レア様と会ってから色々と変わる予定です
べレスの夢の中の暗闇の玉座の間
そこではいつものようにべレスがソティスの耳元で愛を囁き、口説こうとしていた。
ソティスの美しい緑色の髪を滑らかな手で撫でながら耳元で呟く。
「ねえソティス…君の髪は本当に綺麗だね。」
「ふん!それはそうじゃ!わしはフォドラで一番美しい存在であるぞ?」
そうふふんと自慢げに胸を張るソティスだが、顔には朱色が差している。ソティスが照れているのを理解しながら、べレスは微笑んで続ける。
「それに君のうなじは本当に魅力的だ。思わず…こうしたくなるよ。」
「ひゃあっ!?や、やめよやめよ!」
そう言うと、べレスはソティスの首筋に軽く歯を立てて甘噛みし、キスマークをつけた。
「誰に見られるわけでもないけど、私のものって跡だよ。ふふふ…」
そう妖艶に微笑むべレスから、ソティスは顔を真っ赤にして顔を背ける。
べレスからソティスへのアプローチは、感情が芽生えてからもう10年以上行われていた。
最初の頃は童の戯言と軽くあしらっていたソティスも、べレスが女を堕とす手練手管を実践で磨いてきた結果、割と半ば堕ちかけていた。
「に、にしても、おぬしとわしが出会ってもう何年経った?思えば長い付き合いじゃの。」
ソティスは誤魔化すかのように話題を逸らす。べレスは微笑んでソティスに答えた。
「本当に長い付き合いだね。君以上の理解者はジェラルト以外居ないよ。そんな私たちが結ばれるのは運命じゃないか?」
「ええい!ああ返せばこう返す!こっぱずかしくなってきたわ!」
会話を続けていた二人だったが、ソティスは次第に玉座に座り込みうとうとし始めた。
二人には既に分かっていた。これはべレスが起きる合図だ。
「うーむ…そろそろ眠くなってきたの。ふわあ…」
欠伸をするソティスの掌に、べレスは傅いてキスをした。
「それじゃあまたね、私の愛しい女神様。」
「…うむ。またの、べレス。ふにゃ…うむ…」
やがて、二人の視界は黒くなっていった。
そして聞き慣れた父親の声が聞こえてきた。
べレス視点
「ぉぃ…おい!そろそろ起きろ。」
私が薄らと目を開けると、いつもの様に借りている家のあまり馴染みのない天井だった。
見知った髭面がこちらを覗き込んでいる。
「ああ…おはよう、ジェラルト。」
「おう、起きたか。随分ニヤけてやがったが、どんな夢見てたんだ?って聞くだけ愚問ってやつか…」
そう呆れたようにジェラルトは両手を広げて首を振る。いつもの親子のやり取りだ。
「うん。美少女との夢だよ。」
「だろうな。」
分かりきっていると言わんばかりにジェラルトは首を適当に振り、こちらに向き合ってまたいつもの説教を始めた。
「趣味趣向があるのは大いに結構!だがな。俺たち傭兵の仕事は命懸けなんだ。戦場にまでその雑念は持ち込むなよ。」
「やだなジェラルト。私が仕事で女絡みで足引っ張ったことある?」
そう返すと、ジェラルトは呆れた声音で言葉を返した。
「ありゃ何年前だったか?お前が依頼主の娘に手を出したせいで、駆け落ちすると叫んだ娘さんと激昂する親父さんを相手に報酬の交渉しなきゃならなかったのは。」
ちょっとムッとしたので私も言い返してみる。
「そういえばあれは何年前だったかな?ジェラルトが交渉前に酒場の酒を全部飲み干して、交渉相手の貴族の服にゲロ吐いてたのは。」
「「……………」」
気まずい沈黙。
「ふふふ…」
「くくく…」
「「ハハハハハハハハ!!!」」
やがてどちらともなく笑い出した。
「はは…やめだやめだ馬鹿らしい!さっ!とっとと支度しな。次は王国での仕事だ。」
「少し距離があるから、夜が明けたら出ると言ったろ。」
あー…ソティスをどう口説こうか考えてて頭から抜け落ちてたな。
「あー…そうだった?」
「……まったく。お前以外はもう外に出てるぞ?」
そうして私が旅支度を終わらせようと立ち上がった時、団員の一人が部屋に走り込んできた。
「ジェラルトさん!すまんが、来てもらっていいか?」
二人で顔を合わせて、私たちが外に出ると、何やら制服らしき同じ服を着て色違いのマントを羽織った、一人の少女と二人の少年…と青年の中間辺りか
の子供3人が立っていた。
…整った容姿と服からして、貴族だろう。
私の目は少女に止まっていた。
薄い紫色の瞳にグレーがかった白色のロングヘアー。おでこを出しているのが非常にチャーミングだ。
スタイルは平均的だが、それが少女らしい可憐さを醸し出していて、逆に唆る。
「……?何か?」
少女が私が見ているのに気づいて疑問の声を上げる。
そんな私をジェラルトは横目で睨むと、膝で私を軽く小突いて話し始めた。
「こんな時間に、ガキどもが揃って何のようだ?」
そこから事情を聞いてみると、どうやら彼らは野営中に盗賊に襲われ、仲間と分断されて追われてここまで来たらしい。
