ベレス視点
昨日の天国のような時間から目覚めたのは翌日の早朝の日の出頃。結局、レアの自室で、ソティスとレアとの三人での行為の後にそのまま眠りに落ちてしまったらしい。
裸のまま眠ってしまったが、レアと二人で寝たからか体はほのかに暖かい。
「…まずい。講義の準備まだ終わっていない。」
私は慌てて起きあがろうとするが、レアが眠ったまま私の腕に自身の腕を絡める。
「…まだ、行かないで‥」
「……!!」
え?女神?女神の娘だった。
昨日の行為の後そのまま眠ったのもあって、レアも私と同じく裸だ。
朝日に当たって薄緑の髪が鮮やかに映えており、たわわに実った胸の果実がちらりと布団からのぞいている。
…私のつけた甘噛みの後も身体中に残っている。
一言で言うと、めちゃくちゃ唆る。
「ッ!それはだめだ。」
私は自分の頬を平手打ちし、冷静さを取り戻す。
可愛い生徒たちが講義を楽しみにしているんだ。
後ろ髪を引かれる思いだが、行かなければ…
私は眠っているレアの額にそっと口付けをすると、優しく腕を解いて寝具から抜け出した。
服を丁寧に着て、そっと部屋を出る。
どうやらソティスもまだ眠っているらしい。なら私一人で手早く色々済ませてしまおう。
小走りで寮の自室まで戻る。
すると、私の部屋の前でシャミアが座り込んでいた。
私を見ると、ゆっくりと立ち上がって呆れたように呟く。
「先生、部屋に居ないと思ってたら、朝帰りか。これから私達と講義の準備だろう。…眠らないで大丈夫なのか?」
「いや、別の場所で寝てきたから。大丈夫だよ。」
その私の答えに、シャミアはふっと笑って私の首元を指で軽く撫でた。
「っん!シャミア!?何を…」
「…女遊びはいいが、少し落ち着け。首筋に歯形がついてるぞ。」
私は顔を赤くして首を隠す。…しまったな。
結局、私はマヌエラから貰っていた包帯で首を隠し、近くの水場で顔を洗って冷静になる。
…そこから大急ぎでシャミアと午後の野外訓練の準備を終え、午前中の剣術の講義の準備も終える。生徒たちが講義に向かう頃には、なんとか訓練場で準備が整った。
…ここまで講義の準備が遅れたのは、本来の担当のイエリッツァ先生が体調不良で休むということで、急遽私に話が回ってきたからだ。
1日単位での講義の話が急に投げられるのは、本当に勘弁してほしい。
「…なんとか終わりましたね、先生。凄い手際の良さでしたよ。」
そう女のセイロス騎士が話しかけてくる。
今日は生徒一人一人に試合形式の稽古の講義をするために、セイロス騎士団の面々にも協力を要請しておいた。
…まあ、カトリーヌのような聖騎士や主戦力となる精鋭騎士は西方教会絡みでほとんどが大修道院を離れているのだが。…肝心の残っている騎士団の実力者は、まだ来ないし。
講義が始まるかという寸前に、その実力者、ジェラルトは呑気に歩いてきた。
「よお、ベレス。どうした?そんなに睨んで。」
「………遅い。もう講義が始まるよ。準備すっぽかしたでしょ。」
そう私が軽く睨みながら言うと、ジェラルトは豪快に笑って言った。
「なに。俺が居なくても何とかなったじゃねえか。…俺も書類仕事があってな?まあ来たんだから良いだろ。」
そう笑って誤魔化すが、私の首の包帯を見ると少し怪訝そうな顔で問いかけてきた。
「おい、その首どうした。怪我でもしたのか。」
「いや?昨日素敵な女性と寝たから。甘噛みの跡があって…」
「ほう。修道女でも口説き落としたか。お前は相変わらずだな。」
そんな風に話を交わしていると、生徒達が訓練場に入ってくる。
今日は騎士も手伝う大掛かりな講義なので、三学級全員の生徒が集まっている。
逃げようとしたリンハルトもカスパルとフェルディナントの2人係で無理やり引きずって来たようだ。
