ベレス視点
その後、ジェラルトと私、そしてシャミアはレアの命で、浮浪者の入っていったアビスへの通路に潜っていった。
結果から言うと、事態は凄まじくあっさりと白状したユーリスによって、収束へと向かった。
私たちの姿を見た途端に、待ち構えていたユーリスは頭を下げた。
「…いや、本当にすまねえ。俺たちを指導する先生にまで迷惑かけて…」
その結果、アビスの管理者であるアルファルドが責任を取る形となり、大修道院の一室で騎士の監視付きの謹慎処分となった。
…彼らに自身が枢機卿だと触れ回ったから会談の場所が割れたのが効いたようだ。
クロードはアビスとは無関係で、教会を探りたくて枢機卿の会合の場所を探り当てて覗きにきたらしい。
…別にそれ事態は罪ではないし、相手は学生だ。他言無用を条件に、こちらは今節の間、大修道院の清掃活動に従事するということで解決となった。
ツィリルにこき使われているが、何故だか嬉しそうだ。
「そこ!クロード、壁の隙間にまだ埃があるよ。きりきりやってよ。」
「はっ!ツィリル殿!お任せあれ!」
「…はぁ。ふざけないでよ。」
そこから、事態は一気に動き始める。
ユーリスがアルファルドに脅されて、宝杯の儀の計画に加担させられていたとレアに告げたのだ。
…レアの言っていた内部の内通者というのはユーリスだったらしい。
ユーリスはユーリスの母親と部下を殺すという脅しをアルファルドから受けており、今までレアとの連絡が途絶えていたのだという。
…ユーリスが密偵を送ったのは、もしかしてアルファルドをこうやって部下と連絡が取れない状態にするためだったのだろうか。
レアの予想通り、アルファルドは私の母親のシトリーを、宝杯の儀で蘇らせようとしていたらしい。
ユーリス達四人を生贄にして。
彼らを操り、封印されている宝杯を手に入れる判断でもあったようだ。
レアは事態を重く見、アルファルドから枢機卿の称号を剥奪し、私にアビスの管理権を移行した。
ユーリスの母親は即座に保護され、アルファルドの部下の背教者はほとんどが投降。
瞬く間にユーリスとレアの手でアルファルドの計画は挫かれてしまった。
アルファルドは敵意をむき出しにし、話も聞かない状態らしい。
…レアから私とジェラルトは、アルファルドの説得を任された。
「彼は大きな過ちを犯しましたが、それでも私の子同然なのです‥どうか、更生のために力を貸してください。」
ジェラルトは、アルファルドが捕えられている部屋の前でため息をついて、隣にいる私に話しかけた。
「…ったく。あのユーリスって小僧のおかげで、何がなんやら分かりもしねえが解決したらしいな。」
「まだだよ。アルファルドを説得しないと、本当に解決したとは言えない。」
そんな私の答えに、ジェラルトは重く頷くと、ゆっくりと扉を開けた。部屋の中は、酷い有様だった。物が散乱し、家具で窓を破壊しようとしたのか、鉄格子が付けられている。
その部屋の中心にいたアルファルドは、酷い顔をしていたが、私たちを見ると、笑顔になって言った。
「ジェラルト殿!ベレス!貴方達なら、来てくれると思っていましたよ。さあ、共にシトリーを、再びこの世に…」
その言葉に、ジェラルトが悲しそうに首を横に振った。
「…それは出来ねえよ。」
そのジェラルトの言葉に、アルファルドは信じられないものを見た顔になった後、真っ赤な顔で叫んだ。
「ふざけるな!お前の妻を蘇らせようとは思わないのか?もう一度、彼女の笑顔を…!」
「…あいつは蘇らせられねえし、もし仮にお前の試みが成功しても、シトリーは笑えねえだろうよ。」
ジェラルトは淡々と言葉を続ける。
「あいつが、子供達を犠牲にして蘇って、喜ぶと本気で思ってんのか。自分のためにお前が手を汚して、笑えると本気で思ってんのか。」
「………そんな綺麗事で!罰なら後でいくらでも私が受ける。だから…」
そんなアルファルドに、ジェラルトが大声で叫んだ。
「いい加減に目ェ覚ませ!!馬鹿野郎!!!」
「………!」
アルファルドはその大声に思わず怯む。ジェラルトはなおも大声で続ける。私を指差して。
「こいつを見ろ。…ベレスを見ろ。こいつの中に、シトリーは居るんだよ。この悲しそうな顔を見て、まだ気づかねえのか!」
…確かに、悲しい気持ちではあったが、そんなに顔に出ていただろうか。母の友人の善人がこんな風に歪むのは、あまりにも悲しい。
