闇深ハリーちゃんと綺麗なスリザリン   作:c.m.

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1_12 お辞儀の時間だゴルァ!

 罰則を終えた翌日、マルフォイは蛙チョコレートのおまけのカードと、自分が手にした図書室の本を交互に眺めていた。

 

“〈賢者の石〉……飲めば命の水となる不老不死の秘薬、か……”

 

 ああ成程、確かにヴォルデモートの信奉者が欲するのも道理だろう。

 ハリエット・ポッターの加護によって傷つき、この一〇年もの間、闇に潜むしかなかった外道にとってそれは危険を冒してでも抗い難い垂涎の的に他ならない。

 これで狙いははっきりした。一角獣(ユニコーン)の血液の呪いは折り紙つきで、あれを頼ったところで肉体を保たせるのは至難の業である以上、クィレルが焦れるのも無理はない。

 現に今日、クィレルの視線はハリー以上にマルフォイに注がれていたのだから。

 

“あとはタイミングだ……スネイプ先生をはじめ、教職に頼ることはできない”

 

 たとえ出来たとしても、ダンブルドアは絶対にそれを妨害する。これはあくまでもハリーとマルフォイが打倒すべき試練として用意されたもので、クィレルは体のいい贄なのだから。

 

“そうなると、まずは下見だな”

 

 既に処罰されたあとで、五〇点減点もスリザリン生としては前代未聞といっていい部類だったが──ハリーの時は寮生一丸なので、個人では初──マルフォイは完全に開き直っていた。

 そこでマルフォイはクリスマス休暇(ふゆやすみ)を迎えて校内に殆どの学生がいなくなったタイミングを見計らい、立ち入り禁止の廊下を進んだ。

 まさかこうも白昼堂々と、しかもスリザリン生が立ち入り禁止場所に向かうなど誰も予想していなかったようで、すんなりとマルフォイは廊下に辿り着いたが、案の定というべきか、最奥の扉を抜けた先の一室で、ハグリッドの三頭犬(フラッフィー)がしっかりと待ち構えて牙を剥いていた。

 

“普通の犬同様に鼻が利く。おまけにあの巨体……近づけば足と言わず胴を食い千切られるな”

 

 魔法への耐性もある程度はあるだろう。そうでなければ番犬としての意味がない。しかし、マルフォイは目敏く三頭犬(フラッフィー)の前足が、地下通路に続く扉に足をかけていることを確認して引き返した。

 

 

     ◇

 

 

 なに食わぬ顔で立ち入り禁止廊下から戻って大広間に足を運べば、そこにはハリーとロンが魔法使いのチェスを指していた。ハリーはダーズリー家に帰るというのは論外であったし、ロンはロンで、両親がドラゴンの研究をしている兄に会いに行くので学校に残っているという。

 まぁ、本音としてはハリーと一緒に過ごしたいというのが表情から察せてしまえたが。

 

「やぁ、二人共」

 

 そう笑顔でマルフォイが声をかければ、ロンは二人きりの時間を邪魔されたことで若干不機嫌になり、ハリーも少しばかり気まずそうだったが、ハグリッドのことを根に持っているのではなく、ロンとの喧嘩の内容を知っていて、しかもその件で周囲の女生徒から散々にからかわれてしまったからだ。

 

 ……尤も、被害を被ったのはハリーだけでなく、むしろマルフォイの方が事態は深刻であったが。

 

「あら? マルフォイ様、ハリーに御用?」

 

 マルフォイの背後から暗黒のオーラを笑顔の内に滲ませたパンジーが立っていた。

 ぶわっ、とマルフォイの全身の毛穴から汗が噴き出す。幾ら一夫多妻を認めている魔法貴族社会といえど、それは本来〈お家存続のため〉という大前提があってのこと。

 しかも、新たに交際関係を結ぶことを、婚約者達に何の相談もなく勝手にことを進めたというのは、婚約者への裏切り以外の何物でもない。

 当然ダフネは即座に妹に報告(つげぐち)した。マルフォイの元にダフネの妹であるアストリアからは。

 

《私というものがありながら!》《貴方を信じていらっしゃいましたのに!?》《本心では、所詮家同士の関係と思っておられたのなら、そう仰って欲しかったですわ!!》

 

 と、食事中大広間に大音量の吼えメールが響き渡った直後、メールは大爆散。

 本来吼えメールは直ちに開かなかったら爆発する仕様なのだが、それだけ怒り心頭だったのだろう。

 

 無論のことパンジーの怒りも凄まじく、スリザリン生全員も「そりゃお前が悪い」「むしろ婚約破棄も止むなしの案件では?」と白い目で見られた挙句、全員がパンジーの側についてマルフォイは孤立無援の状況。

 そして今尚、当たり前だがパンジーはマルフォイを許していない。許される筈がない。

 だが、マルフォイとて言い分はある。これは全てハリーの身の安全のため、友達としてやっていることで、賢者の石を狙う者たちを阻止するためなんだと熱心に語ったのだが。

 

「ロナルド、頼むから君の口からも説明してくれ」

「え? 何? 聞こえなーい」

 

“きさまぁぁぁぁぁあ………………………………!!”

