闇深ハリーちゃんと綺麗なスリザリン   作:c.m.

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1_10 畜生校長ダンブルドア

 スニッチと箒の双方を掴んだ瞬間、割れんばかりの喝采がハリーを呑み込み、地面に降り立つと先輩たちは皆ハリーを包容して健闘を讃えた。

 ただ、当然最後の箒の制御に関してはメンバー全員からしっかり灸を据えられたし、ハリーも自分以外は絶対に気が付かないだろうとは確信していたので、言い訳じみたことを口にする気もなかったのだが、試合終了後、スネイプはハリーの下にやってきて、ハリーから説明を求められた。

 

「言いたいことがあるならば聞こう」

 

 ハリーは逡巡したものの、周囲に誰もいないことを確認してからスネイプに箒の制御を一瞬奪われたこと。クィレルが怪しかったことを正直に告げると、スネイプは憮然とした表情で告げた。

 

「教職を疑うとはけしからんな、ポッター。スリザリンは一点減点。

 ……今後、そのような事態は()()()起きぬ故、()()誰のせいにもできんと心に留めておけ」

「は、はい……!!」

 

 ハリーは深々と感謝を込めて頭を下げてスネイプを見送った。そして、スネイプが口にした通り二度と箒のコントロールが奪われることはなかった。クィレルの視界には、常にスネイプの視線が張り付いていたのだ。

 

 

     ◇

 

 

「ダンブルドア校長、以上が自分が確認したクィレル教授の全てです。証拠はこちらに」

 

 校長室のテーブルに置かれた、記録用の水晶玉。そこには、明らかにハリーの箒に術をかけたと分かるクィレルの姿が映し出されていた。

 

「口の動きから微かな腕の振りまで、ダンブルドア校長でなくとも、専門家であれば一目で看破出来る筈。至急、魔法省の闇祓い局に報告すべき案件です」

 

 これで尚動かないというのなら自分が持ち込むし、日刊預言者新聞にもリークするとマルフォイはダンブルドアに詰め寄った。雑魚を餌に大魚を釣ろうとするのも結構だが、だからといってハリーの命を危険に晒してまで続ける事は認められない。

 今にも拳を机に叩きつけて怒鳴り散らしたい衝動を抑えていられるのは、人目をつけることで自制心を保つ為に、敢えてクラッブとゴイルを侍らせているからに他ならない。

 そうでなければ、きっとマルフォイは我慢などできないと自覚していた。友達が死にそうになってなお冷静になれと言えるほど、マルフォイは薄情にも冷徹にもなれはしない。

 そう、目の前でようやく古新聞を畳んだ、ダンブルドアのようには。

 

「校長閣下、僕は一一の小僧に過ぎません。子供の戯言と受け取られるのも、致し方ないのかもしれない。しかし、だとしても一生徒の命が危険に晒された以上、事態は深刻であり重く捉えるべきです。先のトロール騒ぎとて、状況から判断すれば間違いなく手引きしたのはクィレル教授でしょう。

 脅しではなく、たとえ貴方でも委員会に働きかけ、査問にかけることがマルフォイ家には可能だという事を心に留めていただきたい」

 

 ダンブルドアは微動だにしない。当然だろう。この程度で眉一つ動かすようなら、誰も彼を旗頭として闇の時代を渡ろうとはしなかった。マルフォイの父、ルシウスとてそういう男と承知していたからこそ膝を着いて頭を垂れ、忠を誓い杖を執った。

 だが、ドラコ・マルフォイは父とは違う。貴族として、魔法族の模範として命を投げ出す覚悟はあっても、必要がそれを求めるという免罪符で、友達に痛みや恐怖を強いることなどできやしない。

 

 ばさ、と。ダンブルドアは水晶の横に畳んだ古新聞を置いた。音を立てたのはわざとだろう。一瞬皆の注目が逸れた途端、水晶玉の記憶映像は消えていた。

 

「貴方は……貴方という人は……!」

 

 ここまで、するのか!? 大義の為、目的の為とは言え、このような行為が許されるのか!?

 

「貴方は、ハリエットさえ駒にするのか!? 僕の父にそうしたように!」

 

 もう我慢の限界だった。クラッブとゴイルは忠節故にマルフォイを二人がかりで羽交い締めにしたが、彼らとて思いは同じだ。こんなこと、相手が誰だろうと決して許されない。許されて良い筈がない。

 

「若く幼いの……小さなマルフォイよ。しかし、それ故に高潔じゃ。もし君が、いち早く今のようになれたなら、君はグリフィンドールに入っていたじゃろう──ハリエット・ポッターと共に」

 

 それが最初の誤算だったと、そうダンブルドアは肩を竦めて続ける。

 

「ハリーが父親に、ジェームズに似てくれたなら話は早かった」

 

