女好きべレス先生の覇道   作:カバー

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女好きベレス先生の覇道 貴族としてあるということ

 

 

 

 

ベレス視点

 

 

 

もう秋も終わり冬の時期に入る。飛竜が越冬のために南へと去って行くのも恒例の光景だ。

もうファーガスでは雪が積もっている頃だろうか。

この時期からは雪が積もり、ファーガスでは天馬が伝令のために駆けるのだ。私も一度見たことがある。大雪の上を白い天馬が駆けていくのは、実に幻想的な光景だった。

 

 

私はグロンダーズ鷲獅子戦に向けて指導にさらに力を入れ始めていた。

ハンネマンとマヌエラも最近は忙しそうだ。

マヌエラは死神騎士から受けた怪我がまだ癒えていないので実戦は難しそうだが…

全員が中級職に無事試験を突破して成った。

…エーデルガルトは特に覚えが早い。このままいけば鷲獅子戦までに上級職のフォートレスになれるかもしれない。

 

 

 

普通は卒業までになれるかどうかという所なのだが…やはり末恐ろしい才能がある。教えがいのある子だ。

 

後は意外にもベルナデッタがスナイパーになれるかもしれない。彼女は弓の才能がある。それのみを実践で鍛えていった結果、かなりいい線行っている。

 

…そんな忙しい中でも、いや、だからこそ食事や休暇は大事だ。

それを抜いてまともな成果が上がることはない。

厳しいことと理不尽なこととは違うのだ。

 

 

 

私は食堂で調理器具を、食堂のおばちゃんと共に洗っていた。今日の調理担当は私と…ベルナデッタ、そしてユーリスだ。

 

最初は驚いたが、実はベルナデッタは料理が上手い。何でも、引きこもる前には趣味として料理もしていたとか…まあ、食材の下拵えなどは未経験らしいが。

 

一方ユーリスも意外ながら、料理の腕はかなりのものだ。

何でも貧民時代にそれなりに料理の腕は磨いてきたらしい。裏社会に来てからは、自分で作った方が毒が仕込まれないから良いとかなんとかで自炊を続けていたようだ。

 

この二人とならかなり質の高い料理が作れるだろう。

 

 

 

ベルナデッタは初対面の衝撃的な気絶から始まり、最初はユーリスを避けていたが、最近は逆にかなり親しげに振る舞っている。

 

…超がつくほどの恥ずかしがり屋のベルナデッタにしてはかなり珍しいことだが、何でも昔の友人とかなんとか。

まあ、ユーリスも各地を転々としてきたようだし色々あるのだろう。

 

 

 

そんな二人が、私が皿を洗い終わった頃にちょうどやってきた。

ベルナデッタはるんるんと弾むような足取りで近づいてくると、笑顔で言った。

 

 

「先生!ふふふ。来ましたね、ベルの本領を発揮する時が!料理なら私得意なんです!…それに、今日の料理当番はユーリスさんと先生!これはもう、勝ったと言っても過言ではないでしょう!」

 

 

そんなベルナデッタに、ユーリスが軽く呆れたように言葉を返した。

 

 

「勝つって…何にだよ。ま、お前らとならやりやすいのは確かにそうだがな。」

 

そんな私達に、従者の子供数人とツィリルが籠いっぱいに生魚を持ってきた。取ってきたばかりのようで、まだ籠の中で跳ねている魚も居る。

 

ツィリル達は淡々とそれを私達に差し出してくる。

 

 

 

「今日の料理当番、先生達でしたよね。これ、頼まれてた釣れたばかりの魚です。じゃあ、僕たちはこれで。」

 

「ありがとう。美味しく調理するから、楽しみにしててくれ。」

 

私がそう答えると、ツィリルは少し嬉しそうにしてその場を去っていった。

魚はまだぴちぴちと跳ねている。

 

ユーリスはそれを見て嬉しそうにしながら、籠を持ち上げて厨房へと持って行こうとする。

 

 

 

「へえ!…流石釣り場のあるガルグ=マク。アミッドパイクなんて高級魚がこんなに釣れるとはなあ!なあベルナデッタ!…おい?ベルナデッタ?」

 

が、ベルナデッタはその魚達を見て怯えたように部屋の隅っこで固まっている。

 

 

「な、なんで…まだ生きてる魚なのおおお!?こ、殺さなきゃダメなんですか!?」

 

