女好きべレス先生の覇道   作:カバー

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女好きベレス先生の覇道 断ち切れない腐れ縁

 

 

 

ベレス視点

 

 

 

私たちは、早馬に乗って二日半ほどで、ガルグ=マク大修道院の遥か北、フォドラの最北であるゴーティエ辺境伯領に到達した。

 

翠雨の節で、帝国と同盟では温暖な気候の節なのだが、王国はこの時期でも冷える。ぽつぽつと降る雨が、確実に体温を奪っていく。

 

私たちは厚手の外套を羽織って、マイクランの占領するコナン塔へと向かう。

 

帝都出身の者には、かなり慣れない環境だろう。モニカなどかなり震えている。…フェルディナントが気を遣って自分の分の外套をモニカに手渡していた。

 

フェルディナントは自分の父親が仕立ててくれたという外套があるから大丈夫だと強がっているが、…あれ、防寒対策に作られたものじゃないだろう。

私は無言でフェルディナントに予備の毛布を渡した。

 

王国領出身のギルベルトとシルヴァン、そしてフェリクスが居て良かった。

どの程度の服装と準備で行けばいいのか、よく理解している。

この時期はまだ良いが、本格的に冬を迎えると雪が積もって馬でも移動できないらしい。

 

私の周りを浮いている、ソティスの薄着がかなり浮いて見える。いや、実際に浮いているのだが。

 

ユーリスが忌々しそうに口を開いた。

 

 

 

「…なあ、見たかよ。ここに来るまでの近くの村落の様子を。…マイクランが襲ったんだろう。あれじゃ冬は越せねえぞ。…生きるための略奪じゃねえ。弄ぶだけ弄んだって感じだ。胸糞悪い。」

 

 

そうユーリスは珍しく端正な顔を歪ませて吐き捨てる。それにシルヴァンが淡々と答えた。

 

 

「あんな奴のために怒るだけ労力の無駄だぜ?ユーリス。…さっさと片を付けちまおう。」

 

「…略奪された村への支援も、ゴーティエ家としてはこれから考えなくちゃあな‥」

 

 

お家騒動に加担するのを面倒そうにしていたカスパルも、怒りの形相だ。…あれほどの略奪の跡を見れば、誰だってそうなるか。フェルディナントも、貴族として許されぬと憤っている。

 

 

やがて激しくなってくる雨の中、不気味な黒い塔が現れた。

…建てられてから随分と古そうだ。所々が崩れているが、造りそのものはしっかりしている。

あれを落とすのは骨だな。

 

 

「あのような拠点を落として使うなんて、マイクランもやはりそれなりの将のようね。」

 

 

そうエーデルガルトがぽつりと呟く。それにギルベルトは同意して答えた。

 

「…数百年前、あの塔は北方の民スレンとの戦闘拠点として建てられました。…私よりも、次期ゴーティエ家当主のシルヴァンの方が詳しいでしょうが。」

 

 

「ええ。あれはうちの中でも有数の、かなり頑丈な要塞です。…落とすには骨が折れるだろうなあ。」

 

そんなシルヴァンに、エーデルガルトは問いかけた。

 

 

 

「貴方の兄上を討ち取るのに、少しの躊躇もないの?」

 

 

シルヴァンは珍しく女の子であるエーデルガルトを少し睨むと、ぽつりと呟いた。

 

 

「…今更勘弁してくれよ。奴はもうただの質の悪い盗賊だ。…ゴーティエ家とは何の関係もない。」

 

 

その答えに、エーデルガルトも少し苛立った様子で答えた。

 

「それはないでしょう。彼がああなったのは、紋章のせいで人生を決められたから。…彼もまた運命の、女神の犠牲者よ。」

 

 

それにユーリスが異を唱えた。

 

「…おいおい。あの村の様子を見てもそう言えるのかよ。あいつは自分で道を選んだんだ。好きに生きたいってんなら、先生みたく傭兵になる道だってあったろうが。何でもかんでも女神様のせいにすんなよな。」

 

 

そんなユーリスの反論に、ソティスも頷いている。

 

 

「全くじゃ!紋章そのものがわしから人間が掠め取った物であろうが。元はといえば闇に蠢く者どものせいであろう。」

 

 

そんなユーリスにエーデルガルトは悲しそうに呟いた。

 

 

「…誰もが貴方ほど強くはないのよ、ユーリス。」

 

 

 

そうして、コナン塔の攻略が始まった。

 

私たちはまず、シャミアとペトラを偵察に送り、賊がどこに居るかを探る。未知の塔を攻め落とすのと、内部情報をある程度探ってから落とすのでは、難易度が天と地ほど違う。

 

やがて彼女らは戻ってきた。

シャミアとペトラは淡々と告げた。

 