 規則破りの常習犯。悪戯好きの悪童で、いつもホグワーツを騒がせていた行動力の塊のような子であったなら、きっとここまで待つことはなかったろうと。

 

「じゃがあの子は母、リリーに似た。明るく真面目で、誰からも愛される母親にのう……多少は君達の影響もあったじゃろうが、規則破りなど出来る子ではない」

 

 何が言いたいと、目で問うマルフォイに、ちらと古新聞に視線を向けた。

 新聞の日付は八月一日。七月三一日に起きたグリンゴッツ侵入事件について大々的に報じており、マルフォイもこの件は知っていた。

 グリンゴッツ銀行の金庫は侵入されたその日、既に空になっていたことも含めて……。

 

「そして、悪い過去から目を逸らしがちなところもある。楽しく幸せな今を味わいたいが為に、心の何処かで見るべきものを見なかった……ハグリットがお茶に誘った際も、これと同じ新聞の切り抜きを置かせたのじゃがな」

 

 だが、ハリーはこの件に関して誰にも、一言も話さなかった。気付かなかったという可能性もあるが、敢えて蓋をしたと考えた方がいいだろう。

 

「儂はハグリットに、敢えてこの金庫の中身を取りに行かせた。ハリーを連れてのう。そして何度か、立ち入り禁止の廊下に足を向けるようゴーストに誘導させたこともある」

 

 何故と。またしても睨むマルフォイに、ダンブルドアは息を吐いた。

 

「幼きマルフォイよ。人は誰だとて永遠には生きられぬ。ならば、次代を育てようと思うのも当然ではないかね?」

「そういう、ことですか……」

 

 ダンブルドアは、自分が敗れた時の為の保険を用意しておきたいのだろう。つまりは英雄の子、ハリエット・ポッター。その名も高き、ハリエット・ポッター。彼女を錦の御旗とし、希望の灯が途切れないようにする為に。

 

「一一歳の女の子に、今まで闇に潜み続けていた死喰い人(クィレル)と渡り合えと?」

「儂の見立てでは、真の友らの手を借りれば勝算はある。クィレルの力は見切った。踏み台としても申し分ない。さて、幼きマルフォイよ。君とてここまで話さなければ決して〈自ら動こう〉などとは考えても実行まではすまい? 君は優秀じゃが、無鉄砲さに欠けておる」

 

 だからこそ、心の奥底では望んでいたグリフィンドールには入れなかった。

 賢く、冷静であるが故に大人に頼り、大人を動かすことで事態を収拾させようとした。

 自分自身の手で、困難を打ち破ろうとする勇気を、一歩を踏み出せないでいたから。

 

「本来ならば、ここまで伝えることはなかった。卒業の日まで、儂一人の胸に秘めておくつもりじゃった。君が、ハリーの為に自ら動けたならのう」

「……言ってくれますね」

 

 弱虫と、腰抜けと言いたいなら乗ってやる。安い挑発で、本心では申し訳ないと感じているのだろうが、敢えて子供らしくしてやろうじゃないか。

 

「グリフィンドールに、騎士道の体現に憧れがなかったとは言いません。しかし、父祖と同じスリザリンで在れたことに、僕は誇りを持っています。その僕を弱いと仰るのであれば、必ず前言を撤回させてみせます」

「期待しておるよ、ドラコ・マルフォイ──ああ、それと信頼できる仲間は多い方が良いじゃろう。グリフィンドールに友は居るかね?」

「ええ……彼も巻き込めというのですね?」

 

 ロナルド・ウィーズリー、真っ先に思いついた、自分の父と親友であった父親の息子も。

 

「健闘を期待しておるよ。そして、君が託された杖から忠誠を得られることも」

 

 余計なお世話だと思いながら、貴族らしからぬ足取りで、マルフォイは校長室を後にした。

 

 

     ◇

 

 

「ドラコ! ハグリットからお茶のお誘いが来たんだ! 友達も一緒にって!

 あ! ハグリットはホグワーツの森番なんだけど、僕がダーズリー家で暮らしてた時、僕を魔法界に行くために迎えに来てくれた人で……」

 

 友人を誘っての招待が嬉しいのだろう。飛び跳ねながら捲し立てるハリーに微笑みお誘いを快諾しながらも、マルフォイは昨日の今日でかと心中でため息を零した。

 本来、魔法のことを知らない非魔法族(マグル)出身の家には場慣れした教師が迎えに行くものだ。しかし、敢えてハグリットを送り、別件の用を任せていた時点で全てがダンブルドアの掌の上だったのだろう。

 残念ながら、ハリーの性格という部分を考慮の外に置いてしまったがためにダンブルドアの計略は大いに狂い、マルフォイに白羽の矢が立った訳だが、ここまで語られた以上マルフォイとて腹を括った。

