闇深ハリーちゃんと綺麗なスリザリン   作:c.m.

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1_11 野郎ぶっ殺してやらぁ!

「ドラコ、あんな聞き出し方、どうかと思うよ?」

 

 小屋を出てからというもの、失言に肩を落とすハグリッドのことでハリーはマルフォイをこのように散々不満をぶつけたし、マルフォイとてそれは甘んじて受ける覚悟である。

 しかし、ハリーが純粋であるだけに心が痛まなかったといえば嘘だ。

 加え、「そうだぞ」とロンまで敵に回るから性質が悪いし、他の女性陣も「確かにあれは強引でした」と零すものだから味方はゼロだ。

 

「僕だって悪いとは思っている。しかし、事態が好転しない以上僕は前に進まなくちゃならない……やられっぱなしというのも、気分が悪いだろう?」

「ねぇ、ドラコ。君ってグリフィンドールの適性もあったんじゃない?」

 

 本当にそうならば、どれだけ良かったかとロンの言にマルフォイは肩を竦めた。ここまで切羽詰って、ようやく腰を上げたからこその今だ。分水嶺は過ぎた以上、後は開き直ってひた走る以外に道はない。

 

「褒め言葉として受け取るよ、ロナルド」

 

 

     ◇

 

 

 その日以降、図書室の本という本を積み上げながら、徹底的にマルフォイはニコラス・フラメルなる人物について調べ上げた。

 ダンブルドアと交友があるのであればまずそちらから当たって見たが、何分偉大なる魔法使いにして英雄なだけあって、著名人との交友関係やら共同成果の記録が多く四苦八苦する羽目になったが、それでもひと月以内に何とか目当ての物を探し出した。

 

「見つけた……遂に見つかったぞ、ロナルド!」

 

 ニコラス・フラメルに関する記述!

 魔法薬学、呪文学、マグル学に考古学とダンブルドアの関係者各位を片端から調べ上げ、遂に錬金術師の中から件の人物を発見したマルフォイはアタッシュケースの如き重厚な書物を手に、大広間で蛙チョコレートなんぞ齧っていたロンに、どうだと言わんばかりに胸を張って……。

 

「え? 君、まだ見つけてなかったの?」

 

 は? と一瞬身体を固めた。ロンがこの件でマルフォイを手伝った事も、そもそも図書室にやってきたことも一度もない。一体どうやって自分より先に真実に辿り着いたのか? 口から出任せじゃないのかと耳を疑ったが、次の瞬間に五角形のカードが投げられた。

 

「蛙チョコレートのおまけ。裏面を見て」

 

 畜生校長(ダンブルドア)が描かれたカードの裏面を確認すれば、〈ダンブルドア教授は特に、一九四五年、闇の魔法使いグリンデルバルドを破ったこと、ドラゴンの血液の一二種類の利用法の発見、パートナーであるニコラス・フラメルとの錬金術の共同研究などで有名〉と記載があった。

 

「カード? 駄菓子のおまけの? 僕のひと月は……?」

 

 この一ヶ月は、正しくマルフォイにとって試練の時間であった。ハリーは謝るまでむくれて殆ど口を利いてくれなかったし。

 パンジーもダフネも協力してくれないばかりか授業でも素っ気無かったし。

 周囲は痴情の縺れだの痴話喧嘩だのとやかましかったし、多忙なクラブ活動やら勉強やら杖の特訓やら、とにかく忙しい中でも最大限努力を払った自分の労力は……。

 

「いやー三日と持たずギブアップして泣きつくなら、一緒にハリーに謝ってからカードを見せて上げるつもりだったんだけどなぁ、そっかぁ、達成しちゃったかぁ。

 あ。そのカードは上げるね。僕もう沢山持ってるから。これから集めてみたら?」

「……つまり君は、三日でこれを見つけたんだな?」

「いんや、その日の内に思い出してたけど? すぐに教えたら僕まで協力したって思われてハリーに嫌われちゃうじゃん?」

 

「ロナルドぉぉぉッ…………! きさまっぁぁぁぁぁぁッ────────…………!!」

 

 ドラコ・マルフォイ、生涯初の貴族にあるまじき渾身のガチ切れである。杖も抜かず、拳も振るわず、手にした書物を武器にロンへと襲いかかった。

 

 野郎ぶっ殺してやらぁ…………!!

