女好きべレス先生の覇道   作:カバー

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女好きベレス先生の覇道 懺悔する者

 

 

 

ベレス視点

 

 

 

翌朝の早朝。

夢の中でソティスと愛し合って満足した私は寝床から起きあがる。

空が白んできた頃に目が覚めてしまった。

 

講義の準備を軽く済ませ、暇なのでソティスと話しながら大修道院をぶらぶらと歩きながら大聖堂に向かっていた。

 

 

 

ソティスも寮の部屋で籠るのに暇を持て余したようで、

 

 

 

「人間どもがわしを崇める場所に相応しいか、確認しにいくのじゃ。よいな!」

 

 

と言うので、うろちょろしても咎める人の居なそうな早朝に向かうことにした。

思えば、ここに来てから聖堂には行ったことはなかった。

まあ、色々あったからね。

 

 

 

「あ、先生。朝早くにお散歩ですか?」

 

 

その華のように可憐な声に振り向くと、華やかな笑顔でドロテアがこちらを見つめていた。

 

 

「そうだよ。こんな朝早くから君に会えて嬉しいな、ドロテア。」

 

 

そう言って私はドロテアに微笑み返す。

 

 

ドロテアとは交際を始めてから講義以外であまり話す時間を取れていなかった。

まだ付き合ってから4日ほどで、私に暇な時間自体がまずあまり無かったからだ。

 

 

「もし良かったら、一緒に歩きませんか?私も暇なんです。早くに起きすぎてしまって。」

 

「もちろん、喜んで。」

 

 

私は嬉しくて思わず笑いかけながらドロテアの手を取る。

ドロテアも嬉しそうに手を握り返してくる。

 

早朝で人の居ない時間だからできることだ。

 

 

「どこまで行く予定だったんですか?」

 

「聖堂まで。私ここに来てから行ったこと無かったから。」

 

「へえ。女神様にお祈りに?」

 

「わしらが女神なんじゃから、むしろ崇められる側なんじゃがの。」

 

 

そうソティスが面倒そうに呟く。

 

「おぬしやセイロスならともかく他の人間どもに崇められても大して嬉しくもないが。」

 

 

ソティスはどうも私とジェラルト、それにナバテア族のレアのような人間以外をどこか鬱陶しく思っているようだ。

 

…まあ、ネメシスのしでかした事を思えば当然だろう。むしろ感謝している。そんな状況で私を愛してくれていることに。

 

 

「ドロテアも女神様に祈る?」

 

そう私が聞くと、ドロテアはうーんと唸ってから答えた。

 

 

「こんなこと言っていいのか分かりませんけど。私女神様にあんまり祈ることもないんですよねえ。…先生のことは信仰してもいいですけど。」

 

 

「ほう。この娘、なかなか見る目があるではないか。本物の女神に直接祈るのならそれが最も賢いからのう。」

 

 

ドロテアの言葉に嬉しくなると同時に、少し困惑もする。私彼女に信仰されるようなことしただろうか。…愛する人には凄まじく一途な人なのだろうか、ドロテアは。

 

 

「ありがとう、ドロテア。そんなに私を想ってくれて嬉しい。私も好きだよ。」

 

 

 

そう言って私が握っているドロテアの手に口づけをする。

ほんとのりと薔薇のようにドロテアは赤くなった。

 

 

「おお…」

 

 

聖堂の入り口も立派なものだ。まさに城門といったところか。仕事で帝都の宮城をちらりと見たことはあるが、それにも遜色ない気がする。

 

 

 

聖堂に入ると、正面の硝子細工から朝日が差し込み、辺りを神々しく照らしている。早朝だから人はいない…と思ったが、一人の少女が祭壇の前で祈っている。あれは…水色の長髪を三つ編みのような形で纏めており、冠のようにしている髪型の女の子、マリアンヌだ。

 

 

 

金鹿の学級の女生徒で、同盟領の弁舌家で有名なエドマンド辺境伯の娘…らしい。

 

そう教えてくれたクロードも声を聞いたこともないほど無口で、笑った顔など見たことがないらしい。マヌエラ先生も心配そうに話していた。

 

 

あんなに美人なのに笑わないなんてそんなの勿体無いし、なにより悲しすぎる。

 

 

女の子には笑顔が一番似合うのだ。

だから、私が彼女の心を解きほぐしたいと思った。

 

 