 

「落ち着いてくれ、ハリー。勿論、ご一緒させて貰うよ。ああ、それと友人は多くても構わないかな? できればロナルドにも声をかけたいんだ。ほら? 君とは汽車で一緒だったが、寮が違えば会う機会も減ってしまっているだろう?」

 

 マルフォイの気配りが嬉しかったのだろう。無邪気に快諾するハリーに罪悪感を募らせながら、マルフォイはチェスクラブに顔を出してロンを誘えば、二つ返事で了承を得ることができた。

 

「勿論良いよ。ハリーとは前から一緒に過ごしたかったしね!」

 

 心なしか声が弾んでいるように聞こえるのは気のせいではないだろう。手早く切り上げたいがために早指しで駒を進め、瞬く間にドラコを完封したロンは、既にチェスクラブの部長でも相手にならなくなっている。

 

 もうマジでお前チェスで一旗揚げろよ。クィディッチの選抜こないだ漏れたじゃねーか諦めろよ。

 

 という部員の視線を敢えてスルーしながら、ロンは念入りに日時を聞いてしっかりメモにも残した。

 この半分でも授業に集中していたら、ハリーと授業で接点が増えそうだなと思いはしたものの、口にするのも野暮なのでマルフォイは黙っておいた。

 

 

     ◇

 

 

 後日、授業が終わるや否や急ぎ自寮へと戻り、身だしなみを整えてやってきた上機嫌なロンと、平時と変わらぬハリーやマルフォイ、パンジーらという若干ロンが浮く形なってしまった結果にパンジーとダフネは小声で言葉を交わした。

 

「……これ、間違いなくそういうことよね」

「そうですわね。私、てっきりミス・グレンジャーに気があるものとばかり思っていたのですけれど」

 

 ぶっちゃけパンジーもダフネと同じ気持ちであった。これぐらいの一般家庭の男子は気のある女子に限って意地悪というか、本音と真逆の態度を取るものだというのは知識で知っていたし、トロール事件の際の切羽詰まった時の行動力や勇敢さも含めて、絶対ハーマイオニーを意識してるんじゃないかと考えていた。

 ……いたんだが、ロンはハリーと一緒になれて上機嫌である。ハリーは全く気付いた様子がないのが哀れだが、ともかくロンは夢中だった。

 

「……まぁ、ミス・グレンジャーも文通相手が居られますし、傷が深くならなかったと思うことにしましょう」

「なにそれ聞いてないわよちょっと後で詳しく」

 

 とまぁ、こんな感じで学生らしい会話やらイベントやらで盛り上がりつつ、ハリー達はホグワーツ城を出て禁じられた森の端にある木製の小屋に辿り着いた。

 ハリーがノックすると、隙間から現れたのは三メートルを越える背丈に、荒くれものを思わせる長くモジャモジャと顔中を覆った髭。横幅の広い体躯は一目で人間以外、巨人の血の入った者だと魔法界の者ならば看破しただろう。

 

「おお! よう来なすったな! スリザリンのお坊ちゃん方も一緒か! 友達は良いぞハリー! 俺も昔ホグワーツにいた頃、無実の罪を着た時ににゃ何度もスリザリンの坊ちゃんたちに庇って貰ったことがあってな!

 ありゃあ良い思い出だった……俺がここで森番をしてられるのも、ダンブルドアと当時の連中の口添え有ってのことだったなぁ……」

 

 その体躯に似つかわしくない、純粋な瞳を輝かせながら思い出話に花を咲かせつつ小屋の中に招きよせると、ハリーは周囲を見渡して小首を傾げた。

 

「あれ? フラッフィーは?」

「ああ、番犬が必要だってんで、ちとダンブルドアに貸しててな。まぁ、あいつは賢い奴だから心配要らん」

 

 フラッフィーというのは三つの頭を持つ巨大な怪物犬で、ハリーが入学してすぐここに招待された際、小屋の外に繋がれていた番犬である。

 ハグリッド曰く、本当なら今年度からすぐに番犬として貸し出す予定だったのだが、ハリーを驚かせたいが為に無理を承知でダンブルドアに待って貰うよう伝えたところ、ダンブルドアも快諾してくれたから会うことができたという。

 

「あいつが目当てならすまんかったな。ま、あいつが貸し出されとるのは一年限りだから次年度には何時でも会えるぞ。それにまぁ、犬ならファングも居るしな。こいつも賢いし人懐っこいから悪くないだろ?」

 

 ほれ、とハグリッドが手招きすると真っ黒なボアーハウンド犬が、ブンブンと根っこから千切れそうなぐらい豪快に尻尾を振りながらハリーに飛びついてきた。

 見た目こそ厳ついものの、ハリーは最初の時がそうであったように笑顔でじゃれ合いながら床を一緒に転がってパンジーやダフネに苦笑されていた。

 だが、マルフォイだけはしっかりとハグリッドの言葉から情報収集を怠っていなかったが。

 

