女好きべレス先生の覇道   作:カバー

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女好きベレス先生の覇道 蠢く闇

 

 

 

 

 

ベレス視点

 

 

 

聖廟の襲撃の後、私とエーデルガルトはあらかたの報告をセテスに済ませ、今回の事件に関わっている、西方教会の息のかかった司祭達の処断にも立ち会った。

 

 

レアとセテス、そして綺麗な黒髪の短髪を左側になびかせた、綺麗な大人の女騎士。

三人が、淡々と捕えられた司祭達に死罪を言い渡す。

 

 

…まあ内部犯がいないとあそこまで露骨に武装した連中を素通りする事はないだろうと思ってはいたが。

西方教会上層部の討伐も決定したらしい。

 

 

「計画とは違った…!!!我々は騙されたのだ!」

 

「やめろ!我々を処刑するなど、主がお許しになるはずがない!!」

 

 

「何とも、救い難い愚か者どもじゃのお…」

 

 

 

処刑場へと向かう司祭達の、そんな捨て台詞を聞いて、当の主である女神ソティスはそう心底呆れたようにため息をついた。

 

 

 

西方教会。

王国のロナート卿の城がある地点から遥か西にある、王国一の堅牢さを誇る城砦アリアンロッドの西に位置するセイロス聖教会の分派である。

 

西方教会の司教は、兼ねてからガルグ=マク大修道院を中心とする中央教会が、ひいては大司教レアが教会の実権を握っている体制に反感を抱いていたと、エーデルガルトは説明してくれた。

 

 

 

…にしても、王国領主を焚きつけ、大修道院に侵入し、聖廟を襲撃し、その裏でレアの暗殺まで実行に移そうとしてたとは…

 

 

 

「西方教会単体でそこまでできるものだろうか…?」

 

「…何やらきな臭いのう。裏にアガルタの連中がおるやもしれん。用心せよ、おぬし。」

 

 

 

そんな風にソティスと小声で相談しながら、教室へと戻る。

エーデルガルトは先に戻っていて、生徒の皆にあらましを説明していたようだ。

 

 

この件に関与した司祭達は全員処刑という事実に生徒達は少し慄いているようだった。不安と猜疑の声を溢している。

 

ドロテアが私に問いかけた。

 

「先生は、レア様のやり方が正しいと思います?」

 

 

私は特に迷いもなく答えた。

 

 

 

「妥当じゃないかな。やった事がやった事だしね。今回のことを許せば、次を招く。命を狙われたんだから、徹底的に対処するのは理に適ってるよ。」

 

 

 

大多数の生徒は私の答えにどこか不満げだったが、ヒューベルトは不吉に笑いながら私の意見に賛同した。

 

「まあ、そうですな。暗殺まで企んだ輩を野放しにして利などまるでありません。私もそう思いますよ。……先生は、冷徹だが理に適った行動を忌避しない方のようで。」

 

 

そして、ヒューベルトは私にしか聞こえないぐらいの声量で呟いた。

 

「…なおさら、危険ですな。」

 

「……………」

 

 

 

私とヒューベルトの間に剣呑な雰囲気が流れる。

エーデルガルトも私をどこか探るように見つめている。

そんな中、セテスが私を呼び出した。レアが呼んでいるらしい。

 

 

 

 

 

 

 

すぐに大司教の謁見の間に入ると、レアとセテス、そしてジェラルトが私を待っていた。

 

レアは私を見て微笑んだ。

 

 

 

「感謝します、ベレス。貴女のおかげでお母様の遺体を不埒な輩の手に渡さずに済みました。…そしてジェラルトにも。貴方が暗殺犯に気づいたおかげで、何事もなく儀式を終える事ができました。」

 

 

 

ジェラルトはレアに軽く会釈し、私に話しかけた。

 

 

 

「お前、肩の傷は大丈夫か。マヌエラから聞いたぞ。それなりに深かったんだろ。」

 

 

 

死神騎士から受けた傷はまあまあ深かったが、ソティスの力とマヌエラの治療のおかげで今は特に何ともない。

マヌエラは感心しながらも呆れた口調で

 

 

 

