闇深ハリーちゃんと綺麗なスリザリン   作:c.m.

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1_02 綺麗なスリザリン

 ホグワーツに到着した新入生一同が女教諭たるミネルバ・マクゴナガルの先導に従う形で列を作り、荘厳な石壁と大理石の床で構成されたホールの脇にある小部屋へと案内された。

 ハリーとロンはマルフォイとパンジーの後ろをずっと付いて来ていたのだが、駅のホームを出ると同じく新入生と思しき大柄な二人の生徒がマルフォイとパンジーを守るように傍に侍った為、どうにも居心地が悪げだった。

 

「君達、ロナルドとハリーに挨拶を済ませていないだろう? 僕の友人なら……」

「マルフォイ様、我々は貴方の従士なのです」

「そうです。せめてどちらか片方だけでも付けて歩かれるべきでした」

「僕の発言は無視するのかい? ああいや……確かに悪かった。しかし、仰々しく侍らせてはまるでガキ大将だろう? 感謝を示し、友誼を育みたい相手に供をつけるのは如何なものかと思ってね。軽挙は詫びるから、どうか許して欲しい」

「勿体無いお言葉です」

 

 二人のうち、より恰幅のいい少年が謝意を示すと、マクゴナガルに睨まれない程度の声量でハリーとロンの耳元に囁きかけた。

 

「自分はビンセント・クラッブ。隣のグレゴリー・ゴイル共々、代々マルフォイ家の従士を勤めております」

「彼らの父上が、僕の亡き父上に忠誠を誓ってくれていて、その延長でね。まだ従士として雇っている訳じゃないし、僕自身は友人として接して欲しいと思っているんだけど……」

「またそのようなことを」

「マルフォイ様。人を扱うことも貴方様が学ぶべき作法なのです。一個人としてはこの上ない栄誉ですが、どうかホグワーツではお立場に相応しい振る舞いをお心がけ下さい」

「ああ、分かったとも。二人の忠義には心から感謝しているし、以後気を付ける。だが、友として人目のない場や、学徒として対等な立場を求められる授業中にまでは主君であることを求めないでくれよ?」

「心得ております」

「我らが一度として、ご期待に背いた試しがございましたか?」

 

 分かっている。だからもう勘弁してくれと言いたげにマルフォイが肩を竦める。正直、ハリーもロンもこのやりとりには入れないし、お坊ちゃんなんだなぁと茶々を入れる気にもなれない。

 それほどまでにクラッブとゴイルは従卒としての立場を己に律していたし、マルフォイも口では言いつつも感謝しているのが、発音の弾み具合で伝わってきたからだ。

 だが、そうした小話ももう終いだろう。

 ほどなくして先導したマクゴナガルが、新入生に「おめでとう」と挨拶を行い、そこから大広間で執り成される歓迎会の前に、全校列席の前で各寮への組み分けが行われることを新入生に告知した。

 そして、ようやくマクゴナガルが大広間に入るよう新入生に告げると、そこには正しく別世界と称すべき光景が広がっていた。

 

「凄い……」

 

 思わず漏れた感嘆は、きっと新入生全員の代弁だったことだろう。宙に浮かぶロウソクが大広間を隙間なく照らし上げ、四つの長テーブルに置かれた金食器を目に眩しいほど反射させていたのだ。

 マルフォイやパンジーのような人種が入学する学び舎ともなれば、さぞ絢爛な場なのだろうとはハリーも想像していたものだが、まさかこれほどのものとは夢にも思わなかった。

 そうして目の前に広がる世界に圧倒されながらも、列に合わせてピタリと足を止めると、マルフォイが口にしていたであろう帽子が目に留まる。

 

「あれが、例の帽子?」

 

 如何にも古めかしい、魔法使いが被るような三角帽を見ながらハリーが小声で問うと、ロンは「……多分」と自信なさげに応えた。

 兄弟の多いロンは兄達から色々と聞いていたために知識は多いが、それでも現物を見るのは初めてなのだ。

 暫し訝しげに眺めていた帽子が、もぞもぞと動き出すと、皺が顔の形となって各寮の説明らしき歌を歌い出した。

 

