女好きべレス先生の覇道   作:カバー

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女好きベレス先生の覇道 秘密の探り合い

ベレス視点

 

 

 

青海の節に入り、大司教レア暗殺計画が露見した、女神再誕の儀が今節末となった修道院では、やはり皆の纏っている空気が違う。

修道院の要所のそこかしこに警備の騎士が控えているし、修道士達も不安げな表情だ。

そんな空気が生徒達にも伝わっており、物々しい節となってしまっている。

 

 

 

「全く…わしに縁のある青海の星が見えるおめでたい時期じゃというのに…下手人をさっさと征伐せねばの、おぬし。」

 

 

 

そんな風に自室の寮から外に出た私の横で可憐に話しかけるのは、その女神様、ソティスだ。

いつ見ても美しい緑の髪だ。

 

 

 

「そうだね。でも、一体何者なのだろうか。あのアガルタの虫とかいう奴らだと思う?」

 

 

そう私がソティスに問いかけると、ソティスは一転して真剣な顔になって答えた。

 

 

「…可能性はあるの。何せ、ロナートとやらの魔導士に、奴らの術を使う曲者がおったのじゃ。…不愉快じゃのお。潰しても蠢動する虫どもは。」

 

 

そう心底不愉快そうにソティスは吐き捨てる。…ソティスが文明を与えた結果、その女神にも逆らったアガルタという民の末裔。

いまいち私としては実感が湧かないが、危険だということは分かる。

 

 

「…擬態能力まで持ってるっていうんだから、いよいよ虫みたいだな。」

 

 

他者の体を盗み、擬態する技まで持っているらしい。ソティス曰く、声も姿もその本人と見分けがつかなくなるのだとか。

 

…レアにもソティスから聞いたことは伝えてある。

レアの身の回りを固めているのはカトリーヌを始めとした実力のある聖騎士と手練れ達だが、それでも警戒するに越したことはないだろう。

 

 

「…まさかそのような輩が残っていたとは。ネメシスに力を与えたのもその者達でしょう。…時が来たら、共に征伐を果たしましょう。」

 

 

そう宣言するレアから考えると、まあ要らぬ心配だとは思うが。

それに、レアの立ち振る舞いを良く見れば、武勇を誇る聖セイロス本人というのも頷ける。

…強い。

所作にまず隙がない。あれは武術もかなり卓越した使い手なはずだ。

 

 

私はまず課題の説明のために黒鷲の学級の生徒を集める。

説明を終えると、ヒューベルトが一言呟いた。

 

 

「…本当に、敵の狙いは大司教殿の暗殺なのですかな。」

 

「というと?」

 

 

 

そう私が問いかけると、エーデルガルトが答えた。

 

 

 

「師は怪しいと思わない?わざわざ見つけてくれと言わんばかりに杜撰な密書の管理…別の狙いがあると考えるべきでは?」

 

 

そう言われればそうだ。ロナート卿が討たれるのは誰の目から見ても明らかだったわけで、そんな彼がそんな密書を持って戦場にいる意味を考えると、それしかないとすら思える。

 

 

 

「ならば、奴らの狙いはわしの遺体から作られた、あれではないか?」

 

そうソティスが忌々しそうに呟いた。

 

「…聖廟のセイロスの棺にある、天帝の剣。」

 

 

 

私はソティスにしか聞こえないような小声でそう呟く。

女神再誕の儀には、セイロスや聖人の眠っている棺がある、聖廟が一般に公開される。が、当然セイロスことレアは存命なわけで。

 

 

 

その棺の中には…ソティスの遺体から闇に蠢く者が製造したと考えられる、天帝の剣が供えられている。

レア曰く私に今節の儀式が終われば譲りたいとのことだった。

闇に蠢く者にとってもまた手に入れたくて仕方ない物だろう。

 

 

私が考え込んでいる前では、生徒達が狙われているのはどこだろうかとあれやこれや議論を交わしている。

 

 

私はそんな皆にはっきりと伝えることにした。もちろん天帝の剣のことは伏せたままで。

 

 

「今節にのみ一般に解放され、このフォドラの信仰の主たる貴重な遺体が眠っている場所…聖廟はどうだろうか?」

 

 

 

その一言に、皆の注目が私に向く。エーデルガルトは少し驚いた顔をして、ヒューベルトは警戒した目線を送ってくる。そんな中、リンハルトが賛同の声を上げた。

 

 

