女好きべレス先生の覇道   作:カバー

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女好きベレス先生の覇道 フォドラの未来

 

 

 

ベレス視点

 

 

 

 

今節末に、私は大きな博打をすることにした。私はエーデルガルトとヒューベルトに事前に話を通し、クロードの説得にいよいよ取り掛かるのだ。

 

 

エーデルガルトもヒューベルトも難色を示していたが、ある条件付きで、私の説得に最終的には応じた。

 

 

「…クロードについての情報は、君たちが半年調べても全く出てこないぐらいだ。…なら、出たとこ勝負に出るしかない。彼相手に変に策を弄するより、その方が勝率は高いと思う。」

 

 

 

彼の父親は帝国の宮内卿ペストラ公…影より常に皇帝の僕として仕えてきた一族だ。…最も、現ペストラ公は、皇帝イオニアス9世を裏切り、宰相であるエーギル公につき、権力を皇帝から奪ったとか。

 

恥ずべき裏切り者だと、ヒューベルトが忌まわしそうに言っていた。

そんな一族に属するヒューベルトの、暗殺や情報収集の技は群を抜いている。

 

 

そんな彼でも、クロードの情報は掴めなかった。なら、時間をかけるだけ無駄だ。

 

 

私の説得に、ヒューベルトは眉を揉んで、低い声で言った。彼的にはどうも今の説得だけでは納得できなかったらしい。

 

 

「…まあ、成功の確率で言えばそうでしょうな。…ですが、もし説得に失敗し、情報が漏れた際の危険性はあまりに大きい。…今同盟と戦争状態に入れば、大幅に計画の練り直しが必要になります。最悪、王国まで参戦してくる可能性もある。そうなれば、闇に蠢く者なしで帝国を維持するのは、不可能でしょう。」

 

「それは、そうだが…」

 

「ですので、先生には一つ確約をして頂きたい。」

 

 

 

そして、ヒューベルトは羊皮紙を取り出し、羽ペンを私に手渡した。そして、淡々と恐ろしいことを言い出した。

 

「…もし今回の件で早期に戦争が開始した場合、貴殿は我々帝国軍につき、エーデルガルト様に付き従う。…簡単な話でしょう?」

 

 

要は、説得が失敗した時にはさっさと自分たちの側につけ、という話だ。

…確かにそれならば、帝国軍が損するところはない。

私の言葉をヒューベルトが信じているかはどうも疑わしいが、それでも教団の有力者を無条件で引っ張れるのは大きい。

 

 

ソティスが呆れたように呟く。

 

「全く…この男、用意周到なものじゃ。どう転んでも損が少ないように動きよる。…どうする?おぬしの判断に任せる。」

 

 

 

私は無言で少し躊躇う。もしこれが形に残ってしまえば、レアを戦争に巻き込むことになるだろう。

それはできれば避けたい。

 

そんな私の迷う様子を見て、エーデルガルトが寂しそうにぽつりと呟いた。

 

 

 

「師…貴女は、私の師でずっと居てくれると、誓ったのではないの?」

 

「!!」

 

それを言われたら…それを言われたら…

 

最終的に、私は誓約書を書いた。

エーデルガルトは嬉しそうに私を抱きしめた。

…まあ、クロードの説得が成功すれば良いだけの話だ。そう言い訳をしながら。

最悪の場合、天刻で説得前に巻き戻して無かったことにすればよい。そうすれば失敗する確率は0だ。

 

 

 

 

 

 

私はクロードを昼食時に自室に呼び出し、エーデルガルトと共に部屋で彼を待っている。この時間帯なら、人は食堂に集まっていて、寮付近にはほとんど居ない。

ヒューベルトは外の、こちらの部屋の出入り口が見える場所で待機している。

交渉が無事に終われば、彼に合図をエーデルガルトが送ることになっている。

 

 

…彼のことだ。いざ説得が失敗すれば、暗殺だろうがやる気だろう。なら、尚更この説得は失敗できない。…まあ、天刻がある限り失敗もほぼないのだが。

 

