女好きべレス先生の覇道   作:カバー

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女好きベレス先生の覇道 敬愛と嫉妬

 

 

 

ベレス視点

 

 

 

今節の課題であるロナート卿討伐の後処理の手伝いも目前に迫ったある日

 

花冠の節の雨期だけあって、鬱屈とした雨模様だ。

何とも気分が暗くなる。

 

「全くじゃ。…まあ、物憂げなおぬしの横顔も悪くないがの。」

 

「それはソティスもだよ。余計君が艶やかに見える。」

 

そんなソティスとの会話が癒しだ。

 

 

黒鷲の学級では、ハンネマン先生の魔道基礎の講義が終わり、次は私の市街地における戦術講義の時間だ。

 

傭兵として培った経験則は勿論、彼らには基礎の基礎から教える必要がある。

が、その前に今日は初めて灰狼の学級の生徒達の面々を黒鷲の学級の皆に紹介する日だ。

 

…今まで灰狼の学級の生徒には、黒鷲の学級とは別に教えていた。というのも、枢機卿の面々がアビスの者達を地上に出すのに懐疑的だったからだ。

 

 

説得するのに随分かかったが、彼らを一緒に教えられればかなりの時間の節約になる。

説得して出してもらえたのは主な四人だけなのだが。

 

彼らを連れて黒鷲の教室に向かうが、周りの生徒から視線を感じる。…まあ皆あまり気にしてなさそうなのが救いだが。

 

 

 

「ハピ、地上なんて随分久しぶりだし。教団の人たちがずーっと嫌がってたもんねー。」

 

 

そう面倒そうだが嬉しそうにハピが呟くと、バルタザールが同意して頷く。

 

 

「全くだな。俺も賞金稼ぎが…あ、いや。アビスへの風当たりのせいでな。やっぱり地上の空気は美味いねえ。…太陽が見れないのが残念だが。」

 

 

バルタザールの賛同にユーリスが周囲を見渡し、言葉を返す。

 

 

「ま、今も周りからしたら俺らは異物扱いみたいだけどな。それはそれとして、太陽が出てねえのは残念だよなあ?日陰女。」

 

 

そうユーリスがコンスタンツェを揶揄うと、彼女は顔を真っ赤にして叫ぶ。

 

 

「誰が日陰女ですの!!全く…陛下にお会いするというのに、貴方達は…」

 

そう項垂れるコンスタンツェに、ユーリスが悪い悪いと謝りつつも軽口を叩く。

 

「ま、お前は逆に肩に力入りすぎな気もするけどな。どうだ?多少は怒って肩の力抜けたかよ。」

 

「貴方ねえ…」

 

 

 

そんな騒がしくはしゃいでいる彼らを連れて、黒鷲の教室に入ると、皆が興味津々の顔を向けてくる。

 

 

「やあ皆んな。前日も言った通り、今日から彼らも黒鷲の学級と共に学ぶことになる。よろしく頼むよ。」

 

 

 

そう言って灰狼の学級の四人を前に立たせる。

自己紹介をさせようとした途端、ユーリスの顔を見たベルナデッタがとんでもない奇声をあげた。

 

 

 

「…え?ひ、ひんぎゃあああああ!!?」

 

 

「べ、ベルナデッタ?どうしたの?落ち着きなさい。」

 

思わずエーデルガルトが心配そうにそう声をかけるも、彼女の耳には届かない。

 

 

「嘘。嘘。これは嘘ですぅぅぅ!!!!」

 

「…おいおいベルナデッタ。久しぶりとはいえ俺様の顔を見てそれはねえだろ…おい?ベルナデッタ?」

 

 

 

ユーリスがそう困惑して声をかけるが、ベルナデッタは急に無言になって立ち竦む。全員がどうしたのかと彼女を見て、ヒューベルトが困惑した様子を見せながら呟いた。

 

「…気絶していますな。立ったまま。」

 

「…そんなことが可能なの?」

 

そうエーデルガルトが困惑の声を上げる。

そんな中で、ドロテアがユーリスに声をかける。

 

 

「貴方、彼女と知り合いなの?」

 

「あー…まあな。だが話すと長いんだ。ま、腐れ縁みたいなもんさ。」

 

 

「どんな知り合いと会えば気絶するのよ…」

 

 

そんな騒ぎの後、改めて自己紹介が始まった。

 

 

「俺はユーリス。地下のアビスの灰狼の学級の級長をやってる。まあ、貴族様連中からしたら俺らみたいなのは煙たいかもしれねえが、一緒に学ばせてくれや。」

 