「先生!それあり得ますよ!聖廟には各聖人の紋章が刻まれた棺まであるって話です。遺体まで含めたらその歴史的価値は計り知れない。研究のために奪おうとする人間がいても全然不思議じゃないです。」

 

 

そう捲し立てるリンハルトに、モニカが呆気に取られた顔で呟いた。

 

「……詳しいんですね、リンハルト。」

 

「そりゃあ、僕だって本当はそうやって研究したいと常々‥冗談ですよ。冗談。」

 

 

 

周りの白い目を受けて、リンハルトは真顔で冗談だと付け加えた。

そのリンハルトに呆れた目線を送りながらも、エーデルガルトは頷いた。

 

「研究価値というよりも…信仰面での影響は計り知れないでしょうね。もし聖セイロスの遺体が強奪されたとなれば、中央教会は…」

 

「まず終わりに近い、でしょうな。信頼の失墜は免れません。」

 

…そうして議論は聖廟を監視するということで結論づけられ、解散となった。

 

 

 

 

 

 

こんな空気の中でも、講義はしなければならない。

黒鷲の学級の皆の中でも、優秀な生徒は初級職の資格試験を段々と取得し始めた頃だ。

 

 

そんな中で、一人露骨に選択に悩んでいる生徒も居るのだが。

フェルディナントだ。

兵士の職を選べば上級職の場上騎士の道に近づくし、戦士の職を選べば上級職の竜騎兵へと近づくこととなる。

 

 

 

 

対照的にカスパルなどは即戦士の職を取った。ドラゴンナイトではなく、歩行戦士の斧と拳を極めた戦士を目指すとのことだった。

 

アビス組はそれぞれが独特な特殊職を目指すとのことだった。

地下の何でも受け入れる文化は、多様な闘い方も育てたようだ。

 

 

 

 

今回の講義はキッホル傭兵総論を噛み砕きながら、初級の戦術論のおさらいを行う。

その後、私が各々の個別指導に入る。そして、今日で将来の戦いの職選択にある程度の予定を立てる。

 

 

 

講義を終え個々の生徒の指導を行なって順調に職を決めていくと、フェルディナントが歩み寄ってきた。

 

「…先生。私は決めたよ。」

 

そう重々しく告げると、フェルディナントははっきりと宣言した。

 

「私は、先生の教師としての腕を見てきた。実に見事だった。そんな貴女が、私は飛兵に向いていると言った。ならば、私はそれを受け入れよう。」

 

「私は、戦士の職から竜騎兵を目指そうと思う。思えば、空を華麗に駆けるというのも悪くないものだ。」

 

「何より、いち早く困っている平民を救えるしね。」

 

そうフェルディナントは微笑んだ。私は笑顔で頷いて、フェルディナントの肩を叩く。

 

「そう君が決めたのなら、私はそれをとことん応援し、導こう。君なら素晴らしい飛兵になれるよ、フェルディナント。」

 

「ああ!勿論だ。指導よろしく頼むよ。私はエーデルガルトすら超える、名誉あるエーギル家の貴族なのだからね。」

 

 

次はエーデルガルトが私の指導を受ける番になった。

 

「私は戦士の道から重装兵の道を歩むわ。…そして、アドラステア皇帝に伝わる、カイゼリンの職を掴む。」

 

「重装兵か…防御力が高い分、指揮官向きと言えるね。それでいて、前線でも戦える。何とも君らしい。そうしよう。」

 

 

こうして全ての生徒のひとまずの進むべき方向性を決めることができた。

フェルディナントも無事に決めてくれて助かる。

…代わりに馬上騎士としての職に進みたいと判断したシルヴァンの、「取り敢えずモテそうだから。」に比べれば、凄まじくまともな理由での職選びだ。

 

 

 

 

 

私は皆を解散させ、昼食に向かおうとする。すると、ドロテアが私の腕を掴んだ。

 

 

 

「先生?もしよかったら、お食事ご一緒しませんか?」

 

「それは勿論嬉しいけど…いいの?最近男とあまりご飯食べてないみたいだけど。」

 

 

 

そう私がわざと意地悪して答えると、ドロテアは頬を膨らませて不貞腐れたように言った。

 

 

 

「先生…分かって言ってますよね?私はもう先生に決めたから良いんですよ。…責任、取ってくださいね?」

 

そうドロテアは私の耳元で甘く囁く。

まるで脳を溶かすかのような声だ。

 

「勿論。私は君を一生養うよ、ドロテア。」

 