エーデルガルトも緊張しているのか、無言で寝床に座り込んでいる私の隣に座り、押し黙っている。

 

私は自身の緊張を押し隠し、柔らかく笑ってエーデルガルトの白い手袋ごしに、手を握った。

彼女も少し微笑んで答える。

 

 

「師…ありがとう。少し緊張してしまっていたわ。この説得で、私が取るべき道は大きく変わる。…師とクロードの協力が得られれば、もう闇に蠢く連中は要らない。…彼らについての情報は、もう少し欲しいけれど。」

 

 

 

そんな風に呟くエーデルガルトの肩を軽く抱き寄せて、耳元で囁く。

 

「…大丈夫、上手くいくよ。私と君で力を合わせてるんだから。」

 

私がそう言うと、エーデルガルトはそっと私の手を握り返した。

 

 

 

すると、扉が叩かれるでもなく、何の前触れもなく開かれた。

 

「やあ、先生。俺を呼んだかい?リシテアやマリアンヌみたいに俺を勧誘する気なら、ざんねんながら俺は級長なんだね。この色男は悪いが諦めて…」

 

 

そうして、クロードの視線が私たちに向く。

エーデルガルトの肩を私が抱き寄せ、寝床に共に座っている私たちに。

 

 

 

クロードは無言で頭を掻くと、にやりと笑って言った。

 

 

「…これはこれは。エーデルガルト殿下の蜜月を邪魔してしまったようで。…全く。俺を呼んだのはこれを見せつけるためか?やるじゃないか、先生。」

 

 

 

エーデルガルトは途端に顔を真っ赤にして、慌てて立ち上がると、クロードに言い返した。

 

 

 

「クロード!ふざけるのは大概にして!…これは、その。単に先生と話していただけよ。」

 

「ま、そういうことにしておくか。…で、本当に何の用で俺を呼んだんだ?」

 

 

 

そんな彼の言葉に、私は緊張しながらも冷静に頭を冷やして考える。…ここが肝心だ。最初の掴み。ここでぶちかまして話の主導権を取る。

 

エーデルガルトが、打って変わって冷静を装って話し始める。

 

 

 

「…ええ。実は、貴方と師と私とで、これからのフォドラについて話したいと思って。」

 

その言葉に、クロードは困惑した様子で応じる。

 

「おいおい。そりゃまあ有難い申し出だが、何でそこで先生なんだ?…それにディミトリの奴は?あいつ抜きでフォドラの未来は語れないだろ。」

 

 

 

そんな風に問いかけるのも想定内。エーデルガルトは笑顔でそれに答えた。

 

「…ディミトリ抜きで話したいのよ、今はね。それに、師が居るのは当然のことよ。何故なら師は…この大修道院の…次期大司教なんだから。」

 

「………………」

 

 

 

よし。クロードは案の定戸惑ったかと思うと、思考に耽り始めた。主導権は貰った。クロードはぶつぶつと呟いている。

 

 

「…は!?いやいや、それはあり得な…いや待て。そう言えば先生は枢機卿の会合に…まさか、本当に?冗談にしては突飛すぎる。…そう考えれば急激に髪の色が変わったり、天帝の剣を扱えたりしたのも…ッ」

 

 

そんな言葉に、エーデルガルトは軽く眉を顰めて呟いた。

 

 

 

「枢機卿…ああ、師の言う"それなりの地位"とはそういうことだったのね。」

 

やがて、クロードはがばっと私の肩を掴んで、大声で捲し立てた。

 

 

「なら、あんたには聞きたいことは山ほどある!あんたが天帝の剣を使えるのはどういうことだ!?教団が隠してる秘密は何だ!?あんたの…」

 

 

 

そんなクロードを、慌てて私は引き離す。

 

「待て待て。…エーデルガルトが言っただろう?今はフォドラの未来を話し合う時間だ。それ以外の話は後にしてくれ。」

 

 

 

クロードは少し肩を落とすと、小さく呟いた。

 

 

 