 

 

その叫びを聞いて、食堂の全員がきょとんとした顔をする。が、ユーリスは合点が言ったように呟いた。

 

 

 

「あーー…。そういやお前、こういうの苦手だったなあ、昔っから。お嬢様育ちだったもんな。料理っていっても、加工された魚の切り身だよなあ、お前の元に来る"食材"は。」

 

 

その言葉に、私も合点がいく。確かにそうだ。ベルナデッタは貴族として、生臭くない、生き物臭くなく加工された食材で料理してきたのだ。

 

 

貧民の暮らしを味わい、一からのし上がったユーリスや、傭兵暮らしで命のやり取りをしてきた私とはそれは価値観も違う。

 

命臭い食材と触れる機会など、滅多に無かったのだろう。

…何だかんだで変わってるけど、貴族のお嬢様なんだよな、ベルナデッタは。…そんなところも可愛らしいけど。

 

私は気を遣ってベルナデッタに声をかけながら籠を運び始めた。

 

「ベルナデッタは調理の時に手伝ってくれ。それまでの下処理は私たちがやろう。…ユーリス、運ぶの手伝ってくれ。」

 

「おう。…っと、はは。本当に大量だな。」

 

そんな風に私とユーリスは黙々と食堂に籠を運んでいく。ベルナデッタはどこか申し訳なさそうに私たちを見つめていた。

 

 

そしてついに下処理の段階に入る。

魚の下処理用の刃物を手にして、生きている魚を掴む。弱々しく動く魚に、感謝の気持ちを捧げて、ユーリスと共に素早く頭を落とす。

 

血が流れ、それを水で洗い流す。

そしてうろこを剥がし、中の内臓を丁寧に抜き取っていく。

まずは1匹目。

 

 

 

すると、ベルナデッタが軽く震えた声でおずおずと話しかけてきた。

 

「あ、あの…魚さんを、こんな風に殺さなきゃいけないのかな…いや、分かってるんですけど…」

 

そんなベルナデッタに、ユーリスは大きくため息を吐くと、軽く怒った声で言った。

 

 

「なあ、ベルナデッタ。確かに俺たちがやってるのは残酷なことかもしれねえ。だがな、これが"食う"ってことだ。命を貰うってことは、何かを殺すってこと。…俺たちは、そうやって生きてるんだ。だから、目を逸らすな。」

 

「……そう、だよね。うん。ペトラさんからも言われたことあるよ。…食べるってことは、何かを殺すこと。それが植物であれ、動物であれ、お魚さんであれ…。分かった。やっと実感できた気がする。」

 

 

そう吹っ切れたようにベルナデッタは言うと、おずおずと私に近づいてきた。

 

 

「あの、先生…。私にも、お魚さんを捌かせてくれませんか。感謝しながら私もやります。」

 

私は笑顔でベルナデッタに頷いた。

…彼女は一見、臆病で、繊細だ。だが、覚悟を決めた時の彼女は強い。それを私はこの半年でよく理解した。

 

 

「勿論。それならまず上手い捌き方を教えよう。まずはこうやって…」

 

私はベルナデッタの柔らかな手を掴み、刃物を握らせる。そして、ゆっくりと丁寧に魚を捌いていく。

最初は少し震えていたベルナデッタも、段々と手慣れてきた。

 

…最後の方は、私より素早く捌いていた。

 

そして、魚の見事な切り身を前にして、私たちは何を作るか話し合っていた。

ベルナデッタが素早く提案した。

 

 

 

 

「アミッドパイクがこんなにあるなら…香辛料もあるし、水を拭き取ってから香辛料を塗して、じっくり焼くと良いと思います!帝都風に…」

 

それに私も軽く頷いて同意する。

 

「良いんじゃないかな。帝国でよく食べられてる魚だし、帝都風に調理するのが一番だと思うよ。」

 

アミッドパイクは同盟領と帝国領の境にある、アミッド大河によく生息している淡水魚だ。

パイクの名の通り、槍兵のように尖った頭が特徴的だ。

淡白で臭みがなく、貴族によく好まれる。

ジェラルトはあまり味がしないから好みじゃないと愚痴っていたが…

 

ユーリスはそれに微妙そうな顔して答えた。

 

「…まあ、良いとは思うけどよ。パイクの贅沢グリルだろ?…俺、それあんまり好きじゃねえんだよなあ。」

 

それにベルナデッタが素っ頓狂な声をあげた。

 

「えええええ!?なんで!?美味しいじゃないですか!」

 

 

「いや、何つうか…高尚な味ってのは分かるんだがなあ。味が薄いんだよ。俺みたいな平民育ちだと、どうも食った気がしねえっていうか…」

 

ジェラルトと同じなんだな、ユーリスは。

…なら意外と平民育ちだったり濃い味付けが好きな人には別の物の方がいいか…?