 

 

     ◇

 

 

 マルフォイの絶叫は当然衆人環視の注目を浴び、公共の備品である図書室の本を凶器に同級生に襲いかかったマルフォイは、そりゃもう駆けつけたマクゴナガルにしこたま絞られ、五〇点も減点された挙句に処罰が言い渡された。

 しかも、その時の興奮したマルフォイの発言がこれまた凄い。

 

「僕はなぁ! ハリーに嫌われるのを覚悟で、彼女の為に尽くしてきたんだぞ!! それを、それを貴様はチョコレート一つでなぁ……!!」

「うっさい! 嫌われるような真似したドラコが悪いんだろうが! なんで僕が一緒に嫌われ役になる必要があるんだよ常識で考えろよ!!」

 

「おい、ウィーズリーとマルフォイがポッターを取り合って大喧嘩してるぜ!」

「え? マルフォイって婚約者複数いるのにまだ足りねーのかよ?」

「やっちまえウィーズリー! お前に賭けるぜ!」

 

 とまぁ、こんな感じであったので、マクゴナガルもこめかみを揉みながらマルフォイとロンを絞りに絞った。

 

「貴方たち、女性を取り合って喧嘩などどうかしています! なんですか男二人で! そういうのは当人としっかり話し合いなさい!

 それからウィーズリー! 先に手を出したのがマルフォイであっても、貴方が彼を煽ったのは周知の事実! グリフィンドールも二〇点減点しますので覚悟しておくように!」

 

 とばっちりだ! 横暴だ! 魔法裁判を要求するとロンは騒いだが、大広間の生徒はすっげぇムカつく面でロンがマルフォイを見ていたことや、終始舐め腐った声音で挑発していたのも耳にしていたので、判決は覆らない。

 ちなみにスリザリンの大減点について、ドラコ当人はというとだ。

 

「確かに貴族として相応しくない態度だったが、ロナルドを殴ったことに後悔はしていない。一〇〇点減点されようが、もう一発殴りたい」

 

 との供述に、グリフィンドール生からはそのロックな精神と発言を買われた。

 特に、騒ぎを聞きつけたロンの双子の兄にしてホグワーツきっての問題児である、フレッドとジョージのマルフォイに対する評価はうなぎのぼりだ。

 

「おい見ろよあのスリザリン生! クィディッチ以外であんなふてぶてしい顔してんの、あいつが歴代初じゃないか!?」

「惜しいなぁ、グリフィンドールに来てくれたら、俺たちの跡を継いで貰うべく悪戯一〇〇選をレクチャーしてやったのに」

 

 かくしてマルフォイは入学一年目にして、魂のグリフィンドール生というスリザリンからしたら不名誉で首を吊りたくなるレベルの評価が付けられた。

 

 しかも処罰に当たってマルフォイらに罰を下すべく連れてこられたのは、ホグワーツきっての悪評と性根悪で知られる、管理人のアーガス・フィルチである。

 フィルチは何かにつけて生徒が規則を破っていないか目を光らせては処罰するのが大好きな男なのだが、優等模範で知られるスリザリン生を直接罰した経験はなく、マルフォイがスリザリン生であると知って嬉々とした表情をしていた。

 

「一回で五〇点も引かれた生徒は、お前さんが初めてだよ坊ちゃん。スリザリンはさぞお前さんを憎むだろうなぁ」

 

 にちゃにちゃとした薄気味悪い笑みでいびるフィルチだったが、マルフォイは全く堪えた様子がない。この程度で動じるような小物なら、ダンブルドアとて真実を打ち明けてハリーを誘導するよう仕向けなかったのだから当然だが、フィルチは面白くなさそうに舌打ちした。

 処罰する権限は与えられてはいても、それは校則に則ったものでなくてはならず、体罰などは禁じられていたからだ。

 フィルチの飼い猫のミセス・ノリスも、つまらなさそうな声で鳴いた。

 きっと飼い主に似て性悪に違いないとロンは思ったが、意外にもミセス・ノリス一番のお気に入りはハリーで、ハリーも動物好きなので時折フィルチの許可を得てブラッシングしていた。

 そんな訳で、あの性悪のフィルチとノリスが唯一まともになるハリーはスリザリンでもアイドルであり守護神扱いである。

 まぁその分規則破りの常習犯で知られるグリフィンドールにはますます監視の目が鋭くなっているのだが、ここでは一先ずその話は置いておこう。

 

 時刻は二三時、ランプを灯したフィルチが先導する形でマルフォイらは後ろを歩いたが、その間もフィルチはおどろおどろしい声で歯を見せながら呟いた。

 

「昔のような体罰がなくなって残念だ……手首を括って天井から数日吊るしたもんだ」

 