「…………そうか。ま、そう簡単には秘密は明かさないか。なら、まあいい。そのうち、何としてでも暴いてやるさ。」

 

 

そして気を取り直した様子で、淡々と問いかけた。

 

 

「それで、フォドラの未来の話だったか?それなら逆に俺から次期大司教様の展望ってやつを聞きたいね。」

 

「もちろん。構わない。」

 

 

 

これは彼の夢を探る機会だ。…問いへの返答は慎重にしなくては。

 

 

「ならまず一つ目の質問だ。…あんたは、フォドラの外の人々をどう考えてる?どう見てる?化け物だと思ってるのか?彼らとどう向き合うつもりだ?」

 

 

…フォドラの外の人々、か。この問いへの答えは単純だな。彼はドゥドゥーへの差別に憤っていた。それは私も同感だ。なら答えは一つ。思ったままを言えばいい。

 

 

「…色んな美女や美少女が居るだろうに、フォドラに来づらい現状なのは、勿体無いなあと思ってるよ。だから、沢山彼らと交友を持ちたいね。」

 

 

暫しの沈黙。エーデルガルトは顔を両手で覆い、クロードは呆気に取られているようだ。

 

しばらくすると、クロードは腹を抱えて笑い出した。

 

 

 

「ぷっ…くく…はははははは!!!!はは…そう来るとは思わなかったな、先生。…完っ全に同意見だよ!はは…あんたが次期大司教か。そりゃあいいな!」

 

 

どうやら私の答えが甚くお気に召したらしい。一通り笑うと、クロードは笑顔で言った。

 

 

「レア様もいい人事をしたよ。…俺が目指す未来に、あんたが居てくれるのはかなり助かるね。」

 

 

その言葉をエーデルガルトは見逃さなかった。即座にクロードに問いかける。

 

「貴方の目指す未来、とは?是非聞かせて欲しいわね。」

 

そのエーデルガルトの問いに、クロードも言葉を返す。

 

「それなら、エーデルガルトの目指す未来、ってのも聞きたいね。…そのために俺を呼んだんだろ?」

 

二人は暫し無言で見つめ合う。…先に根負けしたのはエーデルガルトの方だった。

 

 

 

「はあ、貴方もちゃんと答えなさいよ?…私は、紋章主義によって、有能な人間が不当な扱いを受けている現状を変えようと思っている。」

 

「…そしてもう、紋章に縛られるような貴族を許さない。…フォドラ全体の貴族制度自体も、変えてみせる。」

 

 

 

「………こりゃまた、大きく出たな。先生はそれを次期大司教として認めてるのか?」

 

 

その言葉に、私は笑顔で頷いた。

 

「勿論。」

 

「………ったく。何で先生は俺の学級を受け持たなかったんだ?残念で仕方ないよ。」

 

そんな風にこちらを見てためいきをつくクロードに、エーデルガルトが突っかかった。

 

「それで、クロード、貴方の野望とは何なの?ここまで私たちが話したんだから、答えないなんてのは許さないわよ。」

 

 

 

「…ま、先生の面白すぎる返答と、エーデルガルトの必死さを聞けたし、答えるさ。」

 

 

そう言うと、クロードは一転して真剣な顔つきになって言った。

 

 

 

「…俺はな、実はフォドラの外から来たんだ。」

 

その言葉に、エーデルガルトと私は驚きを隠せない。

エーデルガルトが思わず問いかける。

 

 

 

「なっ!?なら、貴方は何故紋章を…!」

 

紋章とは、女神によって与えられたとされる力で、実際はナバテアの民から奪われた力だ。故に、諸外国の民は紋章など持っては居ない。エーデルガルトの疑問も当然だ。だが…

 

「待って、エーデルガルト。最後まで聞こう。」

 

 

 

そう私はエーデルガルトを制する。…この話は最後まで聞きたい。

彼のやや褐色の肌、黒色の髪に緑の瞳。同盟に近い東方の隣人。恐らく彼は、パルミラの…

ヒューベルトが情報を掴めなかったのも頷ける。そもそも、彼は数年前までフォドラに存在しなかったのだ。

 