 

 マルフォイは心中で絶叫した。間違いなくケンタウルスの件を根に持っていやがる。

 しかもパンジーに「そういえば」と勿体ぶって占いのことまで暴露した瞬間、パンジーの顔は真っ赤になった。

 

「何が誤解なのよ!? 何処をどう聞いたらこれが誤解に聞こえるのかしら!? 口にしてご覧なさいよマルフォイ様!!」

「ケンタウルスだって星を読み違えることはあるだろう!? ともかく落ち着いてくれ! 僕にそんな気はない! 占いは占いであって、予言じゃないぞ!?」

「ええ、星なだけに天文学的な確率で読み違えることもありますね! しかも他者が介入した外的要因以外で、ケンタウルスが読み違えたことも一度だってありませんものね!

 ハリー、クリスマスと新年は私の実家で過ごしましょう! マルフォイ様に近づいちゃ駄目!!」

「えっ、ええっ!?」

 

 

     ◇

 

 

 かくして訳も分からないという表情のハリーは連行され、ぽつんと取り残されたマルフォイとロン。当然、ロンはキレた。

 

「ドラコぉっ……! キリキリ吐けやドラコぉっ! なんて占われたんだ!? なんて占われたか言ってみろお前の口からなぁ……!!」

「言えるかそもそもロナルドが取りなしてくれたら全部丸く収まってハリーと二人で過ごせたんだろうが! 自分の失策を八つ当たりするな男らしくない!」

「男らしくないのは君だろうが! なんだあの吼えメール!? 声だけでお前の婚約者が可愛いって判ったぞっ! そんなに選り取りみどりがお望みか軟派者が! お辞儀(けっとう)の時間だ表出ろスリザリぃぃぃン…………!!」

 

「貴方たち、いい加減にしなさい…………!!」

 

 男二人が取っ組み合いを始めた瞬間、マクゴナガルの怒声が響き渡った。

 

 

     ◇

 

 

 ドラコ・マルフォイ、五〇点追加の計一〇〇点減点。

 ロナルド・ウィーズリー、三〇追加の計五〇点減点。

 

 正しく前代未聞の大減点にスリザリン生は頭を抱え、グリフィンドール生は逆に大爆笑であった。一度に五〇点減点とかホグワーツぶっちぎりの問題児として悪名を轟かせる、ロンの双子の兄(フレッドとジョージ)だってやらかさない。

 それ以上にスリザリン生の一〇〇点マイナスとかホグワーツ開校以来初めての偉業だ。伝説といってもいい。これには学校に残っていた他のグリフィンドール生も「もうお前こっち来いよ絶対グリフィンドールが向いてるって!」と肩を組んでマルフォイを大笑いしたぐらいだ。

 そして何だかんだロンもグリフィンドール生から、スリザリンの優等生相手にお辞儀かましかけたという武勇伝が加わって見事にレジェンド入りした。

 無論、悪い方のレジェンドである。

 

 かくしてホグワーツ始まって以来の馬鹿コンビ認定されたマルフォイとロンが言い渡されたのは、使われていない空き教室を徹底的に、舌で舐められるぐらい魔法を使わず掃除しろという肉体労働であった。地味に辛い。

 

「なんっで、年末年始を男二人で掃除しながら過ごす羽目に……」

「ロナルド、口より先に手を動かせ」

 

 不満タラタラなロンと、同じく仏頂面のマルフォイが雑巾を絞って徹底的に床を磨いていた。だが、マルフォイだって言いたいことはある。

 

「そもそもだ。僕はハリーを護る為に行動しているんであって、不純な動機じゃないんだぞ? ダンブルドア校長は動く気がないんだからな」

「だからって、ハリーとのあれこれを有耶無耶にして良い訳じゃないだろ。婚約者がいる癖に」

「……僕とハリーは何もない。そもそもあの占いは未来を言っていて、しかも確定されたものとは言い難いんだよ。パンジーも口にしていたが、外的要因で幾らでも星占いは変わる。恋愛がらみなんて男女が複数絡むんだから、毎月占ったって結果はバラバラだよ」

「それ先に言えよ!? 意地張った僕が馬鹿みたいじゃないか!?」

「だから占いは占いだと言っただろうが! ちゃんと話を聞け!」

 