 しかしホグワーツの歴史を見ても体罰が存在したのはフィルチが生まれる前のもので、それが悪しき規則として廃止されたことをマルフォイは知っていた。

 期待半分で後ろを向いたフィルチは相変わらず表情を変えないマルフォイに舌打ちしたが、ロンが微かに肩を震わせていて幾ばくか溜飲が下がったらしい。

 鬱蒼とした森を進めば、そこにはハグリッドがランプを片手に立っており、マルフォイたちを見て驚いていた。

 

「こりゃまた、罰があるってんで聞いてみたらお前さんたちか。俺ぁてっきり、ウィーズリーの双子とばかり思っとったんでキツいのを用意しちょったんだが……」

 

 聞いたか? 小僧共。とフィルチは益々上機嫌になっていった。今度こそマルフォイの顔が強張ることを期待していたのだが、しかしマルフォイは眉一つ動かさない。

 ひょっとしてスリザリン生は皆こうなのか? とフィルチは首を捻り、だとしたら脅かしがいがないので、今後の標的は本格的に他寮に絞ろうと心に決めた。

 

「……お前たちがこれから行くのは森の中だ。もし全員無傷で戻ってきたら私の見込み違いだがね」

「森? 禁じられた?」

「おや? ようやく坊ちゃんもこれが危ないって気付いたかい? ああそうさ、狼男が出るっていう例の森さ」

 

 余りの嬉しさに声が上ずっているフィルチに対し、マルフォイは軽く頭を掻いた。

 

“ああ成程、そういうことか”

 

 しかし同時に処罰という方法がなければ、どんな手で立ち入り禁止区域にダンブルドアがハリーを誘導するつもりだったのか気になるところだ。

 手荒な真似をするようなら、たとえダンブルドアであっても杖を向けることも辞さない覚悟のマルフォイであった。

 そんなことは露知らず、石弓と肩に失筒を背負い、ファングを侍らせた完全装備のハグリッドはこれが罰なのだということを示すべく、獣道を指さしながら厳しい口調で説明する。

 

「地面に光った銀色が見えるか? 一角獣(ユニコーン)の血だ。何者かに酷く傷つけられた一角獣(ユニコーン)がこの森の中にいるから見つけ出す。助からないなら、苦しまないようにしてやらにゃならん」

 

 出発だと動くハグリッドの後を、ロンとマルフォイが付き従うように進む。ランプと月明かりに照らし出されたシルバーブルーの血痕が、途切れ途切れに道を示していた。

 

「ミスター・ハグリッド!」

「!? その木の陰に隠れろ!」

 

 マルフォイが不審な影を示した瞬間、ハグリッドが即座に巨木の裏にロン共々放り込んだ。耳を澄ませれば、枯葉の上をマントか何かが引きずるような音がした。

 

「……狼男?」

 

 声を殺してロンが問えば、違うとハグリッドもマルフォイも首を振る。狼男はローブやマントなど纏わないし、地面を引こ摺りもしない。あれは明らかに人間か、それに類する存在だ。

 音が消え、遠ざかるのを確認すれば、蹄の音と共に年若いケンタウルスが道を塞いだ。

 

「おお、フィレンツェ、元気だったか?」

「こんばんは、ハグリッド。そちらは学生かい?」

 

 そうだとハグリッドは握手した後、マルフォイとロンを紹介した。その後、傷ついた一角獣(ユニコーン)を追っていること。不審な者を見かけなかったかと問うたが、ハグリッド自身答えを期待してはいない。

 彼らケンタウルスは夢想家であり、月より近くのものに関心がない星ばかりを眺めている存在だと知っていたからだ。しかし、この日ばかりは違った。

 

「はじめは火星が眩かった。森は不都合を飲み込む。しかし、今は木星の輝きが優っている──運命は指し示す方向を静かに変えた」

「星占いですね」

 

 マルフォイは静かに前に出ると、ケンタウルスへの礼として片足を上げた後に深く腰を折った。本からの知識でしかなかったが、フィレンツェは口元に小さく笑みを作った。

 

「ハリエット・ポッターの誕生日である七月三一日は、火星が最も輝いていた。そして木星は僕の誕生日を示す。不都合を取り込む森は不審者を示し、運命の転換は本来僕でなく、ハリエット・ポッターが来る筈だったと言いたいのでしょう?」

 

 解答は示されない。しかし、フィレンツェの口元は先程よりはっきりと笑顔を浮かべていた。

 

「ここを北に進むといい。運命はそこで切り替わる。だけど、はっきりと忠告しよう。

 ()()こそが転換だ。中心の輝きはまだ君のものではない。まだ火星の輝きが増す機会は残っている。ここから先、木星が中心となれば、火星の翳りは木星に変わる」

「臨むところです」

 