「それでは、剣術の講義を始める。君達には私を含めたここにいる騎士達相手に実践形式で腕を見せてもらう。…訓練用の剣だから怪我の心配もない。全力で学ぼう!」
そうして騎士達数名に生徒数十名がそれぞれ十名ずつ程度分かれて集まり、一対一での試合形式の講義が始まる。
試合の後には、反省点を皆に伝えるようにも指示してある。
私の班の中では、ペトラとイングリットが特に教え甲斐がある生徒のようだ。
特にペトラは私の動きを見て隙を付くような動きが巧い。
…まあ、まだ甘い部分はあるが。
「…ペトラ。腕の振り方が少し甘いね。もう少し小さく剣を振うようにすると、君の隙を付く動きに合うと思う。」
「頭では、理解、できます。でも、実践、難しい、ある。あります。」
素直にそう答えるのも、ペトラの美徳だ。
ペトラはブリギットの姫であり、帝国に従属しているブリギットの都合上、国賓ではあるが、実質的には人質として連れてこられたのだろう。
それでも全力で学べることを学ぼうとするのは、本当に他の生徒にも見習ってもらいたいぐらいだ。
「よし。なら、私が手本を見せよう。こうやって…」
そんな調子で無事に講義が進んでいると私が思った瞬間、怒声が端の方から聞こえて来た。
「おい!なぜ俺より騎士であるお前の方が剣が下手なんだ!…ええい!まず剣の握り方がなってないぞ!」
「…くそっ!俺だって必死にやってるんだよ!」
慌ててそちらの方を見ると、フェリクスと新人の騎士が言い争いをしている。…どうやらフェリクスとしては新人程度の腕ではあまりにも物足りなかったらしい。
「…フェリクス!やめなさい!すみません先生!すぐに止めます!」
慌てた様子でイングリットがフェリクスに走って行き、ディミトリも止めに向かう。
が、フェリクスは2人の制止を無視して、私の元へとずんずん歩いてくる。
「おい。」
「…フェリクス、いくら何でも講義中に怒鳴るのは‥」
そう私が嗜めると、フェリクスは舌打ちして言い返した。
「あれの腕が俺より劣っているのが悪い。おい、お前が俺の相手をしろ。」
相手の新人の騎士もこちらに歩いてくる。そして項垂れて私に謝ってきた。
「…済まない、先生。実際、俺も頑張ったが、生徒相手に負けてしまった。任せていいだろうか…?」
私はため息をついて頷く。実際、フェリクスの剣の腕は生徒の中でもずば抜けて高い。
…見誤ったかな。私の失敗だ。フェリクスはジェラルトか私が担当すべきだった。
イングリットがそんなフェリクスの背中を力の限り引っ叩く。
「ッ!ええい!イングリット!何を!」
「…貴方ねえ!だからって講義中に怒鳴るなんて!他の人の迷惑も考えなさいよ!」
「知るか。俺だって剣の講義と聞いて楽しみにしていたんだ。不完全燃焼で終われるわけがあるまい。」
…実際、もう講義も終盤だ。なら、フェリクスと私の一騎打ちで締めるのも悪くない。周りの皆もそこから学べるものがあるだろう。
「分かったよ、フェリクス。なら一騎打ちだ。」
そう答えると、フェリクスは笑って答えた。
「それでこそだ。…やるぞ。」
生徒達全員が見学する中、私とフェリクスは互いに訓練用の剣を構えて睨み合う。
「…先に一本取った方が勝ちだ。剣の直撃、または、相手が参ったと言えば勝ち。」
「異存はない。」
そして、フェリクスが仕掛けて来た。
「せいッ!!!!」
短い掛け声と共に、フェリクスは正面から剣を振り下ろしてくる。
速い!
私は後退してその斬撃をまず躱し、蹴りでフェリクスの胴体を狙う。
それをフェリクスは剣で受け、両者が元の立ち位置に戻る。
周りがその一連の流れの速さにざわつく。
そしてまた互いに睨み合う。…その均衡を破るには、相手の虚を突くのが一番良い。
「はあッ!!」
「ッ!なんだと!?」
私は剣をフェリクスに向かってぶん投げた!
