闇深ハリーちゃんと綺麗なスリザリン   作:c.m.

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1_14 勝手に結婚前提で進めないで欲しい

 陶然とした表情でロマンチックに語った屋敷しもべ妖精は、次の瞬間顔を赤くして「失礼しました」と漏らす。

 

「お勤め中にこのような雑談など、恥ずべきことでした」

「ううん。僕、そういうの嫌いじゃないよ」

 

 本当にそんな恋が出来るのならば、これほど素晴らしいことはないだろう。

 性の欲望でも美貌でもなく、純粋な愛によって結びつく関係。それはほんの一瞬のような時間だとしても、何より尊いとハリー自身思えたから。

 

「貴女にも、そんな時間が来ることを願っています」

「ありがとうございます。ミス・ポッターにも素晴らしい愛が来ますように」

 

 

     ◇

 

 

「お話しは済んだかしら、ハリー」

「ああ、うん。ごめんね、気を遣って貰って」

「構わないわ。あの子があんなに話したこと、今までなかったし」

 

 屋敷しもべ妖精は真面目なので、家の者が望まない限り滅多なことで口を開かない。

 従者としての分を弁えているのは美徳だろうが、それでも少しくらい楽にして欲しいというのがパンジーの本音で、彼女は屋敷しもべ妖精が退室してから目を開けて伸びをした。

 

「それで? 貴女はどうなのハリー? マルフォイ様とそんな恋をしてみる気、ある?」

「えっと……、ドラコとは友達なんだけど」

 

 それでもロンみたくぶった切ってない以上、アリだとはパンジーも理解していたので肩を竦めた。まぁ、市井の価値観に染まっている少女に対して、貴族の価値観に合わせろというのは無理のある話だし、何より余りに急激に物事が進み過ぎていたので、余りとやかくは言えないが……。

 

「それでもダフネやアストリアとは、話し合って貰わないと行けないわ。特に、知っての通りアストリアはマルフォイ様にお熱だから」

 

 例の吼えメールが爆散した際にもハリーは何だかんだマルフォイの隣に居たが、非はない筈のハリーもあの泣訴は本当に胸が痛くなった。

 あんな風に叫ばれては、マルフォイも相当に堪えたことだろう。実際、吼えメールが爆発したあとのマルフォイは食事が全く喉を通ってはいなかったのをハリーは覚えている。

 

「失礼致します。パンジーお嬢様、先程グリーングラス家の者が午後に参ると使者を出して参りました。夫人も了承致しましたので、パーティローブをお召しください。ミス・ポッターのローブも、夫人がご用意しております」

 

 

     ◇

 

 

 兵は拙速を尊ぶというが、グリーングラス家の動きは早かった。

 パンジーとしてはまずマルフォイ家に使者を送り、マルフォイ夫人ことナルシッサ・マルフォイを迎えて話し合うものとばかり考えていたのだが、どうやらマルフォイ夫人にも当日のうちに声をかけてパーキンソン家に襲撃もかくやという速度でやってきたようだ。

 凄まじい動きである。

 

「これはナルシッサ、グリーングラス家の皆様もご機嫌麗しく」

「息災で何よりですわ、メーガン。パンジーも一段と美しくなったわね」

 

 パーキンソン夫人をファーストネームで呼びつつ、優雅に挨拶を交わせば、次に目を向けたパンジーに微笑み、最後にひと目でドレスローブを着慣れていないと分かる、ガチガチに固まったハリーを見つめた。

 

「ミス・ポッター、お会いできて光栄ですわ。ドラコとも大変良くしてくださってるとか」

「い、いいえ! むしろ僕の方がいつも助けて貰っていて、パンジーやダフネと一緒に勉強会をしたり、杖の振り方もよく教えて貰って、本当に素敵な友達です!」

 

 ありがとう、と慈愛のこもった、隔意のない笑みを浮かべてマルフォイ夫人はグリーングラス家の面々をハリーに紹介した。ただ、アストリアに関してはむくれていたが。

 

