女好きべレス先生の覇道   作:カバー

35 / 51
女好きベレス先生の覇道 炎との盟約

 

 

 

 

 

ベレス視点

 

 

 

フレンを地上まで私が担いでいくと、エーデルガルトとモニカが、セイロス騎士数名と走って駆け寄ってきた。

何故かエーデルガルトの顔が引き攣っていた気がするが、まあ走ってきて疲れたのだろう。

 

 

無事に私達はフレンを医務室に届け、マヌエラと共に臨時の医師に任せると、二人ともひとまず命に別状はないそうだ。

 

セテスはそれを聞いて心底安堵した様子で胸を撫で下ろしていた。

 

夕方になると、私はセテスの自室で、彼に感謝の言葉を何度も伝えられていた。顔色もまた普段の色に戻っており、健康そのものだ。

 

 

「…改めて感謝する、ベレス。君のおかげで、フレンが無事に戻った。」

 

「本当に良かった…だが、犯人は逃してしまったね。再犯の恐れがある。」

 

 

そう私が悔しそうに答えると、セテスも暗い顔で頷き、ため息をついた。

 

 

「…そうだな。フレンが無事に戻ったのは何よりだが、死神騎士に炎帝…死神騎士は諸々の状況から見てイエリッツァに間違いないだろうが、炎帝の正体は不明だ。」

 

「君の報告通り、炎帝の部下どもと思われる兵隊は、かなり質の良い装備で身を固めていた。…残念ながら、彼らの身元を証明するようなものはなかったのだが。」

 

 

私はフレンを送り届けた後、騎士数名と先に調べていたユーリスと共に、地下で戦った兵隊達の死体を調べた。

…結果的には炎帝の特定にまでは至らなかったのだが、装備からして帝国風の武装だと言うのが分かった。

 

 

「…アドラステア帝国の領主のうち誰かが、闇に蠢くものどもに加担しているのだろうか。」

 

 

セテスは私のその言葉に、重々しく頷いた。

 

 

「偽装の可能性もあるが、その可能性が高いだろうな。…考えたくはないが、六大貴族の何者かが暗躍している可能性もある。」

 

帝国の六大貴族…それは帝国の現皇帝を実質的に抑え込み、帝国の支配権を実質的に握っている六人の貴族のことだ。

 

カスパルの父である、軍務卿ベルグリーズ伯

 

リンハルトの父である、内務卿へヴリング伯

 

ベルナデッタの父である、教務卿ヴァーリ伯

 

ヒューベルトの父である、宮内卿ベストラ侯

 

ペトラが恩があると言う、外務卿ゲルズ公

 

そして、フェルディナントの父である、宰相エーギル公…

 

 

 

「皇帝が直接…という可能性はないのかのう?」

 

そうソティスが懸念を漏らす。私がセテスに聞くと、彼はそれはないと首を横に振った。

 

 

「現アドラステア帝国の皇帝イオニアス9世は、7貴族の変で六大貴族に完全に権力を奪われている…彼が貴族の許可なく兵を動かすなどあり得ない。もしそうなら、帝国全てが闇に蠢く者どもに牛耳られていることになってしまう。」

 

「…そうなんだ、知らなかったな。でも、エーデルガルトはマイクランの件で独断で王国北部に支援を約束したけど…」

 

 

私がそう言うと、セテスは淡々と答えた。

 

 

「あの件には私も少し驚いたよ。フレスベルグ家が、独断で他国への支援を決めるとは…彼女は、六大貴族…少なくとも内務卿のへヴリング伯と上手くやっているのだろうな。」

 

 

そんな風に私たちが疑念について話し合うが、結局は雲を掴もうとしているようなものだ。

今の所は疑念に過ぎないし、それで帝国領内を探るのは厳しい。

 

 

 

「それで、フレンのことはどうするの?少なくともセイロス騎士団の護衛はつけた方が良いと思うが。」

 

私がそう問いかけると、セテスは申し訳なさそうに言った。

 

 

「…以前に君の補佐をすると言った手前、大変申し訳ないのだが…私とフレンは大修道院を離れて身を隠そうと思う。我々ナバテアの血の秘密を知った敵が現れた以上、ここも安全とはいえない。」

 

 

…まあ、無理もないかな。自身の娘が危険な目に遭ったのだ。だが、それで大丈夫だろうか。敵がまたフレンを付け狙って発見した場合、ここ以上に守りの固い場所はそうない。

 

 

 