私は少し考えると、あることを思い出した。

 

「そういえば、さっき食堂のおばさんが獣の肉が余ってるとか言ってたな。…獣肉の鉄板焼きを代わりに選べるようにしておけば、全員満足できるのでは?」

 

その提案に、ユーリスは笑顔で拳をあげた。

 

「…そりゃあいい。俺もその手の料理は大好きなんだ。王国にいた頃はよく食ったっけなあ。」

 

それに私が納得しつつ答えた。

 

「ああ。王国は鉄鋼業が盛んだし、獣の肉も貴族でもよく食べるからね。何せ狩猟が盛んだから。」

 

私も以前、ジェラルトと王国の貴族の依頼を達成した際、森での狩りに誘われたことがある。

騎士道精神の根強い王国では、そうした体を動かす狩りが、貴族の間での遊戯なのだ。

帝国とも、同盟ともここはまず違うだろう。

 

ベルナデッタは信じられないとばかりに呟いた。

 

「そ、想像できないよ…お肉をまるまる、焼く…?」

 

 

 

そんなこんなでベルナデッタはパイクの贅沢グリルを、ユーリスは獣肉の鉄板焼きをそれぞれ作り、私と食堂のおばさんが二人の支援に回ることで、無事に人数分の食事を用意することができた。

二人とも流石の手際だ。

 

 

 

お昼の時間になると、生徒や修道士達が次々と入ってくる。

私は彼らの様子を暫く眺めることにした。

やはりと言うべきか、修道士や修道女、生徒の中でも貴族の子息たちは、パイクの贅沢グリルをよく持って行った。

代わりに生徒の中でも騎士の子息や、王国出身の生徒は獣肉の鉄板焼きが好みのようだ。

 

まあ、カスパルのような例外もいるが。

 

 

 

「うおおお!!うめえええ!!このにふ!まひでうまいっ!!!」

 

 

 

そう肉を全力で頬張りながら飲み物のように飲み込んでいく。

それをエーデルガルトとリンハルト、そしてモニカがげんなりと見つめていた。

 

「カスパル…食事は飲み物じゃないんだよ…絶対体に悪いって、それ。」

 

そう言うリンハルトに、二人もしきりに頷く。

エーデルガルトは呆れた声音を隠さずに言った。

 

「カスパル…健康面でもそうだけど、品位が無さすぎるわ。やめなさい。」

 

モニカも追撃する。

 

「…カスパルさん。いくら何でも、流石に陛下の前で無礼すぎますよ…。」

 

「何だよ!別にいいじゃねえか!俺は食いてえように食う!」

 

そんなカスパルの言葉に、三人はまたため息をついた。

 

 

その光景を、遠巻きに眺めてため息をついている貴族が一人。グロスタール家のローレンツだ。

彼はパイクの贅沢グリルを丁寧にフォークとナイフで見事な所作で食べ終え、皿を持って厨房の前にいる私の元に来た。

 

「やあ、先生。ご馳走様だった。…実に良い出来のアミッドパイクのグリルだ。うちの実家もアミッド河に面しているのでね。よく食べるんだが…正直、驚いたよ。ここまで大修道院の貧しい香辛料で見事に仕上げるとは。さぞ腕のいい料理人が作ったに違いない。是非礼が言いたいのだが…」

 

 

 

そんな彼に、私はにこやかに答えた。

ベルナデッタの頑張りが認められるのは嬉しい。

 

「ああ、これを作ったのはベルナデッタだよ。後でお礼は伝えておこう。…彼女も喜ぶと思う。」

 

そんな私の答えに、ローレンツは少し驚いた顔になった後、満足げに呟いた。

 

「そうか。あのベルナデッタさんが。正直、奇行を繰り返して引きこもっている印象しか無かったのだが…考えを改めねばなるまい。流石はヴァーリ伯の一人娘だ。…普段から良きものを食べ、素養を磨かねばこれは作れん。…今度お茶に誘うとするか!」

