RIDDLE JOKER 投影使いの学院生活 作:izuki
結局、部屋が片付いたのは夕食の時間まであと少しの頃だった。
ちょうど呼びに来てくれた周防と暁の二人と合流し、賑やかな夕食を済ませてから浴場へ向かう。
広々とした湯船で手足を伸ばし、一日の疲れを洗い流した。
「思ったより広かったな……」
火照った体を冷ましながら、自室に戻って冷蔵庫から冷えた麦茶を取り出した。
喉を鳴らして流し込み、壁の時計に目をやる。
消灯まではまだ一時間半ほどの余裕がある。
本来なら室長へ無事入学した旨を報告すべきだが、今回は暁にその役を任せている。
手持ち無沙汰なこの時間は、俺にとって「日課」に充てるのに最適だった。
床に腰を下ろし、ゆっくりと瞼を閉じる。
雑音を排し、意識を内側――イメージの深淵へと沈めていく。
「――――
思い描くのは、陰陽を成す白と黒の夫婦剣。
脳裏に走る回路が、その設計図を高速で走査していく。
「――――基本骨子、想定」
剣の芯となる骨組みを定義。
「――――構成材質、想定」
漆黒の鋼と、白銀の輝き。
その硬度、密度、重みに至るまでを緻密に複写し、虚空から物質を編み上げる。
「――――
刹那、両手のひらにずっしりとした鉄の重みが加わった。
目を開けると、そこには滑らかな曲線を描く二振りの剣――「干将・莫邪」が握られていた。
「ふう……」
よし、成功だ。
この剣みたいにアニメや漫画とかのモノは実物よりも強く鮮明に構造をイメージする必要がある。
少しでもイメージが揺らげば、その瞬間に霧散してしまう。
仮に形を保てたとしても、芯が伴わなければ容易に砕ける。
「……あの頃は、これすら作れなかったんだよな」
親父に引き取られる前、俺が作っていたのは中身のない
それに比べれば、今の自分は確実に積み上げてきたのだという実感がある。
干将・莫邪を床に置き、俺は次の投影へと意識を切り替えた。
その後、いくつかの武具を形にしては消し、心地よい疲労感が眠気を誘い始めた頃、ようやく俺は布団に潜り込んだ。
枕元で鳴り響く目覚ましの音に、重い瞼を持ち上げる。
「…………無事に起きれたか」
時刻は午前七時。
朝食は確か、寮の食堂で取る決まりだったはずだ。
制服に着替え、身だしなみを整えてからロビーへ降りると、そこには既に身支度を終えた暁が待っていた。
心なしか、その呼吸はわずかに乱れている。
「おはよう兄さん」
「おはよう暁……走ってたのか?」
「ああ。今は夜間に動けないからな。朝の空気を確認がてら、軽くね」
普段、暁は夜に走ってるけど今は夜に出ることができない環境なのでこの時間から走ってきたようだ。
俺はランニングはしていないんだが部屋で筋トレくらいはする。
「そうだ兄さん後で話がある」
「……室長からか?」
「うん」
「わかった」
朝食を済ませた後、俺たちは人目を避けつつ情報を共有した。
犯人の能力は「認識阻害」でほぼ間違いないだろうとのこと。
催眠のような精神操作ならもっと効率的な手があるはずだし、何より被害者二人は「偽札を正しいもの」だと思い込まされていた。
紙切れを紙幣と誤認させる。確かにほぼ確定だろう。
七海のハッキングにより手に入れたこの学園内の建物の情報からAIMSの場所は調べがついたらしく式部さんの研究室が一番怪しいらしい。
そのため、研究室に入るためメモリー繊維を暁が受け取るとのこと。
俺が投影してもいいんだが万が一のため本物を使うとのこと。
さらに暁は、ランニング中に校内の監視カメラの死角をすべて把握しておいてくれたらしい。
「……了解。そっちは任せる。今日は大人しくしておくよ」
「わかった」
その後、俺たちは七海を連れて登校した。
学年が違うため下駄箱で二人と別れ、俺は担任の案内で教室へと向かう。
「みなさん。今日からこのクラスに新しい仲間が加わります――さあ、自己紹介を」
促されるまま一歩前へ。
視線を走らせると、一番後ろの席に式部さんの姿を見つけた。
知った顔が同じ空間にいるだけで、張り詰めていた緊張がわずかに緩む。
「在原四季です。今日からよろしくお願いします。」
短い挨拶に、クラス中から温かい拍手が送られた。
「ありがとう。四季君はアストラル使いです。この研究都市での生活にも慣れていないでしょう。困っていることがあれば、力になってあげて下さい。」
先生に席を教えてもらい席に着く。
「では、授業を始めましょうか。転入生もいるので、基礎からおさらいから」
先生に指定された席に座る。
