女好きべレス先生の覇道   作:カバー

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女好きベレス先生の覇道 炎との遭遇

 

 

 

ベレス視点

 

 

 

いよいよフォドラの地は角弓の節を迎え、秋風が吹いてくる時期だ。

もう教師となってから半年弱ほどの時間が過ぎた。…ようやく教師にも少しずつ慣れてきたところだ。ハンネマンとマヌエラには随分と世話になった。

彼らの助けがなければ、生徒達に呆れられていたかもしれない。

 

…本来ならば士官学校も後半を迎え、そろそろ他所の組から可愛い女の子を引き抜こうかとか、教師としてはより一層身を引き締めて指導に当たろうかとか呑気に考えているはずだったが、今の大修道院はそれどころではなかった。

 

 

私は大司教の謁見の間で、今にも死にそうな顔色をしているセテスと、深刻な表情を浮かべたレアと話し合っている。

 

 

フレンが行方不明になった。

 

 

前節の課題を終えてからすぐに発生したその大事件に、レアは騎士団を総動員して付近の街を捜索している。少々やりすぎに思われるかもしれないが、これなら事情があるのだ。

 

 

レアが聖セイロスであるように、セテスとフレンも、本来の名は聖キッホルと聖セスリーン。

かつてネメシスを打ち破ったナバテアの民であり、セイロス聖教会が聖人と認める、伝説の人物である。

 

 

…神祖を身に宿した私と同じように、ナバテアの民の血と心臓にも特別な力がある。

ナバテアの血に適合したフォドラの民は紋章の力を手に入れ、心臓は紋章石となる。

 

 

「…すでに聞き及んでいると思いますが、フレンの行方がわかりません。ガルグ=マクを出た形跡がないことだけは分かっています。」

 

「私に行く先も告げぬまま、一人で勝手にどこかへ行くような子ではないんだ。…最近は物騒な噂も飛び交っている。まさかとは思うが…」

 

 

 

そうセテスは呻くように呟く。…実の娘が行方不明なんだ。心中穏やかではいられないだろう。

私はその噂とやらを聞いたことがあった。セテスに確認を取る。

 

 

「黒い鎧を着た死神騎士の噂?…聖廟を襲撃した奴に似たような騎士が居た。もしかしたら奴が…」

 

 

レアもその言葉に頷いて答える。

 

 

「…大修道院に出没する、不審者の報告は以前より私の耳に届いていました。その者と恐らく同一人物でしょう。…今のところ、人攫いなどからの身代金の要求もありません。となるとやはり狙いは…」

 

ソティスは珍しく、心底苛立った様子で呟く。

 

 

「わしの眷属の血、であろうな。…一番攫いやすいセスリーンを狙ったのであろう。」

 

 

…ナバテアに怒ったことを考えれば、ソティスが怒るのも当然だ。

私はソティスの言葉をそのままレアとセテスに伝えると、セテスの顔色がますます酷くなる。

 

 

「やはりそうか…私のせいだ。私がセスリーンをここに連れてこなければ…」

 

「落ち着くのです、キッホル。焦燥は過労の友と言います。…まだ手遅れと決まったわけではありません。貴方の娘は、私にとっても大事な家族のようなもの。必ず、セスリーンを助け出しましょう。」

 

 

レアはセテスを労うと、怒気を孕んだ様子で言った。

 

 

「西方教会の件も、彼らのみであそこまで大それた計画を実行に移すとは考えづらかったのですが…やはり、裏に居るのでしょうね。お母様に仇なす、闇に蠢めく者どもが。」

 

そして、真剣な顔つきで私に命じた。

 

 

「ベレス、今節の課題はセスリーン捜索への協力とします。街は騎士団が担当するので、生徒と貴女は大修道院内をくまなく捜索してください。…共に、同胞たるセスリーンを助けましょう。」

 

私は力強く頷くと、セテス…いや、聖キッホルに言った。

 

 

「心配しないでくれ。一刻も早く、君の娘を見つけてみせる。」

 

「…ああ、頼む。」

 

キッホルの顔色は、最後まで酷いままだった。

 

 

私は黒鷲の学級の生徒を集め、事情を説明する。

取り敢えず、怪しいと思う人は居ないかと聞いてみると、何人かの名前が上がった。

 

 

フェリクスは確証はないが、と前置きをして言った。

 

 

「…気にかかるとすれば、イエリッツァ先生だ。近頃、あの人の剣は…何というか、衝動的な印象を受けた。」

 

 

ペトラは私の側に控えているシャミアの方を見て、気になる人といえばと、不思議そうに尋ねた。

 

「シャミアさん、騎士、ですが、違います。…ダグザの人、違う、ですか?」

 

 

それにシャミアは薄く微笑んで答えた。

 