私もそうドロテアの耳元で囁き返すと、ドロテアは真っ赤な薔薇のように美しい顔を赤くした。

 

そうして二人で食堂に向かおうとすると、後ろから不機嫌そうな声が聞こえてきた。

 

 

 

「楽しそうね、二人とも。私もご一緒して構わないかしら。」

 

 

…私のもう一人の可憐な花。エーデルガルトだ。不機嫌そうに私を軽く睨んでいても、その可憐さは変わらない。むしろ引き立てられる気がする。

 

 

 

「あら。エーデルちゃん。…ふーん…貴女もそうなのね?」

 

「質問の意図がわからないわ、ドロテア。どういうこと?」

 

「ふふ…いえ?エーデルちゃんなら歓迎ですよ?私。先生はどうです?」

 

 

 

そう全てを見透かした笑顔でドロテアは私に語りかける。

私も喜んで頷いた。

エーデルガルトはその答えに多少表情を和らげた。

 

 

 

「そう。なら行きましょうか。そろそろ食堂も混み始める頃よ。席を確保しないと。」

 

 

そして三人で食堂に向かおうとすると、モニカが慌てた様子で追いかけてきた。

 

「ま、待ってください!エーデルガルト様!わ、私もご同行します!」

 

赤い髪が汗に濡れて僅かに乱れている。荒れた息も色っぽい。ちょっといけない気持ちになる。

 

「え、ええ。それは別に構わないけれど。先生もドロテアも良いかしら?」

 

そうモニカの圧に若干たじろぎながらも、エーデルガルトが返事をする。

 

 

「私は別に構わないわよ。」

 

「私も構わない。可愛い生徒が増えるのなら大歓迎だ。」

 

そう私が答えると、モニカはじとーっとした目で私を一瞬軽く睨み、一転して笑顔になってついてきた。

 

…よくわからない子だ。

 

 

 

 

 

 

食堂に入ると、講義が終わる時間帯だからか、段々と生徒たちが入ってきている時間帯だった。

 

「それで、今日は何を食べます?私的にはブルゼンのような甘い物を…」

 

そのドロテアの提案に、モニカが申し訳なさそうに答えた。

 

「申し訳ありませんドロテア様。私は甘いものが苦手でして‥」

 

「あらそうなの。残念。…エーデルちゃんはともかく、私まで様付けなのね、モニカちゃんは。」

 

 

 

そう不思議そうにドロテアが問いかけると、モニカは顔を赤らめて、もじもじとしながら答えた。

 

「私、その帝都に居た頃、歌劇団の歌姫のドロテア様に憧れていて‥」

 

 

 

ああ。なるほど。私とドロテアは、それで納得がいった。

アドラステア帝国の貴族は、基本的に自分の領地があっても、帝都で暮らすものだ。

それ故に本来は領地が隣接もしていない貴族の子息であるカスパルとリンハルトは幼馴染だし、モニカは帝都の歌姫に憧れることができたわけだ。

 

 

 

「それなら、魚料理はどうかな。帝都では魚のバター焼きが貴族内で流行していると聞くが。」

 

 

 

そう私が提案すると、エーデルガルトが頷き、名案だと答えた。

 

 

「良いわね。私もちょうどそんな気分だったのよ。二人もそれで良いかしら。」

 

幸い全員の好物だったらしい。私たちは二種の魚のバター焼きを皆で頼み、席につく。ちょうど修道士と修道女たちが生徒達に気を遣ってはけてくれたので助かった。

 

「にしても、こうやって女の子四人で食事となると、女子会みたいで楽しいですねえ。」

 

 

 

そうドロテアが嬉しそうに言った。やはり、ドロテアは男といるより女の子といる方が心なしか楽しそうだ。

 

「女子…先生は女子の歳ではないのでは?」

 

そうモニカが何気なく呟く。それにエーデルガルトが呆れたように答える。

 

「失礼よ、モニカ。でも確かに、師っていくつなのかしら…私たちとあんまり変わらないように見えるけれど。」

 

その言葉に私は少し考える。…確か20年前の大修道院の大火の少し前に生まれたのが私だった。ならば…

 

 

 

「21…になるかぐらいかな。」

 

そう私が答えると、三人は鳩が風魔法を喰らったかのような顔になり、ドロテアが驚きの声をあげた。

 

「綺麗な見た目から何となく分かってましたけど、本当に若いですね!私の三つ上じゃないですか…!」

 