 試練が降り注ぐというのならば受け入れよう。運命のレールが切り替わるのならばそれで良い。たとえ何が待ち受けようとも、ドラコ・マルフォイは自らの足で運命に踏み込む。

 

「ありがとうございました。ミスター・フィレンツェ。貴方に星の加護がありますように」

「礼には及びません、二本足の友よ。貴方の温かい影は火星の光が飲み込んでくれますよ」

 

 

     ◇

 

 

「ねぇドラコ、火星ってハリーのことだろ? さっきのどういう意味?」

 

 フィレンツェと別れてからロンの関心はそこにしかなく、繰り返し問うていたがマルフォイは答える気になれなかった。というか、答えたくない。

 

“僕の影というのは〈隠された感情〉で、火星の光は〈ハリーの心〉……つまり、僕の内側にある感情をハリーが解決してくれるんだけど、〈取り除く〉じゃなくて〈飲み込む〉で、しかも〈温かい影〉と来たか”

 

 もし〈取り除く〉ならば、それは心に巣食う闇……父の命を奪ったヴォルデモートや死喰い人(デスイーター)への憎悪を癒してくれるということなのだが、〈飲み込む〉となると意味合いが大きく変わる。

 何より、不幸や憎悪といった負の感情ならばただ〈影〉というところを、よりによって〈温かい〉……つまり、隠れた恋心だと加えたのだ。

 

“光の折り重なり、交じり合いは詰まるところ……ああ糞! やめろ、想像するな! 僕には既に婚約者がいるんだぞ!? 二人も!!”

 

 第一、ハリーと自分が本当に()()()()という保証はない。占いは占いであって、完全確実という訳ではないのだから。

 だが、どれだけ平常心を保とうとしても心の奥底でモヤモヤとした感情が渦巻いて、マルフォイは頭をその辺りの木の幹に打ち付けたくなって仕方なかった。

 ただ、そんな風に乱れた思考でも徐々に濃くなっていく血の滴りを追うことを止めなかったのは流石というべきか。しかし、マルフォイたちが辿り着いた先には既に一角獣(ユニコーン)の骸が横たわり、フードに全身を覆った不快なナニカが、死肉を漁るハイエナのように傷口から啜っていた。

 

「この野郎がッ!」

「〈縛れ(インカーセラス)〉!」

 

 ハグリッドが石弓に番えた矢を放つのと、マルフォイが呪文を唱えるのは同時だった。

 杖から射出された魔法の縄が、ナニカの全身を縛るべく巻き付いたが、しかし矢は直前で弾かれ、魔法の縄も跳ね返ってあらぬ場所に飛んでいった。

 

盾の呪文(プロテゴ)です! ミスター・ハグリッド、距離を取って!」

 

 防御呪文を張った相手に物理的な攻撃は意味を成さない。相手の反撃を警戒し、距離を取るべく飛び退いたが、しかし次の瞬間、ナニカは弾丸のように弾け飛んで暗闇の中を消えてしまった。

 

 

     ◇

 

 

「……逃げられちゃったね」

「いや、ロナルド……こっちにとっても幸いだった」

 

 防御呪文(プロテゴ)を用いるような相手に、何の対策も講じていない一年生二人と、石弓しか武器のない森番が戦うなど自殺行為だ。あれを相手にするのなら、相応の準備が必要だろう。

 

「あいつ、吸血鬼か何かかな?」

「いや、違うな。吸血鬼でもこんな愚かな真似はせん」

 

 死した一角獣(ユニコーン)を労わりながら、ハグリッドはロンに説明した。

 

一角獣(ユニコーン)の血ってのは、死にかけの奴でも復活させてくれるんだ。だがな、無垢な命を欲のために奪うなんざ最も罪深いことだ。その血が唇に触れただけでも、そいつは永遠に罪の呪いを背負う。(やっこ)さんは間違いなく闇の魔法使いだろうよ」

 

“そうだ、そして間違いなく奴はヴォルデモート卿に連なる存在だろう”

 

 マルフォイは確信した。あの瞬間、ナニカは標的に自分を加えたということを。あの一瞬、父の形見たる杖を向けた瞬間、確かな殺意をマルフォイは感じ取っていたから。

 

“来るなら来い、相手になってやる”

 

 既に敵のいない森の中、銀蛇の柄頭の杖が月明かりに反射して輝いていた。

 




【フィレンツェ占い:意訳】
「HEY! YOU! 実は恋してんね! 大ジョブだって! おめーいつかハリーちゃんとシッポリヤレっから!」

 うん、こんなん思春期の少年がぶっちゃけられたらヤベーわw
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