 グリフィンドールの勇猛果敢な騎士道を。

 ハッフルパフの忍耐と忠誠心を。

 レイブンクローの機知と学びの尊さを。

 スリザリンの手段を選ばぬ狡猾さを。

 

 その全てはマルフォイの説明通りであったが、四つのテーブルに座っている上級生たちの顔を見れば、どの寮にもそれぞれの魅力があるのだと伝わってくる。

 

「〽被ってごらん! 恐れずに! 興奮せずに、お任せを!」

 

 そう歌が締め括られると、ハリーは、いよいよなんだ、と心の中で思った。

 組み分けで呼ばれるのはABC順で、ハリーはどうしても後ろになる。できれば今日出会った皆と同じ寮で過ごしたいと思ったが「どんな寮でも授業や自由時間では一緒に居られるよ」というマルフォイの言葉には安堵を覚えた。

 そのマルフォイ自身は、組み分け帽子が暫し悩んでから「スリザリン!」と宣言された。

 ロン曰く、マルフォイ家は代々スリザリンの家系らしいので、僅かにでも帽子が悩んだのは以外だったという。

 

「僕の家系はグリフィンドールだから、多分一緒は無理だね」

「ロンはスリザリンに入りたくないの?」

「うーん……嫌って訳じゃないんだけどさ。やっぱりしっくり来ないかな? 僕って、自分でも無鉄砲なところがあるのは自覚してるし。ああいうお行儀の良い寮だと浮いちゃうと思うんだ」

 

 それなら仕方ないとハリーは思った。人にはそれぞれの人生があって、選択がある。寮が違ったとしてもそれは当事者の生き方なのだ。

 マルフォイがスリザリンの先輩に歓迎される形で席に着くと、先にスリザリン行きが決まっていたクラッブとゴイルも安堵と共に歓呼の声を上げた。ああしてみると、どれだけしっかりしていてもやっぱり同い年なんだなぁと、ハリーは安心することができた。

 

「ポッター・ハリエット!」

「は、はい!」

 

 マクゴナガルの声に応じると、嘘のように場が静まり返った。新入生も上級生も、誰もがハリーに注目し、その行く末を見守るか、或いは興味と期待の色を込めた瞳で見つめているので少し居心地が悪かったし、緊張もした。

 できることなら早く決めて欲しいと願ったが、帽子は「難しい……」と唸るばかりだ。

 

「勇気に満ちて、頭も悪くない。才能もあるが、成程……自分の力を試したいという欲望も垣間見える……さて、何処に入れたものかな?」

「僕は……」

 

 そこでハリーは言の葉を漏らした。マルフォイは言った。これは〈選択〉なのだと。

 その言葉を信じるならば強制され、流されるだけでなく、自分から求めることもできるだろう。なら……望むことを、口にしても良い筈だ。

 

「……僕は、ずっと辛かった。だから、一杯楽しく過ごしたい。勉強も、遊びも、だけど……本当に大事なのは……」

 

 小さく、静まり返った中でも誰にも聞こえない程の声で、組み分け帽子に打ち明ける。

 

「……僕は、かけがえのない人達と一緒にいたい。学校を卒業しても。ここに居られなくなっても、決して途切れない関係が欲しい」

「ほう、そうか……君はそう思える細い繋がりを、ここに来るまでに結んだのだね?

