……ヒフミはね、行動力がすごいんだ。
そしてアズサは覚悟がすごいんだ。
これは、彼女がアツコと再会し、食べられる(意味深)前。
補習授業部が退学を免れ、その後のエデン条約の前に起こった、二人の少女を中心とした騒動の話。
■■■
「おはようございます、シズクちゃん!」
「あ、ヒフミ。おはよう」
おはよう、俺だ。
なんとか無事にテストを終え、退学の危機から脱することが出来た。
唯一の懸念事項がテストだっただけに、クリア出来たときの達成感はかなりのものだった。
まぁ多分、勉強しなくなったらまた点数が下がっていくんだろうけど……せめて赤点は回避したい……自警団のパトロールはしつつ、空いた時間は補習授業部に入り浸る感じかなぁ。
なんて考えていたら、ヒフミの顔が少し赤くなってる……火照ってることに気づいた。
なんだろ、何か考えてたのかな。いやコハルでもあるまいし流石にそれは……
とりあえず、聞いてみよう。
「ヒフミ、なんだか顔が赤いよ」
「え? そうですか? なんだか今日は暑いから、そのせいかもしれません」
「暑い?」
はて、と。
今日の温度は……そうだね、25度だね。だいたい適温くらいだ。
ヒフミはそんなに暑がりじゃない。かといって寒がりでもない。暑いときには暑いと言うし、寒い時には寒いと言う。
俺自身が感じる気温も暑いと言うほどではない。
……つまり、ヒフミは風邪になっている可能性がある。しかも自覚なしときた。
重症だ。
「……ヒフミ」
「どうしましたか、シズクちゃん」
「救護騎士団のところに行こうか」
「……えっ?」
というわけでヒフミを連れて救護騎士団にお世話になりに行くのだった。
ヒフミは平気です、風邪じゃありません、と否定していたが、明らかに体温に異常があるのは確かだ。
風邪じゃないにしても、専門家に見てもらったほうがいい。
そう思って引きずってでも連れてきたのだが……
「薬が必要ですね」
「風邪薬?」
「いえ、抑制剤です」
「うん?」
……なんだか雲行きが怪しくなってきたぞ?
「ヒフミが、オメガに?」
「うん。そう聞いた」
結局、ヒフミはまだ症状が軽い内に早退。
ヒフミが早退した旨を伝え、今日は……というより、発症が発覚して一週間は来れないことを補習授業部の皆に教えた。
そして、ヒフミがベータからオメガになった、ということも。
曰く、発情期の前兆でまだ発情期は来ていないが、既にアルファに少なくない影響を及ぼしている、らしい。俺にはまったくわかんなかったけど……
そもそもベータからオメガに変化する例が少ないため、どのような対応が正しいのかもわかっていない。今はオメガにするのと同じ対応をしているけど……
「お見舞いに……と言いたいところですが、私は行けませんね」
「え、なんでよ?」
「私も、仮にもアルファなので……よろしくないことになってしまうかもしれません♡」
「なっ!? えっ、エッチなのはダメ! 死刑だから!」
相変わらずのハナコであった。あと頭ピンクなコハル。いやどっちもピンクか……?
そんな中で、アズサはかなり深刻そうだった。
「私は、行かないほうがいいのかな」
「……どうだろう。ベータだから行っても良い気はするけど……逆に刺激を与えないためにも、モモトークで済ませたほうがいいのかな」
「そうですね……アズサちゃんなら、アレがあるのでお見舞い自体は問題ないと思いますよ?」
「本当?」
ハナコが助け舟を出してくれた。
しかし、アレ。アレってなんだ? ハナコがアズサは問題ないと言えるようなアレ……?
