異種族との恋(そしてあけすけな性)についての三つの物語   作:五十貝ボタン

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2,ペタラとカレンシール

「私の恋人の名前はカレンシール。詩人で演奏家。彼はまだ140歳だけど、エルフの森で評議会の議員でもある」

 ペタラは花瓶の上をくるりとまわり、開花術を唱えた。キキョウの花が花瓶の中にあらわれる。

「140歳? エルフにしては若いけど、さすが長寿の種族ね」

「すごい年の差だね」

 感心するサラとリリィ。ペタラはくすぐったそうに小さな体を揺すった。

「まあね。60歳も違うんだもの」

「ん!?」

「え?」

 ふたりがぎょっとして妖精の姿を見つめる。当人はきょとんとまばたきしていた。

 

「最初に出会ったとき、私はまだ30歳。ほんの蕾だった」

「妖精の時間感覚って、ぜんっぜん分からないな」リリィは驚いたような感心したような、不思議な表情だ。

「でも、私はフェアリーで、彼はエルフでしょ。ずーっと昔の伝統だと、立場は対等じゃない。エルフは他の種族よりも優れていることになってるから」

「それは第2紀のエルフたちがいた頃でしょ?」サラがカップの縁を撫でながら言った。「今は他の種族と平等に扱う条約を結んでるし、彼らの考え方もかなり変わったって聞くわ」

「街ではね。でも森には、まだ長生きのエルフたちがたくさんいて、古い感覚が完全にはなくなってないの。だから、エルフがフェアリーを小間使いにしたり、庭や枝の手入れをさせることはよくあるわ」

「ペタラとそのひとも、そうだった?」

「うん、そうなるかな」

 (はね)をちらちらと動かしながら、ペタラは顎に指を当てた。

 

「それで、彼に招かれて、昼は一緒に暮らしていたの」

「そんな手下みたいな扱いを受けて、嫌じゃなかったの?」

「うーん、どうかな……嫌だって言う子もいたし、喜んで仕えている子もいたわ。エルフと一緒に居れば美味しいものが食べられるし、エルフ社会での礼儀も身につくでしょ。『昔ながら』のやり方が好きなフェアリーだってたくさんいるもの」

「ペタラはどうだったの?」

「彼はずっと若いエルフで、ヒューマンとの交流もあったみたい。だから、自分のことは自分でやっていた。でも、フェアリーを侍らせていないのは彼らの社会では不自然みたい。私は彼の詩や音楽を聞いて、感想を求められたりしてた。もちろん、お客様が来た時や人前に出る時は、それらしく(・・・・・)振る舞うけど」

 

「なるほど」サラが頷いた。「一緒に暮らすうちに好きになってた?」

「ふふ、まあね!」

 ペタラは空中でくるりと輪を描き、何もない場所に腰掛けた。

「でも、エルフの恋愛って不思議なの。彼らは公にそういうことを話すのを嫌うのよ。詩や芸術の中でも、恋の言葉は何重にも隠して語るの。エルフが作った恋物語を、ヒューマンはずっと歴史書だと思ってたって話もあるくらい」

「彼らの言葉は、表向きの文字だけじゃとても測りきれないわ」

 言語の専門家として、サラはため息をついた。

「だから、好きとか愛してるって、言葉で伝えてはいけないのよ。その上、誰と愛し合っているのかまわりに気づかれるのも、恥ずかしいことだって思ってる」

「変なの」リリィが鼻白んだような表情で言った。「寿命が長いって言ったって、夫婦ができなきゃだんだん減ってくでしょ?」

「彼らにとっては一種の遊戯(ゲーム)なのよ。結婚式は挙げないけど、結婚12年目のお祝いはするの。いつのまにか(・・・・・)そうなっていた、っていうのが、彼らの理想の結婚なのよ。時々、こういうことに耐えられなくなったエルフがヒューマンの街に出て行くわけ」

「興味深いけど、とても私の人生じゃ付き合えそうにないわ」

 サラが肩をすくめる。ペタラはイタズラっぽくその動きをマネした。

 

