キルシュタイン夫妻の逆行物語   作:1sen

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ちなみになんですが、タグってもう少し詳細に載せた方が良いんですかね?
今のところ三つしか入れてなくて……




ep.7 Warcry

 

 

 

 ───駐屯兵団が抱える基本的な任務としては主に領土の防衛、そして壁内の治安の維持等が挙げられる。

 自発的に巨人の領域に踏み入って命を散らす()()()()()こと調査兵団とは対照的に、平常時に巨人と対峙する機会はごく限られた場合のみとなる。

 兵士が暇を持て余している時こそが平和である証、とはよく言ったものだが、それ故に戦いの経験はお世辞にも多いとは言えない。

 五年前の超大型巨人の襲来以降は組織として常在戦場の姿勢を取り続けてはいるものの、やはり巨人との直接戦闘では同じ前線に立つ調査兵団に一歩遅れを取るというのが実状であった。

 

 しかしながら、その中でも「精鋭班」と呼ばれる集団はその名の通り、戦闘能力に秀でた存在として兵団内で確固たる地位を築いている。

 班全体が駐屯兵の上澄みによって構成されているため、その実力は一般的な調査兵と比べても遜色がないとさえ言われていた。

 調査兵団が不在の今、彼らこそが人々を、そして壁を守る最後の砦として在り続けなければならない。

 ……だが。

 

 「……イアン、まずい!!()()()が一体抜けた!!」

 

 班員の一人が叫んだその瞬間に、大型の巨人が猛スピードで視界の横を通り過ぎていくのが見えた。

 イアンは舌打ちをし、急いで動ける者を掻き集めてその巨人の後を追ったが、その後すぐに己の判断が遅かったことを悟る。

 

 「クソッ!!野郎、何て速さだ!!」

 「精鋭の私達でも追い付けないなんて……!!」

 

 懸命に飛ぶも、一向に彼我の距離が縮まらない。

 そして最悪な事に、巨人の行く先には避難が完了していない民間人達が集まっている。

 このままあのデカブツが突っ込めば、あの一帯は屍で埋め尽くされてしまうだろう。それだけは、何としても阻止せねばならない。

 だが、誰もその足を止める事が出来ないのだ。うなじを削ぐどころか、奴に肉迫することさえ叶わない。

 完全に手詰まりだ。

 どうすれば───。

 

 「……やっぱ、奇行種(おまえら)はそう動くよな!!」

 

 突如として耳に届いたそんな声と共に、イアンの行く手の()()()()()()()()()()()()軌道で、正面に一人の兵士の影が躍り出た。

 その軌道の先には、巨人の頭が通過するであろう位置。

 二つの進路が完璧に重なり合い、やがて「そいつ」は巨人と接触し……。

 

 「おぉぉらぁぁあ!!」

 

 巨人の死角から一気に眼前を横切って、ブレードで両目を切り裂いた。

 視界を潰され平衡感覚を失った巨人はすぐにバランスを崩し、近くの建物に頭から豪快に突っ込む。

 立ち上る粉塵の奥で、瓦礫に絡め取られた巨人が這い出ようと無様に藻掻いている所に、上空から再度「そいつ」が咆えた。

 

 「……今だ!!」

 

 その合図が聞こえるや否や、イアンの背後から途轍もない速度で、もう一人の兵士が()()()()()()()

 まるで弾丸のように何もかもを置き去りにし、一直線に巨人の首筋へとアンカーを撃ち込んで、全ての運動エネルギーを乗せた必殺の刃を振るう。

 イアン達が気付いた時には、既に巨人のうなじは深々と削ぎ落とされ、切り離した肉片が高々と宙を舞っていた。

 精鋭班の誰もが驚愕の色を隠せない中、事を済ませた二人はゆっくりと地上に降り立ち、互いの元へ駆け寄る。

 

 「流石だぜ!ナイスだミカ……うぉっと!?」

 「ごめんなさいジャン、気付くのが遅れてしまった……あなたに危ない橋を……」

 「い、いや大丈夫だって。たまたま俺の読みが当たったってだけだ。つか、ちょっと一回離れてくれ……民間人もいっから今、な」

 

 心配そうに抱き着く少女とそれをどうどうと宥める少年の姿に、イアンは思わず肩の力が抜けてしまう。

 

 ……ミカサ・アッカーマンとジャン・キルシュタイン。

 今期卒業した訓練兵達の中でも特に逸材だと言われていた二人。

 片方はずば抜けた戦闘能力を有し、もう片方は広い視野と優れた判断力を有する。

 それぞれが異なる分野で才を持っているのに加え、更にたった今見せたような高度な連携。並の兵士には到底出来ない芸当だ。

 確かに、類を見ない優秀さである。

 何よりも恐ろしいのは、両者とも()()()()()()()()()()()()()()という部分。新兵らしくない、ある種の貫禄のようなものが出ていると言うべきか。調査兵団ですら、もう少し気を張り詰めさせるだろうに。

