闇深ハリーちゃんと綺麗なスリザリン   作:c.m.

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※2024/7/14誤字修正。
 烏瑠さま、ご報告ありがとうございます!


1_19 ミスター・グリフィンドール

「気分はどうかの?」

「…………」

 

 目が覚めたとき、一番に飛び込んできたのがダンブルドアだったマルフォイは隠しもせず渋面を作った。これがパンジーかハリーだったらどれだけ嬉しかったか……。

 しかし現実は無情にも立派なひげを蓄えた老人で、しかも元はといえばその老人の掌の上で踊らねばならなかった為に進んだ道である以上、飛び起きて殴りつけなかった自制心を持つことができたマルフォイは讃えられて然るべきだ。

 

「たった今、最低になりました」

「すこぶる絶好調という訳じゃな」

 

 善哉善哉と笑う老獪の二文字を体現したダンブルドアに対し、机の上の杖を取って向けてやろうかという殺意に駆られたが、止めた。どうせ本気でぶち込んだところで、容易く弾かれてそれで終わりだ。

 そんなことより今はハリーや他の皆の方が気がかりだったので周囲を見回したが、医務室には誰の姿もなく、脇のテーブルには何故か駄菓子が積まれていた。

 

「君の友人や崇拝者からの贈り物でな。君が蛙チョコレートのカードを持っておるのを誰かが見たようで、駄菓子好きとでも思われたんじゃろう」

 

 実際には駄菓子など生まれてこの方一度も口にしたことはないし、買った事もないのだが、どうやらそれが隠れた楽しみだと誤解されたのかもしれない。試しに蛙チョコレートの箱を開ければ、本当にチョコレート型の蛙が跳ねたのであわてて掴んだ。

 中のカードが目の前の畜生校長(ダンブルドア)でなく、非魔法族(マグル)の世界でもその名を轟かせるマーリンだったのは実に喜ばしい。前者であれば目の前で破っていたところだ。

 試しにチョコレートを齧ってみたが、なんとも安っぽいミルクチョコレートである。しかし、それが不思議と美味しく感じるは見舞い品だからだろうか?

 

「地下で君達がやったことについては学校の〈秘密〉でな。学校の秘密ということはつまり……皆の秘密という事じゃ」

「他の皆は?」

「勿論無事じゃとも。ミス・パーキンソンは真っ先にミス・ポッターに抱きついて、それはもう実に微笑ましい友情じゃった。君が目覚めるまで皆一緒に居たかったようじゃが、無理言って今は席を外して貰っておる」

 

 今すぐにでも出て行って皆と代わって貰いたいものだと心中で毒づいたが、ダンブルドアは笑いながら「まぁ待ちなさい」と心を見透かしてきた。

 

「まず、君には辛い現実を受け容れて貰わねばならん。ヴォルデモートは未だ健在じゃ。クィレルの肉体を滅ぼしたところで、魂までは消滅しておらんでな。あれはいずれ、再び君達の敵として立ちはだかる」

 

 何処までも醜く生き汚く、故に強く恐ろしい。あれこそ正に人という形をした厄災に他ならない。

 

「ならば僕も、その時の為に力をつけます。ホグワーツでなら、それができると信じています」

 

 ダンブルドアは僅かに目を細め「精進なさい」と告げた。無理だとも、険しい道だとも言わない。君ならばできるとその瞳が言外に語っていた。

 

「さて、君には知りたいことがある筈じゃ。一体何故、君もミス・ポッターも〈石〉を手にできなんだかと」

「思うに、あれは──欲する者は手にできない仕組みだったのでしょう? あの鏡が、そうであるように」

「聡明じゃ、正解に近い。正確には〈見つけたい〉者があれを掴めるのじゃ。〈使いたい〉者でなく、な」

 

 そして、ハリーもマルフォイもあの石を手にすれば、きっと一つの目的の為に使っただろう。そう、他ならぬ──アストリア・グリーングラスの為に。

 

