闇深ハリーちゃんと綺麗なスリザリン   作:c.m.

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※2024/6/30誤字修正。
 城霊さま、ご報告ありがとうございます!


1_17 進む者/見送る者

 意気込みも新たに、グリフィンドール寮を抜け出し合流したロンを連れ、マルフォイ一行は廊下へと踏み込んだ。流石に全員が透明マントに隠れることは無理だったので、何人かで小分けに足を運んだが、第一陣が到着した時点でフラッフィーは眠りこけていた。

 睡眠薬をはじめ、各種薬物は主にこの三頭犬への対策であった為、無駄になった形になる。

 

“やはり留守を狙ったか……”

 

 監視が解かれる機会など、今を逃せば二度とない以上拙速も当然だが、先んじられた以上急がねばならないのはマルフォイらも同じだ。

 

「気をつけて、教師達の罠が待ち受けている」

 

 先に進んだからといって、解かれたままと言うことはない筈だ。自分がクィレルならば、後ろから追跡する追っ手を阻むべく再起動ぐらいするだろう。

 フラッフィーの足元にある仕掛け扉を引いて潜れば、そこにあるのは無明の世界だ。

 

「まずは深さの確認だな」

 

 硬貨を投げ入れて確認するが、音はない。だが、同時に硬貨に反応した形跡もない事から、少なくとも魔法生物やゴーレムが待ち構えている事もないだろうと判断し、自分たちに浮遊呪文をかけて降下すれば、足元にあるのは植物の感触だ。

 

「飛び降りても問題ない。一人ずつ来てくれ」

 

 言われるがままに飛び降り、全員が到着したのを確認。いざ先へと歩を進めようとした矢先、足元の蔓が全身を拘束すべく鞭のように撓り迫った。

 

「植物には炎ですわね」

 

 鮮やかにダフネが杖を振れば、次の瞬間には青い炎が全ての蔓を焼き払っていた。しかし、そこで終わらないのが厭らしく、地面からは無数の植物が新たに這いずり襲いかかってくる。

 

「皆さんは先へ! これはおそらく、戦力を減らすためのもの! 私の心配は不要でしてよ!」

「出来うる限り早く戻るが、無理ならば脱出してくれ!」

「ええ、勿論! 妹を泣かせる訳には参りませんもの! さぁ急いで!」

 

 

     ◇

 

 

 植物の罠を潜り抜け、奥へ奥へと続く石作りの通路を抜ければ、目に飛び込むのは輝く部屋。アーチ形の天井をした巨大な一室には羽のついた鍵が部屋中を飛び回り、ご丁寧に箒が中央に安置されていた。

 

「僕がやるよ、これでもシーカーだからね」

 

 良いのかい? とマルフォイは問うた。彼とて箒に関しては幼少期から乗り回してきた身で、クィディッチチームに所属しなかったのは長い目で見て決闘クラブに打ち込むべきだと判断したからというだけだ。

 たとえここでシーカー専門の試験で勝負しろと言われても、ハリーと肩を並べる自信があったが、彼女は譲らず箒を掴む。

 

「ドラコ、僕が来れたのは君が進んでくれたからだよ」

 

 手を繋いで進む勇気を貰ったなら、次は一歩踏み出す勇気を持とう。一歩踏み出すことができたなら、次は結果を示して前を見よう。

 

「だったらさ、次は僕が先に行く」

 

 そうじゃないと、友達だって誇れない。怖くても、先が見えなくて不安でも、任せきりになんてできないから。

 

「見てて。僕のカッコいいところをさ」

「……おそらく鍵は取っ手と同じ銀製、作りが最も旧くて大きいものが正解だ」

 

 やれるか? やれるさ。そう視線で交し合った瞬間、ハリーは箒に跨り地を蹴った。鍵は唯無造作に飛び交うだけ。そこに法則や害意はなく、故に発見は容易だったが──

 

「!? ハリー! 逃げろ!」

「──!」

 

 銀の鍵に触れた途端、鍵の雲が群れなす鳥の如く一塊となり、ばかりか鋭く尖った先端をハリーの背へと向けてきたが、ハリーも掴んだ瞬間、無機質な殺意を肌で感じ取っていた。

 

「ロン! 開けて!!」

 

 強引に鍵の翼を毟り、ロンへと投げたのはマルフォイが杖を構えていたから。

 鍵の群れが短剣のように背中に迫る。降り立ち、開いた扉を潜るのでは間に合わない。だけど、絶望や恐怖は微塵もなかった。

 大丈夫だ、迷わず進め、そう訴えるマルフォイの瞳に頷きながら、ハリーは扉に迷わず進む!

