女好きべレス先生の覇道   作:カバー

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更新が遅れて申し訳ありませんでした。
少しずつですが進めていきます。


女好きベレス先生の覇道 腹の探り合い

 

 

 

大修道院の広々とした玄関口で、セイロス聖教会の司教がアランデル公に労いの言葉をかける。

周りの生徒や騎士達もざわついた様子だ。

何故ならば彼はアドラステア帝国の摂政。軍務卿と内務卿以上の大物と呼んで差し支えないからだ。当然、教会側の出迎えも気合いが入る。

 

 

アランデル公は丁寧に返礼を返すと、慣れた手つきの騎士の一人に立派な馬を預け、ゆっくりと大修道院の中へと入っていく。すると、たまたま通りかかったディミトリが、驚いた様子で駆け寄り声をかけた。

 

 

 

「義伯父殿!珍しいですね。大修道院にまでわざわざ貴方が足を運ぶとは…エーデルガルトの激励に来たのですか?」

 

その言葉に、アランデル公は軽く頷き、丁寧に答えた。

 

 

 

「…ディミトリ殿。ああ、その通りだ。何せ未来の皇帝の初陣とも言える。摂生としては、応援しないわけにはいくまい。」

 

 

 

ディミトリは納得しましたと頷くと、どこか張り付いたような笑顔で会話を続ける。

 

 

「正直、それでも義伯父殿が大修道院にまで来られるとは驚きました。最近は教会への寄進もぱったりと辞められているようですし…」

 

 

 

そのディミトリの言葉に、アランデル公は少し微笑んで首を横に振る。

 

「いや、恥ずかしながら少し領内の懐事情が厳しくてな。寄進を控えているのはそれが理由だ。特に教会との関係に変わりはない。…ところでディミトリ殿。エーデルガルトとその教師殿は今、士官学校に?」

 

 

 

ディミトリはどこか乾いた笑みを続けて、頷いて答えを返す。

 

「ええ。明日の鷲獅子戦に備えて、今日は全学級が休みですから。今頃食堂で朝食でも取っているのではないでしょうか。」

 

アランデル公も僅かに微笑んだままだ。…目は笑っていないが。

 

「そうか。ありがとう、ディミトリ殿…感謝する。鷲獅子戦、エーデルガルトの勝利を祈ってはいるが、君の活躍も義伯父として期待しているよ。」

 

 

 

ディミトリも目が笑っていない微笑みで答える。

 

「そう言って貰えるとありがたいです。ですが、簡単に勝利を彼女に譲るつもりはありませんよ。」

 

「「ははははは…」」

 

 

そうして軽く二人で乾いた笑い声を響かせると、彼らは別れていった。司教達は、呑気に彼らの仲の良さは王国と帝国の友好に貢献する素晴らしい事だと喜んでいたが。

別れた途端、二人の微笑は消え、互いに聞こえぬよう小さく呟いた。

 

 

 

「……忌々しい獣風情が。」

 

「…何を企んでいる?尻尾を掴んでやるぞ…」

 

そうして、ディミトリは別れたふりをして気取られぬよう慎重にアランデル公の後をつけ始めた。

己の復讐の相手かも知れぬ男を、見定めるために。

 

 

 

****************

 

 

 

ベレス視点

 

 

 

私はエーデルガルトとドロテア、そしてモニカとベルナデッタと共に朝食を取るため食堂に集まっていた。可憐な花たちを眺めながら食事ができるのは本当に最高の贅沢だ。

 

 

エーデルガルトとモニカは私と同じくフィッシュサンドを頼んだ。

フィッシュサンドはパンに酢漬けのキャベツと、新鮮なアミッドパイクを挟んだものだ。

 

 

ドロテアがいつも通り朗らかにエーデルガルトに笑いかけて呟いた。彼女は二種の魚のバター焼きを丁寧に食べている。

 

「エーデルちゃんとモニカちゃんって、良い意味で貴族臭くないんですよねえ、ほんとに。手づかみで食べる食事なんて、帝都の貴族様方は嫌がってたのに…先生は傭兵だったから別ですけど。」

 

 

言われてみればそうだなと私は二人を見る。まあエーデルガルトはそういう貴族文化を破壊するのが目的の一部なので分かるのだが、モニカも手づかみで食べている。少なくともローレンツやフェルディナントは嫌がるだろう食べ方だ。