 その繋がりを確かにしたいのなら──スリザリン!!」

 

 組み分け帽子が取られ、ハリーは小走りで進むと、感極まってパンジーとマルフォイに抱き着いた。図々しいとは分かっていたが、今はこの溢れ出した感情が止められなかった。

 

「歓迎するよ、ミス・ポッター。ようこそスリザリンへ」

 

 手を差し伸べたのは、スリザリンの蛇のシンボルの上に、大きく〈P〉の文字が刻まれたバッジを胸に付けた、利発そうな上級生だった。

 後で聞いた話だが、それは各寮の風紀を取り締まる〈監督生〉なる役職の生徒が付けること許されたバッジらしいが、そこで今更ながらにハリーは自分のしたことに気づいて、羞恥で頬を染めた。

 ただ、周囲はそんな愛らしいハリーをからかうことはせず、スリザリン生の誰もが微笑を浮かべながら、各々歓迎の言葉を述べて一年生に席を勧める。

 ハリーの席はマルフォイの右隣で、左隣にはパンジーが座っている。ハリーは、ロンはどうなるだろうかと見守っていたが、ロンが自分で語った通り、彼はグリフィンドールの寮に入り、兄達から腕を回され、わしゃわしゃと乱暴に頭を撫でられていた。

 

 

     ◇

 

 

 ホグワーツの校長、アルバス・ダンブルドアが新入生に歓迎の挨拶を告げ、〈禁じられた森〉には危険だから近づかないこと。

 四階の右側の廊下には、今年いっぱいは絶対に立ち入ってはいけないことを伝えると、先程まで空だった金食器に、溢れんばかりの料理が盛り付けられていた。

 どれもこれもダーズリー家では決して口にすることの許されないような料理ばかりで、思わずヨダレを零してしまいそうだったが、周囲の空気がそれを自制させた。

 正直、一一歳のハリーにはテーブルマナーなど分かりっこなかったし、ハリーと同じように非魔法族(マグル)の世界から初めてスリザリン生となった新入生も同じようなものだったのだが「別にマナーなんてゆっくり覚えていけばいい」とマルフォイは気にしなかったし、他の席も同様だ。

 極端なところでは「こうすれば食べ易いぞ」と顔立ちだけで身分明らかな上流階級の出と分かる上級生が、手掴みで頬張って見せて場を和ませていた。

 

「流石に普段は、あそこまでしないけどね」

 

 そう近くの上級生が小声で苦笑すると「ですよね」とハリーも苦笑した。

 

「けど、マナーというのは場を弁えて、周囲を不快にさせないためにあるものさ。勿論そうした作法も学ぶ必要はあるし、努力を怠って貰っては困るけど、重要なのは場の雰囲気を壊さないことだからね」

 

 だから今は子供らしく楽しむことが最上のマナーなんだというアドバイスにハリーは頷いて、けれど極力みっともなくならないよう、マルフォイの真似をすることにすると、マルフォイもハリーを気遣ってか、食べる動作をゆっくりさせてハリーが合わせ易いようにした。

 どんな豪勢な美食より、そうした気遣いや周囲の温かさが、ハリーにとっては最高のご馳走だった。

 

 

     ◇

 

 

「僕、感動で死んじゃうかも」

「大げさね」

 

 苦笑しつつ、パンジーは幸せ一杯のハリーに笑う。食事を終え、女子寮に案内されたハリーは体が沈み込む程心地の良いソファに座って、他の新入生同様に食後の紅茶を振舞われながら、上級生達から今後の生活についての注意を受けたところだ。

 とは言えそれは学業に対する姿勢だとか、名門校に恥じない振る舞いをといった心構えの類ではない。

 たとえば繰り言だが立ち入り禁止場所には、本当に危険だから絶対に行ってはいけないということ。

 特にダンブルドアが直接注意した廊下は、〈禁じられた森〉以上に厳禁だと伝えられた。

 通常であれば他の教職が伝えるところを、わざわざ校長直々に伝えたという事は、度胸試しで近付こうものなら本当に人死が出るということの証明だからだ。

 

 この他に伝えられたのは、ホグワーツ内での論功行賞についてである。

 ホグワーツには〈寮杯〉という制度があって、自分達の素行や授業成績が自分の属する寮の得点になったり、逆に反対に規則に違反した時は寮の減点になるといったことだ。

 最高得点を得た寮には学年末に寮杯が与えられるそうで、スリザリンは六年連続で寮杯を勝ち取っているのが自慢だそうだ。

 ハリーや他の新入生は、自分達が不甲斐なければ連続優勝の記録が途切れてしまう事に戦々恐々としたものが、どの寮も「今年こそは」と寮杯の獲得に必死で、毎年僅差だから気にせずとも良いと笑われた。

