 「そういう事じゃなくて!……それぐらい、凄く強そうなイメージだから」

 「ならいっそ、『最強夫婦』とでも呼んでやるか。コイツは面白ぇ!」

 

 クリスタの肩に手を回して、ユミルは豪快に笑った。

 

 「いいねぇ、我ながら安直且つ悪くない響きだ。是非とも流行らせたいぜ」

 「……確かに。何だかしっくりくる気がする」

 「うん?」

 「最強夫婦、か……ちょっと格好良いかも……」

 「おお?」

 「うん、いい!ユミル、貴女ってネーミングセンスが良かったのね。知らなかった!」

 「い、いや。滅茶苦茶冗談のつもりだったんだが……」

 

 思いがけず目を輝かせるクリスタに、ユミルは珍しくタジタジになってしまっていた。

 

 

 

× × × × × × × ×

 

 

 

 〜〜〜アニの場合〜〜〜

 

 「興味ない。好きにすればって感じ」

 

 

 

× × × × × × × ×

 

 

 

 〜〜〜エレンとアルミンの場合〜〜〜

 

 「…………」

 「エレン」

 「…………」

 「ねぇ、エレンってば」

 「……何だよ、アルミン」

 「何だよ、じゃないよ。あれからずっと機嫌が悪いままじゃないか」

 「……別に、悪くねぇし」

 「それを悪いって言うんだよ」

 

 そっぽを向きながら、やや不貞腐れたように頬杖をついているエレンに、アルミンは困ったように苦言を呈す。

 

 「そりゃあ、僕だってビックリしたさ。でもあくまで、ミカサの心はミカサ自身の物だ。彼女が何をどう選んだって、それを否定なんてしちゃいけない。そうだろう?」

 「……否定なんてしてねぇし」

 「そんな態度で言われたって説得力ないよ……悔しいのは分かるけどさ」

 「はぁ!?誰が悔しがってるって!?」

 「君だってば」

 

 なかなか自分の気持ちを認めようとしない幼馴染の強情さに若干辟易としつつ、アルミンは冷静に話を進める。

 

 「エレンの気持ちだってよく理解出来るよ……自分一筋に向いていたと思っていたミカサの心が急にライバルに奪われて、さらにそのライバルはついこの前まで自分と張り合ってた筈なのに今やミカサに次ぐ実力者に躍り出たんだ。落ち込むのもしょうがないって」

 「……お前って、こういう時ホント性格悪りぃよな」

 「君がもうちょっと素直であってくれれば良かったんだけどね」

 

 ニッコリ笑いながらズバズバとモノを言うアルミンに降参したのか、エレンは深い溜め息をついて白状した。

 

 「……あぁ、そうだよ。悔しいって……どっちも。悪いかよ」

 「!……驚いた、もっと粘るかと……」

 「お前、俺のこと何だと思ってんだ!?」

 「んー……とんでもなく反発精神が強くて死ぬ程負けず嫌いの、僕の大切な親友、かな」

 「んだよ、そりゃ……」

 

 怒るに怒れないといった具合で頭を掻いたエレンだったが、口ではアルミンに絶対敵わないと分かっているため、それ以上の抵抗はもうしなかった。

 その後は、ぽつぽつと自らの思いを吐露し始める。

 

 「……ミカサは、俺の事が好きだと思ってた。自分で言ってて気持ち悪りぃけど、勝手にそう感じてたんだ」

 「うん」

 「……今になって、漸く分かった。俺が、アイツの事を好きだったんだ。だから世話を焼かれて、弟みたいな扱いされるのが嫌だった」

 「そっか」

 「……ジャンに差を付けられたのも、すっげぇ悔しかった。それに、何でか分かんないけど今のアイツは多分、もっと高い所に行こうとしてる。俺の事はもう眼中にないって感じだ」

 「そうだね」

 「……なんか、突然二人に置いてかれちまった気がしてな」

 

 大切な物は、手元を離れた時に初めて気付くと言う。

 きっとエレンはその最中(さなか)に居るのだろうと、アルミンは肌で感じていた。

 今の、心が揺らいでいる彼にかけるべき言葉は何か。

 幾らか考えた末、アルミンは一つエレンに質問を投げかける。

 