 

 ───何にせよ、民間人に被害を出さずに済んだのは幸いだった。

 彼らの後衛配置は正解だったと、イアンは人知れず胸を撫で下ろす。

 ……と。

 

 「おらお前ら!!死にたくなきゃさっさと荷台を押し込め!またああやってすぐ巨人がやって来るんだぞ!!とにかく押せぇぇ!!」

 

 そんな怒号が、後門の方から辺り一帯に響き渡った。

 

 「……何だ?」

 「あぁ……そうだった。ジャン、少し待ってて。あっちの問題を片付けないと」

 「待て待て、俺も行くから……」

 

 そう言って、アッカーマンとキルシュタインは後門に向かって駆け出した。

 どうやら民間人が避難口でトラブルを起こしているらしい。

 

 「イアン、どうする?俺達も行くか?」

 「……いや、俺一人で良い。うちの班員はミタビ、一旦お前に預ける。すぐに戻るさ」

 

 同僚に戦線を任せ、イアンは二人の後を追う。

 不安故か、はたまた興味故か。

 

 

 

× × × × × × × ×

 

 

 

 「……何をしているの?」

 

 少女の冷たい視線と声が、一人の男へと向けられる。

 その男───リーブス商会会長、ティモ・リーブスは苛立ちを隠そうともせず叫んだ。

 

 「見りゃ分かんだろ!商会(ウチ)の荷物が門を通りやがらねぇんだ!お前も見てねぇで押せ!礼なら弾むぞ!」

 「それは必要なことなの?あなた達の避難が完了しないから、仲間がまだ戦ってる……戦って、死んでいってる……!」

 「当然だ!!住民の命や財産を守るために心臓を捧げるのがお前らの仕事だろうが!タダメシ食らいが百年振りに役立ってるからっていい気になるな!」

 「……そう。なら……」

 

 少女は諦めたように溜め息をつき、ブレードを静かに構えた。

 その漆黒の瞳に確かな苛立ちと怒りを込めながら一歩、また一歩とリーブスの方に歩みを進める。

 彼女が発する尋常でない圧力に、リーブスを含めた民間人達は全員、息も忘れてその場から動くことが出来なくなっていた。

 そして彼女の口から、恫喝の言葉が紡がれようとした、その時───。

 

 「ミカサ、ストップ。他の人達まで怯えさせてどーすんだ」

 「あうっ」

 

 隣にいた少年が、彼女の頭に軽めのチョップを食らわす。

 途端に霧散する、不穏な雰囲気。

 あまりの空気の落差に拍子抜けしたように、全員がぽかんと口を開けていると、今度は少年の方が冷静な口調で話し始める。

 

 「……ティモ・リーブスさんですね。リーブス商会の……いつも兵団がお世話になってます」

 「あ……あぁ……?」

 「あなた方のお気持ちも理解出来ます。しかしながら、我々にも守るべきものの『優先順位』というものがあります……一に皆さんの命、二に皆さんの生活や財産です。まずはあなた方の命を、我々に()()()()()下さい」

 「だ、だが!!」

 「無論、この荷物をそのままにも致しません。こちらを、我々に()()()()頂けないでしょうか。責任を持って、保護しますので」

 

 そう言って、少年は後門から真横に見える区の隅の方を指差す。

 

 「今後、巨人達をこの門を中心に集め、奴らの身体を肉壁として『鎧』対策の簡易防護壁を築く筈です。また奪還作戦に踏み切るとしても、()()()()の使用を前提に動く以上、その対角線に位置する隅に巨人を誘導するでしょう。よって、その逆の隅は一番巨人の被害が少なくなるかと」

 「…………」

 「如何でしょうか?」

 「……絶対に、守れるんだろうな?」

 「あなた方が我々を『信用』して下さるなら」

 「はっ。信用なんて言葉は商人が冗談でしか使わねぇよ」

 

 乾いた笑いと共にリーブスは手を挙げ、「……荷台を引け」と部下に告げた。

 開け放たれた避難口に、人々が安堵の歓声を上げながら雪崩込んで行く。

 少年と少女も安心したようにそれを見守っていると。

 

 「……ありがとう!!お兄ちゃん、お姉ちゃん!!」

 

 そんな、元気な声が響く。

 彼らが振り向くと、頭を下げる母親の隣で、まだ幼い女の子が目を輝かせながら二人の事を見つめていた。

 二人はほんの一瞬───何故かは分からないが───悲しげに目を細め、その後すぐに優しい笑みを浮かべる。

 

 「……おう!お兄ちゃん達、頑張るからな。お嬢ちゃんもちゃーんと、避難しとくんだぞ?」

 「うん!!」

 「よし。良い子だ」

 

 少年はポンポンと女の子の頭を撫で、「早く行きな」と肩を柔らかく押して促す。

 母親に手を引かれながら去っていく女の子の目は、門をくぐり抜けるその瞬間まで、ずっと少年の姿を追っているようだった。

 

