闇深ハリーちゃんと綺麗なスリザリン   作:c.m.

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1_13 屋敷しもべ妖精。またの名をロマンチック妖精

 ふぁ、と可愛らしい伸びをしながら、ハリーはベッドから上体を起こす。

 ハリーの隣ではネグリジェ姿のパンジーがクゥクゥと可愛らしい寝息を立ており、起こすのも悪いので静かに基礎呪文の教科書を捲った。

 

 何の説明もないまま引っ張られ、「いいから一緒に来て!」と連れてこられたのはパンジーの実家であるパーキンソン家の大豪邸で、ハリーがパンジーの母親から大歓迎を受けたのが昨日のこと。

 とにかく何が何だか分からなかったので説明を求めると、パンジーはマルフォイと口論になった時のように顔を真っ赤にしてからようやく落ち着いたというか、我に返ることができたらしく、たどたどしくハリーと母親に説明した。

 つまりそれは、ハリーとマルフォイが色々と大人の情事を今後してしまうという占いの結果な訳で、これにはハリーも茹でダコのように顔を真っ赤にしてジタバタした。

 

「ぼ、僕がドラコと!?」

「だ、だからケンタウルスの占いのことで、すぐにどうこうって訳じゃないの! それにほら、運命なんて他の人が関わったら幾らでも変わるんだから!」

 

 ただ、ケンタウルスの星占いの的中率は先に記載した通り、必中と言って差し支えない。そうなると事態は深刻で、だからこそパンジーは真っ先に自分の実家に相談すべくハリーを連れてきたのだ。

 

「ミス・ポッター、貴女としては寝耳に水のことでしょう。我が娘の取り乱しようはお恥ずかしい限りですけれど、ケンタウルスの占いがそう示した以上、当家としても他人事ではなくなってしまったわ」

 

 パーキンソン夫人としても、これは由々しき事態である。貴族社会においては家督の問題や序列も然ることながら、相手がハリエット・ポッターというのが一層事態を深刻化させていた。

 

「〈例のあの人〉を打ち倒した、英雄の少女……勿論娘から真実は訊いていますけれど、それでもその名前は貴族の世界でも絶大ですし、何よりミス・ポッターの家系もこの問題に関わっていますのよ」

 

 というのもハリーの父、ジェームズも貴族の出で、母リリーと結婚するまでは純血で知られていた旧家である。母親こそ両親共に非魔法族(マグル)ではあるが、それでも半純血であることに変わりなく、ポッター家の祖は魔法界における伝説の秘宝たる、〈死の秘宝〉の一つを受け継ぐペベレル家だ。

 旧家の席次から言ってもマルフォイ家と同格か、下手をすれば上を行けてしまう立ち位置なのである。

 

「つまり、僕って凄く厄介ってこと? でも半分は非魔法族(マグル)でしょ?」

「……厄介で済めば良かったんだけどね。半純血って言っても、何処の旧家だって少なからず非魔法族(マグル)の血は入ってるものよ」

 

 というか、完全な純血なんて魔法界全体でも本当にいるか怪しいもので、〈聖二八〉一族にしたところで〈限りなく純血に近い〉という括りでしかない。

 

「ハリーは非魔法族(マグル)の世界で育ったから知識として知っているでしょうけど、近しい者同士が契るとまともな子が生まれなくなるのよ。私達魔法族だってそこは変わらない。

 だからできるだけ遠戚の家同士で婚約するんだけど、それでもやっぱり限界はあるわ」

 

 だからこそ、非魔法族(マグル)を娶るのは珍しいことではない。そして、秘密裏に家系図に細工をして非魔法族(マグル)の妾と正妻の子供を入れ替えたり、複数人の妻の子供を交換し合って、〈皆自分達の子供だから、皆を父母と呼ぶように〉と教育したりすることで家を存続させているのだ。

 

「私の亡き夫も肖像画を見ればお分かりでしょうけど、血の問題を回避する為に国外の貴族と国際色豊かに結びついた結果、あんな感じになってしまって……どう見ても貴族のお顔立ちではありませんでしたでしょう?」

「え、えっと、その……」

 

 そこは肯定すべきかハリーとしても悩ましい。なにしろパンジーとは似ても似つかないパグ犬顔で、ガタイこそ良さそうでもパーキンソン夫人と並べるには余りに不釣合いな顔立ちだった。

 パンジーに至っては「お願いだから顔の話はやめて……」と頭を抱えてから話を修正したほどだ。どうやら何かしらのトラウマがあるようだが、そこに踏み込むほどハリーも無作法ではないので聞き役に徹する。

 

「逆に、律儀に純血を守ろうとした家ほど悲惨なことはないわ。ブラック家なんてそこにこだわって親兄妹と何代も契った結果、精神に異常をきたした子供たちが生まれて、しかも多くが闇の魔法使いになってしまったんだから」