 「……エレン」

 「ん?」

 「君は、どうして兵士になったんだい?」

 「はぁ?何だよ、急に……」

 「いいから。僕は、外の世界を知るため。海だけじゃない、炎の水や氷の大地、砂の雪原をこの目で見てみたいからだ。じゃあ、エレンは?」

 「俺は……」

 

 エレンは思い出す。

 己の原点は何か。

 何を成し、何を遂げたくて、この場所に来たのか。

 ……知らず、握り締めていた拳に力が入る。

 

 「……俺も、外の世界を知りたい。そして……巨人どもを一匹残らず駆逐したい。そのために此処に居る……!」

 

 いつ如何なる時も、その根底にあるものは同じだ。

 自由への渇望と、巨人への憎悪。

 彼を彼たらしめる原動力は、まさしくそこにある。

 

 「……ならエレン。君が今為すべき事は、戦うための力を身に付ける事だ。それも誰かと比べた力じゃない、君自身が強くなるための力を」

 「……!」

 「もっともっと、強くなろう。僕も一緒に、強くなるから」

 「……やっぱ、お前はすげぇよな……」

 「君とずっと居たせいだよ」

 

 二人は笑って、互いの手をしっかりと掴んだ。

 掌から感じる確かな熱が、エレンの心の中に更に大きな火を灯す。

 

 「……ありがとう、アルミン」

 

 全ては二人の夢のために。

 そこにはもう、揺らぐ少年は居なかった。

 

 

 

× × × × × × × ×

 

 

 

 「まさか、こんな事になるとは思わなかったなぁ……」

 

 茜色に染まる夕暮れの空を眺めながら、マルコは一人しみじみと呟いた。

 

 あれから数ヶ月。

 ジャンとミカサの二人の変化が、この訓練兵団そのものに大きな刺激を与えている。

 今や彼らは、同期の中でも明らかに別格の存在だ。

 それは、単純な兵士としての能力だけじゃない。二人が纏う空気そのものが、他の訓練兵達と一線を画している。

 如何なる時も冷静で、何事にも動じない。まるで、()()()()()()()()()()()()()()()、とでも言うように、淡々とあらゆる課題をこなしていく。

 それでいて、性格は何処か丸くなった。コニーやサシャが話していた通り、ごく自然に他の人の世話を焼いている姿をマルコも自身で目撃している。

 そんな彼らの周りに、人が集まらない筈がない。

 気付けば、皆が二人を頼り、そして二人を目指して日々訓練に励むようになっていた。

 

 (『最強夫婦』……か)

 

 ユミル達との会話が、不意に頭を過る。

 その単語はやや滑稽でありながら、今のジャン達を的確に表現していた。

 阿吽の呼吸のツートップ。抜きん出た者同士の男女関係。

 まさに104期の双頭、とも言うべき彼らに相応しいかもしれないと、マルコはクスリと笑った。

 

 「……あの二人なら、巨人にだって負けないだろうな」

 

 少し、想像してしまう。

 彼らが調査兵団として自由の翼を背負い、壁の外を飛び回っている姿を。

 ミカサはどうかまだ分からない。けれどジャンは、そもそもが内地での生活を目的に兵士になったのだ。きっとこのまま、憲兵団に入ることになるのだろう。

 

 ───少し、勿体ないなと思ってしまう自分は、烏滸がましいのだろうか。

 

 「一緒に調査兵団に行こう、なんて言ったら、君はどんな顔をするかな……ジャン」

 

 彼らと肩を並べて戦う事が出来たなら。

 それはもしかしたら、王に仕える以上に名誉な事なのかもしれない。

 

 ……あまり本人からの良い返事は期待できないと思うけれど。

 渋い顔をする親友の姿がありありと浮かんで、マルコは苦笑した。

 

 

 

 

 

××××××××××××××××××××××××××

 

 

 

 

 

 更に月日は流れ。

 訓練兵団卒業まで、残り数週間となった。

 

 「───フッ!……調子はどう、ジャン?」

 「おっと!……まずまずってとこだな。でもかなり感覚は戻ってきた気がする、ぜっ」

 