エーデルガルトが探るような声音で私に語りかける。

 

「その年齢で、大修道院の教師にいきなり抜擢とはね。生徒でも珍しくない年齢でしょうに。大司教殿からよほど気に入られているのかしら。」

 

「それとも…何か特別な理由でも?」

 

 

私の心臓が跳ね上がる。不味い。探られている。

ソティスが私の心の中で私に警告するように言う。

 

 

「気をつけよ。この者、やはり何かあるぞ。セイロスのためにも、下手なことは漏らすでないぞ。よいな。」

 

その忠告に頷き、私は無難な答えを返すことにする。

 

「父親のおかげだと思うよ。ジェラルトは大司教にかなり信頼されてるみたいだから。その娘なら、ということだろう。」

 

そう返すと、ドロテアはまあ納得したようだ。が、エーデルガルトはまだ探ろうとしてくる。

 

「そうかしら?確かに親が優秀なのはあるかもしれないけれど、それだけでただの傭兵を皇女も含めた学級の教師にするかしらね?」

 

「確かに、おかしいですよね?先生。何か隠してるんじゃないですか?」

 

 

 

そうモニカも追撃を入れてくる。やめてくれ。私の体力はもうない。

 

こうなったら強引に話を逸らそう。女子会らしい話題といえば…

 

 

「そんなことよりも、もっと女子会らしい話をしないかい?初恋はどうだった、とか。」

 

 

 

そう私が無理やり話題を変えようとするが、それをエーデルガルトは許さない。

 

 

「あら?話を変えようとするということは、何か心当たりでもあるのかしら。是非聞かせてもらいたいわね‥。」

 

 

綺麗な花には棘があるというが、ここまで深く刺してくるとは思わなかった。

 

 

 

「貴女は、教師なだけでなく、教団でそれなりの地位に居るのよね?ますます不思議になってくるわ‥」

 

 

 

あー…ロナート卿討伐の後にそんなこと言ったな。あの時の私を呪いながらこの場をどう切り抜けるか考える。

 

 

「そういえば、髪色と瞳の色も急に変わったわよね、貴女。まるで大司教殿のような色に…まるで、彼らと家族にでもなったかのようだわ。…いえ?同族かしら。」

 

 

エーデルガルトがそう言った瞬間、ソティスが心底警戒した声音で私に話す。

 

 

 

 

「こやつ、やはりナバテアについて何か掴んでおるぞ。…何者じゃ。もしや虫どもの…」

 

そのソティスの様子に私はますます警戒を強め、言葉を返す。

 

 

「前にも言ったろう?せっかくセイロス聖教会に入ったから、雰囲気を変えるためだよ。そのために髪色を…」

 

伏兵モニカがそんな私の甘い返答に切れ味の良い疑問を呈する。

 

 

 

「髪色を変えるって…染料でですか?確かモルフィス由来の文化ですよね、それ。結構良い値段するはずですけど。…瞳の色も変えるって、そんな軽い感覚でできるんですか?」

 

 

 

ドロテアも不思議そうに声をあげる。

 

「そうねえ。私は少なくともあまり聞かないわ。先生?知ってるなら是非教えて欲しいんですけど‥」

 

 

うわ、返答を誤った。本当にまずいぞ、これは。

どうしよう。どう答えるのが正解だ?

言葉に窮していると、私の正面に座っているエーデルガルトが身を乗り出して私の顔を覗き込んでくる。

そして、小声で囁いた。

 

 

 

 

「ねえ?教えて。師。貴女の秘密を。もし教えてくれるなら私も…全ての秘密を教えるわ。そうすれば、私は貴女を…絶対に信じられる。」

 

「…くう…。」

 

 

 

「…ここで話せないのは分かってるわ。二人きりの時に話しましょう。」

 

 

 

そのエーデルガルトの言葉に、私は思わず少し興奮してしまう。そして、突拍子もない答えを返した。

 

 

「夜の君の自室でも構わないのなら。」

 

 

そう私が甘く囁くと、エーデルガルトは顔を赤くして慌てたかのように言葉を返した。

 

「じょ、冗談はやめて欲しいわ、先生!私は真剣に…」

 

「私も真剣だよ。」

 

そう返すと、エーデルガルトは照れながらも呆れたかのようにため息をつき、頷いた。

 

モニカがそんなエーデルガルトに焦った様子で問いかける。

 

「な、何言われたんですか?エーデルガルト様。先生!エーデルガルト様に何を…」

 

