女好きべレス先生の覇道   作:カバー

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女好きベレス先生の覇道 曲者達の夜

 

 

 

ベレス視点

 

 

 

その女性…コルネリアは、薄紅色の長髪をたなびかせ、薄緑色の瞳でこちらを見つめていた。口元には軽く微笑みを浮かべている。魅力的な容姿だ。

そして何よりも、その大胆に豊満な胸元を曝け出した赤を基調としたドレスが素晴らしい。

 

 

いつぞやシルヴァンが私に熱烈に語っていたのを思い出す。

 

 

「王国の聖女コルネリア様はですね、先生?歳の割に、すっげえ美人なんですよ!!」

 

 

悔しいがシルヴァンの言う通りだったと認めざるを得ないだろう。

私の視線もつい胸元にいってしまう。

私もそれなりに胸の大きさと形には自信があるが、彼女のそれは今まで見た中でも相当なものだ。

今にもこぼれ落ちそうなほどのドレスで形を保ってるってどれほどの…。

どうしよう。口説こうかな。いやでも今は不味いだろう!?

 

すると、コルネリアはくすくすと手を口にやって笑い、私に囁いた。

 

 

 

「あらぁ?ふふ。大司教猊下はそっちの気があるのかしら。どうかしら?少しお話に付き合って頂けませんこと?」

 

「君の様に綺麗な女性からの誘いは断れないね。」

 

 

 

私たちは互いに果実酒の入ったグラスで乾杯し、ゆっくりと味を楽しんだ。

 

だが、彼女の艶やかな唇から飛び出てきたのはかなり予想外な話題だった。

 

「私、リュファス大公の代理で来たと申したでしょう?…実は、少し彼からご不安の声を預かっていまして。…ディミトリ殿下のことですわ。」

 

 

 

その話題で、一気に私の中の熱が冷め、頭が冷えていく。…そうか。リュファス大公の代理ということは、そういう目的で来たのか。

 

「いえね?私どもも身内の不始末には大変恐縮しておりますが、セイロス聖教会の此度の判断も非常に憂いているのですよ。罪人にはきちんとした裁きを!ディミトリ殿下に謹慎などという甘い処罰は、貴女方の権威に傷が付くのではなくて!?」

 

 

 

そう次第に周りに聞こえる程度には大きな声で彼女はディミトリの処断の是非を問うた。

周りの王国と同族貴族たちも次第にざわつきだす。

 

私は周りに聞こえる様に声を張って言葉を返した。

 

 

 

「君の意見も最もだが、ディミトリは唯一のブレーダッドの直系のファーガス次期王子だ。どの様な罰を与えるのかは、慎重な判断が必要になるということを理解してほしい。」

 

「まあ!セイロス聖教会はこの件で帝国が王国への不信感を抱くことを理解しておられるのかしら!…それともアランデル公は殺害未遂を行われるほどの何かがあるとお考えなのかしら?」

 

 

 

 

その目は面白そうに細められながらもどこか探っている様な冷たい色を放っていた。私が思わず言葉に詰まると、ロドリグがつかつかと歩み寄り、朗らかに言葉をかけた。

 

 

 

「まあまあ、コルネリア殿。帝国には王国から謝罪文と幾らかの財を送り、既に受け取られたと聞いております。すぐに不和が生じることもないと思いますぞ?」

 

そこにゴーティエ辺境伯も険しい顔で続いた。

 

 

「…大司教猊下も仰られた通り、殿下はファーガスの王となられるお方だ。帝国側もブレーダッドの血が絶えるのを望んでいるとも思えん。そのような要求があったわけでもあるまい。…代わりにリュファス大公は要求したのかな?」

 

 

 

しばらくコルネリアは薄笑いで彼ら二人を見つめていたが、小さく周りに聞こえない程度に舌打ちすると朗らかに周りに答えた。

 

「…とんでもない誤解ですわね。リュファス大公はあくまで帝国との関係を見据えておられるだけですのに。まあ、理解しました。今は納得しましょう。」

 

 

そう言い切ると、私に妖艶な笑みで近寄り、私の腕に豊満な胸を押し当てて耳元で囁いた。

 

「もしよければ、私とゆっくりと…」

 

 

 

だが、その言葉は咳払いと共にロドリグに遮られた。

 

 

「大変申し訳ないのですが、大司教猊下を呼んでほしいとセテス殿に頼まれましてな。急用があるそうで。何分お忙しい身の上ですからね。」

 

 

 

そう言って私の腕を掴むと、コルネリアにお辞儀をしてロドリグは私を無理やり引っ張って外へと出ていった。

大広間から少し歩いて、学級の教室の前までくると、私の手を離して謝罪した。

 

 

 

「突然のご無礼をお許しください。見ていられなかったもので。」

 

「何を?」

 

私が原因に思い当たりつつも問いかけると、ロドリグは重々しく呟いた。

 