「アストリアです、いつも姉がお世話になっておりますわ」

「初めまして、ミス。良かったらハリーって呼んで欲しいな」

 

 貴族でなく市井としてあるがままの振る舞いだったが、逆にそれが良かったのだろう。アストリアはきょとんとした顔を浮かべ、次の瞬間には恥ずかしそうに俯いた。

 

「あらあら、こうなるだろうとは思っていましたけれど、仕方の無い子ね」

 

 ごめんなさいねとダフネは微笑んでいるが、ハリーは目が笑っていないのを見て取った。友情は友情でも、それと妹の序列はまた別問題なのだからハリーもそこは気にしていない。むしろこれで普段通りにされても、逆に罪悪感で苦しいのでこれぐらいが丁度良かった。

 それはさておき、ドラコ・マルフォイはとっとと来いとも思ったが。全部あいつが元凶なのに来てないのは如何なものかと思う。

 

 

     ◇

 

 

 絢爛豪華な食堂も悪くはないが、話し合うならばお茶の方が良いだろうと手入れの行き届いた温室庭園で茶会を行うこととなり、ここでも複数人の屋敷しもべ妖精が完璧な紅茶を皆に振舞った。

 焼きたてのスコーンも加わってハリーの頬は思わず落ちそうになったが、そんな様子を皆に微笑ましく見られ、羞恥で頬を染めた。

 

「良いのよハリー、ここはそういうのを気にする場面じゃないもの。勿論、貴女が今後どうしたいかによりますけれど」

「ダフネ」

 

 ちょっとあからさま過ぎるわとパンジーが掣肘する。第一、これまでのハリーとマルフォイの関係性を見るに、今後()()()()ならハリーよりマルフォイの方が可能性が高いんじゃないかというのがパンジーの考えだ。

 マルフォイがこの場にいれば「誤解だ!」「信じてくれ!」と騒ぐかもしれないが、年頃の男の子にその手の我慢を期待するほどパンジーは自制心を求めていない。

 ……言い方を変えると、男の下半身を信用していないとも言う。でなけりゃ落胤なんて言葉が貴族社会で出回る訳もねーのである。

 

「さて、ミス・ポッター。奇妙な星占いのせいで貴女には迷惑をかけてしまったのだけれど、母としても息子のことは心配だし、今後友人として付き合うとしても、ドラコの方から言いよる可能性も考えなくてはならないの。

 だからこれは、本当に万が一が起きてしまった時、皆が不幸にならないための話し合いであって、貴女に悪意があったりする訳ではないことを理解して頂戴ね」

 

 そう前置きした上で、マルフォイ夫人は建設的な話し合いをすべく続けた。

 

「まず、ポッター家の序列に関しては現状リリー・ポッターが公に非魔法族(マグル)出身と明かしている以上、マルフォイ家より家格は落ちるわ。これは正式に貴族として復員したとしても動かないから、ドラコと結ばれてもマルフォイ家は維持される。

 つまり、私個人はミス・ポッターを拒絶する理由がないことになるわね」

 

 むしろ〈例のあの人〉を撃退せしめ、死の秘宝の一つを継承しているポッター家をマルフォイ家が取り込む方がメリットとしては絶大だ。他の〈聖二八〉一族にしたところで、ポッター家の詳細が知れれば幾らでも縁談を申し込むだろう。

 彼らがハリーに粉をかけようとしないのはハリーが幼いのもあるが、それ以上に非魔法族(マグル)の家に預けられていたという部分が強かったからだ。

 

「そうなると、問題はグリーングラス家とパーキンソン家ね。

 まず、メーガンから。パーキンソン夫人としてでも、一人の親としてでも忌憚なく言いたいことを言って頂戴」

「当家としても私個人としても、マルフォイ家やミス・ポッターを強制できる立場じゃないわ。元々私達の方が横入りだったし、そもそもパンジーと御子息の婚約自体、私と貴女の個人的な友好の延長線上のお情けに過ぎない。

 マルフォイ家とのもっと良い縁談なんて、それこそ幾らでもあったんですもの」

 