 

にしてもドロテアの貴族嫌いは筋金入りだ。

フェルディナントとも仲はあまり良くないし、ローレンツと言い争っていたらしいことも耳に挟んだ。

 

 

エーデルガルトは一口上品にフィッシュサンドを口に含んで食べると、淡々と答えた。食べる所作でさえ可憐で可愛らしいのは凄いと思う。

 

 

「行儀作法の全てが無駄だと言うつもりはないけれど、貴族のそれは時間をかけすぎるのよ。私はやらねばならない事が多すぎるから。」

 

成る程。合理的なエーデルガルトらしい発言だ。

モニカはそんなエーデルガルトの言葉に感銘を受けた様子で目を輝かせた。

 

 

 

「流石ですエーデルガルト様!私はそこまで考えつきませんでした…ただ、魚が好きなので…そんな単純な理由で、すみません…。」

 

「あら、食事なんだから自分の好きな物を食べれば良いじゃない。でしょう?師。」

 

「ふん、ほうだね…私もそう思うよ。」

 

 

 

フィッシュサンドを丸々と頬張って飲み込みながら話す。それを見てエーデルガルトは呆れたようだったが、小さくくすりと笑った。

 

 

「それで、師。この後の予定なんだけど….ッ!?」

 

「おお、そこに居たかエーデルガルト。…これはこれは。貴女が噂の新任の教師ですか。姪が世話になっている。」

 

 

 

その厳格そうな声に振り返ると、一人の男性が背後に立っていた。服装からして帝国の貴族だろう。黒い長髪から上品な印象を受ける。

いや。そんなことより、今彼はエーデルガルトを姪と呼んだ。つまり、彼は…!!

 

 

「伯父様…!どうしてここに!?」

 

 

 

エーデルガルトの伯父であり、闇に蠢く者の首領である、アランデル公!

私の中のソティスが力を抑えながらも苛立った様子でざわめく。

 

…落ち着け。顔に出してはいけない。ここで怪訝に思われれば全てが水の泡だ…!

 

 

「エーデルガルト、彼は?」

 

 

私は勤めて普段通りの顔でエーデルガルトに問いかける。彼女も何でもない様子を貫いていて、私に彼を紹介してきた。

 

 

「こちら、アドラステア帝国摂政のアランデル公よ、先生。私の伯父にあたるわ。…それで伯父様、今日はどんな用で…」

 

「ああ、なに。大した用でもない。ただ鷲獅子戦前に姪の応援に来ただけだ。たまたま近くに所用があったのでな。初めまして、先生。…噂通りのお姿だ。…珍しい髪色をしているな。」

 

 

 

そう他愛もない会話を交わしつつも、アランデル公は鋭い瞳でこちらの一挙手一投足を見つめてくる。ついでに何気ない振りでナバテア人特有の緑の髪色について探ってきた。

 

 

 

ソティスは舌打ちをして鋭い眼光でアランデル公を睨みつける。闇に蠢く者は当然ながら彼女にとってはフォドラで一番嫌いなものだからだ。私も同感だが。大事なソティスの嫌いな相手は私も嫌いだ。

 

 

「こやつ…いい度胸をしておるのう。いつか誅してやるのが楽しみじゃの、おぬし。」

 

 

 

私はソティスに心の中で同意する。すると、黙りこくって固まっていたベルナデッタが奇声を上げてアランデル公に叫んだ。

 

「び…ひええ!あ、アランデル公まで来られたということは…まさか今度こそお父様も…?」

 

 

 

アランデル公は一瞬その奇声に呆気に取られたようだったが、少し顔を歪めて淡々と答えた。

 

「君は…ああ。ヴァーリ伯の娘か、安心したまえ。彼は来ない。…では先生。エーデルガルトを借りてもよろしいかな?折角の機会だ。姪と二人で話したいのでね。」

 

 

 

私は一瞬思案するが、ここは一度確認したいと判断した。彼が本当に闇に蠢く者なのかどうか。

エーデルガルトを心の底から信用してはいるが、確証は欲しい。

私はソティスに合図する。即座に天刻を使えるように。

 

 

そして私は立ち上がると、不敵に笑ってアランデル公に告げた。

 

「私を殺す算段でもするの?闇に蠢く者の首領として。」

 

 

 

次の瞬間、場が静まり返った。そして、アランデル公は絶句した後、殺気をエーデルガルトに飛ばした。

 

 

「貴様!我らを裏切りおったか…!」

 

「な!師!何を!?」

 

 

よし、確定だな。天刻の拍動!