「あれは女狐です。貴女がどんなご趣味を持たれようと私が何かを言う筋はありませんが、これだけは言わせてください。あれに関わっても幸せにはなれませんよ。…リュファス大公が少々その…今のようになられたのも、あの女が側についてからです。」

 

「…ああ。シルヴァンが言っていたね。今の大公は女に現を抜かして、国を傾けていると。」

 

 

 

そう答えると、ロドリグは直裁な言い方に苦笑いして呟いた。

 

「いや、シルヴァン殿も聡明なお子だ。ええ。その通りですよ。残念ながら、賊が我が領土やゴーティエ、そして王領ですら蔓延っているのはそれが原因です。…殿下を亡くせば、王国は立ち行かなくなるでしょう。」

 

そして憂いを帯びた目でロドリグは深々と頭を下げて私に頼み込んできた。

 

 

 

「どうか頼みます。殿下には、寛大な処置を。…何の理由もなく人を襲うなど、殿下はなさらないのです。」

 

私は微笑んでロドリグの耳元で小さく囁いた。

 

「大丈夫だよ。今は形式上ディミトリを謹慎としてはいるが、別にそれ以上の罰を与えるつもりはない。熱りが冷めればすぐに元通りだよ。」

 

ロドリグは頭を上げると、大きく安堵の息を吐いて胸を撫でた。

 

「それを聞いて安心しましたよ!いえ、フェリクスから聞きはしていたのですがね。何分、直接聞きたかったもので。…では私はこれで失礼しますよ。」

 

そう言ってお辞儀をすると、彼は颯爽と去っていった。そして私はぽつんと一人きり。…今から祝宴に戻るのもな。

コルネリアから魅了されたら流石に私が耐え切れるか分からない。

 

…エーデルガルトの部屋を訪ねよう。グロスタール伯の説得の際に彼女も居た方が色々と話が早い。

 

そうして私は軽く秋の夜風が身を包む中、足早に歩き始めた。

 

 

 

****************

 

 

ベレス視点

 

 

 

エーデルガルトと合流した私は、大広間の前で待っていたグロスタール伯を修道士に呼んできてもらい、大修道院二階の小部屋へと案内した。

警護の騎士には部屋の前で見張ってもらおう。…話を聞かれたくもない。

要警戒のシャミアは今日は大修道院に密偵が居ないか探る役割なので不在だ。

 

 

 

シャミアが面倒な任務だとため息をついている姿も美しかった。

 

 

 

部屋に入ると、淡い蝋燭の光が私たちを照らしている。彼はエーデルガルトと共に私が来たのを見て、椅子から立ち上がると仰々しくお辞儀をしてみせた。

 

「これはこれは。未来の皇帝陛下と大司教猊下が揃ってこられるとは。これはただの相談事でも無さそうだ。エルヴィン・フリッツ・グロスタールです。お会いできて恐縮ですよ。」

 

 

優しく微笑んでいるように見えるが、目は笑っていない。鋭く私たちを見つめている。

 

エーデルガルトも丁寧にお辞儀をして、自己紹介した。

 

「エーデルガルト・フォン・フレスベルグです。ええ、こちらこそかのグロスタール伯とお会いできて光栄です。」

 

そうしてエーデルガルトがグロスタール伯と白い手袋越しに握手を交わす。

私たちはグロスタール伯の対面の椅子に座る。エーデルガルトが口火を切った。

 

「グロスタール領はミルディン大橋を介して帝国領と密接している関係上、我々は非常に重要な隣人であると考えています。酪農も盛んで、大変富んで居られるとか。」

 

「いやいや。まあ、何とかやっていますよ。領民を飢えさせるわけにはいきませんのでね。こちらこそ、アドラステア帝国とはより良い関係を築きたいと思っております。…それでは、私がここに呼ばれた理由をお聞かせ頂けませんか。」

 

…ここが勝負だな。いざという時は天刻で…

 

「いや、闇に蠢く者ども相手ならともかく、ただの領主相手に使わせんからな!そこまで安くはないぞ!」

 

…ソティスから怒られてしまった。まあそれはそうだな…。

 

エーデルガルトは少し息を吸うと、意を決した様子で語った。

 

「私はこのフォドラを統一するつもりでいます。グロスタール伯、その夢のために貴方の力をお借りしたい。」

 

 

 

そこから彼女は語り始めた。

今のフォドラの紋章主義を一掃し、新しいフォドラにするために、今一度フォドラを帝国の元に総べるという目標を。

 

そして、押し黙っているグロスタール伯の前に一枚の羊皮紙を差し出した。

 

 

 

「…これは、次期リーガン公、クロードの誓約書です。帝国に降り、私の理想と共に歩むと記されています。」

 

「失礼。拝見させてもらおう。」

 

 

 

グロスタール伯は険しい顔でその誓約書に目を通していたが、やがて小さくため息をついて呟いた。

 

「…我が領土はリーガン領と帝国に挟まれています。領民の安寧の為には、貴女に従う他ないでしょう。…選択肢はない。」

 