「成程、確かに僕らには無理だ。きっと、あのメンバーで〈石〉を掴めたのはロナルドぐらいでしょうね……校長閣下、ご無理を承知で申しても良いでしょうか?」

「おっと。その前に新聞を読んではどうかな? 一日とは言え、世界の動きを知らぬのは損じゃよ?」

 

 ふわりと折り畳まれた新聞が広がれば、堂々と〈号外〉が告げられた『日刊預言者新聞』の見出しが飛び込み、そこでマルフォイは我が目を疑った。

《アルバス・ダンブルドアとニコラス・フラメルがロンドンで共同成果を発表》《血の呪いが世界から消えた日》と記され、各界の重鎮が喝采を送る姿が動く写真で見ることができた。

 そして、世界初の快復者は──

 

「儂の留守で君が背負ってしまった分は、これで少なからず返せたかの?」

「──それ以上を受け取りました。未来の夫として、貴方に心からの感謝を」

「礼には及ばんよ。ミス・グリーングラスの妹君も、再来年にはホグワーツに入る。何より君の婚約者だけでなく、世界中の被害者の為でもあった」

 

 ああ全く、これでは殴るに殴れないし、恨み言の一つも言えない。本人は良いというが、それでも一生かかっても返せない借りが出来たことは確かなのだから。

 

「じゃからそう恩などと考えずとも良いというに……おお、バーティ・ボッツの百味ビーンズがあるの! 若い時は不幸にもゲロ味に当たってのう。この色ならばさしずめチョコ味と見たわ! どうじゃ? これひと箱譲って貰えたら全てチャラじゃ」

 

 喜んでお譲りしますとマルフォイが進呈すれば、美味しそうにダンブルドアは頬張り、次の瞬間には吐き出した。

 

「なんと、鼻くそ味じゃ……」

 

 がっくりと肩を落としながら、しかし軽い足取りでダンブルドアは医務室を去って行き、代わりにハリー達が飛び込んできた。

 

「ドラコ!」「マルフォイ様!」

 

 ハリーが、パンジーが、そしてダフネやロン、クラッブとゴイルが踏み込んで医務室はごった返してしまった。後ろで「仕方がない子達ですね」とマダム・ポンフリーが苦笑しつつ肩を竦めている。

 

「わーお! マーリンのカードじゃないか!? 僕も持ってない大当たりだよ!」

 

 譲って貰えない? と拝むようにマルフォイに頼み込んできたが、友人の心配より先にカードに目が行くのは如何なものか。

 

「なんならサラザール・スリザリンと交換してもいいよ!」

「……魅力的な提案だが、人生初の駄菓子でね」

 

 記念に持たせてくれと断れば、「それなら仕方ない」とロンも笑った。

 

「代わりと言ってはなんだが、好きなものを持って行ってくれ。これは皆のものでもあるからね」

 

 やりぃ! とロンはお菓子を漁り、ハリーに自分のオススメを投げていた。実に子供らしいが、ハリーが「ロン?」と顔を顰めると流石に自重した。

 

「ごめん」

「いや、良いさ。変に気を遣われるより余程楽しいし、君のような友達は悪くない」

 

 そう本心から語れば、気恥ずかしいのかポリポリと頭を掻いてから、再びお菓子を漁り始めた。ただ、今度はハリーでなくマルフォイに投げたが。

 

「食べてみて、膨らませてみてよ? 最近の運勢が分かるよ?」

「じゃあ早速」

 

 中々上手くガムを膨らませられなかったが、作ってみたら真っ黒で、しかも次の瞬間には破裂して顔がガム塗れになった。

 

「わー……大凶」

 

 これも初めて見たとロンは苦笑し、汚れ落とそうとマルフォイはポケットからハンカチを出した。

 

「……マルフォイ様、私のハンカチは使ってくれないのですか?」

「嬉しいが、あれは流石にね……」

 

 もう! とパンジーはお冠だが、クラッブとゴイルは苦笑しつつも彼女を宥めてくれた。ああいうものを男が使えるようになるのは、少なくとも結婚してからだと。

 