フェリクスは咄嗟に剣でそれを弾くが、動揺で体が隙だらけになる。
私は走ってフェリクスの間合に低い姿勢で入り、足払いでフェリクスを転倒させる。
「うおっ!?」
フェリクスは剣を取りこぼしながら、横向けに転倒する。その上に私は乗り、フェリクスの剣を拾ってフェリクスの喉元に突きつけた。
「……参った。」
その一言で、試合は終了した。が、周囲にはざわめきが広がる。まあ、正道とは程遠い勝ち方だったしね。
先ほどの新人のセイロス騎士が非難の声を上げた。
「せ、生徒相手に今の試合は余りにも卑怯だったのでは?もっときちんとした決闘を…」
そんな声に、当のフェリクスが鼻で笑った。
「何を言っている。剣のやり取りに卑怯もくそもあるまい。ただ俺の実力が足りずに負けた。それだけだ。」
フェリクスの晴れやかな顔を見て、騎士は言葉に詰まる。そこにジェラルトも加勢した。
「…今生徒達が学ぶべきなのは、こういう手を使ってくる相手なんざ戦場にはごまんと居るって話だと思うがね。小綺麗な決闘術より先にな。」
周りからは段々と賛同の声が大きくなる。レオニーも大声で言った。
「そうだよ!あたし達が学びたいのは、実践で使える技だ。師匠の言う通りさ!良い試合だったじゃないか!」
そんなこんなで、取り敢えず無事に終わった講義に私は一息つく。
そんな私に、フェリクスと先ほどの騎士が歩み寄って来た。
「……完敗だった。俺もまだまだ未熟らしい。これからも指導よろしく頼むぞ。」
騎士は、辿々しく言葉を紡いだ。
「その、済まなかった…卑怯だなんて言ってしまって。確かにジェラルト殿の言う通りだ。俺の未熟さを今日は痛感したよ。」
「…いや。確かに今思うと、少し大人気なかったかなとは思うよ。ただ、生徒には容赦のなさを学んでほしかったし、フェリクス相手に手加減はできなかった。」
そう言う私にフェリクスはふっと笑うと、真面目な顔になって言った。
「流石だな…もし良ければなんだが…俺もお前の学級に入れてくれないか。」
「ハンネマン先生には何の不満もないんだがな。やはり剣の指導は頼めん。…お前からどれだけのことを学べるのか、興味が湧いた。」
そんなフェリクスに、私は笑って言葉を返す。
「講義中に怒鳴らないなら良いよ。」
「……善処しよう。」
そのフェリクスの答えに、私と騎士は顔を見合わせて笑った。
…こうして、黒鷲の学級に、新たな剣客が加わった。
フラルダリウス家の彼を迎えたことが、後々私たちの闇に蠢く者達の討伐に貢献することになるのだが、それはもう少し先の話だ。
****************
午後の実地訓練は、隠密の訓練だ。
シャミア指導のもと、生徒達は森の中で三つの学級の陣営に分かれて互いに隠密しあい、泥を自身の服にぶつけられたら失格だ。
私とシャミアは全体の位置が俯瞰できる高台で彼らの動きを見守る。
「…あのペトラって子は悪くないな。狩人の動きだ。」
そう次々と相手の陣営の生徒を狩りをするかのごとく見つけて泥まみれにしていくペトラの動きにシャミアが呟く。
「ブリギットで狩りをよくしていたらしい。そのおかげだろう。」
「…なるほどな。フォドラで呑気してる貴族連中では相手にならんな。」
そうシャミアは薄く微笑む。そんな彼女の様子に少し気になって、私は問いかける。
「フォドラ人が嫌いなの?」
私の問いに愚問だと言わんばかりにシャミアは吐き捨てる。
「別に?特に何の思い入れもないさ。帝国には少し思うところがないわけではないが。」
…シャミアの故郷であるダグザは、ブリギットの所有権を巡ってアドラステア帝国と激しい戦争を繰り広げて来た。
最近ではダグザとブリギットの連合軍を、カスパルの父であるベルグリーズ伯率いる帝国軍が返り討ちにして、ブリギットは今や帝国の傘下だ。
「アドラステア帝国と戦ったダグザの部隊に居たの?」
「…しつこいな、あんた。まあいいか。そうだ。そこで相棒を失って、故郷に帰る道もなくなった。」
シャミアはさっぱりと割り切ったかのように言う。それならあまり深入りして聞くものでもないだろう。
それに、冷たくも美しいシャミアをこれ以上困らせて嫌われたくもない。
「その君の目から見て、生徒達の動きはどうだい?」
「……ペトラはかなり良い。だが他はまだまだだな。次点でヒューベルトとクロードは悪くないが。」
「私も概ね同意見だな。一番酷いのは…ヒルダか。明らかにやる気が感じられない。」
その私の言葉に、シャミアは笑いながら答えた。
「真っ先に見つかりに行ったな。泥もすぐ払い落とせる場所にわざとぶつかっている。ばれないとでも思ったのだろうか。…後で絞ってやる。」
そんな調子で講義は無事に終わり、ヒューベルトとペトラが居る黒鷲の学級が勝利した。
ローレンツとフェルディナントが泥まみれで不愉快そうに呻いている。
総評と反省点を伝えた後、その場は解散となった。この後は蒸し風呂が混みに混むだろうな。
…生徒達と入れるなら私も入りたいが、汚れていない私は遠慮しておこう。
そんな風に考えていると、シャミアが近づいて来た。
「あんたの学級が勝ったな、おめでとう、先生。」
…そう微笑むシャミアの笑顔に思わず見惚れる。そんな私に呆れた様子ながらも、シャミアは私の耳元で囁いた。
「私に見惚れるのは構わんが、私は抱く方だ。…趣味が合わないなら、やめておけ。」
そんな彼女の色気にやられそうになる。が、何とか堪えて私は笑顔で言葉を返した。
「生憎と、私は抱く側も抱かれる側もやれるのさ。可愛い女の子と美女相手ならね。」
…シャミアを堕とせれば、私の教師人生はより光り輝くものとなる。…頑張ろう。怜悧な美人に抱かれるのも私は大歓迎だ。
ソティスが呆れたように呟いた。
「抱かれる側に行くのなら、堕とされるの方が適切じゃろ…」