 

 

そんな風に無謀なことを呟くと、ローレンツは軽くため息をついて言った。

 

「だというのに…嘆かわしいことだ。貴族の子息とあろうものが、あのような品のない食べ方をするとはな。平民ならともかく。そもそも、貴族が血など滴る肉を食べるなど…」

 

そう言っておかわりにこちらに来たカスパルにローレンツは呆れた目線を送る。

そして、堪えきれなかったのか嫌味を一つこぼした。

 

 

 

「…やあ、カスパルくん。まだ食べるのかね。服に肉の油など付けたままで…全く。ベルグリーズ伯の子息が仮にもこれではな…。」

 

そんなローレンツに、ムッとしたのかカスパルが言い返す。

 

「俺の食い方がなんか悪いかよ!そもそも親父は関係ないだろうが!」

 

 

 

その答えに、さらにローレンツは呆れたのか言葉を返す。

 

「…やれやれ、分からないのかね。君はベルグリーズという名を背負っている以上、家の栄誉を背負っているのだ。例え継承権がなくとも、貴族には変わらないのだろう?」

 

「はあ?貴族がどうとか、何の関係があんだよ。」

 

 

 

その答えに、ローレンツは鳩が風魔法を喰らったような顔で唖然とした後、絶句する。

 

そんな折、フェルディナントが不穏な空気を察したのか駆け寄ってきた。

 

 

 

「ローレンツ、カスパル。どうしたと言うのだ?こんなところで言い争いなど…」

 

そんなフェルディナントに、ローレンツが呆れた様子のまま話し始めた。

 

 

 

「フェルディナントくん、彼の服を見たまえ。肉の油がそこかしこについた上、そんな粗雑な食べ方を直すつもりもない。…貴族として彼の在るべき姿を諭していたのだよ。」

 

 

 

すると、フェルディナントは納得したように首を縦に振り、カスパルへと語りかけた。

 

「そうか。…確かにそうだな。カスパル、君とて貴族の一員なのだ。食べ方一つとて、平民の皆の手本となるようにだね…」

 

 

 

そんな二人の態度に痺れを切らしたのか、カスパルが大声で叫んだ。

 

 

 

「ああもう!俺に文句あるのか!喧嘩売ってるのか!?なら買うぜ!?」

 

 

 

その大声に、場が騒然とし始める。私が慌てて抑えに入る。

 

「三人とも、やめよう。食事の場でこんな風に言い争ったら、よくないだろう。それが何より貴族としてあるまじきことじゃないか?」

 

その答えに、ローレンツとフェルディナントは冷静になったようで、慌てて周りを見て頭を下げる。

 

「こ、これは僕としたことが。皆にすまない事をした。」

 

「ああ、そうだな…。今はやめておこう。ただしカスパル、君には後で話がある。」

 

 

そう言って二人は立ち去って行った。そんな彼らを見て、カスパルは憤慨して言った。

 

「何なんだよ!ったく。言いたい放題言いやがって。」

 

そんな彼を、呆れるように食事を食べ終わって、こちらに皿を返しにきたリシテアが諭した。

 

 

 

「…いや、そもそも変な食べ方をする、あんたの問題だと思いますけど。子供っぽいったらありゃしない。」

 

「は!?俺が悪いのかよ。…つうか、お前には言われたくねえよ!」

 

 

 

リシテアはそんなカスパルを軽く無視すると、私に話しかけてきた。

 

「先生、午前中の講義について質問が…教室で待ってますので。」

 

「分かったよ。ならすぐ向かおう。」

 

「ありがとうございます。」

 

そう笑顔でお礼を言って去っていく。

…私は立ち去っていくリシテアの背中を目線で追いかけながら、エーデルガルトの話を思い返していた。

 

「私の他に紋章の実験を、闇に蠢く者どもから受けていた被害者がいるらしいの…その一人が…」

 

 

だとしたら、彼女は得難い協力者になるかもしれない。

共に、闇に蠢く者を滅ぼせるような。

彼女の魔道の実力は、学生の中でも抜きん出ている。

 

何より…可愛いからお近づきになりたい!

心の底から幸せそうな彼女の笑顔が見たい。

 

「それが本音じゃろ。」

 

そう言って、ソティスは呆れたように笑った。

 

 

 

 

 

 

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