「ミス・ポッターのお父君ほど堂々と非魔法族(マグル)の女性と婚約するのは珍しいですけれど、それでも半純血なら家督を継ぐことも認められますわ。

 次の世代に関しても、ポッター家とマルフォイ家なら血統として申し分ありませんもの。十分貴族として復員は可能でしょう。

 はっきり申し上げますと、グリーングラス家を押し退けて正妻として振舞っても何ら問題になりませんわね」

 

 マルフォイ家を中心とした後継とか貴族社会からすれば、特大の不発弾が出てきたようなもんである。

 ハリーからしたら厄介なことこの上ない。自分の与り知らぬ場所で運命だの生まれ育ちなどと情報が飛び交っているのだから、一体どうしろと言う話だ。

 

「ハリー……、正直に答えて欲しいんだけどマルフォイ様以外で気になる男の子って居る? たとえば、あの赤毛のミスター・ウィーズリーとか」

「え? ロンは唯の友達だよ?」

 

 容赦なく友達認定されてぶった切られたロンに、パンジーは心から同情した。同時に、マルフォイには全く触れていないハリーの発言にも頭を抱えたが。

 

「つまり、マルフォイ様なら悪い気はしない訳ね……」

「そ、そんなつもりじゃなかったんだけど……」

 

 良いわよとパンジーは軽く手を振った。いずれにせよ本当に最悪に備えないと不味いし、今のハリーの気持ちが本当に友情だけだったとしても、これから女になるにつれて恋愛方向にシフトした場合を考えれば手を打つに越したことはない。

 むしろ、星占いでそういう可能性が高いと早々に分かったことを幸運と思うべきだとパーキンソン夫人は意識を切り替えた。

 

「まずはグリーングラス家に私から文を送ります。パンジー、貴女からもダフネ嬢とアストリア嬢に一筆認めて。時間は待ってくれませんわよ?」

 

 こんな感じで〈聖二八〉一族を大々的に動かすようなスキャンダルが発覚。

 後日、ダフネとアストリアを交えて話し合いを行うことが決定し、それまでハリーはパーキンソン家に逗留することが決定した。

 

 

     ◇

 

 

 そんな理由で翌日に目覚めたハリーだが、まだ日の出前である。にも関わらず目を覚ましたのはクィディッチの朝練が習慣化していたのもあるが、元はダーズリー家で皆が起きる前から家事をさせられてこき使われていたからだ。

 正直拉致同然とは言え、唯で泊めて貰うというのも気が引けたのだが、家事を手伝いたいと口にすれば「屋敷しもべ妖精の仕事を取らないであげて」と断られてしまった。

 

 そして、その屋敷しもべ妖精が何なのかというとだ。

 

「失礼、お目覚めのようですので、お召し物を交換致しますわ」

 

 と、パンジーを起こさぬよう小さなノックで入室した、どこからどう見ても普通の人間と変わらない、メイド服を纏う麗らかな声音の女性である。

 普通の人間と異なるのは顔を覆うマスクぐらいのもので、二〇代前半を思わせる見事な曲線美といい、仮面の隙間から見える見事な髪といい、仮面越しであっても絶世の美女であることは明白だった。

 

「じ、自分でできますから」

「ですが、ミス・ポッター。私はしもべ妖精です。どうか私の仕事を取らないでくださいませ」

 

 こう告げられてはハリーも渋々ながらに承諾するしかない。ハリーから許可を得ると、屋敷しもべ妖精は音もなくハリーの服を脱がせて魔法のように着替えさせてしまった。

 

「……いつもパンジー達を着替えさせてるの?」

「それがお勤めですし、何より私達にとってやり甲斐のある、望んだ仕事ですわ」

 

 屋敷しもべ妖精は、元は魔法族が創り上げたクリーチャーであり、はじめはゴブリンのように小さく、そして意図的に醜くすることで自らを矮小な存在であると認識させ、同時に魔法族への献身と忠誠を刷り込ませることで身の回りの世話をさせることを目的とした、家畜も同然の存在として生み出される予定であったのだが、初期段階でこの案は魔法族の総意……特に貴族たちの猛反発にあい、全面的に見直された。

 

 まずもって、醜い容姿というのがいただけない。貴族の使用人として勤めるというのであれば、たとえ見えない場所であっても相応の気品が求められる。

 そんな場所で醜く卑屈な下僕が日夜労働に勤しんでいるというのは、まるで害虫に身の回りの世話をさせているようだし、一方的な隷属というのも主人の品格や高貴さに仕えている証明にはならないからだ。

 

「だからこそ、我々は貴族が求める存在として作り替えられました。誰が見ても美しく、そして洗練された存在であるために」

 

 そして同時に、屋敷しもべ妖精には相応の対価を要求し、衣食住が保障される権利を有している。これは屋敷しもべ妖精を雇うことをステイタスにするため、敢えて魔法族が敷居を高く設定したためだ。