 

 

「へえ…堂々としてるわね。化粧も上手いし。是非歌劇に欲しい人材だわ。」

 

そんなドロテアの呟きに、ユーリスは少し嫌そうな顔をして、顔を逸らした。

微妙な雰囲気の中、バルタザールが声を上げる。

 

 

「んじゃ次は俺だな。俺はバルタザール。元金鹿の学級所属だ。喧嘩と博打と女が好きなやつが居たらよろしく頼むぜ!」

 

 

 

「へえ!強そうだな!喧嘩なら負けねえ!」

 

 

そうカスパルが血が騒ぐと立ち上がり、バルタザールも嬉々としてカスパルを見ている。

 

 

「金と博打はともかく、女ってんなら仲良くやれそうだな。よろしく頼むぜ。」

 

「へえ。お前もいける口かい。こちらこそ、よろしく頼むぜ。」

 

 

そうシルヴァンはバルタザールと固い握手を交わす。

その様子にエーデルガルトはかなり大きなため息を吐いた。

 

次にハピがひどく面倒そうに呟いた。

 

 

「ハピだし。よろしく。」

 

 

そのあまりの短さにコンスタンツェは唖然とした顔をした後、叫ぶように言った。

 

「ハピ!貴女ねえ!エーデルガルト様の御前というのに、やる気というものが足りないのではなくて!?」

 

「えー。コニーと違って、ハピそんなの知らないし。」

 

「貴女ねえ…。」

 

肩を落とすと、コンスタンツェは切り替えるように頭を振り、いつも通りの気取った様子で自己紹介を始めた。

 

「私はコンスタンツェ・フォン・ヌーヴェル!!エーデルガルト様におかれましては、大変ご機嫌麗しく…」

 

「ヌーヴェル家って…あの?」

 

「ああ。没落した一族だろ。よく顔出せたもんだ。」

 

一部の貴族の子息の生徒が嘲りの感情を漏らす。それにコンスタンツェは顔を赤くし、さらに叫ぶ。

 

「確かに我が家は没落しましたわ!ですが!私が魔道の大家として必ずや再興を…」

 

「ようは、今は平民ってことだろ。」

 

「………!」

 

そんな心無い言葉に、コンスタンツェは顔を赤くして俯く。が、そこに意外な助け舟が現れた。

 

「君たち、いい加減にしないか!!」

 

フェルディナントが、エーデルガルトが何か言おうとする前に立ち上がり、大声を上げた。

 

「貴族でありながら、なぜ彼女の見事な夢を応援できないのだ!自分の身一つで、貴族としての立場を忘れず邁進しようとする彼女の、何処がおかしいと言うのかね!?」

 

「…フェルディナント…」

 

そんな彼の言葉に、嘲りの声は止み、場が静まる。そこにエーデルガルトが静かに言葉を付け加えた。

 

 

 

「私も同感よ。今が平民だろうが何だろうが、彼女という個人であることに変わりないわ。彼女が優秀なら、機会が与えられる。それだけよ。」

 

 

「殿下…」

 

 

コンスタンツェはエーデルガルトの言葉に感極まったようで、跪いて宣言した。

 

「無論!私が証明して見せますとも!私の魔道の実力を持って!」

 

「そう。期待しているわ。コンスタンツェ。」

 

そうエーデルガルトは笑顔でコンスタンツェに頷いた。

 

 

よし。少し焦ったけど、いい空気で自己紹介が終わったな。

そう私は判断し、講義を始めようとした。が、それはモニカによって遮られた。

 

 

「少し宜しいでしょうか、ベレス先生。」

 

 

 

「…何だい?モニカ。」

 

そう私が続きを促すと、彼女は淡々と言葉を続けた。

 

 

 

「…失礼ですけど、彼らが加わって単純な生徒数が増えたということは、それだけ私たち元の黒鷲の学級の生徒への負担になると思うんです。」

 

「そんなことは…」

 

 

「ありますよね。先生が個人で教える機会が減るということですから。貴女は未来の皇女の教育を担っているんですよ?そんな覚悟で…」

 

 

どうも、モニカは私を目の敵にしている節がある。機嫌が悪い時は私を無視することもあるし、こうやって反論してくることもよくある。

 

 

赤毛の可愛い少女に敵視されるのは、正直傷つくし、身に覚えがない。でも、この懸念は最もだ。

 

 

