女好きべレス先生の覇道   作:カバー

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女好きベレス先生の覇道 女神の逆鱗 前編

 

 

 

 

ベレス視点

 

 

 

 

「君は何をしているんだ…」

 

「すまない。つい流れで…」

 

 

 

アビスを訪れた翌日の、盗賊討伐の課題当日の早朝。私は大司教の謁見の間でレアとジェラルトが見つめる中、セテスからのお叱りを受けていた。

 

 

 

「君がアビスに行くのはまだいい。だがな。無断で灰狼の学級の教師になるなど。せめて事前に私か大司教に相談しようという気はなかったのかね。」

 

 

そう小言を続けると、セテスは硬くなった眉を揉んだ。

 

 

 

「前々から思っていたのだ。君は確かに我らにとっては同胞同然だし、負い目もあるから黙ってはいたが。君には組織人としての自覚をもう少し持ってもらいたい。」

 

 

 

…物凄い的確な説教だ。流石に聖キッホルと歴史に名が残る聖人なだけある。全てにおいて正論だ。

 

 

 

ソティスがあくびをして私の周りに暇そうに浮かんでいる。

 

 

 

「まあわしからすれば些末じゃがの。こやつは小さき者の組織を維持するという難儀をしておるのじゃ。おぬしもそこを目指すなら聞いておいたほうが良かろう。」

 

「後でわしが慰めてやるわ。」

 

 

そう悪戯っぽく笑うと、くるりと一回転して私の顔を覗き込み、ソティスはまた欠伸をした。

女神様のその可愛らしい優しさが救いだ。

 

 

そこに見かねたレアが助け舟を出す。

 

 

 

「ベレスはまだ枢機卿となったばかりです。まだ組織というものに慣れてない以上、多少は多めに見てあげてください。それに問題は提案した側にもあります。」

 

 

そのレアの指摘に、セテスも渋い顔で頷いて呟いた。

 

 

 

「全く…アルファルドは何を考えているのか。大司教に呼び出され、問題として追及されても気にした素振りすらなかった。…前々からおかしいとは感じていたのだが。露骨になってきたな。」

 

 

 

そうセテスは首を振ってぼやく。

昨日の夜に私がアビスでの出来事を報告してから、もうアルファルドに確認までしたらしい。

流石にセイロス聖教外の大司教とその補佐だ。動きが速い。

 

 

 

「アルファルドの坊主、平静を装っていましたが、どうにも何か少し様子が変でしたね。まあ、証拠もない俺の勘ってやつですが。」

 

 

 

そうジェラルトが頭を掻いて呟く。ジェラルトのこういった勘はあまり外れたことがない。レアもそれを知っているらしく、深刻そうに頷いた。

 

 

 

「私も、以前から彼の言動にはどうも不穏なものを感じています。やはり、彼は…」

 

 

 

そう呟くと、レアは悲しそうに顔を歪めた。何か心当たりでもあるのだろうか。

レアの悲しそうな顔を見ると心が痛む。

大丈夫だろうか。

 

 

「レア。彼がなにか?もしよければ、私とジェラルトにも共有してほしい。私と君は同胞なんだろう?」

 

そう私がレアの目を真っ直ぐ見て言うと、レアは顔を赤くして静かに微笑んだ。

 

 

 

「…ありがとう。その気持ちだけで嬉しいです。分かりました、話しましょう。あくまで疑惑の話ですが。」

 

「貴女は、宝杯の儀というものを知っていますか?」

 

 

 

聞いたこともなかった。元よりセイロス教に関してはあまり詳しくなかった。父が近づけたがらない中で、地方の教会を訪ねて、訝しがられない程度の知識を仕入れるのが精々だった。

 

 

ここに来てからは教師として教えるために、また枢機卿として活動するために、主の五戒を初めとした、セイロスの書を読んだり、それなりに学んだつもりではあったが。

 

 

 

「…いや、知らないな。不勉強ですまない。」

 

「いいえ、これを知らないのは仕方ありません。枢機卿ほどの人材でも、知っているのは少数でしょう。」

 

 

 

そうレアが言葉を続ける。ジェラルトが話に入ってきてレアに言った。

 

「俺も知りませんね。レア様には随分長いこと仕えてきましたが、そもそも貴女が聖セイロスだったことさえ知りませんでしたよ。」

 

「…確かに貴方でも知らないでしょうね。貴方は精々が300歳といったところ。宝杯の儀が執り行われたのはガルグ=マク大修道院が落成した際の一度きり。」

 

 

 

その一言に、ジェラルトが呆れたように息を吐く。

 

それよりも私にはジェラルトの年齢が衝撃だった。長く生きたとは聞いていたが、まさか300歳にもなっていたとは…

 

「となると…1000年前程度の話か。凄いな…」

 

 

