九尾の狐は平和に生きたい 作:むきむきマッチョ
魔物
それはあらゆる生物とは隔絶した存在。
多種多様な姿を持ち、どれほどの種類があるのか、どこから生まれてきたのか、何もわかっていない。
わかっていることは二つ
奴等は時と共に強大になっていく。
そして、人の味方ではないということだ。
♢♢♢♢♢♢
名も無き村にて
「おじいちゃん、どうして山に登ったらダメなの? あそこにはい〜っぱい食べ物があるのに」
「あの山にはな、昔から一匹の賢い魔物が住み着いとるんじゃ。おじいちゃんのおじいちゃんのそのまたおじいちゃんよりも前からおるらしい」
「えー! じゃあめっちゃ強いってこと?」
「そうじゃ。じゃから絶対に入ってはならんぞ。喰われてしまうかもしれんしのぅ」
「きゃーー!」
「ふん。くだらん。そんなやつが居るなら何故この村を襲わない」
その男は有名な冒険者だった。
打ち倒した魔物は数知れず、故にこの場の誰よりも魔物には詳しい自信があった。
「泊めてもらっている礼だ。調査してきてやる」
「お辞めください。わたし達はあの山の食べ物がなくとも生きていける」
それほど長生きした個体がいるならば、この村だけではなく、この世の人間全て生きてはいない。
ただの迷信に過ぎないという確信があった。
「礼だと言っている。気にするな。それにこのままあの山の調査をしなければ本当に大魔が生まれるかもしれない。ちがうか?」
「それは……」
「では、3日後の明朝に行くとしよう。その間、準備は怠らない。それでいいだろう?」
「……ありがとうございます」
深く頭を下げる長老に軽く手を振って、外に出る。
「ふぅ。久方ぶりの魔物退治といくか!」
とはいえ、山からは魔力を感じない。何も居ない、もしくはとびきり弱い個体が居るだけだろう。
「まぁ、準備はしておこう」
無駄になるといいが。
♢♢♢♢♢♢
山奥の神社にて
「ふぁー、ねむ」
枕元で小鳥さんがちゅんちゅんと囀る声で目が醒める。
「うるさいぞー」
ちゅんちゅんちゅんちゅん
「……どっか行けって」
ちゅんちゅんちゅんちゅんちゅんちゅんちゅんちゅん
「うるさい!」
ちゅんちゅんちゅんちゅんちゅんちゅんちゅんちゅんちゅんちゅんちゅんちゅんちゅんちゅんちゅんちゅん
「黙れぇ!」
布団から這い出てトリカスを捕まえようとすると外に逃げやがった。
「待て! 今日こそ焼き鳥にしてやる!」
外に飛び出て、悠長にも飛び立たずに境内に留まっているトリカスを視認する。
「舐めやがってぇ!」
腰を落とし、足に力を込め飛び掛かる。
「はあ!」
ぴょん スカッ
「おりゃ!」
ぴょんぴょん スカッ
………………
「………………気が変わった。見逃してやる。これで勝ったと思うなよ、ざこが!」
指を突きつけ、睨みつける。早く行けよおらぁ!
バサバサと優雅に飛び立つトリカスに敗北感を覚えながら明日こそこの身のどこかにきっと秘められてるかもしれない魔物パワーで仕返してやると決意する。
特訓しよ。流石にな。小鳥に勝てんのはちょっと……。
ぐぎゅるるる〜
「……」
とりあえずなんか食べよう。
とぼとぼと神社に戻ってその辺で採れた野菜? を食べる。
今日は特訓するからたくさん食べちゃおう。
モシャモシャと残しておいたやつも全て平らげ、腹ごしらえ完了だぜと満足してぼーっとすること数時間。
「あっ」
そういえば、特訓してないな。
……まあ? 本気出してないだけだし? 本気出したら勝てるし? 特訓なんてしなくてもいいし? ハンデみたいな?