「…………私、わたしは…ただ、もう一度だけ!見たかったんだ!彼女が貴方の隣で、ベレスの隣で!ただ当たり前の幸せを得られているのを!」
ジェラルトはそんなアルファルドの絞り出すような声を聞いて、無言で頷き、静かに話し始めた。
「…そうだな。俺もそう思う。思わなかった日はねえよ。でもな。」
「あいつは、自分か娘かの命の選択で、娘を喜んで選んだんだ。…その選択まで、嘘にはしないでくれ。」
「……………」
アルファルドは、俯いて涙を流し始める。
私たちは、そっと部屋を出た。
私はジェラルトに話しかけた。
「ねえ、ジェラルト。」
「うん?何だ?」
「もっと聞かせてくれ、母の話。」
ジェラルトは私に振り返ってきょとんとした顔をした後、本当に、本当に優しい笑顔で頷いた。
数日後、アルファルドは冷静になり、模範的な行動を取るようになった。
それを見てレアも判断を決めたようで、アルファルドは東方教会に飛ばされることとなった。
再出発の機会を与える、ということらしい。
アルファルドが東方に立つ1日前、私とアルファルドは、母の好きな花を持って、母の墓参りに来ていた。
「……彼女の遺体はここにはありませんがね。ただ、想いは伝わるでしょう、きっと。」
私は笑って答えた。
「ジェラルトと同じことを言うんだね、アルファルドは。」
アルファルドは少し驚いた顔をした後、吹っ切れたように微笑んだ。
「…ようやく、彼と同じ気持ちになれたから、かもしれませんね。」
アルファルドは花を墓に備えると、静かに目を閉じて祈りの所作をした。私も目を閉じて祈る。
ソティスはそんな私たちを見て、無言で柔らかな笑顔を浮かべた。
アルファルドは祈りを終えると、私に呟いた。
「…私は、君の味方です。少し離れた場所に行ってしまいますが、何かあればいつでも訪ねてください。呼ばれれば飛んで行きますよ。」
「思い残すことはもうありません。では、行きましょうかね…。」
そう言うと、アルファルドはゆっくりと墓場から去っていこうとする。すると、意外な人物の声が聞こえた。
「…ちょっと待ってくれよ、アルファルドさん。」
「…ユーリス。私を笑いに来たのですか?」
ユーリスはそんなアルファルドの答えに笑うと、首を横に振って、後ろを指さした。
そこには、こちらに走ってくる人達が居た。…彼らは、アビスの人達だ!
荒くれ者が叫んだ。
「ま、待ってくれよアルファルドさん!俺たち、まだろくに礼も言えてねえのに!」
老人が頷き言った。
「わしのような身寄りのない元貴族を、あんたが拾ってくれたんじゃ!あんたが飢えそうなわしに飯を食わせてくれたこと、絶対に忘れんわい!」
女が言った。
「わ、私のような行き倒れの貧民のために、アルファルドさんは教団から出来る限りの支援を引き出してくれた!本当にありがとう!」
子供が叫んだ。
「また僕と遊んでよ!…行かないで!アルファルドさん!」
「…………………君たちは。」
ユーリスが、アルファルドの肩を叩いて言った。
「…確かにあんたは俺たちを利用しようとした。それは一生許さねえ。でもな。」
「…あんたに救われた連中も、こんなに居るってことは、忘れないでくれよな。」
「……………………」
アルファルドは無言で呆然としている。が、やがて腹から吐き出したかのように長い息を吐くと、笑顔になって彼らに言った。
「…ありがとう、皆さん。私は、褒められるような人間ではありませんが、貴方達を見ると、大事な人に、少しは顔向けできるような気がしてきます。…私の代わりにはベレス先生がなります。彼女は、よく出来た人です。皆で、支えてあげてください。」
アルファルドは去った。
少し困った人だったけれど、今の彼を見たら、きっと母も笑ったはずだ。ジェラルトからよく話を聞いた今なら、そう思える。
「貴方はいつも周りを笑顔にするのね。」
そう言って。
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ベレス視点
いよいよシャミア相手に決戦の日。今日はゴーティエ家に遠征に行く前の、ガルグ=マク大修道院最後の日だ。
それゆえ、今日は休日。黒鷲の学級の生徒の皆も思い思いに体を休めている。
明日の頑張りのために、今日シャミアを堕とす!