 

 そして、寮杯が集団のトロフィーなら、個人のトロフィーは〈ホグワーツ特別功労賞〉と〈首席バッジ〉だ。

 ホグワーツ特別功労賞は在学中、特に顕著な功績があった学生ないしは教師に授与されるもので、授与条件は学業や人命救助、魔法薬や呪文の発明と多岐かつ広範なものとなっている。

 この賞を得た場合、トロフィー室に名前の刻まれた盾が永年保管されるだけでなく、個人にも盾と賞状が与えられ、卒業後は各方面からお声がかかることから、在学中の特別功労賞の受賞は、人生のゴールドチケットを渡されるにも等しいものとされている。

 

 首席バッジについては七年生になってからなので先の長い話だが、本校で首席となった七年生の男女一名ずつに、ダンブルドアから直接バッジを与えられるというので、向上心がある生徒は是非目標にして欲しいと激励された。

 昨日の今日まで魔法の魔の字も知らなかったハリーにはどちらも遥か高みの勲章だが、非魔法族(マグル)出身の生徒も多く手にしているから、大丈夫だと励まされたのがついさっきのこと。

 

 その後は各々が五~六人で使う寝室に就寝時間までには入るように言われて解散の運びとなった訳だが、今は女子寮の手前に設置されたソファーに、ハリーとパンジーは二人きりで座っていた。

 

 ハリーと友誼を深めたい女生徒は全員と言って良かったし、独占した形となったパンジーに口を尖らせた者も居たが、パンジーが「私の婚約者のことで、説明をね」と苦笑した事で、魔法族の女生徒らは納得したような笑みを漏らしつつ、非魔法族(マグル)の新入生と一緒に快く席を外してくれた。

 

「皆には感謝ね、後で謝っておかないと」

「その、パーキンソンさん。ドラコのこと……?」

 

 恐る恐るといった体で訊ねたハリーに、パンジーは「そうよ」と微笑む。

 

「ああ、誤解しないで欲しいのだけれど、私の婚約者(フィアンセ)に馴れ馴れしいだとか、そういう嫉妬とかじゃないのよ?

 ただ、私が初めに言っておかないといけないのはね、ミス・ポッター。男女のどちらか、もしくは両方が貴族だと、ファーストネームで呼び合う仲というのは大きな意味を持っているの。親しき仲にも礼儀あり……なんて言葉もあるでしょう?

 これから先もファーストネームで呼び合うなら、その意味を理解した上で周囲に誤解されない関係を維持して欲しいの」

 

 ここまで言われると、魔法界に疎いハリーも何となくだが察した。婚約者のパンジーでさえファーストネームでなくマルフォイと姓で呼んでいるのだから、さぞ特別な意味を持つのだろうと捉えれば、案の定だ。

 

「魔法界の貴族の世界で、未婚の異性とファーストネームで呼び合うのはね?

〈私はこの殿方の第一夫人となる予定である〉とか〈僕はこの女性の夫となる予定である〉って公言しているに等しいことなの」

「……っ、ごほっ!?」

 

 心を落ち着かせるように口に含んだ紅茶が噎せた。最愛の恋人同士の関係程度だと思っていたが〈第一夫人〉という部分が衝撃的過ぎた。

 

「ま、待って!? じゃあドラコには、パーキンソンさん以外にもお相手が居るの!?」

「マルフォイ様はあんなに素敵なんだから、当たり前じゃない……って、言いたいけど、複数人を娶るのは私達の親世代までは魔法界でも珍しかったわ。非魔法族(マグル)の世界は長く戦争が絶えなかったそうですし、魔法族も加わった者も幾人か居たけれど、それでも魔法界そのものは火種こそ多く有っても、そこまでの大事になることは稀だったから」