「…そこは、私の労働量を増やして補うつもりだ。マヌエラ先生やハンネマン先生にも助力をお願いできたし、少なくとも当面は問題ないはずだよ。それでも足りないというなら、また対策を考えるよ。今はそれじゃ納得できないかな。」

 

「だからって…」

 

 

それでもモニカが食い下がろうとすると、エーデルガルトが私の擁護を始めた。

 

 

「…私は師なら大丈夫だと思うわ。今でも十分私たちのことを考えた指導を短時間でしてくれているし、四人増えた程度で問題はないはずよ。」

 

 

そのエーデルガルトの言葉に、モニカは言葉を詰まらせる。それでもなお彼女は言葉をあげようとする。

 

 

「エ、エーデルガルト様…しかし…」

 

「全く、見苦しいですな。」

 

そんなモニカに、ヒューベルトが淡々と冷たい声を差し込む。

 

 

「合理性の話で言うのなら、今講義を止めている貴殿の方がよほど非合理ですよ。エーデルガルト様の説明通りです。それは貴女も分かっているのでは?」

 

「…それでも納得できない、いいえ。納得したくないのは、貴殿の私怨ではないのですか?」

 

「……………」

 

モニカは顔を真っ赤にして、無言で俯く。

…心配だが、今はとりあえず講義を始めなくては。

 

「それじゃあ、市街地における戦術の講義を始めるよ。まず、第一に考えるべきはーーーーーー」

 

 

 

 

 

 

 

モニカ視点

 

 

気に食わなかった。

…そりゃあ、私の命の恩人であるということは分かっている。感謝もしているつもりだ。

 

アランデル公を始めとした、闇に蠢く者どもとの協力の取引材料として、私はエーデルガルト様に使われ、死ぬ予定だったのだ。

 

でも、エーデルガルト様への恨みはない。むしろ、悲しげに謝ってもらうのに罪悪感を感じたほどだった。

 

…生きて彼女に仕えることができる、それが私の最高の喜び。それを可能にしてくれたベレス先生は、むしろ恩人のはずだ。

 

…それなのに。

私は嫉妬の炎で、胸がいっぱいだった。

 

 

なぜ、そんな視線を彼女に向けているのですか、殿下。

 

なぜ、先生が貴女を褒めると、顔を赤くして私が見たこともない表情をするのですか。

 

 

許せない。私は愛を捧げるだけのエーデルガルト様が、誰かに愛を捧げている。そんな現状が。

 

 

私はほとんど講義が耳に入らないまま、ただ座っていた。そして講義が終わると、のそのそと教室を出ようとする。それを、ヒューベルトが止めた。

 

 

「モニカ殿。少しお話があるのですが。お時間よろしいですかな。」

 

「………今はそういう気分じゃないんですけど。」

 

「…………」

 

 

そう言葉を返すと、ヒューベルトは無言で圧をかけてくる。

仕方なく私は渋々と頷き、彼について行く。

人気のない物陰で、彼は立ち止まり、私に呆れたように振り返った。

 

 

「…モニカ殿。正直、貴殿には失望しましたよ。」

 

「…何ですか。また説教ですか?」

 

 

そう冷たく言葉を返す私に、さらにヒューベルトはため息を吐き、言葉をつづける。

 

 

「まさか、貴殿のエーデルガルト様への忠節が、色恋沙汰程度で揺らぐ程度だったとは。何と情けない…。」

 

「…な!?」

 

そんなヒューベルトの物言いに、私は思わず噛み付く。

 

「な、なんですかそれ!エーデルガルト様がまさか誰かに惚れているとでも…」

 

「べレス先生に、ですよ。そんなことも言わねば認められないのですか?」

 

さも当たり前だと言わんばかりのその彼の一言に、私は唖然として黙り込む。しばらくして、自然と口から言葉が出た。

 

「……それが分かっていて、なぜ貴方は冷静でいられるのですか。」

 

「私の忠節は、主が誰に惚れようが、変わるような軟弱なものではありませんので。そんなことは、心底どうでも良いのです。」

 

「どうでもいいって…貴方は、以前あれほど先生を危険視していたではないですか!」

 

そうだ。あれは私が闇に蠢く者どもから助け出された後のこと。

エーデルガルト様とヒューベルトに呼び出された私は、口止めと説明を受けていた時のこと。

 

 

 

 

 

「要するに、私はそのアランデル公達との取引材料だった、と。」

 