 

全て護れ(プロテゴ・トタラム)!〉

 

 発現した広範囲防御壁が飛来する弾雨の鍵を阻みきり、全員を見送ったマルフォイもまた扉を潜る。ダフネの時と違い一人も欠けず進めたのは幸運だったが、マルフォイ自身背筋に伝う汗と鼓動の速さに息が乱れた。

 

「スリザリンの決闘クラブじゃ、そんなのも一年生で習うの……?」

 

 普通なら四年生でも余り居ないのにと、兄達の情報で知っていたロンに「独学だよ」と返す。

 

「クラブで一年生が学べるのは、防御呪文(プロテゴ)をより簡略化したものさ。でも、試合ならともかく、実戦は本式の盾の呪文でなくちゃ役に立たないからね」

 

 必要に駆られただけだと謙遜しつつ、次の試練へと向かえば、驚くべきことに巨大なチェス盤が中央に描かれ、白の駒が仁王に立って、マルフォイらを真正面から見据えていた。

 

「詰将棋だな……最初から配置されている駒では……」

「無理だよ、ドラコ。盤面の持ち駒じゃ詰みには絶対届かない。僕ら自身が不足した駒になって、しかも用意する駒を正しく選択した上で、ようやく届く」

 

 人間が立つマスは色が違う。つまりはそこに立った上で、しかも盤面にない駒から自分の役を正しく選択せねばならない。

 ロンは黒の駒に近づき、手に触れた。やはり魔法使いのチェスと同じらしく、指し手が触れることでコアに命が宿り動く仕組みのようだ。

 問題は、魔法使いのチェスは非魔法族(マグル)のチェスと異なり、指し手が未熟では命令通りに従わないということだが、黒駒は皆ロンが触れた途端、彼に傅き敬意を示した。黒駒は皆、彼を最高の指し手と対局する前から認めていたのだ。

 

「……任せて良いかい?」

「僕に命を預けてくれるなら」

 

 はじめからそのつもりだとマルフォイが笑えば、ロンは右拳を突き出し、マルフォイもそこに、ごつ、と拳を当てる。

 

「ハリーは休んでて。パーキンソンはビショップを! ドラコはその隣でルークを頼む! 僕はナイトだ!」

 

 その発言と共にパンジーの手には黒杖が、マルフォイの手に盾が握られ、ロンの元へはナイトの牝馬が出現して頭を下げる。一番いい役を選んだなと、颯爽と牝馬に跨がってハリーを見下ろすロンに苦笑したが、今ここでは彼こそ主役である以上、不満はない。

 手番は白が先。詰将棋で相手から動かれるとは思っていなかっただけにロンは熟考したが、盤面を最後まで読みきった上で指示を出す。

 

「ルーク、E4!」「ポーン、C3!」「ナイト……」

 

 矢継ぎ早に出される指示。捨て駒は魔法使いのチェス同様に動いた駒の武器によって破壊され、破片が吹き飛んで土埃を回す。正真正銘の魔法使いのチェス。唯一の違いは、自分達の肉体がチップというだけだ。そして──

 

「──ロン!? これじゃ勝てても君が取られるぞ!?」

「そうだマルフォイ! これは初めから絶対に僕らのうちの誰かを失う!

 じゃあ誰が犠牲を払う!? パーキンソンか!? いいや、彼女は僕より聡明だ!

 じゃあ君かドラコ!? いいや、君はこの中じゃ戦力として最高だ! クィレルと戦えるのは君しかいない!」

 

 だからこそ、ロンは黒のナイトになった。全てを読み切り、覚悟を決め、ハリーの為に身を挺する騎士の役を買ったのだ。

 

「パーキンソン! チェスを知ってるなら、君でもここから先は読める筈だ! 僕が倒れた後で、キングにチェックをかけるんだ!

 そしてハリー! 今だから言うよ! 君が大好きだ!」

「ありがとう! 僕も君を、最高の友達だって思ってるよ!」

「……っ! ああ、もうっ! 良いよそれで! 僕も君が一番の友達さ!」

 

 一世一代の告白を、こうも見事に外されるとは思わなかったが仕方がない。どうせ自分たちは一年生で、まだまだ巻き返しの機会なんて幾らでもあるさと持ち直す。

 

“まぁ、僕が殺されなかったらだけどね!”