「ここ以上に安全な場所はないと思うけど。セテス一人で死神騎士や、炎帝に見つかったら対処できる?」

 

「それは…そうだが…。」

 

 

 

セテスが難しそうに考え込んでしまうと、部屋にその肝心のフレンが入ってきて言った。

 

「先生の言う通りですわ、お父様!私はもう嫌です。…人里離れた場所で、寂しく暮らすのは。…そうですわ!私を先生の学級の生徒にしてくださらない?」

 

ソティスがフレンの提案に満足げに笑って言った。

 

 

「良いのではないか?おぬしが側で守るのが一番安全であろう。セスリーンの秘密も知っているおぬしなら、円滑に色々進められるであろうしな。」

 

 

私としても願ったり叶ったりだ。セテスも頷き、今までとは違い、完全に信頼した目で私を見て頼み込んできた。

 

 

「なるほど…そうかもしれんな。…ベレス、私は君を、同族であるとはしても、少し信頼しきれなかった。だが、今は君を完全に信頼している。どうだろうか?フレンを任せられないだろうか。」

 

 

私はセテスに力強く頷くと、フレンに傅いて、彼女の手に口付けをして囁いた。

 

「もちろんだよ、フレン。君に誓おう。私は君を必ず守り通して見せると。」

 

「まあ…!」

 

フレンは顔を赤くして片手で顔を覆っている。…背後からセテスの殺気を感じる。セテスは低い声で言った。

 

「…………任せるとは言ったが、我が娘に手を出せば君でも容赦しないぞ。」

 

そんなこんなで、黒鷲の学級にまた新しい生徒が加入したのだった。とびきり可愛いお嬢さんが。

 

 

 

 

そんなこんなで、無事かつ早々に角弓の節の課題は終わってしまった。

…今までは節末に課題があったので、こうやって空きができるのは少し新鮮ではある。

 

余裕もあるし、あれだな。

 

可愛い女の子を、勧誘する時が来たな。

…前々から忙しいなりに目をつけていて、それなりに仲良くなっている子が三人居る。

 

 

 

 

まずは青獅子の学級のメルセデスだ。

 

亜麻色の長髪をゆったりと纏めている、温和な女の子だ。

 

…うちのドロテアとペトラに負けず劣らずの魅力的な体つきをしている。

それでいて、周りによく目を配り、慈悲の溢れる包容力の塊のような女性だ。

…少し、利他的すぎて危うさを感じないでもないが。

 

前節辺りから、アネットとメルセデス、そしてコンスタンツェとの茶会によくお邪魔している。

彼女の作るお菓子はしっとりしていて、かつ程よい甘さで…美味しいのだ。

 

それなりに仲良くなってきた自信はある。ちなみに彼女は怪談が好きらしい。

 

 

 

 

次は、金鹿の学級のマリアンヌだ。

 

水色の長髪を、王冠風に後ろで纏めた髪型をしている、少し内気な女の子だ。

 

以前大聖堂で、ドロテアといちゃついている時に遭遇したという、まああまり良くない初対面だったが、地道に礼拝に行き、挨拶をしていると、次第に打ち解けてきた。

 

少し前には、義父であるエドマンド辺境伯に無理やり大修道院に入れられたこと、皆に迷惑だから出て行こうと思っていると相談され、なんとか引き留めた。

 

…紋章に秘密があるようだが、あまり触れられたくなさそうなので触れていない。

綺麗な彼女の笑顔が見たいものだ。

 

 

 

 

三人目は、リシテア・フォン・コーデリアだ。

 

エーデルガルトと似た真っ白の長髪に、桃色の瞳をした、今年最年少の神童少女である。

 

彼女は本当に優秀かつ努力家で、図書室でよく私に講義の質問をしてくるのだ。

それに答えているうちに、彼女ともそれなりに親しくなった。

 

試しに少し口説いてみると、彼女は少し嬉しそうにしていた。なんでも、

 

「先生は子供じゃなく、一人の女性として私を見ているんですね。…少し新鮮ですけど、照れ臭いですね。」

 

とのことだった。

そんなこと言われたらもう頑張って引き抜くしかないだろう。

教師として優秀になれば、その機会は自ずと巡ってくるだろう。魔力を高めなければ。

 

 

 

 

そんな風に思案しながら、私は夜の寮を何気なく歩いていた。秋の夜風が気持ちいい。ソティスが呆れたように話しかけてくる。

 

「おぬしの女好きは、とどまるところを知らんのう。…まったく。わしも面倒な女に惚れたもんじゃ。」

 