……私達が持ってなくて、アズサだけが持ってるもの……うーん。
……あぁ、アレか。
「それとアズサちゃん。これはもしもの話なんですが……ちょっとこちらに」
「何?」
ようやくアレとは何なのか理解したところで、ハナコはアズサを連れて教室の外に出ていってしまう。
多分、周りに人がいると話し辛いことなんだろうな。隠すようなことなのかはわからないが……
「ハナコ、何話してると思う?」
「しっ、知らないっ! どうせエッチなことに決まってるわよ! 死刑よ死刑!」
いつもの頭ピンクである。
でもこういうところも可愛いと思う。特に事態に直面したら妄想大爆発しちゃうところとか。
……その後、しばらくしたのちにハナコが戻ってきて「アズサちゃんはヒフミちゃんのところに行きました」と伝えられた。
何を話したのかは知らないが、ハナコならアズサに虚言を囁いたりしないので、きっと役に立つことを教えたのだろう。
普段のピンク発言は、今は気にしなくていい。ハナコだってヒフミのことは心配なんだから、こんな時までふざけたりしないだろう。
悪いようにはならないはずだ。
あれから、一週間。
ヒフミは無事に発情期─────ハナコに教えてもらったが、別名はヒートというらしいソレを乗り越え、補習授業部に戻ってきてくれた。
薬がヒフミと合わないせいでヒートを抑えきれない、なんて情報が後から来た時にはどうなるかと思ったけど、無事に済んで良かった。
この一週間、アズサは献身的にヒフミの元に通いヒートに苦しむヒフミを支えてあげたらしい。体調がマシな時にモモトークでヒフミから連絡が来たので間違いない。
……この一週間、どこからか情報が漏れたらしく、オメガに成ったヒフミを狙う組織との戦闘が勃発したが……幸い、アズサやヒフミにもバレずにことを終えることが出来た。
先生の手も借りたんだから、成功してもらわなくては困る。
問題の諸々は片付いた。先生も頑張ってくれたし、それは良いことだ。ただ、ちょっと気になることがある。
「ねぇねぇコハル」
「な、なによ」
「ヒフミとアズサ、距離感近くなったよね」
ヒフミとアズサは、この一週間で更に距離を縮めたらしいのだ。
すごく親密そうに……前からしてたか。でもより一層親しくなったように見える。
それに二人っきりになりたがる場面が見受けられる。
これはもしかして……もしかするかも?
「ふふふ、きっと■■があったんですね♡ 良いですね■■、皆さんも■■────」
「エッチなのはダメ死刑!!!」
ハナコさん、気が抜けたからって下ネタ連発するのはどうかと思うよ……?
「なんだか、幸せそうだよね二人共」
「そうですね。アズサちゃんもヒフミちゃんも、きっと内から外まで交わるような────」
「ハナコ、ちょっと抑えようね?」
「あらあら♡」
……しかし。
俺も、昔は男の夢であるハーレムに憧れたりしたこともあったけど、今は全然。そんなことあり得ないってわかってるし。
でも、仲良く出来る恋人が欲しいなぁ……
なんて、思ってみたり。
後に百合ハーレムが出来上がることを、シズクは知らない。
■■■
『1日目』
「ヒフミ」
「……あぅ?」
「大丈夫……じゃ、ないか」
「……うん」
「(……)触れてもいい?」
「さわって?」
「(…………)汗がすごい。ハナコが言ってた通りだった。今拭くから」
「んぅ」
「(………………………可愛くて抱きしめたくなる)」
『2日目』
「来たよ、ヒフミ」
「アズサ……ちゃん」
「良かった、昨日は意識が朦朧としてたみたいだから……何かしてほしいことはある?」
「………」
「ヒフミ?」
「て、にぎって」
「わかった」
「それと、いっしょにねて」
「うん」
『3日目』
「アズサちゃん」
「ヒフミ? 大丈夫なの?」
「うん」