「あら、先客がいるみたいですねえ。こんな朝早くに。熱心ですね。」

 

 

「彼女…金鹿の学級のマリアンヌだよ。話したことある?」

 

 

「いいえ?見たことあったかも程度ですねえ。何ですか?彼女のことも狙ってるんですか?」

 

 

「まあね。笑った顔を誰も見たことないんだって。幸せでいっぱいの笑顔を見たくなってね。」

 

 

 

そう答えると、ドロテアはふーんと声を出して、不満そうに頬を膨らませた後、私の脇に手を差し込み、私の胸にまで手を滑り込ませた。

 

「っ!?ドロテア!?」

 

 

「貴女がハーレムを目指してるのは分かってはいましたけど、ちょっと苛ついたので、少し悪戯しますね?」

 

 

そう言うとドロテアは私の胸を柔らかな指先でつー…とさすり、やがて形が変わる程度に軽く揉み始めた。

 

 

「あっ!んっ…や、やめて…ドロテア…」

 

「ふふ。先生かーわいい…もっと鳴いちゃいましょうねえ?」

 

 

必死に抑えてはいるが、私の嬌声は静かな聖堂内で響く。それでもマリアンヌは祈っていたが、段々と肩を震わせ始めて、やがてこちらをきっと睨んで振り返った。そして大声で叫んだ。

 

 

「大聖堂でそういう行為はやめてください!」

 

 

…うん。君の言う通りだよ。

 

 

マリアンヌは私たちの視線を受け止めると、ハッとした顔になった後に顔を赤くし、ツカツカと大聖堂を出ていこうとした。

 

私は慌てて彼女を呼び止める。

 

 

「ちょ、ちょっと待ってくれ。マリアンヌ…だよね?」

 

 

するとマリアンヌは辛うじて立ち止まり、こちらを胡乱げな目で見つめて答えた。

 

 

「なんでしょう…?」

 

 

「いや、一言謝りたくて。君の祈りを邪魔してしまった。私たちはもうあんなことしないから、まだ祈ってて貰って構わないよ。ね?ドロテア。」

 

 

「そうですねえ…まあ、私もちょっと悪ふざけし過ぎましたし。迷惑かけちゃったのなら謝るわ。ごめんなさい。」

 

 

その言葉を受けて、マリアンヌは横に首を振りながら答えた。

 

 

「別に私なんかに謝ることなど…ただ、女神様の御前でああいう行為はやめて欲しかっただけで。」

 

「女神様はそれなりに楽しんで見ておったがのう。」

 

 

 

そう言いながら女神様であるソティスは笑って私の周りを浮きながら、マリアンヌを面白そうに見ている。

 

女神様は喜んでるし、私と毎晩愛しあってるなんて言えるわけないし。

 

 

 

…それにしても、やっぱり自罰的な子だな。

生き辛そうで見てて辛い。少しでも肩の荷を下ろしてあげたい。

そう考えながら話題を探す。

 

 

 

「凄く信心深いんだね、マリアンヌは。立派だね。私も見習わないと。」

 

「そんな、私なんて…ただ、そうですね。他の人は見習った方が良いと思います。貴女の態度を見るに。」

 

 

 

しれっと自虐しながら私を諌めてくる。…真面目な子だ。

 

 

 

「でも、一つ聞きたいことがあるんだ。こんなんだけど、教師なんだ。私。」

 

「見たことがあると思ったら…そうですか。確か黒鷲の学級の…」

 

「そう、黒鷲の学級の担任のベレスだよ。よろしく。」

 

 

 

そう言って私は握手を求めて手を差し伸べるが、マリアンヌはおずおずと頭を下げて握手には応じなかった。

 

 

「それで、聞きたいこととは…?」

 

「マリアンヌは、楽しいと思うことはないの?」

 

「……え?」

 

マリアンヌは鳩が風魔法を喰らったような顔で困惑した様子でこちらを見つめる。

 

「君は、なんだかとても辛そうに見えて。楽しいって思うことがないように見えた。そんな風に君に過ごして欲しくないんだ。」

 

「もし良かったら、悩みがあるなら私に相談してくれないかな?初対面であんな失態やらかして信頼もないと思うけれど。」

 

「君の力になりたいんだ。」

 

すると、マリアンヌは肩を震わせてしばらく口をもごもごと動かし、大声で叫んだ。

 

 

 