 

 

 

「俺が生まれた地では、フォドラの民は"臆病者"だと見下されててな。俺にはその"臆病者"の血が半分流れてた。母方のさ。だから紋章が俺にはある。…まあ、そんなこんなでガキの頃は、俺は異物だった。」

 

「だが、そんな見方は偏見だと俺は知っていた。何せ俺の母親は、惚れた男のために、敵国に単身乗り込んでくるような、気骨のある女なんだぜ。だから俺は、俺を馬鹿にする奴らを捩じ伏せてきた…でも、俺一人だけの見方を変えても意味がないんだ。…土地に根付いた偏見は変わらなかった。」

 

 

 

 

私とエーデルガルトは、クロードという男の本質に触れている気がして、黙って聞き入る。

 

 

「んで、俺は思い立ってフォドラに来たのさ。…呆れたねえ。こっちはこっちで、外の人間を化け物か何かだと思ってやがる。…ドゥドゥーの件だってそうだ。信仰も文化も、価値観まで違うってのに、そこだけは変わらなかった。」

 

 

「…だからこれはもう、そんな壁はぶっ壊してやるしかないと思ったのさ。フォドラの価値観を丸ごとひっくり返して、次は外の世界だ。…一気に雪崩れ込んで、世界そのものをひっくり返す。…どうだ?壮大な夢物語だと笑うか?」

 

 

 

エーデルガルトはゆっくりと首を横に振った。

 

 

「…笑わないわ、笑えるわけがない。そうだったのね…貴方も私と同じく、差別と戦う者だった。」

 

その言葉に、クロードも気さくに笑って答えた。

 

「…ま、そうとも言えるかもな。俺たちは、利害が一致しているわけだ。」

 

エーデルガルトは真剣に頷き、彼に問いかけた。

 

 

 

「でも、今のフォドラは、フォドラの中でさえ壁ができている。アドラステア帝国に、ファーガス神聖王国…そして、レスター諸侯同盟。…その壁を壊すのが、一番最初の貴方が成すべきことじゃないかしら。」

 

 

 

「…ま、そうかもな。で、皇女殿下は何を俺に提案したいんだ?」

 

エーデルガルトは緊張したように息を吐くと、凛々しく、とうとう本題を告げた。

 

 

 

「リーガンの次期当主にして、レスター諸侯同盟の次期盟主、クロード。…貴方の夢、私と師と共に叶えてみる気はないか。アドラステア帝国という、一つの共同体の中で。…約束しよう。貴方の夢を、私たちは必ず実現させてみせる。」

 

 

 

クロードは小さく目を細めた。そして、しばらく黙り込むと、大きく息を吐いた。

 

 

「…まあ、お前の夢を聞いてから薄々そう来るかとは思ってたが。要は、同盟に帝国の下につけと?成る程ねえ。ディミトリが居ないのは、そういうことか。」

 

 

私とエーデルガルトは無言でクロードを見つめる。クロードは静かに長考すると、降参だと言わんばかりに肩をすくめた。

 

 

 

「…まあ、このことをディミトリに告げ口したところで、俺の野望の実現に近づくわけでもないしな。確かにエーデルガルトの言うことも最もだ。…教団もそっち側なら、戦争も長期戦で泥沼化しそうだしな。…理想のためなら、やむなし、か。」

 

 

すると、クロードは打って変わって、笑顔でエーデルガルトに手を差し出した。

 

「…ま、これからは主君と部下になるわけだが…そんな柄でもないんでね。理想の同志として、握手といこうじゃないの。」

 

 

エーデルガルトも、笑顔で握手に応じる。

 

「そちらの方が私もやりやすいわ。…貴方に殊勝にされても、調子が狂う。…教団の次期大司教の承認で、こうして誓約は成った、というわけね。」

 

 

…ここに、フォドラの歴史は動き始める。金鹿が、黒鷲と共に歩み始めた瞬間に。

女神の見つめる中で。

 

 

 

 

 

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