シン7さま、ご報告ありがとうございます!
なんかもう色んな情報が押し寄せてきて息つく暇もなかったし、取り敢えずベッドでだらだら横になって過ごしたい気持ちで一杯だったハリーだが、元々生真面目な性格もあってか。はたまたこれまで我慢し続けてきた弊害からか。
パーキンソン家に滞在中、ハリーはパンジーと一緒にダンスやらピアノやら魔法やらのレッスンに没頭していた。
パンジーが習い事をしている間、一人勉強したり惰眠を貪るのもどうかと思ったし、家事を手伝えないのもあって、パンジーから受けたお誘いにそのまま乗ることにしたのだが、持ち前の集中力と要領の良さがそうさせたのか、はじめはパンジーのおさらい程度だったのがメキメキと各分野で上達していった。
そして家庭教師の時間を二分の一にしてしまうのは悪いということから、ハリーの両親が遺した遺産から家庭教師の賃金を半額負担して、合間合間でなくしっかりと授業の時間を作って貰うまでに時間を要さず、今では一人ワルツの足型練習などこなしている。
“箒もそうだけど、本当に才能の塊なのね、この子……”
これはもうアストリアもウカウカしていられないんじゃなかろうかという吸収速度だ。おまけに学習意欲も高いと来ているので本気で末恐ろしいし、組み分け帽子が散々悩んでいた理由が今になってはっきりした。
ただ、どんなに才能があってもやはり感性は普通の一一歳の少女である。クリスマスの日などはフクロウ便で届いたプレゼントに大はしゃぎして、満面の笑みで飛び跳ねているのを見てパンジーは思わずホッとした。
「良かったわね、ハリー。はい、手渡しだけど私からもプレゼント」
「ありがとう! 僕からもどうぞ!」
蛇足だが、魔法界で親しい間柄の貴族同士は、まずもって既製品を贈らない。金銭で手に入るものなどに価値を見出さず、どれだけ相手を思って用意したかを図るには手作りこそが一番で、魔法も用いないことが美徳とされている為だ。
であるから、ダフネもスリザリンの模様の入ったマフラーをハリーとパンジーに贈っているし、マルフォイはパンジーに貝殻を彫ったカメオなど贈っていた。
ちなみに男が異性に装飾品の類を贈るのは、恋仲に限定されるので注意が必要だ。なのでハリーにはカメオでなく革手袋を贈っており、魔法である程度サイズの調整が可能な品となっていた。
“これ、絶対に「そういう関係じゃない」ってアピールするための手袋ね”
手作りというのは誰の目にも明らかで、かつ普段使いができて人目に触れるというのが保険たっぷりで逆にどうかと思う。
露骨すぎて却って勘ぐりそうだが、マルフォイからしたら「じゃあどうしろと言うんだ!?」という話だから、敢えて心の中にしまう優しさはパンジーも持ち合わせていた。
「ロンからはお菓子セットと……あ! ロンのお母さんから手編みのセーターだって! 見て見て! 僕のイニシャルが入ってる!」
スリザリンカラーのグリーンセーターに大きくイニシャルが入った品物はセンスとしては如何なものかと思ったが、こういう家庭的なのはハリーもお気に召したようで大喜びだ。
ちなみにハリーはロンに新品のチェスセットを、マルフォイには手刺繍のハンカチを贈った。価値の軽重はお金でないというのがよく分かる一例だが、パンジーはロンが若干不憫に思えた。同情すら禁じ得ない。
「あとは……スネイプ先生から箒磨きセットと、あれ? ダンブルドア校長先生からも? 何だろうこれ?」
さらっと寮監から贈り物があったのはスルーすべきだろうか? 少なくともパンジーや他の生徒がスネイプからプレゼントを受け取ったことは一度もない。
贔屓が過ぎるぞスネイプ。そんなんだからストーカーって誤解されるんだとパンジーは心中毒づきつつも、ダンブルドアのプレゼントが気になった。包み紙のリボンにはカードが括りつけられており、ハリーと共に目で追った。
《君のお父さんが亡くなる前にこれを儂に預けたが、君に返す時が来たようだ。上手に使いなさい。メリークリスマス》
包みを紐解けば、中から出てきたのはキラキラと折り重なった銀に輝く大きな布で、パンジーは絶叫した。
「本物の透明マント!? 〈死の秘宝〉の一つの!?」
「えっと、前から気になってたけど、死の秘宝って、……何?」
知らないということは恐ろしいと、パンジーは天を仰いだ後にハリーに説明した。
死の秘宝とは魔法界が誇る伝説にして、子供でも絵本で知っている昔語りだ。
「死の秘宝は〈死〉そのものによって作られ、ペベレル家の三兄弟に与えられたと言われている品々よ。