 だからどうしたいかは貴女次第よと、パーキンソン夫人はパンジーに水を向け、パンジーも然程時間を要さず口を開いた。

 

「私としても、マルフォイ様とハリーがそういう関係になっても止める権利はないと思っています。一年に満たない付き合いですけど、それでもハリーの人となりは理解したつもりですし、何より家の席次と私の心は無関係です。既にアストリアが居る以上、一人加わった程度で不平を漏らすような器ではありませんわ」

「悪いわね。私としても、そう言ってくれるのは喜ばしいけど、少しばかり従順すぎるのもどうかと思うわよ? ここは女だけなのだから、本音を語っても良くてよ?」

「では、お言葉に甘えまして。仮にマルフォイ様がハリーに一方的に迫るようでしたら、その時はマルフォイ様を打擲しても宜しいでしょうか?」

 

 これにはマルフォイ夫人も思わず吹き出し、そして大いに快諾した。

 

「ええ! ええ、結構ですとも! そのような破廉恥な男は尻を蹴り飛ばしておやりなさいな!」

「ど、ドラコ様は絶対にそんなこと致しません!」

 

 だが、そんな軽い笑いを打ち消すように、大声で怒鳴ったのはアストリアである。席を立ち、強くハリーを睨む彼女に、落ち着きなさいなとマルフォイ夫人は動じることなく促す。

 

「息子を信じてくれてありがとう、アストリア。でも、あまり殿方に幻想を抱き過ぎては駄目よ? ルシウスも堅物そうでいて、ダンスで複数からお誘いがあった時なんて少し目尻が下がっていましたもの」

 

 それぐらい許してくれたまえよ!? と、もしルシウスが生きていれば抗議しただろうが、これに関しては「君一筋だ」と常日頃から行っていた癖に、他が言い寄ってきても脇が甘かったから、死んでも根に持たせて貰っている。まぁ、それはさておきだ。

 

「ダフネ嬢、ご当主でなく貴女がいらしたという事は、当主代行としてこの件を一任されていると捉えて良いかしら?」

「はい。外相の身の父に代わり、私がアストリアを連れて参りました。病床の母もアストリアの気持ちに任せたいと仰っています」

「ダフネ、お母さん、具合が悪いの?」

 

 口を挟むか悩んだが、ついハリーは声に出してしまった。それだけ心配だったというのはダフネにも理解できたし、だからこそ静かに打ち明けた。

 

「……当家は代々血の呪いに蝕まれているわ。私は無事だけど、アストリアも余り体が強くないの」

 

 血の呪いとは呪いを受けた父祖から代々家系を蝕み、末代まで続く短命を宿命づけられた呪いと、当人の意思に関わらず蛇や狼といった動物に強制的に変身させられ、やがては動物そのものになってしまうものの二種類が存在する。

 グリーングラス家にかけられた呪いは前者であり、当代では母親とアストリアが呪いに蝕まれているという。

 

「それでも激しい運動さえしなければ生活に困ることはないし、三〇代までは生きていられるけれど……」

 

 ダフネが熱心に図書室にこもっていたり、呪文研究会に所属しているのも血の呪いを克服したいがためだという。

 

「血の呪いを克服するために、これまで幾人もの魔法使いや錬金術師が尽力してきましたわ。そして今日では、十分に呪いの解析も進んでいますの。ただ、最後のひと押し……呪いにかかった当人に、呪詛を跳ね除けるだけの体力が必要なのです」

「つまり、そこさえクリアできれば治せるってこと?」

「ええ。そんな手段があれば、ですけれど」

 

 自分が生きている間に誰かに呪いを克服する手段が発見されるか、ダフネ自身が発見するか。どちらも星の手を伸ばすようなものだが、それでも諦める気はない。

 

「それこそが、私の悲願なのです。ああ、でも今はそれよりハリーのことですわね」

 

 そう強引に話を戻して、視線をアストリアに向けた。声を上げたせいか息が上がっていたが、ようやく落ち着いたのかダフネに目配せをしてきた。

 