視界が紫に染まり、ガラスが砕けたかのような音が響く。そして、時は巻き戻った。

 

私は立ち上がる前の姿勢に戻っている。アランデル公は少し不思議そうに辺りを見回したが、咳払いをして何ともない様子で告げた。

 

 

 

「では先生。エーデルガルトを借りてもよろしいかな?折角の機会だ。姪と二人で話したいのでね。」

 

 

私は先ほどとは違い、微笑んで朗らかに答えた。

 

 

「ああ、構わない。今日は休みだしね。二人でゆっくり話してくるといいよ、エーデルガルト。」

 

 

アランデル公は軽く会釈をすると、エーデルガルトを連れて足早に中庭まで立ち去っていった。私はソティスに呟く。

 

 

「…これで確定か。ありがとう、ソティス。やっぱり便利だよ天刻。」

 

 

 

ソティスは満足げに胸を張って言った。

 

「そりゃあそうじゃろう!わしの女神としての力じゃ!虫如きに見破られるものではないわ!」

 

何か情報をエーデルガルトが得られれば良いんだが。そう思案して、私はフィッシュサンドを食え、モニカ達に鷲獅子戦の件で先生達と話があるからと嘘をついて、エーデルガルト達の後をつけることにした。

 

「午後からのお茶会はどうするの?先生!」

 

そうドロテアが不満そうに問いかける。私はそっと彼女の手をとって、軽く口付けして答えた。

 

「勿論招待は断らないよ。特に愛しい君の招待は。」

 

ドロテアは可憐な薔薇のように微笑んだ。

私は立ち上がると足早に二人の後を追う。

 

 

 

「よいのか?エーデルガルトに任せて様子を見ておいてもよいと思うが。」

 

「いや、私も直接話は聞きたい。…エーデルガルトが心配だし。いざとなれば天刻もまだあるしね。」

 

「全く…あやつが心配なのが本音じゃな?」

 

そうして彼女達の後を傭兵時代に培った尾行術で追っていると、もう一人私の前で二人を尾行している人物に気づいた。こちらには気づいていない。

 

 

 

「…あれは、ディミトリ?」

 

 

 

 

 

****************

 

 

 

日差しがさんさんと降り注ぎ、高価な椅子と机が立ち並んでいる。綺麗な花は心を和やかにし、友人や恋人の学生達が華やかに雑談を交わし、紅茶を楽しむ中庭。

 

エーデルガルトとアランデル公はその一角の人気のない影の中で会話を交わし始めた。

 

 

 

アランデル公は忌々しそうに生徒達の様子を見て呟いた。

 

「…獣どもが、光の元ではしゃぎおって。虫唾が走る。」

 

 

 

エーデルガルトは軽く彼を睨むと、淡々と問いかけた。

 

 

 

「それで、公よ。何の用?彼女を直接殺しにでも来たの?それとも単に諸連絡?」

 

そうエーデルガルトは内心警戒しながらも何でもないかのように問いかける。アランデル公は真顔で首を横に振って答えた。

 

 

 

「あやつを始末するのはまだ先の話だ。…今この体が教団から敵視されるのはまずい。…毒などもソティスの依代には効果は薄いだろう。それが可能ならヒューベルトの奴がとうにやっておるはずだ。」

 

エーデルガルトは軽く心の中で安堵する。実際には、ヒューベルトも自身もアランデル公を裏切っているのだが、彼は毛ほども気づいていないらしい。

 

彼は淡々と続ける。

 

 

 

「まあ、そろそろおぬしにも伝えねばと思ってな。例の実験の段取りがもうついた。それが終わり次第、本格的に事を起こす。…予定とは違うが、ソティスの依代は確実に滅せねばならぬ。星辰の節には、例の血に適合した魔獣どもをここで暴れさせる。」

 

 

 

その言葉は、エーデルガルトにとっても想定外だった。

 

 

 

「なっ!?開戦の前にここを襲うつもり!?」

 

アランデル公は安堵させるようにエーデルガルトの肩に手を置くと、諭すように話しかけた。

 

「まあな。だが心配することはない。所詮使い捨ての魔獣を仕掛けるだけだ。

おぬしの計画に支障はないはずだ。」

 