「わしの偉大さが分かったかの?それより以前からわしら小さき者どもの心の支えじゃったのじゃ。」

 

そう胸を張るソティスが1000年を超えてこの可愛さということに驚く。本当に奇跡的な可愛さだ。

 

 

 

「ええ。私はその儀式で、お母様をこの世に蘇らせようとしました。宝杯と…四使徒の血を使って。」

 

また知らない単語だ。聖人ではなく使徒?これまた本では出てこなかったような。

 

 

 

「彼らはそれぞれが稀有な紋章を持っていました。その紋章の力を持って、お母様の魂を呼び戻そうと試みたのです。」

 

すると、レアは私に微笑みかけて言った。

 

 

 

「貴女で成功したから今では笑って言えますが、その試みは失敗しました。彼らはその責を負い、それぞれが散り散りとなり、歴史の表舞台から消えました。」

 

 

「…その儀式と、アルファルドになんの関係が?」

 

 

「その宝杯は、アビスに私が封印しました。そして、灰狼の学級に入っている四人の貴女が会ったという生徒が…恐らく四使徒の紋章を持っているのです。」

 

その説明で、点と点が繋がって線になる感覚を覚える。つまりアルファルドは…

 

「宝杯の儀を、再現しようとしている?」

 

「…偶然とは考え辛いが、何が目的か分からんのだ。彼らが地下に落ちた際にも、アルファルドが裏で糸を引いていた痕跡すらある。だがなぜ…」

 

そのセテスの困惑した呟きに、ジェラルトが確信めいた声音で答えた。

 

 

 

「シトリーだ。」

 

 

 

「!?」

 

その一言に、大司教は驚愕する。

 

「俺がアルファルドの坊主の様子がおかしいと感じたのは、シトリーの話をした時なんです。あいつを蘇らせるためなら、説明がつく。」

 

 

場の空気が静まり返る。レアは悲しそうに顔を覆うと、確かにと呟いた。

 

 

 

「それならば全てに説明がつきます。もしや、シトリーの遺体をアビスで彼が見つけて…」

 

「なんですって?」

 

 

 

そのレアの呟きに、ジェラルトが顔色を変えて反応した。

 

 

 

「今あんた何て言ったんですか。シトリーの遺体?あいつは墓に眠っているはずだ。俺があいつの好きな花を手向けたんだ。まさかあんた、あいつの遺体までなんかの儀式に使ったんじゃないだろうな!」

 

 

興奮した様子のジェラルトを、私とセテスが必死に抑える。

が、私も気になった。母の遺体が何かに使われたのなら、いい気分はしない。

 

 

 

「…すみません。ジェラルト。ですが、遺体を辱めるような真似はしていません。単に、私が彼女に会えなくなったことに耐えきれなかっただけなのです。」

 

 

「どういうことです?」

 

 

 

「…彼女の遺体を腐らないようにし、アビスの一室に保管しました。私が度々彼女に会いに行けるように。…謝りに、いけるように。」

 

「………」

 

 

 

ジェラルトは黙りこくり、しばらく顔を手で塞いでいたが、やがて大きなため息をつき、呆れたように言った。

 

「レア様の秘密主義には限度ってものがないようですな。…俺も後であいつに会いに行きます。案内してください。」

 

「…はい。」

 

だが、私には気になることがあった。話が終わりかけたが、私は慌ててレアに問いかける。

 

「ちょっと待ってくれ、レア。どこでそこまでの情報を?調べるのにかなり苦労しただろう。」

 

「ああ。それは簡単なことです。」

 

そして、レアは衝撃的なことをサラリと言った。

 

 

 

「あの四人の中に、私の間者が居るのです。誰かまでは本人の希望で言えませんがね。」

 

 

 

「ですので、貴女も監視につくということなら、灰狼の学級の教師になるのは構いませんよ。ただ、これからは先にそういったことは我々に報告してくださいね。」

 

 

 

 

 

 

 

大司教の謁見室を出ると、ジェラルトが息を吐いてぼんやりと遠くを見つめていた。

色々ありすぎて疲れたのだろうか。

 

 

 

 

「大丈夫?ジェラルト。」

 

「あー…。大丈夫…じゃねえな。ここに来てから色々とありすぎたな。取り敢えず俺は午後からシトリーの所に行く。お前は学級の課題で盗賊討伐だったな。」

 

 

 

そうだ。これから教室で皆と合流し、赤き谷ザナドへ向かう。そこまで遠い場所でもないので、当日中に行き来できるのだ。

 

 

 

「ああ。まあ、敵はあの時の盗賊の残党だから楽だとは思うけどね。」

 

「つっても、ガキどもにとっては初戦だろ。気をつけとけよ。」

 

「分かってる。一人も死なせないつもりだよ。」

 

 

 