「ほうほう、つまり君はそういうのを贈って貰ったんだ。憎いねこの色男」

 

 チラッチラッとハリーを見ながら言うロンをぶん殴ってやりたくなったマルフォイは悪くないと思う。いやまぁ、普通の感性からしたら殆どの男はロンの側に付くだろうが。

 

「……聞きたいことが幾つかあるんだが、良いかな?」

 

 自分がここで眠りこけていた間で、何か知っていることや、立ち入り禁止場所に行ったことでのゴタゴタなど、とにかく何でもいいので教えて欲しいと言えば、ロンが答えた。

 

「そうだなぁ、取り敢えず僕らについてはお咎めなしだって。逆に得点も全く話に上がらなかったから、校則違反と相殺ってとこじゃない? あと、ノーベルタはチャーリーに引き取られることになったよ。流石にあの大きさで毒持ちじゃ、危険だからってさ」

 

 まぁ、ノーベルタについては流石にそうだろうなとマルフォイも納得した。引き取りに来るまでは数日の猶予があるため、別れを告げるなら早い方が良いとのことだ。

 

「じゃあ、一緒に行こう。マダム・ポンフリー、少し運動しても?」

「駄目と言いたいところですが……良いでしょう。ただ、すぐ戻って苦い薬を飲んで貰いますからね」

 

 

     ◇

 

 

 ハグリッドの小屋の側で丸まっていたノーベルタは、マルフォイを見るなりそっと頬を寄せてくれた。どうやら仲間を傷つけてしまったことを気にしているようだが、ダフネもパーキンソンも、ここまで人懐っこいドラゴンは他に例がないと驚いていたし、マルフォイも同じ気持ちだ。

 

「ドラゴンは凶暴で通っちょるが、まぁ、何処の世界にも変わったのは居るわな……なぁ、できればこのまま置いとく訳にゃ行かんか?」

 

 できることならそうしたいのはマルフォイ達も同じだったが、流石に万一の際の危険性や、餌の入手を考えればホグワーツでは不可能だろう。ノーベルタもハグリッドや皆との別れを察したのか、「キィ」と小さく鳴いて一人一人に頬を寄せた。

 

「向こうで辛くなったら、戻って来れるよう掛け合ってやるし、年に何度かは顔を見に行くから、な」

 

 知能の高い竜は人語や感情を読み取るというが、ノーベルタも幼いながらにそれができるのだろう。翼を震わせて大丈夫だとアピールし、チャーリーが来るまでは大人しくしていたが、ルーマニアに移ってからは他の竜以上に気性が荒く賢いので、すぐ群れで頭角を現して仕切っていると後々手紙が送られた。

 どうやらホグワーツ(ここ)では、好きな相手に猫被りをしていたらしい。

 

 

     ◇

 

 

 ホグワーツを救った英雄として学生達から讃えられたマルフォイ達だが、だからと言って先生方からお褒めの言葉があった訳でも、何かしらの特典があった訳でもない。

 ロンなどは「どうせなら期末試験を免除して欲しかった」と愚痴を零したが、そんな例外など認められる筈もなく、皆で熱心に勉強した甲斐あってか、筆記・実技双方の期末試験を無事に終えることができた。

 

「今年の一位はミス・グレンジャーか」

 

 上位五名は全員が筆記・実技共にミスなど一つもなく満点で、筆記の理論説明や、実技での追加評価でどれだけ加点されたかが勝敗の分かれ目となったが、筆記・実技双方で抜かれたのはマルフォイ自身信じ難い気持ちだった。

 

「ホグワーツ史上、稀に見る天才ぶりですわね……」

「一体どんな勉強をしていたのかしら?」

 

 筆記では二位、実技ではマルフォイに次いで三位のダフネは感嘆の吐息を漏らし、総合四位のパンジーもこれには驚いていた。

 ちなみにマルフォイは総合二位、ハリーは総合六位だが、レイブンクローが毎年上位に君臨する中、今年は異例と言っていいだろう。

 ロンに関しては二〇位で、猛勉強の甲斐あったというべき位置に落ち着き、ウィーズリー家でも両親からお褒めの言葉をいただいたらしい。

 