「…塔の最上階まで賊の気配はほぼない。密集して固まらせているようだな。よく考えられてるよ。少ない人員で防衛するにはそれが一番だ。」

 

「攻める、厳しい、思います。総力戦、避ける、難しい、です。不意打ち、推奨します。」

 

 

私たちはその報告を聞いて、重装兵のギルベルトとエーデルガルトを先頭にしながら、塔を駆け上がっていく。

 

 

何度目かの階段の前で、ギルベルトが警戒するように呟いた。

 

「…賊の気配が濃くなってきました。最上階が近いのでしょう。」

 

「なら私がまず仕掛ける。その後はエーデルガルトとギルベルトが先頭に立って攻めよう。」

 

 

 

そう私は宣言し、天帝の剣を取り出す。紋章石の欠けている英雄の遺産が、燈色の輝きを放つ。

 

 

…英雄の遺産といえど、使い過ぎれば壊れるし、修理には貴重なダークメタルを使用しなければならない。当然、使用できる回数は限られる。

なら使うべきは、一番重要な場面と‥

 

 

「ん?おい!てめえら誰だ!騎士団の連中か!」

 

「あ、あれお頭のと同じ英雄の遺産じゃ…ってうおおおっ!!?」

 

 

敵の出鼻を挫く時だろう。

 

 

私は天帝の剣を縦横無尽に伸ばしながら振り回し、集まってきた盗賊の部隊を八つ裂きにしていく。

数回振り回すと、目の前には死体の山が出来上がっていた。

 

 

「ひ、ひいいっ!?」

 

背後に控えていた盗賊連中も怯んでろくに動けない。

その瞬間、エーデルガルトが叫んだ。

 

「黒鷲の学級!進軍せよ!!!」

 

 

 

エーデルガルトとギルベルトを先頭にして、カスパルなどの前衛職が一気に突っ込んでいく。

無防備な敵を食い破って、どんどんと敵を屠っていく。

完全に敵の不意をついた形だ。

 

が、私たちの背後の階段から駆け上がる音が聞こえてくる。

シャミアが勘付いた。

 

「敵さんの増援のようだな。ベルナデッタ、共に片付けるぞ。」

 

「え、ええ!?あ、あたしですか?」

 

「そら、構えろ。」

 

「こ、こうなったら!やってやるもん!!」

 

シャミアとベルナデッタの率いる弓兵部隊が、一斉に階段へと弓を構える。そして、

 

「撃て。」

 

階段を登り切ろうとする盗賊たちに、弓の雨が降り注ぐ。盗賊達に重武装する余裕など殆どない。故に、盗賊達には矢の一本一本が致命傷だ。

 

「…が、あっ!?」

 

「た、たすけ…!!」

 

「…生徒たちも頼もしいですね…!」

 

 

そうギルベルトが隣の私に斧を振りながら話しかけてくる。

私は軽く頷いて、目の前の敵に鉄の剣を振るった。

 

 

ここまでは順調だ。敵に対して、確実に有利を取りながら攻め続けられている。が、少しの違和感。

 

「……?」

 

何だろうか。確かに感じるが、その違和感の正体は掴めない。

すると、ユーリスが小声で話しかけてきた。

 

「気づいたか?先生。あの壁、不自然に周りの壁と違って埃がない。…隠し部屋があるとみた。」

 

…!!気づかなかった。もしこのまま行けば、挟撃に遭い、私たちはそれなりに苦戦していただろう。

 

「灰狼の学級で対処する。あんたらはそのまま突っ込んでくれ。」

 

「分かった!」

 

私たちがその壁を背に、敵陣に突っ込んでいくと、ユーリスの予想通り背後の壁がゆっくりと開き始める。しかし。

 

「とりあえず殴りゃあいいんだろ!?」

 

「私の魔法の錆にしてくれますわ!!」

 

バルタザールが開きかけた壁をぶん殴り、コンスタンツェが魔法の炎を壁の中に打ち込む。

虚を突くために出てきたはずの盗賊たちは、完全に虚を突かれた。

 

 

 

私たちの優勢。だがまだ油断はできない。敵にはまだ"破裂の槍"という切り札がある。

 

 

生徒たちに戦わせるにはあまりにも危険な敵だ。

できれば私だけ先にマイクランの元へと行きたい所なのだが…

 

そう思案していると、シルヴァンが私の前に来て叫んだ。

 

 

 

「乗ってください!先生!俺の馬なら、ある程度無茶して敵陣を突っ切れます!マイクランを仕留めれば、それで終わりだ!」

 

私は頷いて、シルヴァンの馬の後ろに乗る。

シルヴァンは草原を駆けるかのように馬を走らせ、とうとう最奥にまで辿り着いた。

 