「貴女ほど回復力の強い人、初めてよ、あたくし。…これなら消毒と包帯で何とでもなりそうね。良かったわ。実は、医務室が私の居ない間に誰かに荒らされてたのよ!包帯やら消毒やら…物が奪われてたのよね。嫌になるわ。」

 

 

と愚痴をこぼしていた。医務室を荒らした相手は気になるが、それを突き止めるのはまあ私の仕事ではない。

 

 

私はジェラルトに笑顔で頷く。

 

 

「大丈夫だよ、ジェラルト。もうほとんど治った。治してくれたマヌエラとソティスのおかげだね。」

 

 

 

ソティスは私の横で自慢げな顔をして胸を張っている。可愛い。

ジェラルトは私の言葉を聞くと、安心した様子で頷いた。

 

 

 

「そうですか。お母様が…ふふ。少し羨ましいです。」

 

そうレアはどこか寂しそうに呟く。

が、気を取り直した様子で私に語りかけた。

 

「天帝の剣は、知っての通りお母様のご遺体です。それをネメシス…いいえ。恐らくあの盗賊にそこまでの技術力はありませんでした。やはり…」

 

レアがそこで言葉に詰まる。その代わりに、セテスが心底忌々しそうに口を開いた。

 

 

 

「闇に蠢く者ども…君が女神ソティスから聞いたという、アガルタの民の残党がその剣を女神の遺体から造ったのだろう。…全く。忌々しい事だが。」

 

…確かに、天帝の剣はどこか生物の骨に似ているとは見て取れる。…だとすると、悍ましい話だ。

ソティスがそんな扱いを受けたかと思うと、怒りが込み上げてくる。

レアは無言で頷き、私に凛々しい顔つきで私に告げた。

 

 

「ベレス。その剣は貴女に差し上げます。…本来、お母様と共存している貴女が持っているべきだったものです。共に、闇に蠢く者どもを討ち果たしましょう。」

 

 

その宣言に、ソティスは不敵に笑って私の横で言った。

 

 

 

「あやつらは、どこまで行ってもこのフォドラの害虫でしかない。共に征伐できるのなら、わしも喜んで手を貸すぞ。…まあ、おぬし次第ではあるがな。そうセイロスに伝えよ。」

 

 

 

私はソティスに微笑んで頷き、レアにそのまま伝える。すると、レアは満面の笑顔で喜んだ。

 

 

 

「お母様がそばに居てくれると分かると、私も力が湧いてくるような心地になります。ええ。必ず成し遂げましょう。」

 

セテスも私に天帝の剣を渡すのに特に不満はないようだ。先日の私の誓いを信じてくれてるのだろう。

 

 

 

「無論、私もできうる限り力を貸そう。…そのような連中が居れば、フレンの身に危険もあるかもしれんしな。」

 

「ありがとうございます、セテス。」

 

レアはそこで、私に忠告し始めた。

 

 

 

「無いとは思いますが、もし生徒達が天帝の剣を使いたいと言っても、無闇矢鱈に使わせないでくださいね。」

 

「なぜ?」

 

私がそう問うと、ジェラルトは苦い顔で話に入ってきた。

 

 

 

「英雄の遺産はな、それはそれは特別だが、厄介なもんなんだ。俺も一度見たことあるんだが、紋章が無かったり適合しない紋章持ちが英雄の遺産を使うと…」

 

レアがそこで悲しげに続きを説明し始めた。割と衝撃的な事実を。

 

 

 

「……魔獣になるのです。元より、英雄の遺産自体が我らナバテアの力を無理に人が引き出そうとしたもの。…当然、その程度の危険性はあります。」

 

…となると、魔獣の元とは。もしかして。

 

「魔獣は、元は全て人だった?」

 

 

その私の問いに、レアは重く頷いた。

 

 

 

「……赤き谷の惨劇で、ネメシスに殺されたナバテアの民の紋章石が暴走し、彼らは魔獣となりました。…その他にも、我らナバテアの血を取り込んだ不遜な十傑の一部や、かの獣の紋章を持った…いえ。とにかく、そういった者たちの成れの果てが、魔獣なのです。」

 

 