「ふふふ」
脳内で小鳥をけちょんけちょんに負かして泣かせる想像をして悦に浸ること数時間。
「あっ」
そういえばご飯全部食べたちゃったんだった。
「取りいこ」
晩飯が無いのは悲しいからね。
かごを持っていつもの採取スポットへ向かう。
美味しいやつはだいたい他の動物に取られてるので、いつもの美味しくないくせに沢山生えてる草……じゃなくて野菜を摘む。
これは苦味があって美味しいんだ。食感もモシャモシャしてて癖になると言い聞かせて幾星霜。ちっとも美味しくないということが判明している。
美味しくないから沢山あるのかと残酷なこの世の真理を解明しながら摘みまくっているとちゃんと美味しい野菜のトマが落ちているのを見つけた。
誰かに盗られる前に駆け寄ってトマを取る。
今日はついてるなぁ。トマなんていつぶりだろう。ちょっとつまみ食いしよ。
かじるとトマの甘くてドロっとした汁が溢れる。
着物と口が真っ赤に汚れてしまったがそんなことよりトマが美味い。トマしか勝たん。やっぱりさっきまで摘んでたのは食用じゃない気がする。
服は寝て治るまでこのままだなぁと呑気に考えているとガサリと背後の茂みが揺れた。
「っ!」
振り返って相手を確認する、前にトマを食べ切る。
相手がクマだろうとこのトマは絶対に譲らんぞ!
急いでトマを食べ切って相手を確認する。まぁどうせトリカスかなんかだろう。
チラリ
引き絞られた弓を向けた人間を確認!
…………今日はついてないなぁ。
♢♢♢♢♢♢
男は過去の自分を呪った。
朝早くから潜って、日も落ちようかという頃。何もいないと思っていたら足跡を見つけた。
自分以外の人のものと思われる足跡。
村の子だろうと思った。
けれど、違った。
「っ!」
いた。
ナニカを夢中に貪る人の身体に九つの狐の尾を持った魔物。
魔力は感じられない。弱小個体だ。
こちらに気づく前に仕留める。
矢をつがえ、弓を引き絞り、狙いを無防備な背中の心臓に定め──
──違和感
何かがおかしい。
なんだ?
本能はこの個体は弱いと、撃てと言っている。
なのに経験は激しく警鐘を鳴らしている。
はっきりとした足跡、あまりにも無防備な背中、全く感じられない魔力、九つの狐の尾、村の言い伝え……
罠か!!
生物は必ず魔力の吸収、保持、放出を繰り返している。
大気に漂う魔力を吸い取る「吸収」
魔力を自分の内に留める「保持」
魔力を自分の外に漏らす「放出」
そして放出された魔力は固有の「色」を持つ。それは保持している間に自身の扱いやすいように魔力を変質させるからだ。同じ人間でも、魔力の色は違う。
こいつは違う。色がない。
大気に漂う魔力を保持せずそのまま放出している。
保持していないから魔力を感じられない。
何のために。
自身を弱く見せる為、ではない。
魔力を保持しなければ、魔物とて弱くなる。
魔物が時と共に強くなるとされるのは、奴らの保持能力が高く、魔力を大量に溜め込めるからなのだから。
では、本当に魔力を保持できずに放出している?
それは希望的観測だ。たしかに保持能力の低い個体はどの種にも一定数いる。だが保持できないほど保持能力の低い個体は確認されていない。
さりとて、生まれたばかりの個体という訳でもない。
長生きした魔物の個体はなんらかの特徴がある。孤族の場合は……尾の数だ。
わからない。
奴の真意が。
しかしこの手が震えているのは
武者震いではない。
そう、はっきりとわかる。
撤退だ。俺一人では荷が重い。
報告し、対策を立て、徒党を組まなければ勝ちの目はない。
ゆっくりと、奴から目を離さずに後退する。
これが罠だとすれば、こちらに気づいている可能性はあるが、だからといって全力で駆け出したりはしない。
俺ではなく野生の獣を罠にかけている可能性だってあるのだから。
茂みを抜け、雑草の少ないところまで戻り、気づく。
何故雑草が少ない?
この雑草は野生の獣すら食べようとしない。故に管理しなければもっと生え散らかしているはず。
何者かが管理している。
逃げやすいように。
その意味とは──
「まずい!」
誘導されていた!
急いで茂みへ戻る。
ガサリと音が鳴るが意味はない。
コイツは俺に気づいていたのだから。
立ち上がりこちらを見る魔物。
真っ赤な血で染まった口と衣服は
男の未来を暗示していた。
♢♢♢♢♢♢
「…………」
「…………」
気まずーい。
どうすればいいと思う?