 クィディッチの方は見事今年もスリザリンが優勝し、ハリーは満面の笑みで皆と勝利を分かち合っていたが、何よりスネイプへの約束を果たしたことが喜ばしかったようで、その日はスネイプもまた上機嫌であったのが誰の目にも明らかだった。

 

 こうした一連のイベントを終えたなら、学年末にはパーティーが催されるのがホグワーツの伝統だ。

 例年であれば寮対抗杯の特典を集計し、学年末パーティーで寮杯を獲得した寮の紋章やカラーで彩られるのだが、今年は四寮の象徴が集うホグワーツの校章が飾られるだけだった。

 

「……今年はどうなるかしら?」

「……マルフォイ様の減点が響いてるしね」

「面目ない……」

「ま、まだ決まった訳じゃないから!」

 

 ダフネとパンジーが不安げに頬に手を当て、マルフォイが頭を下げてそれをハリーがフォローするという、なんとも珍しい光景ができてしまったが、全ては自制心を保てなかったが故の自己責任である。それでも過去のやり直しを求めない辺り、マルフォイも中々にタフだが。

 

「それではここで寮対抗杯の表彰を行うことになっとる。点数は次のとおりじゃ。

 四位、ハッフルパフ:三五二点。

 三位、レイブンクロー:四二六点。

 そしてグリフィンドールとスリザリンについてじゃが……ここで諸君らに、つい最近の出来事も勘定に入れなくてはなないことをお伝えしたい」

 

 これには大広間の皆が小声で囁き合った。言うまでもなく〈学校の秘密〉のことだと誰もが確信したからだ。

 

「まずはグリフィンドール、ミスター・ロナルド・ウィーズリー。

 彼はホグワーツどころか、世界にも絶賛される最高のチェス・ゲームを見せてくれたこと。更には自らの犠牲をも覚悟した自己献身を称え、一〇〇点を与えるものとする」

 

 グリフィンドールのテーブルから、割れんばかりの喝采が響いた。ロンの兄にして監督生のパーシーが「最高に優秀な弟だ!」と褒め称え、フレッドとジョージもこの日ばかりはからかうことをせず、弟の成果を大声で皆に自慢した。

 その歓声が冷めやまぬ中、ダンブルドアは咳払いをして続ける。

 

「次にスリザリン。ミス・ダフネ・グリーングラスは友人のため、暗闇の中で一人道を切り拓いたその勇気に、五〇点を。ミス・パンジー・パーキンソンには冷静な論理と、友と婚約者を信じた信頼を評し、五〇点を与えたい」

 

 スリザリンのテーブルは机を叩く音と拍手で一杯になった。だが、まだこれだけではない。

 

「そして、ミス・ハリエット・ポッター。

 彼女は恐怖に打ち克った。辛く厳しい現実を、友となら乗り越えられると決意を固め、闇に挑む為、前に進んだ。その勇気を評し、五〇点与える。

 ミスター・ビンセント・クラッブ、ならびミスター・グレゴリー・ゴイル。

 両名は親友の言葉を信じ、親友の苦痛という耐え難い場面を経験しながらも、忍耐と冷静な判断で親友の命を救った。よって、双方に五〇点ずつ与えよう。

 最後に、ミスター・ドラコ・マルフォイ」

 

 しん、と静まり返る。誰もが息を呑み、この痛快なサプライズの()()を耳を澄ませながら見届けている。

 

「友のため、その過酷な運命を背負った決意。並外れた勇気と魔法、そして機転……そのいずれもが次代の魔法界を背負って立つ貴族として相応しいものであったと敬意を表する。

 よって彼に、二〇〇点を与えよう!」

 

 わぁ……! とスリザリンが沸きに沸いた。誰もが拍手し、パンジーは抱きついてキスを贈り、ハリーも堪らず一緒に抱きついてダフネは微笑ましく彼らを眺め──

 