授業は、転入生への配慮という名目でおさらいから始まったが、アストラルに関する授業というのはこの学園のみで行われている専門的なカリキュラムであり、前の中学では触れることすらなかった概念が次々と飛び出してきた。
アストラルのことを体系的に学ぶのは新鮮な驚きがあった。
授業が終わり昼休み
この学園は寮ごとに食堂の特色が違うらしく、クラスメイトの勧めに従って俺は「第三寮」へ足を運ぶことにした。
「あ、兄さん」
校舎から出るとそこには暁と、すっかり彼と意気投合した様子の周防がいた。
どうやら暁のクラスは周防と二条院さんと同じだったらしく一緒に第三寮へ昼飯を食べに行くところだったようだ。
「俺も第三寮に行こうと思ってたんだ一緒にいいかな?」
「もちろんですよ」
第三寮までの道すがら、各寮の特色を周防が身振り手振りで説明してくれる。
第一寮は和食、第二寮は不明(忘れたらしい)、第四寮はスイーツ。
そして第三寮は――暴力的なまでのボリュームを誇る「特盛り」だった。
「いただきます!」
目の前に座る周防が注文したのは、とんかつ定食の特盛。
普通盛りの倍はあるであろうかつと白飯の山を、周防は臆することなく口へ運び始めた。
かくいう俺達の頼んだ唐揚げ定食と生姜焼き定食も並盛にしては多い。
確かにこれは女子がここに食べに来ない理由もわかる。
「よくそんなに食えるな」
「成長期の男の子だったらこのくらい楽勝だよ」
バクバクと山を削っていく周防を見ながら、話題は生徒会長の三司さんの話に及んだ。
彼女は二年前起きた倒壊事故の現場でアストラル能力を使い、負傷者を迅速に救助しか結果、死傷者はゼロ。
おまけに緊急を要する人命救助ということもあり、能力の使用も世間は好意的に受け止めた。
その時のことがきっかけで有名になり、今は学園の広報活動で多忙を極めているらしい。
「たまーに、熱狂的なファンが敷地内に入ろうとすることもあるらしいよ。でもまぁ、守衛さんがいるし、セキュリティもあるからね。簡単には入って来れないよ。あと、彼女だけは門限が特別なんだ。広報に関する仕事でどうしても、ってこともあるから」
「授業も普通に受けて、昼休みには取材の相談で、昼食もゆっくり取れないとか……」
「まるで忙しいビジネスマンだな」
周防は特盛をものの数分で完食し、あろうことかデザート代わりに「カレーパン」を買いに走っていった。
あの体格のどこにそんな収納スペースがあるんだか。
俺達は周防がカレーパンを買いに行ったのを見届けてから別々に校舎のセキュリティを調べた後、教室に戻った。
午後の授業を終え、寮へと戻る道すがら、ぐったりとした様子の七海と合流した。
「四季くーん」
「七海。初日はどうだった?」
「疲れたよぉ。予想通りみんなの前で自己紹介させられて……しかもその時、噛んじゃったよ」
「けどその様子からして話しかけてくれる子はいたんだろ」
「うん……まあ確かに、話しかけてもらえたよ。凄いよねぇ……初対面の人間に明るく話しかけるなんて、まさにコミュ力お化け」
「でも友達になれたんだろ?なら良かったじゃないか。その子との関係を大切にな」
「うん。もちろんわかってるよ」
帰りながら今日のことを話す。
そんな兄妹の会話が止まったのは、寮の近くで彫像のように固まっている暁を見つけた時だった。
というか式部さんのアストラルを記録するためのメモリー繊維を受け取りに行ってたんじゃなかったか?
「暁君?こんなところで何してるの?」
「七海……兄さん……」
「こんなところで何してるんだ?」
「……どうしたの?なにか悩み事なら話ぐらいは聞くよ?」
「それが──……七海……そうか七海だ」
「「……?」」
「七海!」
「はっ、はいっ?」
「お前の力を貸して欲しい」
突然、暁が七海の肩を掴んで詰め寄った。
その必死すぎる形相に、俺の背中を嫌な予感が駆け抜ける。
「さ、暁君が素直に私に頼るなんて珍しいね」
「七海しか出気ない事なんだ」
「私にしか……」
「俺の失敗の尻拭いを頼んで悪いが……お前にしか出来ない事なんだ。頼む」
「し……仕方ないなぁ。暁君がそこまで言うなら、力を貸してあげるのもやぶさかではないよ」
頼られた嬉しさで、内容も聞かずに胸を張る七海。
しかし、暁の口から漏れた「ミスの内容」と「依頼」を聞いた瞬間――
「えぇぇぇーーーーー!?」
夕暮れの学園に、七海の絶叫が木霊した。
ちなみになんですけど、ヒロイン誰が好きです?
-
三司あやせ
-
在原七海
-
式部茉優
-
二条院羽月
-
壬生千咲