とりあえず弓向けるのやめてほしいんだけど。死んじゃうし。
「……なあ」
「!? 言葉がわかるのか!」
……バカにしすぎだろ。何年生きてると思ってんだ。
「弓を向けるのはやめないか?」
「……何故だ」
「死んじゃうから」
「ふっ。おもしろい冗談だ」
冗談じゃないけど。
冗談であってほしいと誰よりも思ってるけど。
「話しをしよう。話せばわかる」
「そんな真っ赤な口では何を喋ろうと分かり合えると思えないな」
「……もしかしてお前のだったのか?」
「さあな、何を食っていたのかは知らんがお前がろくな奴ではないというのは分かる」
絶対そうじゃん。拗ねてんじゃん。
そんなに言わなくてもよくない? もしかして弓向けてんのもそれが理由なのだろうか。
うんうん唸りながら過激派のトマ愛好家かなぁ、とくだらないことを考える。現実逃避じゃないよ。
「俺を弄んで楽しいか?」
弄んでないよ。そして怒りすぎだよ。落ちてたトマ食べただけじゃん。てかそんな大事なら落とすな。勝手に落として盗られたら即殺はタチが悪すぎる。
「ここで朽ち果てようと、お前には屈しない。俺を甘く見たことを後悔させてやる」
……もしかして冗談だろうか? トマ盗られてそんな怒ることある?
なんかそんな気がする。きっとツッコミ待ちだ。早くツッコメって目で訴えてるもん。
ふふ、おもしろいな。こんな明らかにオマエ、ユルサナイみたいなやつが実はボケてただけとか。
「なんとか言ったらどうだ!」
わかったわかった。ツッコむから、
「ふふ」
「何がおかしい!」
やべ、ツッコむ前に笑ってしまった。
「ごめんごめん。おもしろすぎて」
「っ貴様ァ!」
「ぷくく、や、やばい。は、腹痛い。ひひひ、は、腹ちぎれそう」
「俺を舐めるなァ!」
「まってまって、ちゃんとツッコむから。そうだなぁ、『ふっ、おもしろい冗談だ』とかどう? いや、やっぱり『そんなわけあるか!』みたいな感じでしっかりやったほうがいいかな?」
「ああああああぁぁぁぁああああ!!!」
ビュン!
ん? なんの音だ?
「ちっ、力みすぎた。次は当てる」
ひょえーーー!!
ほんとに撃つやつがいるか! バカ!
「やめた方がいいよ。マジに。遊びで弓向けるのは夢だったとしても良くないって」
「くだらんことをっ! ……あ? 夢?」
「ん?」
「ま、まさか幻か? 色の無い魔力を放出しているのではなく、それは大気の魔力。コイツはそもそもここに存在していない。大気の魔力を放出した魔力だと勘違いしていたのか!」
「……ん?」
「こんなにも精巧な幻を見せることのできる孤族が存在しているとは……にわかにも信じがたいがそう考えると全ての辻褄が合う」
「…………んん?」
どういうボケ? 一人で突っ走っていくなよ。悲しいから。
「なるほどな、どこに誘導しようとしているのかと思えば本体のいるところか」
ここにいるよー。本体だよー。
「そして幻で狩りをしているということは本体は何かしら事情で動けない、違うか?」
「えっーと……そ、そうだよ?」
とりあえず合わせておこう。この人おもしろいし。
「やはりな。それでは本体のいるであろう寝ぐらはあっちだろう?」
「!? よ、よくわかったね」
なんで神社の方向知ってんの? こわ。
「ふふふふふ、ははははははははは!!」
こわ。
「残念だったなァ、九尾の狐! 幻では俺を止めることは出来まい!」
え、神社来るの?
流石にそこまでは仲良くないし断わりたい。
どう言って断ろう? 悪い人ではなさそうだし、また今度遊んで仲良くなったらにしたい。
頭をフル回転させて言い訳を考える。
ご飯美味しくないよって言おうかな。事実だし。
今更ながら我が家の食生活の残酷な事実に悲しみを覚えて一人落ち込んでしまう。
やめよう、この話は。
「いずれ、仲間を連れてここに戻る! 首を洗って待っていろ!」
しょんぼりしたわたしとは対象的に元気にははははは! と笑いながら神社とは違う方向へ走っていく芸人さん。
……どうやら今じゃないけど神社来るのは確定らしい。
まじかー、知らん人も連れてくんのかー。
仲間らしいけど、芸人仲間かな?
いい人たちだといいなぁ。
性別はありません。
見た目も中性的です。