 

「我々は心から仕えたいと思う家には自ら進んで参りますし、そうした家には給金は殆ど要求しません。逆に相応しくないお屋敷の者が私達を雇うことも可能ですが、そうした場合ほど給金は膨大なものとなりますわ」

 

 加え、屋敷しもべ妖精は両者の合意なく人と触れたりすることはできない。これは屋敷の主人から暴力を振るわれないようにする為であったり、その美しさから異性が手を出すことを防ぐためだ。

 顔を覆う仮面も美貌で異性を惑わせないようにするためのもので、どれだけ魅惑的であっても、仮面をつけている限り雇用主や家の者が性的要求を抱くことはないという。

 

「ただ、何事にも例外はあって、たとえば命の危機に瀕しているとか、そうした場合は触れることもできますけれど」

 

 当然ながら屋敷しもべ妖精には自衛の権利を認められているし、仕えたくない家からは出て行く権利も有している。彼らは万事そつなくこなす優れた従者だが、決して奴隷という訳ではない。

 また、男の屋敷しもべ妖精は状況如何によって、真に仕えるべき主と共に戦場を駆けることもあった。ヴォルデモートとその一党が魔法界を震撼させた時も、多くの屋敷しもべ妖精が高貴なる主と共に戦ったのは、彼らしもべ妖精の誇りでもあったという。

 

 ハリーは自慢話のように語る屋敷しもべ妖精に、へぇ、と感心したように耳を傾けていたが、同時に自分には縁のない妖精だなとも感じた。

 家系だの何だの昨日は聞かされたものの、どうしてもハリーは自分がそうした高貴さとは程遠い存在だと感じて止まなかったからで、屋敷しもべ妖精も、そんなハリーにくすりと微笑んだ。

 

「ミス・ポッターは、確かに私達には仕えがいのないご主人様になりそうですわね」

「あぅ……」

「ああ、誤解しないでくださいませ。仕えがいがないというのは、高貴さがないということではございません。単純に、ミス・ポッターはご自身で身の回りのことをしようとされる方だから、という理由です。

 私達としても、ミス・ポッターのような方にしもべとなることを断られてしまった者は大勢いますわ。

 たとえばパーキンソン家と同じ〈聖二八〉一族のウィーズリー家などが有名でして、私も含め、大勢の屋敷しもべ妖精が〈お給金など受け取らない〉〈どうか働かせて欲しい〉と押しかけたのですけれど、奥方にもご当主にも「我が家のことは家族皆で協力して成り立っているから必要ない」と断られてしまいましたの。

 これには皆がっかりして、気が変わったらいつでもお声かけして欲しいと家を後にしましたわ」

 

 ハリーはウィーズリー一家とは初めてホグワーツ行きの列車で軽く話した程度だが、それでもあの一家が善良かつ穏やかで、皆で助け合う素晴らしい一家だとひと目で分かったので納得した。

 ハリー自身、将来自分がどんな家庭を持つにしても自分の子供は自分で育てたいし、夫や子供のために家事をしたいという女の子らしい願望を持っているので、余程の大家族か大豪邸にでも住まわない限り、屋敷しもべ妖精のお世話になることはないだろうと思った。

 

「ふふっ、そんな貴女様だからこそ、仕えがいがないのでございますし、それが残念なのです。最後になりましたが、我々屋敷しもべ妖精は基本的に不老不死と言って差し支えないのですが、唯一例外がございまして、それは人間と恋仲になることです」

 

 とはいえ種族的な違いがある為に子供など残せはしないし──これに関しては後継問題で揉めない為に、意図的に人間との間に子供を残せなくしたのだが──そんなケースは滅多にない。

 それでも例外はあって、心から屋敷しもべ妖精が恋をしたとき、彼らは自らの仮面を外して愛を誓う。

 

「そして仮面を外した瞬間、我々の寿命は固定化され、愛した者を看取った後に、その命を終えるのです」

 

 これは自らを生んだ魔法族によるものでなく、屋敷しもべ妖精が自らに課した誓約だ。

 

「仕えるのでなく、従うのでなく、共に寄り添い、終わること。それは私達にとって真実の愛という無二の魔法であり、屋敷しもべ妖精の誰もが憧れる最高の最期です」

 

 ただ永きを生きることに意味はない。人生とは常に二度と味わえぬ一瞬の為に有り、だからこそ彼らはその日を夢見ている。自分達に比べればほんの一瞬とさえ思える、儚い人間の時間。

 けれどその時間に育まれた愛は、同族同士のそれとは比べ物にならない至高の一瞬だと信じるが故に。

 

「──ずっとずっと、私達は愛を掴む日を待っているのです」

 




 屋敷しもべ妖精が原作では超絶不遇種族なので、ロマンチズム種族に魔改造してみますた。多分ドビーは本作だと最強キャラの一角ですw
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