「分かったようなことを言わないで!私は…私の悩みは、私の罪は、私にしか分かりません!!」

 

 

 

そう叫ぶと、呆気に取られる私とドロテアの間をマリアンヌは走って通り抜け、一目散に逃げていった。

 

「なんだか、気の毒な娘ですねえ。彼女。よっぽど辛い悩みでもあるんでしょうか。美人なんだから、笑って過ごせば良いのに。」

 

そうドロテアがぽつりと呟く。それに私は頷いて答えた。

 

「そうだね。私もそう思うよ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

昼の食事を終えて、黒鷲の学級の講義のために黒教室に入る。シルヴァンには部屋の前で待機してもらって、紹介を講義の前に手早く済ませる予定だ。すると、皆が何やら落ち着かない様子であることに気づく。

 

 

 

「まあ、とうとう明日は盗賊討伐じゃからのう。小童どもからしてみれば初の実戦じゃ。落ち着かなくても不思議はあるまい。」

 

 

 

そうだったと一人呟く。私から見れば盗賊討伐など、日常会話とさほど大差ない出来事だが、彼らからしてみれば初の命の奪い合いだ。

 

 

一言声をかけるべきか。

そう思いながら教壇に立つと、リンハルトが近づいてきて話しかけてきた。

 

 

 

「先生。講義の前に相談があるんですけど。」

 

「何だい?」

 

「明日の課題、僕は欠席でお願いできませんか。」

 

 

 

その一言に、周りの注目がこちらに向く。ベルナデッタも立ち上がり、私に大声で訴えてくる。

 

 

 

「そ、それならベルもお留守番が良いです!引きこもらせてくださいいい!!!」

 

 

 

困ったな…課題は学級全体で取り組むものだ。教師として、ここは諌めておくべきだろう。

そう考え、私が口を開けようとすると、フェルディナントが声を張り上げて言った。

 

 

 

「君たち…学級の課題をなんだと思っているのかね!これは我々貴族にとって貴重な成長の機会…それに、盗賊を放っておくなど貴族としてあるまじき行いだ!無辜の民に被害が出てからでは遅いのだ!」

 

 

それにヒューベルトも頷いて、珍しくフェルディナントに同意して言う。

 

 

「…これに関してはフェルディナント殿の仰る通りですな。何より、この程度の障害、これからの人生ではいくらでもあります。それら全部から逃げ続け、何も成し遂げない人生を歩むつもりですかな?貴殿らは。」

 

 

 

それに、リンハルトが嫌そうな顔で言う。

 

「別に何も成し遂げたくないんだよ、僕は。好きなことだけやっていきたいし。」

 

「呆れた男ですな…」

 

場の空気がだんだんと険悪になっていく。

これ以上話がこじれる前に私が介入すべきだろう。

 

私は両手をうち合わせて鳴らし、全員の注意を集める。静まり返った教室で、私は淡々と話し始めた。

 

「まず質問に答えておくよ。原則として課題は全員参加。リンハルトもベルナデッタも参加するように。」

 

「えー…」

 

「そんなあ…」

 

 

「それと一言言っておくよ。これは実戦だ。でも考えられる限り一番優しい実戦だ。」

 

「騎士団が場を整えてるし、常に有利な戦いだ。何なら、騎士団がいつでも助けに来れる。でも、本当の実戦はそうじゃない。」

 

 

 

その一言に、場の空気が引き締まる。

私は言葉を続ける。

 

「本当の実戦は、常に死と隣り合わせだよ。不意打ちで始まることもあるし、こっちが有利な条件の方が珍しいぐらいだ。」

 

「初の実戦で、死んでいく人を私は腐るほど見てきた。」

 

「だから、ここで覚えてほしいんだ。死なないようにする手段を。そして、それ以上を望む人は…戦いでより強い自分になることを。」

 

「まあ、説教くさい話になったけど。私から言いたいことはそれだけだよ。」

 

 

 

そう話し終えると、一瞬の沈黙が場を包み、生徒達が一部を除いて拍手し始めた。

私が戸惑っていると、カスパルが感慨深そうに呟く。

 

「確かになあ。俺の親父も言ってたぜ。戦場じゃ自分中心に動いてくれるものなんて無いに等しいってな。生き残ることができて初めて一人前って。なんとなく、それが実感として分かったぜ。」

 

「先生、言う通り、思います。実戦の経験、百の伝聞に勝る、思います。」

 