そうしてモニカは私に詰め寄る。

 

すると、軽薄な彼の声が後ろから聞こえてきた。

 

 

 

「いや〜…羨ましいですねえ、先生。綺麗な女の子達と食事してて。あ、もちろん先生もお綺麗ですよ。俺も隣いいですか。」

 

 

 

そうシルヴァンは言うと、暗い青い髪を後ろで纏めてある、どこか東洋風の髪型をした、フェリクスを無理やり引っ張って私の隣の席に座った。

 

 

フェリクスはよく私に一対一の剣での試合稽古を求めてくる。

…割と他学級の中では接している方の生徒だ。

 

 

 

「おいおいフェリクス。せっかくの可愛い女の子達の前なんだから、もっと機嫌良くいけよ。そんな怖い顔だと、女の子が逃げてっちまうぞ?」

 

「チッ。知るか。俺はただ飯を食いに来ただけだ。お前のくだらん趣味に付き合うつもりはない。」

 

 

 

フェリクスは不貞腐れた様子で獣肉の鉄板焼きを頬張り始めた。

 

ドロテアが呆れた様子でそんなシルヴァンに苦情を呟く。

 

「あら、シルヴァンくん。女の子達で仲良くやってるんだから、お呼びじゃないですよ?」

 

「これは冷たいな、ドロテアちゃん。ま、俺はそんな君のことも…」

 

相も変わらず女の子の苦情も気にせず口説こうとするシルヴァンの頭上から、二つの低い声が聞こえてきた。

 

 

「…学級が移ってもその癖は変わらないか?シルヴァン。俺が頭でも叩けば変わるか?」

 

「本当に、礼儀を知らないわね、貴方は…!私もやってあげましょうか?」

 

 

 

ディミトリとイングリットだ。

二人の殺気を感じ取って、慌てた様子のシルヴァンが上擦った声で答える。

 

 

「殿下!イングリット!…イングリットはともかく、殿下の馬鹿力で頭叩かれたら死にますよ。…なんか冗談に聞こえねえんだよなあ。」

 

 

 

二人は、シルヴァンを無言で軽く睨みつけると、シルヴァンを取り囲むように座った。

 

イングリットもフェリクスと同じく獣肉の鉄板焼きの大盛りを、ディミトリは魚と豆のスープをお盆に持っている。

 

 

「ここ、失礼するぞ、先生。」

 

「構わないよ、ディミトリ。」

 

 

 

そして八人席になった結果、話の流れも変わる。

良かった。なんとか切り抜けられはしたようだ。

 

シルヴァンが気を取り直して話を振ってくる。

 

「それで、先生達はなんの話をしてたんですか?」

 

それにドロテアが答える。

 

「先生の話よ。やっぱり教師にしては若いだとか、髪の色が急に変わったのが不思議だとか。」

 

その言葉を聞いて、ディミトリがふと思い出したかのように呟いた。

 

「そういえば、エーデルガルトも髪の色が変わったな。やはり、女子はそういうことに気を配るものなのか?」

 

 

 

瞬間、エーデルガルトが驚いた顔の後、無言で殺気を飛ばした。場の空気がひやりと凍る。

 

 

「………なぜ、知っているの?私の髪が白で無かった頃を。」

 

 

「あ、いや。一度幼少期の君を見かけたことがあって。何か俺は不味いことを聞いてしまったか…?」

 

 

その答えに一応納得したのか、エーデルガルトは殺気を解き、私の時とは違い淡々と答えた。

 

 

 

「そう。…まあ、貴方ならあの時の私を見かけててもおかしくないわね。理由は別に?単なる気分よ。」

 

「そ、そうか…。」

 

 

 

どこか悲しそうにディミトリは頷き、場が沈黙で気まずい雰囲気となる。そんな中、シルヴァンがわざとらしいぐらい明るい声で私に問いかけた。

 

 

「そうだ、先生!他に何話してたんです?先生以外のことも、きっと話してたんでしょ?」

 

「そうだね…まだ話しては居なかったけど、初恋の話、とかかな。」

 

 

 

私が空気を読んでそう答えると、シルヴァンは笑顔で話し始めた。

 

「そりゃいいですね。俺の初恋はそうだな…確か…」

 

そのシルヴァンに、呆れたようにイングリットがとんでもないことを口にした。

 

「私の祖母じゃない?貴方、本気で口説いてたじゃない。私の目の前で。」

 