今まで何度かシャミアの前で肌を見せたり、胸をそれとなく当てたりして誘惑してきた。
呆れたようにシャミアはその度に言った。
「誘ってるな?…私に襲われたいのか?私は、かなり激しく抱くぞ。」
ソティスが呆れたように呟く。
「…喰われにいく獲物など、初めて見るわい。」
私は今日のために買ってきた、紐状のかなり布面積が少ない下着を着る。
…そして、自室の布団に潜り込んだ。
しばらくすると、扉が叩かれた。
「…先生、呼んだか?」
私は布団の中からシャミアを冷静を装って呼ぶ。
「…悪いが、入ってきてくれないか?」
シャミアは無言で扉を開け、中に入る。布団の膨らみを見て、呆れたようにため息をついた。
今は早朝だ。ならこう思うはずだ。
「…おい、呼んでおいてまだ寝てるのか。起きろ、先生。」
…予定通り。シャミアは寝具の横にまで来て、私の布団に手をかけた。次の瞬間、私はシャミアの手を掴んで、布団の中に引き摺り込んだ。
「…ッ!?」
シャミアは咄嗟のことであっさりと布団の中に入る。そして、私は布団の中で手を広げて言った。
「抱いて?」
…布団の中は、性行為の際に場の雰囲気を盛り上げる、花の精油の香水の匂いで満ちている。
そして、紐のような下着。…私はそれなりに胸は大きい。もはやほぼ出ていると言っても過言ではない。
「………………………はぁ。」
シャミアは、心底呆れたようにため息をつく。
…やばい。失敗したかな。
「…すまない、これ…はッ!?ッ………はあっ」
シャミアは、その端正な顔を、私の顔に急接近させ、私の唇に、自身の柔らかい唇を無理やり押し当てた。まるで貪るかのような口付け。…睫毛、なっが。
私は口を離した途端、大きく息を吸う。シャミアの香りと香水の香りが混じって、頭がくらくらする。
「あんたなあ…私は今までそれなりに我慢してたんだ。分かってるのか?」
そう言ってシャミアは私は私の胸を揉みしだく。紐などもう外れかかっていて、もはや裸同然だ。
シャミアも冷静な顔のままだが、息が上がって、顔も赤くなっている。
「…加減できないぞ。明日のことなど考えない。それでも良いか?」
布団の中で、二人の女の匂いが混じり合う。
「…それは良いけど。シャミアの裸も、見たい。」
シャミアは一瞬無言でため息を吐くと、また私の唇を貪った。長い舌が、私の口内を蹂躙する。
「…ッ…ッ!?…ふぇ…はぁ…はぁ…」
シャミアは獲物を見つけた狩人のような目で、舌舐めずりをして、息の上がっている私を見つめる。
「…本当に、どこまで私を興奮させるんだ?ベレス。」
「どこまでも、だよ。シャミア。」
そうして匂いと体が混じり合う。
…翌日のために、腰砕になった体をソティスに治してもらったのは、ご愛嬌だ。
翌日の朝、ドゥドゥーは私とシャミアに無言で、ダスカーベアのステーキを差し出した。
「…食え。ああいった行為の後には、肉が一番だ。…昨日は、随分激しかったな。………もう少し、隣の部屋のことも考えてくれ。」