ティーパーティーの親友としてトリニティ全体の脳を焼畑する一般(?)生徒 作:うどんそば
「失礼します」
「はいはい、入っちゃっていいよー」
ここは近衛部室。ぎい、と扉の音がなり、少しずつ閉じられていた扉が開く。そこにいたのは鶴殿ユウイちゃん。今回から私の派閥に入ってくれる二年生。
「この度は派閥への受け入れ、本当にありがとうございます」
「あはは、いいよいいよ。その代わり、いろいろなところで手伝ってもらうと思うけどいいかな?」
「それはもちろん。この前受けた恩を返すまで、身を粉にして働く所存です」
……うーん、ちょっと硬すぎる気がする? もしかして緊張してるのかも。私はそう大きくないこの派閥で上下関係について強く言うつもりはないし、もっと気軽に接してほしいんだけどなあ。
「ねね、初めにお願いがあるんだけどいいかな?」
「はい?」
「もっと軽い感じで接してよ。派閥の長とか、そんなの考えず、友達にするみたいに。……いや、いっそ友達になって!」
私の言葉に、ユウイちゃんは少し顔を赤くしてうつむいた。……あれ? 年上に言うには失礼すぎたかな?
「……ご、ごめ」
「あ、ありがとう……! じゃあ、これからはアマネちゃんって言わせてもらうね」
謝ろうとした私の言葉を遮るように顔を上げたユウイちゃんの顔は、想像していたものとは真反対……喜色に満ちたもの。嬉しそうにほのかに頬を染めて、目を細めて、楽しそうに声を弾ませて名前を呼んでくれる。……おおう、これはすごいなぁ……惚れるかと思った……。
「じゃあ、これからはもっと砕けた感じでよろしくね?」
「うん。アマネちゃんがそういうならそうさせてもらうね」
はじめよりずっと柔らかくなった雰囲気の中、私は早速書類を取り出した。
「早速だけど仕事を一緒にやってほしいんだけどいいかな?」
「うん、わかった。それ?」
「うん。これから、派閥をいろいろしていかないといけないんだって」
「なるほど……わかった。派閥の名前は何にする?」
「名前?」
「そう。名前。名前が決まらないと書類も進めないから」
いろいろな名前が浮かぶ。例えば、歴史の長さ的には、ウラデルなんかもありだろうし、背景を考えたら、パトリキとかノビレス、それにノブレスっていうのもあり。
「どう思う?」
「まあさっきののどれかがいいかな。この派閥は、神話の裏付けがあるものじゃなくて、人が人のために作った派閥だから、その地位を含んだ名前にするのがいいと思う。ちなみに、もともとはパトリキ派だったらしいよ」
「じゃあ、その対になるやつ……ノビレス派にしようか」
「そうだねえ、トリニティらしい名前だと思う。けど、ちょっと変えよう」
ユウイちゃんは、シャープペンを裏紙に走らせた。
「ノビリタス。それを派閥の名前にしよう」
「うん。……確かに、いいかも」
さっき渡した正式な書類の方を取ると、万年筆と一緒にそれを私に手渡すユウイちゃんは言う。
「せっかくだから、派閥の長らしく、始まりはその手で始めよう?」
「……わかった」
随分重い万年筆を手にとって、ゆっくり大きな枠に、それを書いていく。Nobilitas。それだけの文字を書くのに手がひどく震えた。これからかかる責任の重さがそのまま手元を鈍らせるように。
「……これでいい?」
「うん。字、上手だね」
私の字を褒めたユウイちゃんは、私のよりずっと整った……整い過ぎじゃない? 印刷物かな? と言うような字をスラスラと書いていく。そうしてその書類をあっという間に済ましてしまうと、終わった書類を入れるボックスに入れた。
「終わり?」
「うん。終わり。他のもあるけど、これは私だけで大丈夫かな。一応確認だけど、本部はこの部屋で良かったんだよね?」
「うん。派閥の本部として使えるのはここくらいしか無いしね」
「じゃあこれで大丈夫だよ。これからは私一人でもできるから、アマネちゃんはティーパーティーの凝った地に一旦報告しに行くものいいかも」
ユウイちゃんは丸メガネを取り出し、それをかけて新しい書類を出す。それを机に整えると、ペンを走らせ始めた。ただその表情はあまり浮かばない。
「んーん。ここでユウイちゃんが書き終わるの待ってる」
「……そう?」
一言だったけど、少しうれしそうだった。この広い部屋で一人残して仕事はさせられないよ。残されたユウイちゃんだけじゃなくって、私も寂しくなるもん。