「先に惚れたのは私だよ、ソティス。」

 

そう私が微笑んで答えると、ソティスは顔を赤くして照れている。可愛い。

 

すると、エーデルガルトの部屋の中から呻き声が

聞こえてきた。

 

 

 

「……ううっ…く…ぁああっ!…お…さあっ!」

 

 

もしや、彼女の身に何かあったのだろうか。私は慌ててエーデルガルトの部屋の扉を開けて中に入る。

 

すると、エーデルガルトは眠って魘されていたようだ。私の立てた物音に起き上がると、顔の汗を拭った。

 

…まずいな。彼女の赤の寝巻き姿は初めて見る。殆ど下着同然の薄手の服に身を包んだエーデルガルトの体に、思わず惹きつけられてしまう。

 

 

 

「…師?こんな夜更けにどうしたの?」

 

私は思わず口走ってしまう。

 

「君を夜這いに来たよ。」

 

 

 

エーデルガルトは顔を真っ赤にして、飛び上がって言った。

 

 

「夜這ッ…!?先生、冗談よね?…いえ、でもまって。先生なら本気もあり得るわ。私はどうしたら…」

 

私は慌てて答える。

 

 

 

「ああ、済まない。君がつい魅力的で口走ってしまった。寮の前を歩いていたら君の呻き声が聞こえてね。…魘されていたの?」

 

エーデルガルトはほっと安心しつつも、どこか残念そうな様子で呟いた。

 

「…そう。魅力的…ね。まあ、そう聞いている時点で、聞こえてしまったのでしょう。ええ、嫌な夢を見ていたの。全く、腹が立つわね。」

 

 

 

私は軽い好奇心から尋ねる。

 

「どんな夢?」

 

エーデルガルトはため息をついて、少し考えた後、答えた。

 

「…そうね。誰にも言わないのなら、話すわ。ここで話すのもなんね。少し夜風に当たりに行きましょう。」

 

エーデルガルトは制服に着替えた後、私と共に寮の前を散策して、温室の前辺りまで来た。

…残念ながら着替えは見せてもらえなかった。いや、そういうのは交際してからだけども。

エーデルガルトはしきりに周りを警戒して、人が居ないのを確認すると話し始めた。

 

 

 

「夜風が気持ちいいわね。…悪夢でかいた嫌な汗には丁度いいわ。それで、先生。私の夢の話だけど…」

 

「誰にも話さないよ、約束する。」

 

 

 

私がそう答えると、エーデルガルトは微かな微笑を浮かべて、淡々と話し始めた。

 

 

「動かなくなった兄…助けを求める姉、理解できない言葉を口走る妹…私の家族が、壊れてゆく夢よ。私の10人の兄弟姉妹は、皆、そうやって死んだり、病に臥せったり、正気を失っていったわ。」

 

その衝撃的な話に、私は思わず目を開く。…9人の皇帝の子息がそんな死に方を…?偶然とは考えづらい。

 

 

私は自分の考えを、そのままエーデルガルトに尋ねた。

 

 

「もしかして、君の父が六大貴族に権力を取られたことと関係が…?」

 

「…勘がいいのね、師は。」

 

 

エーデルガルトはそれからしばらく無言で黄昏ていた。…やがて大きく息を吐くと、真剣な顔で私に言った。

 

 

 

「ねえ、師。一つ約束してくれない?私がこれから話すことを聞いても、絶対に…私の味方で居てくれると。そうすれば、私は全てを話すわ。…貴女の秘密も、そのうち聞きたいけれど。」

 

ソティスが小さく警戒したように呟く。

 

 

「なんじゃ…やけに警戒しておるな。返答は慎重にせよ。…ただ、まあ、おぬしの場合は返答は決まっておるわなぁ。」

 

そう呆れたようにソティスは私を見る。

そうだ。私の答えは決まっている。

 

 

「誓うよ、私は君を一生守る。幸せにする。一生、君の師だよ。」

 

 

エーデルガルトはその言葉を聞くと、小さく震える声で呟いた。

 

「…いいの?本当に…」

 

私はエーデルガルトの震える小さく、柔らかい手を握る。そして面と向かって言った。

 

「愛してる、エーデルガルト。他でもない、誰でもない君を。私のハーレムに入ってくれ。」

 

その言葉を聞いて、エーデルガルトはふっと笑うと、満面の笑みで答えた。

 