「紋章石とは、我らがお母様からナバテアに伝わる、神竜の力の詰まった心臓。…その血も含めて、人間が軽々しく手を出して良いものではないのです。」

 

 

 

 

…よく理解できた。それは生徒に軽々しく持たせられない。

にしても、それをこの1000年近く隠し通し、十傑を貴族階級として安定させたレアには感動すら覚える。とんでもない苦労をしたはずだ。

 

 

「そういうわけだ。そのような強大な危険を孕んだ力と理解して、その剣を大事に管理して貰いたい。」

 

そうセテスが締めくくる。話はこれで終わりだろうか。私が礼をして謁見の間を去ろうとすると、レアが慌てて声をあげた。

 

「…お待ちなさい。それと、もう一つ話があります。」

 

「…ああ。そうだね。君とのお茶会の日程を決めるのがまだだった。」

 

 

 

そう私が答えると、レアはくすりと笑って、朗らかな雰囲気で答えた。

 

 

 

「それは是非来節の初めにでも。そうではなく、貴女の部下の騎士についての話です。」

 

私は不思議に思って首を傾げる。確か私の部下の騎士には…

 

「ジェラルトがもう居るが。」

 

その答えに、ジェラルトが面倒そうに答えた。

 

「…悪いな、ベレス。お前の下で働くのも何だかんだで悪くねえんだが、西方教会の件もあるし、今後騎士団も忙しくなりそうなんだ。騎士団長の俺が、つきっきりでお前の面倒を見るのは厳しくなっちまった。」

 

私はその言葉に落ち込んで肩を落とす。

そんな私を見て、ジェラルトはどこか嬉しそうに話し始めた。

 

 

 

「そんなに俺のことを大事に思ってくれてんのは嬉しいねえ。だが、まあ心配すんな。俺の代わりにはもうお前も会ってるが…えらい美女だったぞ。」

 

その言葉に、私は落ち込んでいた気分から一気に元気な気分になる。

 

そんな私を、ジェラルトは苦笑いしながらも微笑ましそうに見つめている。

 

レアが大声を上げて外に呼びかけた。

 

「シャミア、入りなさい。」

 

すると、司祭達の処刑の場に居た、綺麗な顔立ちの黒髪短髪の大人の女性の騎士が立っていた。

気品のある立ち姿だ。美しい。

 

 

「あんたが私の新しい上司か。…直接話すのは初めてだな。シャミアだ。これからはあんたの部下になる。…まあ、後ろ暗い仕事が特に得意だ。それなりに使ってくれ。」

 

 

そんな彼女の登場に、私は思わず興奮して破顔しそうになるのを必死で抑える。

 

これだよこれ!美女の部下に美女の大司教。そして可愛い生徒達。私の夢見た世界が今ここにある!

 

 

「…ああ。よろしく、シャミア。君みたいな麗しい女性を部下に持てて、私は幸せだな。」

 

そう私が言うと、シャミアは小さく微笑み、呟いた。

 

 

「なんだ、あんたも女がいける口か。珍しいな。このフォドラではそうそう見ないからな。」

 

 

…え。それって、シャミアも女がいける口ってこと?そう更に高まりながらも、私は言葉を返す。

 

 

 

「フォドラでは?つまり、君は‥」

 

「ダグザの出だ。セイロス騎士団じゃ私ぐらいだな。…なんだ。余所者だと軽蔑でもしたか?」

 

 

そう嫌そうにシャミアは疑問を呈する。私は微笑んで首を横に振った。

 

つまりダグザでは女性同士の恋愛も普通なのか。なんだ、ダグザ最高か?