 ただ、それは人間が占えばというだけの話であって、ことケンタウルスの占いに関してはマジで当たる。九割九分どころか的中率十割と言っていいぐらい当たる。占いというか予言レベルで当たるが、そこに関してマルフォイは口にしない。言ったら大惨事だ。

 

「……あー、もう。なんだよそれ……何でこんなことになるんだよぉ」

 

 ロンはもうこれ以上ないほど肩を落とした。その気になれば家族に付いて行ってドラゴンを見たりできたのに、ハリーと過ごしたいが為だけに残ったのに、これじゃ全てが無駄骨だ。

 

「口にするな、僕だって虚しくなる。ああ、それと例のケンタウルス……ミスター・フィレンツェの言葉を覚えているか? ハリーの運命を僕が肩代わりすることになったという方だぞ?」

「覚えてるよ……君がハリーの為に運命に挑むって口にしたときは、悔しいけど男らしいとも思ったよ。でも、それも占いだろ?」

「残念ながら、そちらは僕が示された道を進んだ時点で完全に固定化された。占いはその意に沿う形で行動すれば、暫定が確定に変わるんだ。特に、悪い方に進んで動いた時ほどね」

 

 ヴォルデモート達との対決など、それこそ特級の悪夢だろう。それを覚悟して一角獣(ユニコーン)の元へ進んだ時点で、マルフォイはハリーが背負うべき運命を既に引き受け、それを受け入れている。

 

「だが、それも僕が生きていたらの話だ」

 

 ドラコ・マルフォイが道半ばで倒れてしまったら。力及ばず敗れてしまったら、その瞬間、肩代わりした運命は再びハリーを覆うだろう。だからこそ。

 

「ロナルド、もし君もハリーを大事だと思うなら、僕に協力してくれ。僕と一緒に〈例のあの人〉と戦う為に」

「……分かった。何だかんだ言っても君とは友達だし、ハリーの為なら仕方ない」

 

 仲直りのための握手を行い、その後二人は現実に戻った。地味にきつい。

 

「これも動かすのかぁ」

「割らないように気を付けよう」

 

 教室に鎮座した、埃よけのかけられた巨大な姿見だが、床の汚れを取るためなら仕方ない。まずはカバーを外し、次いで二人がかりで下を持とうとしたが、ロンは次の瞬間、大声で叫んだ。

 

「なんだ急に……鏡に幽霊でも映ったかい?」

「違う! 見てよドラコ! 僕が、大人になった僕がハリーと結婚式を挙げてるんだ! ハリーが綺麗なウェディング・ローブ着てる!!」

「は……!?」

 

 これにはドラコも嘘だろうという目で鏡を見た。しかし、ドラコが見たのは全くの別物だった。

 

「父、上……?」

 

 今は亡き父、ルシウス・マルフォイが自分の後ろに立っている。そして、その横には母がいて、自分の肩には父の手が……。

 

「ドラコ……君には、ひょっとして」

 

 ぽた、と。マルフォイの頬から零れた雫にロンはそれ以上言葉を発せず、ふと鏡の淵を目で追った。金枠の淵に彫られているのは、アルファベットを逆にした鏡文字で〈私は貴方の顔ではなく、貴方の心の溝を映す〉とある。

 つまりこれはそういうことなのだろう。誰しもの心の奥底で望んで止まない願望。幸福な瞬間を映し出す魔法の品なのだ……。

 

「ロナルド……、ここを出よう」

 

 目元を拭い、別れを惜しむようにそっと鏡をなでてから、マルフォイは鏡のカバーをかけ直した。確かにこの鏡は魅力的だった。虜になりそうな危険性を孕んでもいた。

 だが、所詮これはまやかしだと、誰よりマルフォイ自身が理解していたから。

 

「過去は戻らない。願望はどこまで行っても願望で、自分で掴まなきゃ意味なんてないんだ」

「……うん、そうだね」

 

 ロンも、マルフォイの言い分は尤もだと思った。鏡に映るハリーはロンと熱い口づけを交わしていたが、現実のハリーはこんなことをロンにはしない。

 何処まで行っても空虚な映像で、だからこそロンは虚しさを感じてしまったから。

 

 バケツを片付け、埃のない空き教室を二人は後にした。もう二度と、ここには来ない。

 だって二人は、妄想でなく現実を生きているのだから。

 

 そして、立ち去った二人を見送るのは銀の髭に半月型の眼鏡をかけた老人、ダンブルドア。

 ここでの清掃を影で指示していた彼は、静かな笑みを浮かべて誘惑を断ち切った若人二人に喝采を送る。

 

「これならば、挑む者としては申し分ないのう」

 

 数多の人間を狂わせた鏡を魔法で消して、ダンブルドアは静かに頷いた。

 





戦死した父が家族と集合する姿を見せて、覚悟を試す畜生極まりない校長がいるらしい(ゲス顔)
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