「分かるか。…まあ、隣人だもんな。そうだ。それがどうした?」

 

「いえ、単に気になった、だけ、です。」

 

「そうか…まあ、その事についてはまた話そう。」

 

 

…実質的に名が上がったのはイエリッツァ一人だけだな。

ヒューベルトが淡々と話を纏め始めた。

 

 

「…フェリクス殿の勘では、イエリッツァ殿が怪しいと。随分と不確かですが‥それしか情報がないのも事実。彼を中心に、大修道院内の人を当たってみるのが良さそうですな。」

 

 

その提案に、エーデルガルトも頷いた。

 

 

「そうね。この大修道院は、くまなく探すにはあまりにも広すぎる。…場所よりも、人を当たった方が確実ね。」

 

 

そういう事で、それぞれがひとまずイエリッツァ先生について聞いてまわることとなった。そして昼前に再度集まると、それなりに情報が集まっていた。

 

 

私が皆の集めてきた断片的な情報を纏める。

 

 

「…マヌエラがイエリッツァの仮面を持って走っているのが目撃されて、肝心のイエリッツァは普段はカトリーヌと共に訓練場で稽古しているのに今は不在…そしてイエリッツァは夜に出歩いている…か。」

 

 

うん、黒だなこれ。何なら今思うと私が死神騎士に傷を負わせた後の講義には、しばらく体調不良で出てこなかった。…その時点で疑うべきだったのかもしれない。医務室の備品を奪ったのも彼だろう。秘密裏に自身の傷を癒すために。

 

 

「これだけの情報があれば、ほぼ確定だな。早々に彼の自室に向かうべきでは?」

 

 

フェルディナントもそう判断したのか、皆に問いかける。私も皆と共に頷くと、黒鷲の学級を引き連れて騎士の厩舎内にある、イエリッツァの自室へと向かった。

 

 

「イエリッツァ殿、よろしいですか?」

 

 

エーデルガルトが彼の部屋の扉を叩く。…が、反応がない。…鍵も掛かっていない。恐る恐る扉を開け、部屋を覗き込んでエーデルガルトは声をかけ続ける。

 

 

「イエリッツァ殿?いらっしゃいますか?」

 

すると、驚きの光景が広がっていた。

 

「…マヌエラ先生!?」

 

 

マヌエラが、血を流して地面に倒れている。慌てて私が脈を取ると、気は失っているが生きてはいる。刃物で斬られたようだ。それなりに出血している。

 

 

ソティスが何かに気づいたようで、素早く声を上げる。

 

 

「…見よ、マヌエラの指が指し示している先を。隠し通路じゃ。」

 

 

ソティスの言葉通り、棚の後ろに空洞がある。…私が蹴りで棚をどかすと、地下への隠し通路が現れた。

 

 

すると、ハンネマン先生がたまたま通りがかった様で、倒れているマヌエラを見て驚き、即座にエーデルガルトを連れて、マヌエラを医務室に運んで行った。あれでは騎士への連絡までしてくれるか割と微妙だな。

 

 

「…エーデルガルト様がわざわざ運ばずとも…先生、どうするんですの?」

 

 

そうコンスタンツェが私に問いかける。…生徒の安全を最優先にするなら、ここは騎士団を待つべきである。…が、フレンがそれまで待てる状況か分からない。

 

 

「…モニカ、騎士団に事態を報告。他の皆で突入する。危なくなったら即撤退。いいね。」

 

 

モニカは渋々といった様子で頷いた。

 

「…分かりました。騎士団に連絡したら、エーデルガルト様と合流して戻ってきます。」

 

 

 

そうして皆で地下への隠し通路を潜っていくと、仄かな灯りが辺りを照らす、古くも落ち着いた雰囲気の空間へと辿り着く。ガルグ=マク大修道院には、隠し部屋や通路が多く存在するとは聞いていたが、ここまで広い空間が…

 

 

…広い空間だ。見たところ、妙な仕掛けの施された床以外は特に変わったところもない。

 

 

すると、窓越しに隣の部屋に仰向けにフレンが倒れているのが見える。

そして、その横には‥

 

 

「…来たか。死ぬは、俺か、貴様か。地獄の舞踏を愉しもう…!!」

 

「死神騎士…!!」

 

 

死神騎士は不敵に笑い、フレンの側に控えている。…そして、通路の先から鎧に身を包んだ兵達が現れた。弓兵に重装兵、魔導士と実に多様な兵種が集まっている。

私たちも一斉に武器を構える。

 

 

妙だな。

 

私はソティスに問いかける。

 

 

「あれ、アガルタの連中?」

 

 

すると、ソティスははっきりと首を横に振ると、言い切った。

 

 

「…違うの。あ奴らからは虫臭さを感じぬ。擬態しているならともかく、その様子もない。…ただのフォドラ人じゃ。」

 