…どうやら盗賊までここに来たようだ。
「チッ。ガキどもはともかく、この村を見捨てるわけにはいかねぇ…用意はいいな?べレス!」
無言で頷き私は武器である剣を抜く。
「村に被害を出さないように、手早く済ませるぞ。」
子供たちも武器の心得はあるようだ。3人ともそれぞれ武器を構えて私たちを援護する構えだ。私の隣に来た少女は私に話しかけてきた。
「貴方、変わった雰囲気の人ね。」
「傭兵だというなら、腕を見せてくれる?報酬の方は心配しないで。」
……会話の内容からして、この娘はやはり貴族。見た目も魅力的だし、是非私の女になってもらいたい。ここは私という存在を認知してもらおう。
「それなら見ててくれ。灰色の戦乙女の戦いを見せてあげよう…!!」
そこからは一方的だった。
相手の盗賊団ははっきり言って烏合の衆だった。
一方私たちジェラルト傭兵団は最高峰の傭兵集団だ。
地形の利用法、兵の動かし方、その全てが桁違いだ。
突っ込んでくる盗賊団は次々と屠られていく。
「凄いな…特に団長らしきあの人と女性はかなりの強さだ。」
「へえ!流石はかの…」
「……………」
子供たち3人は私たちの戦いに見惚れている。が、子供たちもかなり筋が良い。
まだまだ武器の扱いは未熟だが…伸ばせば光る感じだ。
気づけば残る盗賊は頭らしきごつめのいかにもな男と少しを残すのみとなっていた。
「クソがぁっ!!!!」
その男はやぶれかぶれで斧を片手に私に切り掛かってくる。
隙だらけだ。
初弾を私は冷静に弾き、男の体ごと斧を吹き飛ばした。
「ぐはあっ!!!」
その状況だったからだろう。子供たちはどこか気が緩んだ様子だった。
それが不味かった。
起き上がった男は斧を素早く拾い、貴族らしき少女に突っ込んでいく。
「!」
少女は完全に不意をつかれた。ナイフを咄嗟に手に持つが、あの姿勢では受けきれない!
「ッ!!!」
「どけええええ!!!!」
私は咄嗟に少女を突き飛ばし、背中で男の斧の斬撃を受け止め、彼女を庇おうとする。
次の瞬間、奇妙なことが起こった。
「…………?ソティス?」
気がつけば、見慣れた暗闇の中だった。
そして心底呆れ返った声が聞こえてきた。
「おぬしおぬしおぬし!」
「お主の女絡みの阿呆さには流石に呆れるわ!」
声の主は、見るからに不貞腐れた様子のソティスだった。
「…何があった?私は死んだ?」
「その手前じゃ!全く…お主が死ねばわしも死ぬと散々言うたであろうが!」
そうぷりぷりと頬を膨らませてソティスは言葉をつづける。
「わしが世界で一番大事だという言は戯言じゃったか!?あんな小娘のために身を危険に晒しよって!」
「…ありがとう。それとごめん。」
私も流石に反省した。私の身勝手でソティスの身を危険に晒したと思うと耐えられない。
正座になり反省の意を伝える。
「次はちゃんと安全に攻撃を受けられるようにするよ」
「もう慣れたがおぬし大概ずれておるな…」
そうぼやくとソティスは冷静に驚くべきことを言い始めた。
「しかし咄嗟とはいえ、久しぶりによう時を止められたものじゃ…」
「え?ソティスそんなことできた?」
「うむ。前にも一度あったじゃろ。ほれ。おぬしが崖から落ちかけた時に…」
その言葉で私はなんとなく思い出した。
崖側で下を覗いていた時に、落盤で落ちかけたことがあった。
その時は確か…
「ソティスが時間を巻き戻して何とかしてくれたんだったよね。」
「おお!そうじゃったそうじゃった。全く。おぬしは本当にわしが居らんとダメじゃな…」
そう言うとソティスは金色の魔法陣らしきものを出現させ操作し始める。
「今度も時を巻き戻してやるわ。僅かな時しか戻さんが、それでも己が命を守るのはたやすかろう?」
「では、ゆくぞ。炎をその身に宿せし者よ!時のよすがを辿りて、己が未来を見出せ!!」
次の瞬間、私は数秒前に戻った。
男が貴族の少女に向けて走り出した瞬間。
私は即座に少女と男の間に入り、剣を構える。
そして男の斧を弾き返し、彼をまた斧ごと吹き飛ばした。
少女がいかにも「やるわね」と言わんばかりの笑顔をこちらにみせてくる。
よし!取り敢えず好感触は得られたね。
盗賊たちは頭領がやられたことで、散り散りに逃げ始めた。
子供たちが駆け寄ってくる。皆安堵した様子だ。
すると、見知らぬ白色の鎧で身を包んだ壮年の髭を生やした男が数人を引き連れて現れた。
騎士だろうか。
「セイロス騎士団!ただいま参った!生徒を狙う盗賊ども!覚悟せええ…い?」
その男は散り散りに逃げていく盗賊を僅かな間ポカンと見つめると、慌てて周りの部下らしき人々に指示を出した。
「貴殿らは奴らの後を追うのだ!!」
そうして騎士らしき男はこちらに駆け寄ってくる。
「級長たちも無事のようだな。と…そちらは?」
その男を見たジェラルトは苦虫を噛み潰したかのような顔をしてぼやいた。
「面倒な奴が来やがった…」