 「……お前、名前は?」

 

 逃げる事も忘れて、リーブスは思わず少年に尋ねてしまった。

 知りたくなったのだ。

 この少年の、否。

 この()の事を。

 

 「……ジャン・キルシュタインです」

 「歳は?」

 「よん……いえ、今年で十五です」

 「まだ若いな。どうだ、今からでも転職する気はないか。良い席を空けておくぞ」

 「ご冗談を。ですが……褒め言葉として有り難く頂戴します」

 「その様子だと、成績も良いんだろう。憲兵志望か?」

 「……あなたが調査兵団否定派でないことを祈ってますが」

 「あぁ、なるほどな……そりゃあ良い。お前みたいなのを中央(なか)で腐らすのは勿体ねぇからな」

 

 くつくつと笑って、リーブスはゆったりと避難口の列に並ぶ。

 

 「気に入った。もし、お前らがちゃんと俺の荷物を守り抜いて、順当に調査兵団に行ったんなら……リーブス商会は、調査兵団を優先的に支援してやるよ。だからまぁ、せいぜい生き延びろ」

 

 背中越しに軽く手を振って、彼は門を抜けた。

 その顔にはもう怒りも、焦りも無い。

 

 代わりに。

 久々に面白い奴に出会ったと、奥底に眠る商人の血が騒いでいた。

 

 

 

× × × × × × × ×

 

 

 

 「……やっぱり、ジャンは凄い」

 「うん?」

 「私じゃ、力に訴えることしか出来なかったから」

 「あー、まあ……あれだ、俺は強い人間じゃねぇからな。弱い人間の気持ちがよく分かるんだよ。それだけだ」

 「ジャンが、強くない……?」

 「そう、()()()のマルコに言われたんだ、昔。そういえば、話したことなかったっけか」

 「……うん」

 「また落ち着いたら詳しく話すさ。とりあえず今は、こいつを持ってかねぇとな」

 

 そう言って、ジャンはリーブスが残した荷台をコツンと小突く。

 あれだけ啖呵を切った以上、自分達の手できっちりと移動させて安全な所に保管しなければ。

 だが、戦線の方も無視は出来ない。先程のようにいつ、奇行種が突撃してくるかも分からないのだ。

 

 「一先ず、イアン班長に報告と相談か。俺達が一旦戦線を離れても良いか……」

 「その必要は無いぞ、キルシュタイン」

 「うぉっ!?」

 

 突然隣に現れた上官の姿に驚くジャンだったが、イアンは特に気に留めた様子もなく淡々と続ける。

 

 「一部始終は見ていた。私の方から、上にいる駐屯兵に頼んでおく。彼らに移動を任せて、お前達は戦線に復帰しろ」

 「……宜しいんですか?この件は、我々の独断だったんですが……」

 「避難の停滞を解消するためだった、とでも言えば良いだろう。それに、上の部隊の長は()()()()()()だ。話の分かる人だからな、きっと色々と察してくれるさ」

 「……!!」

 

 目を見開くミカサに、ジャンはこっそりと耳打ちする。

 

 「ハンネス、って……()()()のおっさん、だよな」

 「うん……そっか、ハンネスさんもここに……」

 「……任せても良さそうか?」

 「大丈夫。多分、私が絡んでるって言えばちゃんと引き受けてくれる」

 

 信頼に足る人物であると、ミカサは力強く頷いて示した。

 ジャンも妻を信じて「分かった」と小さく返し、イアンの方へと向き直る。

 

 「……では申し訳ありませんが、宜しくお願い致します。ミカサと自分はこのまま戦線に向かいますので」

 「あぁ、私もすぐに後を追う。それと……油断するなよ。お前達の実力は申し分ないが、相手が巨人である以上は何が起こるか分からん。避難の完了まで、あと十数分といった所か。最後まで気を引き締めてかかれ」

 「「はっ!」」

 

 二人はイアンに敬礼をし、立体機動にてその場を飛び立つ。

 ───移動中、ミカサはじっと夫の横顔を見ていた。

 

 彼は強い人だと、ずっと思っていた。

 どんな時でも周りを引っ張って、誰かが折れそうな時には喝を入れてくれるような、そんな人。

 アルミンとは違ったカリスマを持つ、私達の指揮官。

 それが自分の知る、ジャン・キルシュタインという男。

 

 けれど、彼自身は自分を「強くない」と言う。

 謙遜している訳でも、卑下している訳でもなく。

 ただそれが事実であるかのように、さらりと。

 

 ……強さとは、一体何なのだろうか。

 何を以て、「強い」と言えるのだろう。

 目に見えない、精神(こころ)の強弱を決めるものとは、果たして何なのか。

 

 (……私には、一生分からないのかもしれない……)

 

 だって。

 私は彼より、もっと「弱い」と思うから。

 

 

 

 

 

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