 

私は頭の中で考えを纏め始める。

…彼らはまず闇に蠢めく者どもではない。

ならば雇われの傭兵か、ごろつきだろうか。

…それも違う。

それにしては、重装鎧を身につけて武装も立派すぎるし、何より部隊として成り立ちすぎている。

 

 

 

傭兵組織というと、ジェラルトほどの将の元でもそれなりの個人の我というものが出てくる。

ごろつきとなれば言うまでもない。

 

 

カスパルが考えに耽っている私を大声で現実に引き戻す。

 

 

「何突っ立ってるんだよ先生!考えてる場合じゃねえだろ!?早くフレンを助けねえと!!」

 

「…うん、そうだね。皆、進軍開始!!」

 

 

死神騎士とフレンがいる部屋には、ぐるりと反時計回りに回っていかないと入れないようだ。

 

私は天帝の剣を振り回しながら敵を薙ぎ払って進んでいく。生徒達も成長しており、ベルナデッタは、シャミアと共にうまく背後から援護射撃を差し込んでくる。

 

…戦闘が進むたびに確信が強まっていく。

間違いない。こいつら…軍隊だ。

 

どこの領主の軍だろうか?この統率の取れ具合はそれなりの規模の軍隊の連中だぞ。だとすると話が一気に面倒になってくる。

…ロナート卿のような民兵をかき集めただけの反乱者とはまた違う次元の脅威だ。

レアにできる限り早く報告したいが…

 

私の他にも、バルタザールやカスパルが切込隊長として拳で敵陣に道を開け、ハピやヒューベルト、コンスタンツェが魔法と矢の雨で敵を削っていく。

 

 

いよいよ、死神騎士以外の兵隊は全滅した。

…できれば生け取りにしたかったが、そこまでの余裕はない。フレンと生徒の安全が第一だ。後で死体を探ってみよう。…何か分かればいいのだが。

 

 

私は部屋の扉を開き放ち、死神騎士と対峙する。

互いに邪悪な鎌と天帝の剣を構え、臨戦態勢に入る。

 

「この時を待ち侘びた…!さあ、存分に死合…」

 

 

次の瞬間、死神騎士の背後に謎の人物が現れた。赤と白の仮面で顔を覆っており、全身を黒の長い外套で覆っている。外套の両肩についた赤い羽が特徴的だ。

 

その姿からは、性別すらも読み取れない。だが、何故だろうか。…どこかで、見たことがある?

 

その人物は、死神騎士に威圧的に話しかけた。

 

「…そこまでだ、興が過ぎるぞ、死神!」

 

死神騎士はそれを無言で無視しようとするも、無視しきれなかったようで、小さく舌打ちして答えた。

 

「我が逸楽の、邪魔を…。」

 

 

「…その者にはここで死んでもらうわけにはいかぬ。他の強者との戦闘はいくらでも用意してやる。今は引け、死神。」

 

「…承知。」

 

 

 

死神騎士は不服そうに呟くと、転移魔法でその場を去った。謎の人物は、淡々と話し出した。

 

 

「我が名は炎帝、この世をあるべき姿に戻す者だ。…新任の教師よ、貴様は見所がある。どうだ、私と手を…ッ!?」

 

 

次の瞬間、炎帝の仮面の横を弓矢が掠った。頬をぎりぎり掠っていないくらいだ。

…弓を撃ったのは、ベルナデッタだ。震えた様子でヒューベルトの背後に隠れている。

 

 

何故だろか、ヒューベルトが妙に多くの汗を流している。あんな姿あまり見たことがない。

炎帝は若干上擦った声で呟く。

 

 

「…邪魔が入ったな。また二人で話そう。では、ここは去ろう。」

 

そうして、炎帝も転移魔法でその場を去った。

 

 

私たちは倒れているフレンに駆け寄る。リンハルトが淡々とフレンの腕を掴んで言った。

 

「脈拍が弱め、顔色は悪いけど…貧血かな。大丈夫、生きてるよ。」

 

その言葉に、皆が胸を撫で下ろして安堵する。が、私とソティスは予想が的中したことを理解し、小さく呻いた。

 

 

「…やはり目的はフレンの血じゃったか。心臓まで取られておらんのは、時が足りなんだか、それとも最初からそうする気がなかったのか…ともあれ、無事でよかった。褒めてやるぞ、おぬし。」

 

 

そう言うと、ソティスは私の頬に小ぶりな唇で口付けをした。

…ソティスから褒められるのは、ジェラルトから褒められるのと同じぐらい嬉しいな。そして何より、生徒と共に何かを成すのは楽しい。

彼らの成長を実感できる。

 

フレンを地上へと担いで運びながら、そう心から実感した私だった。

 

 

 

 

 

 

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