まるで脅しだと言わんばかりに彼は頭を振った。反感を抱かれたままでは困る。ここで私は切り札を出した。飴と鞭だ。

 

 

 

「実は私が大司教になるにあたって、今は力が弱い東方教会も再建したいと思ってるんだが、その司教の地位には、力ある者がついて欲しいと思っていてね。…いや、誰とは言わないが。グロスタール伯もローレンツに跡を譲った後はお暇かと思ってね。」

 

グロスタール伯は少し考えていた様子だったが、深いため息をついて答えた。

 

「…やれやれ。ますます断れなくなってしまったな。誓約書は書くつもりはないが、事が起これば協力させてもらうよ。」

 

 

 

そう結論づけると、口外しないと約束して彼は去っていった。その後ろ姿を見て、エーデルガルトは小さく毒付いた。

 

「…要は、私たちが成功すればそちらに付くということね。逆に、失敗すれば素知らぬ顔で見捨てると。曲者ね。」

 

…何だか今日は随分と曲者とばかりやり合った気がする。

どっと疲れが来て、私は椅子に座り込んで軽く目を閉じた。

 

エーデルガルトは私に気を使ったのか、そっと私の隣に座って私の手を握ってくれた。

しばらくそうしていると、部屋の扉が開いてヒューベルトが入ってきた。

 

 

 

 

「お邪魔しますよ。…それで、どうでしたかな?話の方は。」

 

「まあ、悪くはなかったわね。良くもなかったけれど。」

 

そのエーデルガルトの答えに、ヒューベルトは特に驚いた様子もなく頷いた。

 

「まあ、そうでしょうな。…彼相手では、それで上々ですよ。口外はしないでしょう。証拠もない上、帝国を敵に回すことは彼にはできませんから。」

 

そう結論づけると、ヒューベルトは驚くほど淡々ととんでもない事を言い出した。

 

「…エーデルガルト様、帝都での計画についてですが、やはりアランデル公、ソロン、ルートヴィヒは皆暗殺するべきかと。」

 

私が慌てて口を挟んだ。

 

「他はともかく、ルートヴィヒはフェルディナントの父親だろ?以前君も言っていたじゃないか。フェルディナントに協力を促して彼の手で捕縛するのが一番だと…」

 

「それは以前までの話です。帝都に教団の暗部を引き入れることができる式典なら、話は別です。速やかに暗殺することが可能になるのですから。彼らを貶めるための正当性など後からいくらでも…。」

 

 

 

エーデルガルトは淡々と首を横に振って断固とした口調で答えた。

 

「前も言ったでしょう。闇に蠢く者の情報を得る為にも、生捕りにする必要があると。それに私が皇帝になるなら、それなりに正当性は必要になるわ。暗殺ではあまりにも…」

 

ヒューベルトは少し眉間に皺を寄せて考え込んでから、小さく呟いた。

 

「…確かに、先を考えるのならその通りでしょう。ですが、闇の魔道は転移を可能にする。速やかに殺さないのなら、彼らを取り逃がす危険性を負うことになります。」

 

「ルートヴィヒはともかく、他二名を生捕にするのは少々危険性が高いかと…。今の危険性を取り除くか、先を考えるか…となりますな。」

 

私たちは三人で少し考え込んだが、結局はこう結論づけた。

 

タレスは確実に消す為に暗殺。ソロンはできれば捕縛するがやむない場合は殺害。

ルートヴィヒは捕縛。後に罷免。

 

教団側とのすり合わせもあるが、ひとまずはこの方針で進むこととなるだろう。

 

 

 

 

****************

 

 

クレオブロス視点

 

 

忌々しい獣どもの匂いで満ちた大広間から歩き出て、居心地の良い暗闇に満ちた大修道院の一室に無造作に扉を開けて入る。

 

その中では、既にこじんまりした爺に擬態した、ソロンの奴が待っていた。

俺を見るなり、丁寧に挨拶してきた。

 

「クレオブロス様!お待ちしておりましたぞ。いったい、何のご用件で?」

 

「別に、用ってほどのもんでもねえよ。ただ、お前に一つ忠告しておこうと思ってな。」

 

「というと?」

 

俺は舌打ちして椅子に座り、足を組んで小さくソロンに囁いた。

 

「…あのソティスの依代、タレスのノロマ爺に勘づいてるかもしれねえ。次の帝都での式典、てめェも行くんだろ?気をつけとけよ。それだけだ。」

 

無造作にそう言い放つと、ソロンは息を呑んでしばらく考え込んでいたが、無言で頷いた。

 

ったく…何で話聞いてたディミトリをあの爺は放置して帰ったんだよ。

せめて始末しとけよ。面倒臭え。

あの状況なら正当防衛で通っただろ。

 

そうイラつきながら、俺は机に無造作に足を放り投げた。

…依代を誘惑するまでもう少しだったってのに、あのロドリグの野郎にも腹が立つ。

 

上手く色仕掛けで殺せるかと思ったんだがな。

そう舌打ちをして、俺は闇を見つめた。

 

 

 

 

 

 

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