「それで、ペタラはどうなの?」

 リリィが水を向けた。

「私も、彼らの流儀に則ることにしてる。でもそのためには、カレンシールと釣り合う女だって思われないといけないでしょ。そのためには、森にいるよりもこっちに来て、私なりに名声を集めようと思ったの」

「それじゃあ……」一転、リリィは尊敬のまなざしを向けた。「学園に入ったのも、花屋をやっているのも、人生計画のうちだったの?」

「もちろん!」妖精は思いっきり胸を張ってみせる。「いまや、私は街一番の開花術士。エルフの式典に飾るお花を任せられるくらいにね」

「すごい!」サラは目元を潤ませていた。「私、ぜんぜん知らなかった。ペタラがそんなに熱烈な恋をしてたなんて」

「言ってなかったもの」

 ペタラは楽しそうに空中でステップを踏んで、とんぼを切った。

「でも、学園で学ぶのも、花を育てるのも楽しくてやってるのよ。友達もできたし」

 そしてふたりにウィンクを送り、ペタラはティーカップに口を付けた。

 

「ところで」

 リリィは両手を胸元に引き寄せる手つきをした。ハーフリングはジェスチャーを好む。この場合は、『話題を片付ける』の意味らしい。

「エルフとフェアリーで、デキるものなの? 夜のことは」

「その話をしなきゃと思ってたの。サラもお話してくれたし」

 ぽっと頬を赤らめるサラを尻目に、ペタラは大きく頷いた。

「今は一つの季節に一度だけ、会うようにしているの。私が森に行く用事があればその時に。そうでなければ休みを作って。それで、一晩だけ一緒になる……」

「……どうやって?」

 サラはドキドキ鳴る胸を押さえながら聞いた。

 

「一緒のベッドで一緒に寝るの。私は彼の髪を体に巻いて……すっごく幸せよ」

「えっと……それだけ?」

「身体的にはね」

「つまり、ふたりの関係は精神的(プラトニック)ってこと?」

「それじゃあ、肉体的なつながりはないんだ?」

 ふたりが拍子抜けしたようにまばたきする表情を見て、ペタラは不意に笑い出した。

「ふふふっ! ごめんなさい、ちょっとからかってみたくて。確かに身体的にはそれだけなんだけど、2人が想像しているのとはちょっと違うかも。私たち、夢の中でする(・・)のよ」

「夢で?」

 きょとんとするリリィ。ペタラは目を閉じて、エメラルド色の髪をなびかせた。

 

「薬草を煎じて、お香を焚いて……寝室に魔法をかけるの。そうすると、2人で同じ夢を見ることができる。夢の中では、どんな姿にだってなれるでしょ。私がエルフになることもあれば、彼がフェアリーの大きさになることもある」

「そ、それは……刺激的ね!」

 思ってもみないプレイに、サラは小さく鼻を鳴らした。

「季節ごとに私も彼も変わっていくでしょ。だからその一回をゆっくり、何度も味わうの。夢の中なら何度もできるし……」

 小さな体を左右に揺らして、ペタラは陶酔の吐息を漏らす。

 

「他のエルフに気づかれないように……2人だけの秘密っていうわけだ?」

「そう。カレンシールがそれを詩にしてエルフたちに伝えるの。いま森で流行っている詩は獣が二匹で自然の中を遊び回る様子を描いているけど、その本当の意味を知っているのは私と彼だけ。いつかその意味をエルフたちに知らしめる時が楽しみだわ」

「エルフたちのゲームを、あなたと彼が楽しんでいるのはよく分かったわ」

 エルフの詩人とイタズラ好きのフェアリーが仕掛けた『遊び』に、サラはすっかり驚嘆していた。

「サラの話ほど刺激的じゃなかったけど、ようやく打ち明けられたわ! このこと、森のエルフには絶対に言っちゃダメよ」

 3人はうなずき合い、友情を確かめた。

 

「じゃあ、あたしの番か……」

 リリィは頬を掻きながら、ためらいがちに口を開いた。

「ちょっと変な話に感じるかもしれないけど、とりあえず聞いて」

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