「──……じゃが、問題行動もまた多かったというのも事実である」

 

 ……パードゥン(なんだって)

 

「まず、生徒だけで立ち入り禁止場所に踏み込んだこと。

 夜間の無断外出を隠蔽するため、フィルチ管理人の管理人室の鍵を破壊して工作したこと。

 ゴースト達に発見されぬよう、血みどろ男爵に依頼して悪戯好きのゴーストを軒並みホグワーツから一時的に追い出したこと。

 先生方にもバレぬよう、廊下や教室の至る所に糞爆弾を設置し、時限式で起爆して殆どの教室を滅茶苦茶にすることで先生方の意識をそちらに逸らしたこと。

 ……非常事態とはいえ、ここまで用意周到かつ大胆な犯行は、流石にもう減点するしかないのう。処罰だけは温情措置として取り消しが精一杯じゃ」

 

 待て……待て待て待てぇ……………………!?

 

「えー……儂としても本当に、本当に心苦しい。しかし、流石にこればっかりはどうしようもないので、スリザリンは五〇〇点の減点じゃな……」

 

「あ、あああああぁっぁぁぁっぁぁぁぁぁっぁあぁぁぁぁあっぁぁぁっぁあぁあ!?」

 

 大歓声が大絶叫にシフトチェンジした瞬間である。トロールが襲撃した日より遥かに激しい絶叫がスリザリンのテーブルから響き渡ったが、ダンブルドアは「落ち着きなさい」と皆を宥めた。

 

「然るに、以上を元に再計算すれば……なんと今年はグリフィンドールとスリザリンが、六五〇点で同点じゃ! よって、今年は特例として二つの寮の名を寮杯に刻み、飾りつけも違うものにしたい」

 

 ダンブルドアが手叩けば緑と真紅の垂れ幕が大広間を彩り、ホグワーツの紋章が銀蛇と金獅子にすり替わった。

 再び大広間では割れんばかりの喝采が響いたが、スネイプは少々不機嫌になった。確かにマルフォイがことを起こすのは事前に聞いていた。《もしも自分に何かあれば、ハリーを助けて欲しい》という旨の手紙も秘密裏に受け取ってもいた。

 

 だからと言って、ここまでするとは本気で思っていなかったが……!

 

 寮杯の連続保持は途絶えていない。クィディッチも優勝したし、ハリーの為に行動したことはスリザリンの寮監として認めない訳には行かないが、もう少し加減しろと思った。

 

「マルフォイ……二度とこのような、グリフィンドールのような真似はしてくれるな」

 

 ぼそりと漏らした筈だったが、その言葉はグリフィンドール生の耳にはっきりと聞こえた。それも、よりにもよって学校一の問題児で知られるフレッドとジョージに。

 

「サンキューマルフォイ! お前スゲェよ! もう俺たちが教えることは何もない!」

「教えてないけど教わるまでもないな! 最高にロックだぜこっち来な! もうお前には立派なグリフィンドール魂が宿ってるぜ!」

 

“最高に不名誉だよこの野郎!? 何がグリフィンドール魂だふざけるな!!”

 

 と、こめかみに血管をビキビキと浮かべていたが、フレッドとジョージのみならずお祭り騒ぎのグリフィンドールにゃ関係ない。

 

「おいお前ら胴上げだ! 我らに寮杯を与えてくれたミスター・グリフィンドールを讃えよう!」

「やめろ! 本当にやめろ魔法でネクタイとローブを変えるな僕はスリザリンだぞ!? なんだミスター・グリフィンドールって冗談じゃないぞ!?