リンハルトもベルナデッタも不満はあるようだが納得したようだ。

 

 

 

 

…遅くなったが、今のうちに彼の挨拶も済ませてしまうか。

 

 

「こんな時に何だけど、実は一人今日から黒鷲の学級に転入してくる人がいるんだ。みんなに紹介しようと思う。」

 

 

場の雰囲気がまた一変する。

大多数の生徒がざわつきながらも期待した目をこちらに向けている。

…まあ、この時期に転入してくる生徒なんて珍しいから。好奇の目も当然か。

 

 

「入ってくれ。」

 

 

その言葉とともに、シルヴァンが入ってくる。その顔を見てエーデルガルトは面倒そうにため息をつき、一部の女子生徒が歓声をあげた。

 

「どうも、初めまして。今日から黒鷲の学級に入る、ゴーティエ家のシルヴァンだ。ま、よろしく頼むぜ。特に可愛い女の子は、よろしくな。」

 

 

その一言で、ヒューベルトの眼光は鋭くなり、エーデルガルトは心底面倒だと言わんばかりにまたため息をついた。

 

 

講義が終わると、既に日が沈みかけていた。

生徒を解散して部屋を出かけたところで、エーデルガルトが話しかけてくる。

 

 

「師、ちょっといいかしら。」

 

その顔はどこか険しい。…まあ、言いたいことはわかる。

 

 

「構わないよ。何だい?エーデルガルト。」

 

「まずはリンハルトとベルナデッタをうまく諌めて、場を収めてくれてありがとう。あの弁舌は戦場を渡り歩いた傭兵ならではね。助かったわ。」

 

 

「私は教師として言うべきことを言っただけだよ。私の経験が少しでも君たちに良い影響を与えれたなら、嬉しい。」

 

 

 

その言葉にエーデルガルトは微笑み、そうねと呟いた。

だが、険しい顔にまた変わり私に問いかけてきた。

 

 

 

「次に、…シルヴァンのことよ。」

 

それだけで何が言いたいか分かるだろうと言わんばかりにエーデルガルトは私に呆れた目線を送る。

 

 

 

「彼、この講義中に何回女の子と話して私と師に注意されたか分かる?7回よ。半日で7回。」

 

「…確かにね…。」

 

「どうして彼を勧誘したのかしら。黒鷲の学級の利になることが少しでもあるのかしら。私にはそうは思えないのだけど。」

 

 

すると、ヒューベルトもエーデルガルトの背後から私たちに近づき、同意を示した。

 

 

 

「全くですな。もしエーデルガルト様にまであのような真似をすれば、私が殺しますが。」

 

冗談に聞こえない…というか多分冗談じゃない。

 

 

 

 

「彼はああ見えて優秀なんだよ。頭の回転が速い。まあ、女癖の悪さには私が対処するつもりだけど。」

 

「今回の講義でも、彼は私の質問に全部正答で答えていただろう?ああ見えて、面倒見もいいと、ディミトリから聞いているよ。実際、今回の講義でも分からない部分をベルナデッタに教えようとしてただろう?」

 

 

 

まあ、ベルナデッタは急に話しかけてきたシルヴァンの顔面に何をとち狂ったか拳を浴びせて、焦って奇声を発していたのだが…

 

 

 

その説明に二人はとりあえずは納得したようだ。

 

「……なら良いのだけど。目に余ったら私からも注意しておくわ。彼がもたらす害よりも益の方が多いという、貴女の説明で今は納得しましょう。」

 

そうして話を終えた私は寮に戻り、夜まで明日のの盗賊討伐の手順の確認と準備をしておく。

気がつくとすぐに日も沈み、扉が叩かれた。

 

 

 

「先生。居られますか。アルファルドです。」

 

 

 

扉を開けると、昨日の枢機卿会談で会った、温和そうな黒色の長髪の男性…アルファルド修道士と、

 

 

「よう。まさかお前とアルファルドの坊主が同じように枢機卿になるとはなあ…世の中分からねえもんだ。」

 

 

ジェラルトが立っていた。

私は椅子から立ち上がり、一応剣を手に取って外に出て扉を閉める。これから向かう先を考えれば最低限の用心だ。

 

 

「では、向かいましょうか。案内しますよ、アビスへ。」

 

 

私たちは地下へと潜る通路を行く。

灰狼の巣穴へと。

 

 

 

 

 

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