無敵の力をもたらす〈ニワトコの杖〉。
死者の魂を呼び出す〈蘇りの石〉。
そして貴女が手にしている、使用者を見えなくする〈透明マント〉がそうなの。
三兄弟のうち、杖を手にした長男は無敵になったけど寝込みを襲われて死に、蘇りの石を手にした次男は愛する者を蘇らせたけど、愛した人は不完全で、完全に一緒になるために死んでしまった。
けれど〈死〉が自分たちの命を奪いたいのだと気づいていた三男は透明マントで〈死〉の追跡を振り切り、逃げ切ったというの。
そしてここからが重要なのだけど、この三つの秘宝は闇の魔法使い、グリンデルバルドが自分のシンボルにしたぐらいの品物よ。グリンデルバルドはこの三つを有した者が死をも制すると信じて疑わず、ダンブルドアに敗れるまで死の秘宝を追い求めたと聞くわ」
そして、ポッター家がこれを代々受け継いでいたという事実こそ、ハリエット・ポッターがペベレル家の末裔であることの証明でもある。現物を見るまでは誰もが半信半疑だったろうが、こうしてハリーの手に透明マントが渡った以上、彼女の血筋は証明されたと言っていい。
今でこそ透明マントはペベレル家……というより歴代のポッター家の当主立会いと協力の下、魔法省の役人や魔法警察らが使用する為の
効果時間や耐久性、対魔道具からの隠蔽力といった実用面だけでなく、生地の質といった美術的観点からも真作の前には大いに劣る。パンジーだけでなく、審美眼を持つ者であればたとえ本物を見た事がなくとも一発で真贋を見抜くだろう。
「本当なら、今すぐにでもグリンゴッツ魔法銀行にでも預けた方がいいのだけど……」
ダンブルドア校長が使えと言うのなら、間違いなく使う機会が出てくるだろう。そうでなくとも〈死〉そのものから逃げ果せられるような秘宝なら〈例のあの人〉が復活した日には真っ先に有効活用すべき代物だ。
……ただ、ハリーはその由緒正しき魔法界の秘宝で手やら首から下やらを隠して遊んでいたが。グリンデルバルドが見たら、七孔噴血しながら襲いかかってきそうな光景である。
“ホント、知らないって怖いわ……”
◇
所変わってホグワーツでは、ロンはハリーから贈られてきた新品のチェスセットに小躍りなんぞしていた。知らないということは幸せである。
そしてマルフォイはそっとハリーからのハンカチを無言で仕舞った。口にするには偲びない。
ちなみに貴族間のプレゼントで手作り以上に拘るべきなのが色の選択で、例えば未婚女性の場合純潔を意味する白を選択し、これを相手が使って汚して貰うことは「貴方に純潔を捧げます」という、かなーり際どくて重たい意味になる。
魔法がかけられていないというのに、物理的に重力が発生していそうな重みである。
パンジーとアストリアは去年まで柄物を贈って来たのに、今年に限ってどちらも真っ白で普段使いし易いリネン生地のハンカチであった。男として冥利に尽きるが、一一歳のマルフォイは卒倒しそうになった。
ハリーは当然柄物で、スリザリン生らしくグリーンだったから、こちらを普段遣いにする。下手に白いハンカチをスリザリン生に見られようものなら、またたく間に噂が広まって居場所がなくなる。それだけは絶対に避けたいというのはマルフォイの本音だった。
「……ところでロナルド、君、期末試験は大丈夫なんだろうね?」
プレゼントの質問なんぞされたらたまったものじゃないのでマルフォイは関係ないことを問うたが、ロンは魂を天国から地獄に墜とされたような顔をした。
なんで今それ口にしたんだよと言わんばかりだ。
「いや、もう年末で二年生に進級できるかどうかの重要な試験だぞ? 留年したいのか君は?」
「……言うなよ。ハーマイオニーからも帰省前に散々小言を言われてたんだから」
それで全く勉強をした形跡がないのは本当に如何なものかと思うし、友人としても見過ごせないので図書室に連行した。幸いにして「ハリーと一緒に授業を受けられなくなるな」と脅せば机にかじりついて凄まじい集中力を見せたので、初めからこうすべきだったと嘆息したが。
ハーマイオニー嬢との関係も含めて少々物申したい点はあったが、馬に蹴られたくないので控える。
「それで、どうしてミスター・ハグリッド氏がここに居られるのか窺っても宜しいでしょうか?」
これまで図書室で一度も顔を見たことのない人物が居るのだし、慌てて戻したのは『イギリスとアイルランドドラゴンの竜の種類』『ドラゴンの飼い方――卵から焦熱地獄まで』だ。
はっきり言って怪し過ぎる。見て見ぬ振りをしたかったが、未登録・未許可でのドラゴンの飼育は重罪であるから咎めない訳には行かなかった。