「……無理してる?」
「してない」
「……何をしてほしいの?」
「だっこ」
「う、うん?」
「だっこ」
「……わかった」
『4日目』
「アズサちゃん!」
「ヒフミ、今日は元気そうで良かっ」
「アズサちゃん、よく見えない」
「ごめん、今は外せ」
「とって」
「ヒフミ」
「……」
「あっ、ちょっ、ヒフ……」
『5日目』
「(頭がクラクラする……ここまでとは、想定外だった)」
「んふふー」
「ヒフ、ミ?」
「ペロロさまとー、アズサちゃん。いっしょでうれしい!」
「……そっか」
「アズサちゃんは? うれしい?」
「うん。私も、一緒で……嬉しい」
「うふー」
『6日目』
「……アズサちゃん」
「……? どうしたの?」
「お願いがあるんです」
「うん」
「ちょっと、こっちに」
「わかった」
「少し、痛いですよ」
「ヒフ……っ!?」
『7日目』
「っ……ここは」
「アズサちゃん、おはようございます」
「ヒフミ? 私……そうか、ヒフミに抱きつかれて、それで……」
「アズサちゃん、知ってますか?」
「え?」
「オメガは、適性のあるベータをアルファに出来ます。その方法は、オメガがベータのうなじを噛むこと。噛まれたベータは、一日寝込んだ後にアルファになります」
「……まさか」
「本を見てたら、偶然目に入ってしまって……こんなところで役に立つとは、思ってもみませんでした」
「ヒフミ、どうして……」
「私、アズサちゃんがいいんです。他の誰でもダメで……だから、ごめんなさい。私、アズサちゃんにひどいことをしました」
「ヒフミ……」
「……もう、限界ですよね?」
「……っ」
「私も、もう限界です。この一週間、耐えてきました。他のことで気を紛らわせようと……でも、耐えられませんでした」
「アズサちゃんに、そんな気はないとわかっていたのに」
「……私は、」
「アズサちゃん……私のせいで、苦しいですよね。だから─────私の全部、あげます」
「!」
「アズサちゃんの好きにして、いいですよ……?」
「〜〜〜〜〜!!!」
「ヒフミ」
「ごめんなさいアズサちゃん私こんなこんなことしてごめんなさい私─────」
「落ち着いて、ヒフミ」
「ふぅ、ふぅ……」
「昨日のヒフミ、可愛かった」
「アズサちゃん!?」
「私は怒ってないし、失望もしてないよ。オメガの発情期は、それほどまでに抗いがたいことなんだってことも、わかったから」
「アズサちゃん……」
「むしろ、謝るべきなのは私の方。安易に近づき過ぎた」
「そんな、アズサちゃんは私のために……」
「ヒフミ。多分これは、話し合っても平行線のままだ。だから、私の気持ちを伝えるね」
「……」
「私はヒフミが好きだよ」
「アズサちゃん、でもそれは」
「ヒフミがオメガになる前から、そうだった」
「え……?」
「ヒフミはどう? 私じゃなきゃダメだって、言ってたけど」
「わ、私は………………はい、アズサちゃんじゃないと、ダメです」
「嬉しい。ありがとう。つまり私達は今日から恋人同士ってことだよね」
「え、えぇ!?」
「ヒフミ、言ってたよね。全部あげるって」
「あ、あぅ」
「でも、だからこそ言うね。私を、ヒフミの恋人にしてほしい」
「…………」
「…………」
「……はい。よろしく、お願いします」
「うん。よろしく、ヒフミ」
『ヒフミ』
※意識は朦朧でも記憶はしっかりと覚えてるタイプ。
そして誘い受けタイプ。
なので、アズサとの一週間の全部を覚えてる。恥ずかしすぎて死にそうらしい。でも全部本心なので否定もできない。
『アズサ』
ヒフミが可愛すぎてなんであれ応じてしまった。
特に後悔とかはない。最後には逆転勝利した。ヒフミ大好き。
その後のエデン条約も愛と友情で乗り越えた。
『シズク』
百合ハーレムが出来上がるまで、あと僅か