 

「…いいや。私は美女をそんなことで差別したりしないさ。私はハーレムを作りたいんだ。色んな国の美女とも仲良くなりたいと思ってる。」

 

 

そう私が宣言すると、しばらく無言でこいつ正気か?と言わんばかりの顔を私に向けたあと、シャミアは声を上げて笑った。

 

 

「…くくく。いや、済まない。想像以上に面白いな、あんた。」

 

「それは何より。改めて、これからよろしく。シャミア。」

 

「ああ。よろしく頼む。」

 

そう言って私たちは握手を交わす。…弓矢使い特有の手の形だ。かなりの使い手と見える。

これからが楽しみだ。

 

 

 

 

 

**********************

 

 

 

 

 

大司教の謁見の間でそのような会話が交わされていた頃、ガルグ=マク大修道院近くの森の中で、一人の男が静かに立っていた。

 

見事な質の白い布に赤い刺繍を施した帝国風の貴族の服に身を包んでおり、黒い長髪を丁寧に後ろに梳かしている。高価そうな耳飾りが、風で揺れている。

 

その男、アドラステア帝国のアランデル公は、本来であれば一人で人気のない森を歩くような身分ではない。

…秘密の待ち人がなければ、だが。

 

 

 

やがて、アランデル公の前に、転移魔法で一人の人間が現れた。

赤と白の仮面で顔を覆っており、全身を黒の長い外套で覆っている。その姿からは、性別すらも読み取れない。

 

 

 

その人物は、アランデル公の前に歩み寄る。すると、アランデル公がその人物に語りかけ始めた。

 

 

「大司教は生きているようだな。…まあ、はなから西方教会の豚どもになど期待もしていないが。」

 

 

 

そう彼は西方教会の失敗を鼻で笑い、謎の人物にも冷たい目線を送った。

それに謎の人物は臆せず、淡々と話し始める。

 

 

 

「公よ。悲報と朗報がある。」

 

「悲報だが、セイロスの棺の中に遺体などなかった。」

 

 

 

そのセイロス教の信徒ならば衝撃で倒れそうな話を聞いても、アランデル公は眉一つ動かさない。

 

「ふむ。まあそうだろうな。…朗報とは?」

 

「朗報は、代わりに棺には天帝の剣があった。…紋章石は、無かったがな。」

 

「まあ、そうだろうな。石と遺産を共に保管するような愚は犯すまい。」

 

が、アランデル公は次の謎の人物の一言で顔色を変えた。

 

「だが、例の教師は天帝の剣を使って見せたぞ。あの赤き輝き、あれは英雄の遺産の適合反応と見て間違いあるまい。」

 

「何だと?…やはりな。危惧していた通りになったか。」

 

そのアランデル公の一言に、謎の人物は仮面の裏で眉を顰めた。

 

「やはり、だと?あの教師が天帝の剣を使えるだろうと、貴様らは分かっていたのか?」

 

その謎の人物の苛立った声もどこ吹く風と言わんばかりに、淡々とアランデル公は答えた。

 

「…分かっていたわけではない。だが、仮定が確信になったというだけだ。…唐突に変わった緑の髪と瞳に、クロニエが感じたという真祖の力。…まず間違いあるまい。」

 

その不明瞭な言葉に、謎の人物はまた苛立った声で問いかける。

 

「…何の話だ。」

 

 

 

「…おぬしが知る必要はない。ただ、一つだけ言えよう。紋章石は、その場に“あった”のだ。…忌々しいソティスめ。」

 

「…………」

 

謎の人物が無言で殺気を飛ばす。が、アランデル公はそれにすら動じない。

 

「…おぬしとその教師は、ある意味ではコインの裏と表のようなものだ。我々が作り上げた最高傑作が貴様であり、ナバテアが作り上げた最高傑作がその教師なのだろう。」

 

 

 

「いずれ、おぬしとその教師は争うこととなろう。…我らにとって、その者は最も危険な障害だ。ソロンの奴には手に余るかもしれん。…くれぐれも、気をつけるのだな、炎帝よ。」

 

「例の件には、死神を貰おう。あやつなら、うまく立ち振る舞えるだろう。」

 

そう言うと、アランデル公は転移の魔法を使用し、その場から一瞬にして消え去った。

 

一人残った炎帝は、忌々しそうに地面を蹴ると、短く呟いた。

 

「貴様らの最高傑作が私で、ナバテアの最高傑作が師…か。」

 

「その造られた者達が手を組み、どちらの創造主をも倒すというのは、さぞかし気分が良いだろうな。」

 

 

そして短く笑うと、炎帝もお付きの従者の転移魔法でその場を去った。

 

…森にまた静けさが戻った。

炎と闇は、少しずつ敵対の兆しを見せ始めていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

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