「…全く。最後の一言で台無しよ?師。でも、嬉しい。…私が師の一番でいいなら、入ってあげるわ。ただし、裏切ったら、殺すわよ?」

 

そんなエーデルガルトに、私は微笑んで答えた。

 

「裏切らないから大丈夫だよ。」

 

「…………本当に、貴女という人は。」

 

 

そうして、エーデルガルトは吹っ切れた顔になると、満面の笑顔でとんでもない一言を口走った。

 

「まず、これを話しておかないとね。…フレンを攫った炎帝はね、私なの。」

 

「………なんて?」

 

エーデルガルトは淡々と言った。

 

「だから、私が炎帝なのよ師。…まあ、こんなこと言ってもすぐには受け入れられないかしら。」

 

そう言って平然とした様子のエーデルガルトに、私とソティスは呆気に取られる。が、ソティスはいち早く冷静になり、私の耳元で囁く。

 

「できる限り話を引き出せ!…こやつの語っていることは恐らく真実じゃ。闇に蠢く者どもを探るまたとない機会じゃぞ!」

 

ソティスの言うことも尤もだろう。だが、私にはそんな冷静な思考よりも、悲しさが勝った。

 

 

 

「どうして?…どうしてフレンを傷つけたの?また傷つけるつもりなの?…私はフレンも守るって誓ったんだよ。君がまたフレンを襲うのなら…」

 

 

その言葉に、エーデルガルトははっきりと言い切った。

 

 

「私が彼女を傷つけたのは、彼女が人の上に立ってはいけない存在だから。…そして、闇に蠢く者どもがそれを求めていたからよ。」

 

その言葉に、私は心当たりを呟いた。

 

 

「人の上に立ってはいけない…それは、彼女がナバテアの民だから?」

 

そう問うと、エーデルガルトはその通りだと首を縦に振った。

 

 

「…師も知っていたのね。セイロス聖教会は、彼らナバテアの民が人を支配している象徴のようなものよ。だから、私は闇に蠢く者どもの力を借りてでも聖教会を倒そう…そう思っていたのよ。師に会うまではね。」

 

そう言って、エーデルガルトは少し悲しそうな顔で呟いた。

 

 

「…その様子だと、ナバテアの民に対して、師は特に敵意は感じていないのね。」

 

「それはそうだよ。私にとって彼らは仲間だ。…大事な、ね。」

 

その一言に、エーデルガルトはさらに悲しげになる。が、それでもと言葉を続ける。

 

 

 

「それでも、師は紋章至上主義のフォドラを変えようとしている。そんな貴女が教団の舵取りをするなら、私たちは争わずに済むかもしれない。貴女はもう教団でそれなりの地位にいる様だし…共に、闇に蠢く者どもを倒せるかもしれない。そう、くだらない希望を抱いたのよ。」

 

 

 

そうエーデルガルトは自嘲するように呟く。…色々と衝撃的すぎるが、一つはっきりしたことがある。

エーデルガルトは、闇に蠢く者どもと協力しているが、彼らの一部ではない。何なら、敵対する勢いらしい。…ならば。

 

 

「それなら、君の希望は叶うかもしれない。…私は、次期大司教だ。」

 

 

私の言葉に、エーデルガルトは鳩が風魔法を喰らったかのような、呆気に取られた顔をする。そして、嬉しそうに微笑んだ。

 

 

「そうなの!それなら…」

 

「でも、一つ約束してくれ。」

 

 

私はエーデルガルトにまず絶対にここは譲れないという条件を言った。

 

「私はレア達を害する気はない。…私が教団の指導者になれば、そんな意味ないだろ?君にも、それを誓って欲しい。」

 

すると、エーデルガルトは少し考え込む。だが、やがて意を決した様子で宣言した。

 

「いいでしょう。…私は、貴女が共に私の道を歩んでくれる限り、かの者達にできうる限り危害は加えないわ。」

 

そう宣言したのを聞いて、とりあえず私はほっと胸を撫で下ろす。…だが、まだ聞きたいことは山ほどある。一つ一つ聞かなくては…

 

 

「闇に蠢く者どもは、帝国に潜伏しているの?」

 

「ええ、そうよ。とある有力貴族の一人が、彼らの指導者だわ。…私と私の兄弟姉妹に闇の実験をしたのも、彼らと彼らに与する貴族達よ。」

 

 

そのエーデルガルトの説明に、私は軽く呻いて頭を抱える。だとすると、かなりの難敵だろう。皇帝を抑え込めるほどの力のある貴族といえば…六大貴族のうち数名も彼ら側と見るべきか。

 

 

「そして、その実験の結果、私にはこれが与えられた。」

 

そう言って、エーデルガルトは魔法を使い、自身の紋章を魔法陣に浮かび上がらせる。これは…!