 やめろって言ってるだろうがぁっ………………………………!!」

 

「良いのですか? パンジー。ミスター・マルフォイが攫われてしまいましたが」

「まぁ、あれだけのことをしでかしたら、こちらには居辛いでしょうしね。何より、マルフォイ様も本気で嫌がっていませんし」

「ねぇねぇダフネ! パンジー! 折角だからスリザリンとグリフィンドールの席をごちゃ混ぜにしてみない?」

 

 未だかつてないハリーの大胆な提案に困惑したが、他のスリザリン生も「それは良い!」と大いに賛同し、各々自由に席を立って盛り上がり始めた。ハッフルパフとレイブンクローも、各自席を立って授業でしか付き合いのない者達とグループを作って楽しみ始める。

 マルフォイは既にもみくちゃにされ、ロンと一緒にジュースを頭からぶっかけられていたが、ハリーは服が汚れるのも構わず、二人に抱きついて仲良く料理を頬張った。

 前例のない寮杯に、前例のないドンチャン騒ぎ。けれどそれは、どの寮の、誰にとっても忘れられない、最高のパーティーとなった。

 

 

     ◇

 

 

 そして、夢のような時間が過ぎればやってくるのは夏休み。

 ハリーもまた、旅行鞄を手にダーズリー家に戻らなくてはならなくなった。けれど、その前にハリーは魔法省のご厄介になることになっている。

 自分の語った虐待が真実なのか、専門家が記憶を覗いた後、真実だけを口にする薬を飲まなくてはいけないらしいが、ハリーが語ったことは氷山の一角に過ぎない。

 叩かずとも綿埃が舞い上がるような日々であったし、虐待から解放されるならと、喜んで痛まし気な表情の役人に付いて行くこととした。

 

「ハリー、お前さんに渡しとく」

 

 出立の直前、見送りに来た者たちの内、まずハグリッドが分厚い革表紙の本を渡してきた。中を覗けば、それが動く魔法使いの写真が詰まったアルバムだと分かり、ハリーは堪らずハグリッドに抱きついた。

 

「お前さんのご両親の学友達から写真を集めたんだ。ほら、赤ん坊のお前を抱いとる写真もあるぞ!」

 

 言葉がつまり、涙がこぼれた。けれど、これは決して嫌な涙じゃない。みぞの鏡で両親を見た時より、ずっとずっと温かなものがこの写真から伝わってきたから。

 

「ハリー、泣かないでって普通なら言うのでしょうけど、今は一杯泣きなさい」

 

 これから先、辛いことも、悲しいことも、許せないことも多く起きるだろう。けれど、だからこそ喜べるときには喜ぶべきなのだとパンジーは微笑み語り、ダフネもまた優しく背中を撫でた。

 別れ際、ロンもまた言葉を発する。

 

「クリスマスプレゼント、ありがとうハリー。今年の夏はアマチュアだけどチェスの全国大会があるんだ。優勝者は新聞にも載るから、楽しみにしててね!」

「うん! 応援してるよ!」

 

 力強い声援に、ロンは顔を赤くしたが、負けないほど力強く頷いた。

 

「ハリー」

 

 そして、最後にマルフォイが彼女の名を口にしたが、中々上手く言葉にできないのか、もごもごと口を動かして、ようやくはっきりと喋りだした。

 

「……君が過去にされたことを他人の僕がどうこう言うのも、同情するのも、正直君には煩わしいんじゃないかと考えてしまったし、触れて欲しくないんだろうとも思った」

 

 だけど、それでもやはり、許せないものは許せないとマルフォイは言う。

 

「お節介は承知している。だけど、僕はもう二度と、君の口からあんなことをされているという話は聞きたくない。それを防ぐ為なら僕は、どんなことだってするつもりだ。

 もう君の……、あんな顔は見たくない」

 

 そこでまた言葉が途切れたが、もう一度顔を上げてマルフォイは言う。

 

「君がしている顔は、ホグワーツの明るい顔であるべきだ」

 

 次の学年は、もっと笑える一年を送ろう。もっともっと、学生らしい楽しい時間を一緒に過ごそう。

 

「──君を、あの特急列車で待っている」

 




 なお次年度はトム君大暴れなので、ホグワーツは一層の地獄日和の模様

 告知通り、この物語は本日を持ちまして一時凍結となります。
 ……なるべく早く続きを書きたいなぁ……。
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