「そ、そのな坊ちゃん……ちょっと小屋に来てくれや」
そう小声で告げられ、言われるがままハグリッドの小屋に向かえばカーテンは締め切られ、中は窒息しそうなほどの熱気が篭っていた。完全に黒である。
「ハグリッド……許可云々は置いといても、専門家でもドラゴンの飼育は難しいよ? チャーリーだって、ルーマニアで散々やられて大火傷したんだから」
「おう。正しくそこなんだよ、なぁロン。お前の兄さんから、なんかコツとか色々聞いて貰えんか?」
凄まじいことを口にしてくれるものである。バレたら停学どころか退学処分ものの法律違反の知恵を貸せとか普通じゃない。いやまぁ、分かっていてのこのこやってきたマルフォイとロンにも非はあるが。
「……ドラゴンの卵は放置しても硬い殻は外敵を寄せ付けず、子は何十年であっても生き永らえる。ミスター・ハグリッド、無理に孵さず魔法省に提出した方が……」
「キーッ」
「Oh……」
時既に遅し、ロンは天を仰いだ。ハグリッドは人生最高のクリスマスだと喜び、「ママでちゅよ~」と髭面に似合わない猫撫でボイス全開だった。
マルフォイはクリスマスプレゼントの恥ずかしさとかロンの勉強とかの諸々が吹っ飛んで胃をさすった。校医のマダム・ポンフリーに今すぐ治療を願いたい。
しかし、現実逃避もできないのでありったけの知恵を絞ることにした。
「……ミスター・ハグリッド、本気なら実家の伝を借りて最終手段を取る。具体的には、魔法生物を小型化させる魔法薬を使う」
ただしこれはペットとして登録され、申請が通っている魔法生物に限られるし、ペットの成長に合わせて投与するので余り時間がない。だが、このままドラゴンを放置しておくよりマシだ。何万倍もマシだ。
刷り込みでママになったハグリッドはともかく、他の生徒や動物は間違いなく敵認定された挙句、食物連鎖の定めに従っておやつにされる。禁じられた森の生態系も一気に変わるので、マルフォイ家の伝手を借りつつダンブルドア校長にも報告を……
“待て、ダンブルドア?”
いや待ておかしいぞ。普通こんなの、あの校長が気付かない訳無いだろとマルフォイは勘ぐった。既にマルフォイの中でダンブルドアは偉大な魔法使いとか英雄じゃなく、畜生策士としてカテゴライズされている。
その
「……ハグリッド。前からドラゴンを買いたいって口にしてたよね……?」
「おう! まさに天の恵みだな!」
ロンも「こいつぁヤベェ」という顔をした。思うところは同じだったので、他に何を喋ったか今すぐ吐け! 直ちに吐けと二人で詰め寄れば、ハグリッドはしばし考え込み。
「そういやそいつとは、魔法生物について盛り上がったな……酒が進んでドラゴンやら三頭犬の話になって。ああそうだ! 三頭犬なんてどうやって飼うんだよって大笑いしたもんだから、なだめ方さえ知ってりゃ問題ねぇって返したんだ! ちょいと音楽を聴かせればすぐねんねしちまうって……」
「ハグリッド、フラッフィーは三頭犬で、廊下の番犬をしてたよね?」
瞬間、ロンの言葉にハグリッドもようやく気づいて血の気が引いていた。でかい図体でオロオロするのは本当に止めて欲しい。
「ハグリッド、他に喋ったことは?」
「い、いいや! 誓ってそれだけだ! 例のとこにゃ先生方が魔法の罠を張ってるが、それに関しちゃ口にしちゃいねぇ!」
「どんな罠が?」
「いや、流石にそこまでは……って、坊ちゃん、お前俺の口から!?」
「悪いね。ただ、それより今はドラゴンだよ……」
そこまで知れれば十分だと、マルフォイは赤子のドラゴンを見つめた。ドラゴンはマルフォイ家でも家紋になっており、貴族社会でも珍重されている生物なだけにマルフォイも知識として一家言ある身だ。
幸いにして欧州産のメジャーな種であり、すぐさまこれが〈ノルウェー・リッジバック種〉だと見当がついたものの、だからこそ危険性も理解していた。
というか、並み居るドラゴンの中でもぶっちぎりの危険度を誇るヤベー種である。
「ハグリッド、こいつは毒持ちだし、成長速度も早い。本気で飼う気なら毒性を除く注射と体縮薬が必須だ。一週間で三倍になる」
げぇ!? とロンが飛び退いた。毒持ちは特に気性が荒いので、その反応も当然だ。縮こまったハグリッドに「何とかする」とマルフォイはため息をこぼし、可及的かつ速やかに手を打つことにした。
……尤も、ハグリッド自身は危険であればあるほどペットとして飼いたくなるヤベータイプなので、渋々といった表情を隠しもしなかったが。