私は気を引き締める。そうだ。これが生徒を初めて命の危機のある場所に連れて行く機会だ。

絶対に死なせない。そのために、ソティスから貰った新たな力も使うつもりだ。

 

 

 

「にしてもお前…女神様が天帝の剣使わせろって言ってるってレア様に言った時は驚いたぞ。」

 

 

 

「ソティスかなり怒ってるから。まあ、無理もないけど。」

 

 

 

そう。ソティスは盗賊が赤き谷ザナドに篭っているのが我慢ならない様だった。

ネメシスと同じ盗賊が、ナバテア族をかつてネメシスが虐殺した場所を我が物顔で穢しているのが我慢ならないとか。無理もないな。

 

 

 

アビスの話が一区切りつくと、ソティスは、

 

 

 

「あのザナドを穢したという塵芥を掃除するのに、わしの体を加工したという剣が欲しい。おぬし、そうセイロスに伝えよ。」

 

と心底怒った顔で言ったのだった。

レアに伝えると、彼女は困った顔になり、セテスがやんわりと断った。

 

「お気持ちは分かりますが、所詮敵はただの盗賊の残党風情。騎士団もおりますし、掃除には十分かと。」

 

 

 

ナバテアの民の言うことなら仕方ないと、ソティスはかろうじて納得した様だった。

 

 

 

「ふん。本来ならわしとおぬしで八つ裂きにしてやるところじゃがの。まあ小童どもに屠らせるのも悪くはないか。」

 

 

黒鷲の学級と合流し、エーデルガルト達と馬でザナドまで移動する。

その間もソティスは苛立った様子だった。

私が軽く、ソティスの服で隠れていない華奢で柔らかな背中を指でつー…とさすると、いつもの様に呆れて笑ってくれたが。

 

その様子に少し安堵した。

 

 

到着すると、赤き谷はあの時のままだった。

遺跡があちこちに辛うじて残り、ナバテア時代の暮らしぶりを微かに今に伝えている。

 

目の前が真っ赤になったあの日、ソティスが目覚めた日をぼんやりと思い出していると、エーデルガルトが話しかけてきた。

 

 

 

「師、それでどう攻略するの?あの位置から別れて、盗賊の頭領を挟撃するのが良いと私は思うのだけど。」

 

 

そうエーデルガルトは橋を渡った先の開けた場所を指差した。その先では西から盗賊の頭領に繋がる道と、東方面から繋がる道がある。

 

 

 

確かにそうだ。

 

 

 

もし仮に一方向から攻めたら、逃げられる可能性もある。

騎士団がいる限り多少漏れても殲滅してくれるだろうが。

 

 

 

「私もそうしようと思ってたよ。流石にエーデルガルトは判断が良いね。」

 

そう私が誉めると、エーデルガルトは当然だと言わんばかりに頷き、私にさらに言葉を続ける。

 

 

 

「それなら、部隊の分けかたも考えなくてはならないわね。どうかしら。師の指揮する部隊と、私が指揮する部隊で…」

 

「私は一人で良いよ。他の皆をエーデルガルトが指揮して西から挟み込む形で。ああ。一応取りこぼしがないように開けた場所で数人待機させてもいいんじゃないかな。」

 

 

 

その一言に、学級の全員が眉を顰める。

ヒューベルトが声を上げた。

 

「…本気ですかな。いくら貴女が強いと言えども、この数を相手に単身では…」

 

「問題ないよ。それじゃあ私は橋を渡って先に行くね。適当に強いやつは潰していくから。残ったのをエーデルガルトの指揮で潰していって。それじゃ。」

 

 

 

そう私は告げると、一目散に橋を目指していった。

橋の前で防戦のために守りを固めていた、盗賊達が単身突っ込む私を馬鹿にして笑うのが見える。

 

その隙に私は剣を投げ、先頭の盗賊の頭を潰す。

 

「あ…え?」

 

周りが反応し切る前に、即座に近づき剣を盗賊の頭から抜き、横薙ぎに一閃。

盗賊の前線が赤く染まり崩れた。

 

「な、なんだこいつ!!」

 

「弓兵!早く構え…ぎゃっ!!?」

 

そのまま敵の群れの中に潜り込み、どんどん目の前の敵を薙ぎ払いながら奥へと潜っていく。

特にそれなりに手強そうな者を選んで消す。

 

数だけの烏合の衆にありがちなことだ。中に入ってしまえば脆い。

それに、今なら仮に事故が起きても女神の力である程度なら時を巻き戻せる。

 

ソティスの魂と共鳴するのを感じる。私もまあまあ怒っているし、血の匂いでだんだんそれは高まっていく。

 

「ふむ…確かに天帝の剣も要らんかったかの。さて、討伐の時間じゃ、おぬし。」

 

そう女神が、不敵に笑った。

 

誅伐が、始まる。

 

 

 

 

 

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