 

 襲い来る白のクイーンが、ロンを馬ごと吹き飛ばす。しかし、牝馬はロンという指し手への敬意からか、或いは純粋な好意からか、砕かれる寸前にロンを背中から放り投げていた。

 

「ミス・パーキンソン! 確認するが」

「大丈夫です、マルフォイ様! C5! これで──チェックメイトです!」

 

 王冠を脱ぐ白のキング。床に描かれた盤面も、砕けた破片も消滅し、音を立てて扉が開く。

 

「ロナルド! 無事か!?」

 

 口にしながら駆け寄ったが、既にハリーは彼を診ていた。頭こそ打ってはいないものの、足と肩を骨折しているばかりか、足に至っては骨が皮膚を突き破っていた。

 

「すぐに青を飲め! 足は見るなよ、絶対にだ!」

 

 有無を言わさずアドレナリンで鈍っているうちに痛覚遮断用の麻痺薬を含ませる。軽傷程度なら何とかなるが、手持ちの治療薬でこれを即座に治すのは無理だ。しかし、ロンは不敵に笑って手を振ってみせた。

 

「どうだい? 僕、カッコ良かったろ?」

「うん、うん……! 凄くカッコ良かった! ロンなら、チェスで世界チャンピオンにだってなれるよ!」

「ははっ、そうだね。正直、箒の才能はなさそうだし……うん、ハリーがそう言ってくれるなら、本格的にやってみても良いかもね」

 

 だから。

 

「ドラコ、絶対に戻ってこい。それから、ハリーは傷つけさせるなよ?」

「約束するさ。待っていろ、すぐに戻る」

 

 チェスを始める前と同じように拳を突き出せば、マルフォイももう一度拳を合わせる。

 そして皆を見送った後、一人ロンは息を吐いた。

 

「……くっそ、付いて行きたかったなぁ。僕も」

 

 もし次があったなら、意地でも這って行ってやると。そう拳を握りながら治療薬を含みつつ、ロンは重くなる瞼を閉じた。

 

 

     ◇

 

 

 進んだ先、まず感じたのは視覚や触覚でなく嗅覚だ。

 テーブルに置かれた七つの瓶が一列に並び、全員が扉の敷居を跨いだ瞬間、入口と出口が魔法の炎で塞がった。

 

「瓶はそれぞれ形状が違う。そして、横には巻物が一つ……こういう場面でこそ、ダフネに居て欲しかったものだけど」

 

 彼女は今も戦っている。先に進んだ自分たちを信じてくれている以上、甘えきる訳には行かないとパンジーは巻物に目を通した後、瓶を睨んで静かに息を吐いた。

 

「成程。マルフォイ様、これは魔法ではなく論理パズルです。正しい手順で服用すれば、猛毒は火消し薬になってくれます。ですが……」

 

 どう節約しても、一人はここで取り残される。ダフネが最初に言った通り、戦力低下は避けられない。

 

「……誰が残るかなど、考えるまでもないわね」

 

 肩を落としつつも微笑み、薬の順番を示した後、パンジーはため息混じりに口を開く。

 

「ハリー、これまでの試練を私達は乗り越えることができた。だけど、私達のような未熟者が乗り越えられる壁が、果たして悪しき者共を退かせることができるかしら? 私は甚だ疑問だわ」

 

 だから、パンジーも。そしておそらくはダフネも気づいている。これがクィレルを追い詰めるためのものでなく、自分たちを成長させるためのものだということに。

 

「マルフォイ様──これは、校長閣下の差金ですね?」

「ああ、あの人はいずれハリーが〈例のあの人〉を倒すことを期待していた。だが、僕はそれを認めたくなくて、自分で来ることに決めた」

「全く……子供に何を期待しているのやら。ですが、マルフォイ様とならハリーも成し遂げられると私は信じています。どうかご武運を、そして──」

 

 ──どうか、この赤い糸を途切れさせませぬように。

 

 唇でなく頬に軽く。これを惜しいと思うなら、その時は改めてと。

 淑女らしい優雅な、流れるような口付けと声音に、ハリーすら顔を赤くすることすら忘れ見入ってしまった。自分と同い年の筈の、いつも話している筈の少女が、どうしてか自分よりずっと大人のレディーに見えてしまったからだろう。

 

「ハリー。貴女は一緒に進めるかもしれないけれど、残される側でも、残される者として心に留まるやり方というものはあるのよ?」

 

 理解できて? と。勝ち誇るように、教えるように、指先を唇に沿わせて微笑むパンジーは何処までも悪戯っぽい笑みを浮かべる。

 

「これを悔しいと思うのなら、或いは手管を学びたいと思うなら戻って来なさい。貴女はまだまだ、磨けば光る子なんだから」

「あの、だから僕、まだ友達……」

「まだ、でしょう?」

 

 いつかそんな日が来るまで、時間がかかるのだとしても。たとえそうならなかったとしても。

 

「知っておいて、損はさせないわ」

 

 いつの日か。きっと何処かで貴女は初恋をするのだから。

 

「だから、戻っていらっしゃい。そのときは、誰より先に抱きしめてあげるから」

 

 あの、楽しい学び舎で。

 




 享年一一歳。勇敢なる騎士、ロナルド・ウィーズリーここに眠る。

 ※死んでません。


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