 

「…それで師が殺せるかしら。セイロス騎士団も居るのよ。返り討ちに遭うのでは?内部に潜ませている闇に蠢く者を使うの?」

 

エーデルガルトはさりげなくソロンの動く機会…即ちうまく捕えられる機会がいつなのかを掴もうとした。

 

「いや、ソロンは使わぬ。…となると、まあ、そうであろうな。だが、この襲撃の目的は、"ソティスの依代"を殺すことではない。その為の駒を拾う為だ。」

 

エーデルガルトは眉を顰める。…駒?彼女が初めて聞く情報だった。少なくとも愉快な新情報ではない。

 

「駒?」

 

「ああ。この獣どもの中に、特異な紋章を持つものが居るとつい先日掴んでな。…魔獣化させれば強力無比な"獣'となるだろう。ソロンとモニカに兵を指揮させ、その獣を人質にあやつを森に誘き出す。そこで、ゆるりと仕留める。」

 

「……………その者とは?」

 

「実行するのは盗賊よ。おぬしは知らぬ方が良いだろう。…よく思わぬか。」

 

 

 

エーデルガルトは不愉快そうな表情を隠しきれなかったらしい。もう隠す気もなかったが。吐き捨てるように呟いた。流石に我慢の限界が近づいていた。

 

「盗賊風情を使うのをよく思うとでも?私の理想とはかけ離れた存在よ。」

 

アランデル公は声を和らげて諭すように言葉を返した。それが余計にエーデルガルトの神経に触った。

 

 

 

「おぬしのためにやる事ではないか。…獣どもを滅ぼし、我らに救いをもたらす救世主、炎帝よ。」

 

エーデルガルトは鼻で笑って答えた。

 

「アンヴァルで、ダスカーで…暴虐の限りを尽くした貴方達に、救いなど来るかしら。」

 

「…それもお前のためにやった事ではないか。これまでも、これからも、な。」

 

そうアランデル公は言葉を返し、声をあげて笑った。

エーデルガルトは心底軽蔑した目でそんな彼を密かに眺めていた。いつか必ず後悔させてやると誓いながら。

 

「さて、伝えるべき事は伝えたな。森でソティスの依代を仕留める時はおぬしの手も借りたい。頼んだぞ。」

 

「…………分かったわ。それで、内部のソロンという者は誰に擬態しているの?色々と話し合っておくべきだと思うけれど。」

 

「…それは知る必要はない。あやつは警戒心が強くてな。おぬしにも正体を明かしたくないそうだ。まあ、あのモニカの小娘の件では、おぬしの失敗もあったゆえな…」

 

 

 

エーデルガルトは冷静に頭を冷やして思案する。

…生徒を一人犠牲にすれば、確実に名有りの闇に蠢く者どもの幹部が釣れる。仲間だと安心しきった者を後ろから襲うのは、簡単だろう。

…ソロンとやらの正体を確実に把握しておければそれが一番楽なのだが、それは無理なようだ。

 

心底うんざりするが、それが確実。

 

 

 

(師には生徒を攫う事は伏せておいた方がいいわね。)

 

彼女のことだ。生徒を犠牲にするのは絶対に避けようとするはず。血濡れの道を共に進むとは誓ったが、彼女にはあまり汚れてほしくない。あの笑顔をまだ見ていたい。

 

(まるでヒューベルトみたいな事を考えてるわね、私。)

そう心の底で軽く彼女は自嘲した。

 

そうしてアランデル公は話は終わりだと言わんばかりに歩き去ろうとした。エーデルガルトも軽く安堵した。情報を得られて、怪しまれてもいない。最上の結果と感じたのだ。だが。

 

 

 

「…待て。畜生ども。」

 

「ッ!?」

 

「………」

 

背後の物陰から現れた人影を見て、エーデルガルトは焦りを露骨に顔に浮かべ、アランデル公は静かに目を細めた。

 

「…やはり貴様だったか。ダスカーの惨劇の諸悪の根源は。探したぞ。…さあ、死ね。死者達に首を捧げるがいい!」

 

 

 

そこには鉄製の槍を構えた、普段の穏やかな様子とは真逆の、憤怒の相をありありと浮かべたディミトリが立っていた。

 

エーデルガルトの受難の一日が始まる。

 

 

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