「……ええ。そうよ。貴女の持っているマクイルの小紋章は、極めて希少なもの。そんな貴女を差し出すことを条件に、私は彼らとの協力体制を確立する。」

 

そう悔やむように説明すると、エーデルガルト様は私に頭を下げた。私は慌てて制止するが、彼女は頭を上げようとせず、謝罪の言葉を口にした。

 

「…貴女には、私を責める権利がある。いくらでもね。ただ、これだけは分かってほしい。私は帝国の未来のためにそうしたの。…だから、今はそのことは秘密にしておいてちょうだい。」

 

「………分かりました。それなら、私は黙っています。トマシュ殿のことも。貴女のことも。」

 

「…ありがとう。モニカ。貴女のその決断を無駄にしないと、私は誓うわ。」

 

そう宣言すると、エーデルガルト様は頭を上げた。…本当に凛々しいお方だ。

私が彼女に見惚れたのは、これで354回目だ。

 

 

「…私を差し出さないで、闇に蠢く者どもと取引は成立したのですか?」

 

そう私が聞くと、エーデルガルト様は無言で頷いて言葉を続けた。

 

「何とかね。貴女を私たちが見つけたのはクロニエという連中の一人の過失ということと。あと一つ。」

 

「師への警戒が、私たちへの怒りより勝ったようね。」

 

「…先生って?あの綺麗な女の先生ですか。」

 

 

 

そうよく分からず問いかける私に、ヒューベルトが頷いて会話に入り込んだ。

 

「ええ。彼女の力を見ていない貴殿には分からないでしょうが、あれは異質でした。体から立ち上る緑の力の奔流。素手で盗賊の大男を軽々と殴り飛ばす力。」

 

 

「まさに、ベルグリーズ伯もかくや、という強さだったわね。あれには驚いたわ。」

 

「………」

 

まるで物語かのような話に、私は思わず呆気に取られる。いや、確かに彼女は単独で魔獣を軽く仕留めていたが。

 

「…私も彼女の力は危険だと思いますな。敵に回れば…」

 

「そうかしら?」

 

そんなヒューベルトの懸念に、エーデルガルト様が意を唱えた。

 

 

 

「私は、彼女の力を心強いと思うわ。彼女が味方になれば、闇に蠢く者どもの力を借りずとも…」

 

 

「本気ですか?彼らを切り捨てると?」

 

 

「…まだ分からないわ。でも、もし師が私の力になってくれるのなら…そんな気がするのよ。」

 

 

「師を味方にするためなら、わ、私は…何だってするわ。」

 

 

そんな風に顔を赤くして宣言するエーデルガルト様に、私は見惚れた。

 

こんなに美しいエーデルガルト様の姿を見たのは、初めてだった。

なのに、それが無性に腹立たしくて。

…エーデルガルト様が、恋する乙女の顔をしているのが、受け入れられなくて。

 

 

 

 

 

そして、今に至る。

 

「私はあくまで、先生が敵に回った場合の危うさを指摘したに過ぎません。貴殿の私情とは違いますな。」

 

「………!!」

 

そんな言葉に詰まる私を見て、ヒューベルトは捨て台詞を吐いて去っていった。

 

「己を殺してでもエーデルガルト様に仕える覚悟…貴殿にはそれが欠けているのですよ。その程度では、貴殿のことも私は信用できませんな。」

 

…何よ、それ。

でも、彼の指摘はいちいち正論で。

 

「エーデルガルト様のために、私は…」

 

 

 

 

 

 

エーデルガルト視点

 

私は師に恋しているかもしれない。そんなことを頭に浮かべながら講義を受けていると、胸の鼓動がうるさくて困る。

 

 

…講義を続けている師を改めて見ていると、衝撃的な事実に私は気づいてしまった。

 

(師の服装…破廉恥すぎないかしら!?)

 

師の格好を改めて見ると、とても私には刺激的すぎた。

 

魅惑的で豊満な胸に、臍を出している服。臍の周りのお腹は、薄らと腹筋が見えていて色っぽい。

 

そして何より…

 

(あの肉襦袢…生足が絶妙な度合いで見えて…)

 

あの艶かしい脚を、直接生で見てみたい。そんな魅力に私は苛まれる。

 

そんなことを考えながら講義も聞き、理解を深める。これから私の夢のために。…そして、師に褒められるために。

 

(この煩悩…本当に、困ったものだわ。)

 

そう私はため息を吐いて、授業を理解しながら、師をまた観察し始めた。

 

 

 

 

 

 

 

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