…シルヴァンと同じ燈色の髪に、大柄な体躯。そして顔には大きな傷跡。洗練された貴族の嫡子というシルヴァンとは対照的な、武人の風体。

間違いない。あれがマイクランだ。

 

 

 

マイクランは忌々しそうにシルヴァンを見ると、吐き捨てるように言った。

 

「何しに来やがった!…紋章持ちの"お嬢さん"がよぉ!!」

 

シルヴァンは真顔で淡々と答える。

 

 

 

「"破裂の槍"取り返しに来たんだよ。…いい加減、あんたの尻を拭くのにも飽きてきてね。」

 

「…ふん!さっさと死ね!貴様さえ生まれなければ…!」

 

「…その台詞は聞き飽きたぜ。死ぬのはあんただ。」

 

 

 

次の瞬間、マイクランは威圧感のある、禍々しい形状の突撃槍を手に取った。

間違いない。あれが"破裂の槍"!!

 

 

「わしの子供の遺体をあのような粗忽者が…征伐するぞ!おぬし!」

 

 

そうソティスが叫ぶ。

私も天帝の剣を持ち、即座に伸ばしながら遠距離の突きをマイクランに放った。

 

マイクランはその突きを屈んで躱し、私たちに突進してくる。

 

私は天帝の剣を即座に元の形状に戻し、マイクランの突撃を受ける。

英雄の遺産同士が衝突し、周りに凄まじい衝撃波が放たれる。

 

周囲に居た盗賊たちは吹き飛ばされていく。シルヴァンは辛うじて耐えているが。

 

 

「…!その遺産、まさか天帝の剣か!…畜生が!適合した紋章持ちが遺産なんざ持ってきやがって…!」

 

「悪いが早々に済ませよう。君がそれを持っているのは危険だ。」

 

「ほざけ!」

 

 

 

私とマイクランの戦闘は、激しさを増していく。が、戦闘経験の差で私の方がじわじわと押している。が、不味いな。マイクランの雰囲気が、どんどん変になっている。これは…

 

「魔獣化の前触れ、じゃな。…不味いぞ。このままでは。」

 

このまま戦闘が長引けば、まず間違いなくマイクランは魔獣になる。かといってこれといった対抗策もない…!

 

 

 

私が思案していると、マイクランは焦点のおかしくなった目で叫んだ。

 

「どうした!?俺はまだ生きてるぜ!?力が湧き上がってきやがる!!」

 

「…………さて、どうしたものか。」

 

次の瞬間、それまで傍観していたシルヴァンが、馬を降りて私たちに槍を構えて突っ込んできた!

 

「な!シルヴァン!下がって…」

 

が、私は途中で言葉を飲み込む。シルヴァンは本気だ。それを表情から読み取った私は、取り敢えず静観することにした。シルヴァンは馬鹿じゃない。勝算がなければこんな真似しないはずだ。

 

 

「死ね!お嬢さんがよォ!!!」

 

マイクランもシルヴァンに突っ込んでいく。そして破裂の槍を右手に構える。…そして素早く振り下ろした!不味い!あれは躱せない!天刻を使うのも視野に入れた瞬間、信じられないことが起こった。

 

「なっ!!?」

 

「…興奮した時は右の振り下ろし。あんたと何回模擬戦したと思ってんだよ、兄上。」

 

 

 

シルヴァンは完璧にマイクランの攻撃を読み切り、マイクランの振り下ろしを躱しただけでなく、蹴りで破裂の槍をマイクランの手から吹き飛ばした。

 

 

 

「か、返せ!俺の…俺の」

 

私は即座に天帝の剣を伸ばし、横凪に振るってマイクランを吹き飛ばした。

シルヴァンと破裂の槍から引き剥がされ、壁に激闘したマイクランは、頭を打ったのか倒れて呻いている。

 

 

 

シルヴァンはそんなマイクランに歩み寄り、槍を構える。

 

「じゃあな、兄上。」

 

「くそ!くそ!死ね!死ね!俺が、こんな…!」

 

これでこの課題も終わりだな。魔獣化を起こさずに課題が完了したことに取り敢えず安堵する。

が、それを制止する声が背後から聞こえた。

 

「待って!シルヴァン!!」

 

振り返ると、エーデルガルト達がマイクランの部下達を制圧し切ったらしい。全員無事に揃っている。

先ほど叫んだのはエーデルガルトだ。

 

「私はエーデルガルト・フォン・フレスベルグ。私から話があるわ、マイクラン。」

 

そうエーデルガルトはシルヴァンに歩み寄って槍を収めさせると、倒れているマイクランに話しかける。

 

「あぁ…?」

 

とどめを刺されないどころか、親しげに話しかける突然の少女の登場に戸惑った様子のマイクランに、エーデルガルトは信じられない提案をした。

 

「貴方、帝国で働いてみる気はない?」

 

 

 

 

 

 

 

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