 

「"炎の紋章"…。師と同じ、かの伝説の解放王、ネメシスと同じ紋章よ。」

 

「……………だから、君は紋章主義を嫌っているのか。」

 

その一言に、エーデルガルトは深く頷いた。

 

 

 

「ええ、そうよ。…二度とフォドラで、私と同じ様な目に合う人間を出したくない。故に、私は闇に蠢く者どもの力を借りてでも、聖教会を倒し、フォドラを統一する!…まあ、聖教会に関しては師のおかげで不要になりそうな決意だけど。」

 

 

 

私は更なる衝撃に頭をぶん殴られる。…ちょっと待て。統一と言ったか!?

 

 

 

「つまり君は、王国と同盟を滅ぼして、帝国の傘下にすると…?」

 

「ええ、そうよ。元より、フォドラは一つの帝国だった。たった数百年前まではね。それが元に戻るだけよ。」

 

 

 

確かにそれはその通りだし、紋章主義を手っ取り早く無くすにはそれが一番だろう。だが、あまりにも強引じゃないか…?

 

「…だとしても、その前に闇に蠢く者どもは滅ぼすべきだ。」

 

私がそう言うと、エーデルガルトは確かにねと頷いた。

 

 

「そうね。…師と聖教会の協力があるのなら、彼らはもう不要。でも、まだ彼らには得体の知れない力がある。…様子を見ましょう。彼らが尻尾を出すのを待つのよ。」

 

 

ソティスは小さく呻いて呟いた。

 

「むう…闇に蠢く者どもと敵対するのなら、味方か…?いや、それにしても戦争を起こすというのは…」

 

 

私も同じ気持ちだ。戦争などといきなり言われても、ついていけない。取り敢えず、私は妥協案を探すことにした。

 

 

「いきなり戦争を起こさずとも、同盟諸侯なら幾つかは君に与するのでは?…武力行使の前に、交渉を試すべきだと私は思う。」

 

エーデルガルトは気が乗らなさそうに私の提案に答えた。

 

「…この手の話は、知っている人間が多いほど失敗の確率は上がるのよ。でも、そうね。王国はともかく、同盟相手になら幾分か交渉の余地があるかもしれないわ。…ちなみに、師ならまず誰を味方にする?」

 

 

その言葉に、私は躊躇いなく答えた。

 

「そりゃあ、クロードだろう。次期盟主で、リーガン公の嫡子だ。彼と協力できれば、勝率は格段に上がる。」

 

 

エーデルガルトは私の分析に、まあそうねと賛同した。

 

「…まあ、取り敢えずは闇に蠢く者どもの対処だろうけど。彼らは次にどう動きそうか分かる?」

 

 

そう私が問いかけると、エーデルガルトは口を閉ざした。そして、躊躇いがちにこう答えた。

 

 

「…少なくとも、師が大司教になるか、闇に蠢く者どもの急所を握るまで、その手の情報は漏らしたくないわ。彼らを切る時は、出来うる限り準備が整った時が望ましい。帝都の貴族の中の協力者にも、そう伝えてあるのよ。」

 

 

 

その言葉に、私は渋々頷く。…確かにそれはそうだろう。アランデル公とエーギル公が敵なら、それなりの手順がいる。私が大司教となった後の方が確実に楽に進むだろう。

 

「なら、当面は君が闇に蠢く者どもの情報を探りつつ、私がクロードと取引できないか試してみる。それでいいかな。」

 

私がそう言うと、エーデルガルトは頷いて、誓約の構えを取った。

 

「そうね。なら私と貴女で改めて誓いましょう。」

 

そう言うと、エーデルガルトははっきりとした口調で宣言し始めた。

 

「アドラステア帝国次期皇帝のエーデルガルト・フォン・フレスベルグの名において制約する。私は、闇に蠢く者どもと戦い、紋章主義を変える。その為に、貴女と協力することを。」

 

私もはっきりと答えた。

 

「セイロス聖教会の次期大司教であるベレス・アイスナーの名において制約する。私は、闇に蠢く者どもを根絶し、紋章主義を必ず変えて見せる。その為に、君と協力することを。」

 

そして、互いに柔らかく微笑み合って握手する。

こうして、炎との制約が成り立ったのだった。

 

 

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。