「当家として最も重要なのは、ハリーがミスター・マルフォイと婚約した際、アストリアの立場がどうなるかです。周知の通りグリーングラス家は私が継ぐ予定ですので問題ありませんが、それでも正妻たるべく日々努めてきたアストリアの顔を立てていただきたいというのが偽らざる気持ちですわ」

「尤もなお話ね。そう、正しく問題はそこなのよ」

 

 グリーングラス家とポッター家は、家格で言えば明らかにポッター家が勝ってしまう。

 ハリーが半純血であることを差し引いても、ようやく五分というところだ。

 

「ミス・ポッターと縁談が成立した場合、グリーングラス家としても同格である以上、揉め事になるのは必至ね。しかも、どちらかというと家の重みで言えば死の秘宝を継承しているポッター家の方が血筋の担保としては申し分ない以上、親族抜きでもミス・ポッターが優勢となってしまう。もし正妻の座を相争った場合、グリーングラス家は分が悪いわ。

 たとえ縁談が先に決まっていたとしても、こればかりは動かしようがない席次の問題ですもの」

 

 だから、グリーングラス家としてはハリーの口からマルフォイの正妻としての立場を譲って貰うしかない。勿論それはハリーとマルフォイが恋仲となり、生涯を誓い合う間柄となることが大前提なのだが、この現実はアストリアを大いに刺激した。

 

「ミス・ポッター、貴女のお気持ちを聞かせてくださいまし! ドラコ様を好いていらっしゃるの!?」

「そんなこと言われても……その、ドラコとは友達だし。告白だってされてないし」

 

 もじもじとしながらハリーは俯いた。周囲にしても、勝手に将来そうなりそうだと占われた結果でしかないのだから当然で、むしろハリーは被害者だ。アストリアだって幼いながらにそれを承知してはいるのだが、完全に感情が理性を上回っていた。

 早とちりで初対面でありながらお辞儀をしかけたダフネといい勝負で、完全に似たもの姉妹である。

 なので、ハリーを引っ張ってきてしまったパンジーが助け舟を出すように提案した。

 

「一先ず落ち着きましょう。パーキンソン家としては、恋仲となったとしても依存なし。

 グリーングラス家も婚約そのものでなく、アストリアの立場を憂慮しているのでしょう? だとしたら、ここで答えを出さずとも恋仲となってからでも遅くはない筈です」

「確かにその通りね。パンジー嬢の言う通り、私達は結論を急ぎすぎたわ」

 

 グリンデルバルドとヴォルデモートという特級の厄災が立て続けに発生したせいで性急になっていたが、そもそもマルフォイが正式に家督を継ぐのはホグワーツを卒業してからで、婚姻も卒業に合わせてのことなのだから急ぐ理由は何処にもない。

 必要最低限のことは纏まったのだから、無理に結論を出す意味は何処にもないのだ。

 ……ドラコ・マルフォイが、男の子特有の欲求を卒業まで我慢できれば、と頭に付くが。

 

「ごめんなさい、こんなことでお時間を取らせてしまって。さぁダフネ嬢、アストリア嬢もそろそろお暇しましょう。それと、ミス・ポッター」

「は、はい」

「貴女の心を乱してしまったことに、お詫びを。これからもドラコのお友達でいて下さると嬉しいわ。勿論恋仲になってくれても良いのだけれど、全ては貴女次第だから家だのしがらみだのは脇に置いて頂戴。重要なのは、貴女自身の心よ」

 

 そう言うだけ言って、マルフォイ夫人は踵を返し、ダフネも後に続いた。ただ、アストリアだけは姉そっくりの知的な美貌に皺を寄せてハリーを睨み。

 

「絶対、負けませんわよ!」

 

 などと捨て台詞を残して去ってしまったが。

 

「……嵐みたいだったね、まるで」

 

 どっと疲れが押し寄せてきたハリーには、そう口にするのが精一杯だった。

 当然だが、巻き込みまくったパンジーは平謝りするしかなかった。

 

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