「今年度からというのは、ひょっとして立ち入り禁止の廊下に配置を?」

「ああいや、しまったな……坊ちゃん、聞かんかったことにしてくれんか?」

 

 勿論ですと頷きつつも、禁じられた森の方も選択肢に入っていただけに、ハグリッドから答えを出してくれたのは助かった。

 対してハグリッドの方はそれで話が終わったと思ったのか、「くつろいでくれや」と椅子やソファーを勧めてくれたので、ハグリッドがお茶の準備をする前に自己紹介を始めた。

 

「お初にお目にかかります。僕はドラコ・マルフォイ。こちらは同期のパンジー・パーキンソンとダフネ・グリーングラス。そしてグリフィンドールのロナルド・ウィーズリーです」

 

 皆、「初めまして」「これからよろしくお願いします」と丁寧に挨拶し、ハリーと一緒に濃い目のお茶を楽しむ。その間ファングはハリーの膝が心地良いのか、顎を載せたままうっとりとした表情で涎を垂らしていた。

 心なしロンが羨ましそうな表情をしているのは見なかったことにしたい。

 

「これは?」

 

 テーブルの上のティーポット・カバーの下に置かれた、一枚の紙片をマルフォイは手に取る。〈グリンゴッツ侵入さる〉という、ダンブルドアが見せた物と同じ新聞の切抜きだった。

 

「ああ、そいつぁ……いけねぇ、聞かんでくれ」

 

 そうも言っていられない。ハグリッドは秘密のつもりでも、マルフォイには動かねばならない事情があるのだ。ハグリッドは目を逸らしていたが、マルフォイはハリーに切抜きを見せた。

 

「ハリー。僕の記憶が確かなら、君は入学以前、ミスター・ハグリッドと一緒に居たね?」

「う、うん……僕が魔法使いだって、迎えに来てくれたハグリッドと銀行でお金を下して、そのあと一緒にダイアゴン横丁で学校に必要な買い物をしてたの」

「そしてその日、グリンゴッツが侵入された。ああ、勘違いしないで欲しいがミスター・ハグリッドを疑ってるんじゃない。僕はね、ハリー。確信が欲しかったんだ。クィレル教授の件でね」

 

 そしてマルフォイは()()()()()話だが、と声を押し殺して、ハグリッドにも事情を説明した。

 クィレルは間違いなく〈例のあの人〉に与する人物であり、ダンブルドアにも危険性を伝えていること。ダンブルドアがクィレルを泳がせる気でいるというのを、本人の口から聞いたこと。

 ハリーの箒に細工をしたこと。禁じられた廊下に向かおうとしたことなどだ。

 

「……馬鹿な。そこまで分かって、何でダンブルドアが放置なさる?」

 

 ヴォルデモート打倒の為、ハリーを鍛えたいからだとは口が裂けても言えないマルフォイは、慎重に言葉を選んで続ける。

 

「僕は最初、クィレル教授の背後関係を洗う為か、教授を出汁にもっと大きな獲物を釣りたいのだと考えていました。ですが、こう考えれば辻褄が合うのです。クィレル教授が、どんな目的で欲しい物を使うのかが知りたいのではないか、と」

 

 全くの出任せだったが、少なくともただ放置しているというよりは余程信頼性のある発言だろう。現にパンジーもダフネも、マルフォイの言に思案しているのだから。

 

「……有り得るわね。待ちに徹するにしても長過ぎるし、裏を知りたいのなら魔法省の闇祓いなり神秘部なりから尋問の専門家を派遣すれば良い筈だもの」

「そうでなくとも、ホグワーツには開心術の使い手は幾人も居ます。ダンブルドア校長ならば、自分の手で頭の中をこじ開けるぐらい造作もない筈ですわ」

「……僕自身の考えは、裏づけも証拠もないけどね。だけど、間違ってはないと思う」

 

 というより、そうするしかない。クィレルは目的の品を掴むまでホグワーツに残り続け、ハリーはクィレルを打倒するまで安全が確保されないのだから、マルフォイにできるのは目的の品に先回りし、クィレルを確実に打倒する一手を打つより他にないのだ。

 

「ミスター・ハグリッド、無理を承知でお聞かせ願えませんか? 貴方が校長閣下から何を託されたのか」

「知らん、知らんぞ! たとえマルフォイの坊ちゃんが全部正しくても、大人に任せときゃ済む! あれはダンブルドア先生とニコラス・フラメルの……」

「ニコラス・フラメル、ね」

 

 敢えてマルフォイが口に出せば、しまったという表情でハグリッドは肩を落とした。

 

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