 ミカサの拳をギリギリで避けながら、ジャンは身体を捻って蹴りを叩き込む。

 当然のようにミカサもこれを避け、手に持った訓練用の木製ナイフをジャンに当てようと接近する。

 これを嫌ったジャンは残った軸足だけを使って横に飛び退くように距離を取り、転がりながら受け身を決めて仕切り直しの姿勢に入る。

 しかし、これをミカサが許す筈もなく。

 大きく踏み込んで凄まじい跳躍をした彼女は、なんとジャンの頭上を越え、彼の肩を掴んでそのまま押し込み、彼の身体を完全に地面へと押さえ付けた。

 為す術のなくなった彼の首元に軽くナイフを触れさせ、ニコリと笑う。

 

 「……私の勝ち」

 「っだぁ〜!……流石に厳しいか。最後のはマジで動けんかったなぁ」

 「でも、全体的にかなり動きはキレてた。目も良くなっていると思う。多分攻めきれないと思ったから、私も全力だった」

 

 ミカサはジャンの手を取って、ゆっくりと引き起こす。

 ここに来て、自主練習でここまで対人格闘を詰めるなんて自分達くらいのものだろう。現に今、夕暮れとなった訓練場には他の誰の姿も見えない。

 しかし、後に起こるであろう戦いを踏まえると、「人」を相手にする感覚は戻しておいた方が良い。二人はそう結論付け、こうして時間を見つけては特訓を繰り返していた。

 

 「卒業までにお前から一本取ってみたい気はあったが……やっぱ無理くせぇなこりゃ」

 「ふふ。簡単には取らせてあげない」

 「うちの奥さんは手厳しいこって」

 

 得意げに胸元で小さくバツを作るミカサに、ジャンはやれやれと頭を掻いた。

 

 ───もうすぐ、日が沈む。

 太陽と反対側の空に見え始めた夜の帳の切れ端は、やがてこの世界を黒く、暗く染め上げるだろう。

 

 「あと少しで卒業、か。この一年、あっという間だったな」

 「……大変なのは、ここから」

 「だな。地獄が大口開けて待ってるぜ」

 

 冗談めかして、ジャンは軽く笑う。

 

 この先、数え切れない程の困難が自分達の前に立ちはだかる。

 例えそれを知っているからとて、容易に乗り越えられるものではないことは重々承知済みだ。

 

 「……これから、私達はどう動くべき?」

 「とりあえずは……トロスト区奪還作戦。コイツを起こさせ、完遂させる。あの事件は、エレンが巨人として覚醒するのに必要不可欠だ。アイツの力が無ければ、どの道壁内人類に未来はない。勿論、犠牲者は出るだろうが……どっかで、()()()()()な」

 

 何を生かし、何を殺すか。

 誰を救えて、誰を救えないのか。

 今までとは異なる、己の中の覚悟が問われる。

 殺す覚悟ではなく、()()()()()()覚悟を。

 

 「……ジャン。顔が怖くなってる」

 「!……すまねぇ、つい……」

 「あなたの考えてる事は分かる。妻だもの」

 

 そう言って、ミカサはジャンの肩に自分の頭を乗せる。

 ぴったりとくっつけたその身体はどこまでも、彼を支えるために。その心に、寄り添うために。

 

 「……罪も、業も、責任も。あなたと一緒に背負う。それに、どうせ私達は()()()で沢山、人を殺してきた罪人。死んだら地獄に行く。それならせめて、あなたと二人で行きたい」

 「……ミカサ」

 「あなたと、一緒にいる。最後まで」

 

 瞳を閉じ、ミカサは優しく微笑んだ。

 罪悪感に苛まれているであろう彼の心が、少しでも晴れてくれますようにと祈りながら。

 

 「……ありがとう、ミカサ」

 

 微かに声を震わせながら、ジャンはミカサの肩を抱く。

 

 滲む視界で睨み付けた遠くの夜空。

 暗闇の中にはしかし、小さくも爛々と輝く星々の光が確かに浮かんでいた。

 

 

 

 

 

××××××××××××××××××××××××××

 

 

 

 

 

 ───以下、第104期訓練兵団最終成績。

 

 首席:ミカサ・アッカーマン

 次席:ジャン・キルシュタイン

 三位:ライナー・ブラウン

 四位:ベルトルト・フーバー

 五位:アニ・レオンハート

 六位:エレン・イェーガー

 七位:マルコ・ボット

 八位:コニー・スプリンガー

 九位:サシャ・ブラウス

 十位:クリスタ・レンズ

 

 

 

 

 

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