モニカが思わず呻いて反応する。

 

「…きっついですね、それ。」

 

「あ、いや、待ってくれモニカちゃん。あれはほんの気の迷いというか…」

 

ディミトリが追撃をかける。

 

「そういえば、女装した男性を口説いていたこともあったな。あれは…」

 

「あーあー…殿下まで!やめてくださいよ!黒鷲の学級での俺の立場ってもんがなくなるでしょうが!」

 

 

 

皆がどっと笑い出す。さっきまでの空気は霧散して消えていた。…流石シルヴァンだ。何だかんだで周りをよく見ている。

 

 

 

「俺のことも良いですけど、女性陣の初恋も聴きたいな、俺は。先生とかどうです?」

 

シルヴァンはそう私に話を振ってくる。…初恋。初恋か。そうだなあ。

 

 

 

「女神様が初恋の人、かな。」

 

 

 

そう答えた瞬間、シルヴァンがおお!と感嘆の声をあげた。

 

 

「あー…その気持ち、分からんでもないですよ。やっぱり、女神様はさぞお美しいんだろう、とか。物語から考えちゃいますよねえ。」

 

 

うんうんと頷き、シルヴァンは反応してくれる。

ソティスが私の横に現れ、悪戯っぽく笑った。

 

「おぬし、嬉しいこと言ってくれるのう。…愛い奴よ。」

 

そう言ってソティスは私の額に小さな唇で口づけをすると、私の中に戻っていった。

 

ドロテアがぽつりと呟いた。

 

 

「なんだかなあ。分からない話ですねえ。私は子供の頃、物語も読めなかったからかな。」

 

そんなドロテアに、シルヴァンが話を向ける。

 

「お、それじゃドロテアちゃんは、誰が初恋の人なんだい?」

 

「…ふふ。秘密、です。」

 

 

そんな調子で話が盛り上がり始めると、食事を早めに終え、おかわりを貰ってきたフェリクスがため息をついて呟いた。

 

「くだらん話だな。」

 

「お?なんだよフェリクス。じゃあお前ならなんの話をする?」

 

シルヴァンの問いに、フェリクスはふんと鼻を鳴らすと、はっきりと答えた。

 

「ならこれはどうだ。この大修道院で最も強いのは誰か、だ。」

 

「あー…お前はそういう奴だよな。」

 

シルヴァンは呆れた様子だが、ディミトリは気まずそうな顔から乗り気な顔になった。

 

そんな様子を見て、女性陣はイングリット以外呆れた様子なのだが。

 

「ならばお前の読みはどうだ?フェリクス。是非聞かせてくれ。」

 

「…そうだな。ジェラルト殿にベレス、雷霆のカトリーヌ…そしてイエリッツァ殿。この中の誰かだな。…俺としては、イエリッツァ殿かベレスだと思う。」

 

「へえ?なぜ?」

 

そう今まで話に無関心そうだったエーデルガルトが急に話に入ってくる。それにフェリクスは淡々と答えた。

 

「俺が最も手合わせをしたのは、イエリッツァ殿だ。ベレス、お前ともそれなりにやったが。共通しているのは、騎士らしさがない、という点だ。」

 

「お前は傭兵としての手段の選ばなさが、そしてイエリッツァ殿には鬼気迫るほどの気迫がある。もはや殺気とも言えるほどのな。」

 

「どちらも戦闘において決まった型ではなく、何をしてくるのか分からん所がある。それが理由だ。」

 

 

…戦闘のことになると、やはりフェリクスは饒舌になる。

 

 

ディミトリとエーデルガルトとイングリット、そして私は興味深く聞いていたが、他の皆はさほど興味がないようだ。

 

 

イングリットが素朴な疑問を呈する。

 

「それでは、二人が戦えばどちらが勝るのでしょうか。」

 

ディミトリがその疑問に答える。

 

 

「そればかりは状況次第だろう。達人同士の戦闘なら、ほんの僅かな天運が勝敗を分けることもある。」

 

フェリクスもその言葉に頷く。

 

「そうだ。武器の状態、消耗の度合い。状況によって簡単に勝敗は変わるだろう。だから2人挙げたんだ。…どちらが勝つかは、俺には分からん。」

 

エーデルガルトは、面白そうによく分からないことを言った。

 

「…その勝負、意外とすぐ訪れるかもしれないわね。」

 

本当にすぐにその機会が訪れていたのだと私が気づいたのは、随分と先の話だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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