 

 だが、そうした事情が大きく変わる時代が、パンジー達の祖父の世代から続いてしまった。

 ヴォルデモートの台頭は言うまでもないが、それ以前の世代でも、闇の魔法使いグリンデルバルドとその一党によって、魔法界は戦乱と暗闘を繰り広げていたのだ。

 勿論、ハリー達が平和を享受している以上、悪が滅び、正義が勝利したのは言うまでもない。

 一九四五年、アルバス・ダンブルドアは〈世界魔法大戦〉でグリンデルバルドに勝利し、ヴォルデモートとの〈魔法戦争〉は一九八一年に、一歳のハリーにヴォルデモートが倒されたことが、終止符の決定打となった。

 

「けれど、世界魔法大戦の傷が癒え切らないまま、魔法戦争というそれ以上の戦禍に見舞われたことで、〈聖二八〉一族を筆頭に多くの旧家が当主や跡取りが不在となって存亡の危機に立たされているわ。

 中には両戦争がきっかけで、閉門した家だってある。私だって他人事じゃなくて、パーキンソン家には私以外、跡を継げる者は居ないわ。

 祖父も父上も叔父上も、男は皆立派にお勤めを果たしましたもの」

「……お悔やみ、申し上げます」

「そんな顔をしないで。私達貴族は、その為に居るの。男は戦場で無辜の民の盾となり、女はそれを支える為に生きる事が誇りであって、同情を買いたい訳じゃないわ。

 それに、貴女が平和な時代を作ってくれたお陰で私もマルフォイ様も無事なのだから。

 ちょっと脱線したけれど、そんな事情で私達の世代の男女は、昔ながらの婚姻関係を築く事を余儀なくされているの」

 

 勿論、そうでなくともパンジーは貴族として誇り高く、凛々しいマルフォイを心から愛しているし、マルフォイもまたパンジーの想いを理解し、受け容れているのだから婚姻自体は悲劇でもなんでもない。

 第一人生は長いし、結婚からしても愛を育めるというのは各家の父祖が証明している事でもある。

 

「そういう訳だから、私はパーキンソン家を継ぐ為にどうしてもマルフォイ様の一番にはなれないの。勿論、マルフォイ様を誰より強く愛しているという自負はあるわ。でも、それと立場は別。子を成しても、その子はマルフォイでなくパーキンソンの姓を名乗って貰わなくちゃならない。

 そうじゃなくても、当家との縁談が成立する以前からマルフォイ様にはグリーングラス家の次女と婚姻の取り決めがあったから、むしろ私の方が横入りなの」

 

 そういう事情を聞いた後だと、ハリーは最も浅い付き合いながら、いきなり「ドラコにとっての一番は僕だよ!」と知らず周囲にアピールしてしまった形となった訳で、今にして思えばロンが汽車で驚いていたり、マルフォイが微かに頬を赤らめていたのも分かる。

 

“ロンも教えてくれれば……って思ったけど、こんなの想定してないよね、普通”

 

「……今からでも、変えた方がいいかな?」

「そこまでしなくて良いわ。私もお母様から聞いていたけど、こういうことって実はホグワーツではよくあるらしいのよ」

 

 何も知らない非魔法族(マグル)の少年少女が、事情を知らない旧家の令息令嬢にアプローチをかけたり、似たような事態に発展するのは珍しいケースではない。

 大概そうした場合、家のしがらみだったりとか一夫多妻の現実だったりといった事情で、交際自体が立ち消えになる場合が殆どだったりする。

 まぁ、中にはそんな事情など知った事かと修羅場になるケースも少なからず有ったりもするのだが……そこはパンジーも面倒なので脇に置いておく。

 

「第一、マルフォイ様だって今日ファーストネームで呼び合っていた相手が、いきなり畏まっちゃったら傷つくもの。

 今日一日でご理解いただけたと思うけど、あの方は親しいご友人に飢えてらっしゃるの……クラッブもゴイルも、もう少し融通を利かせてくれれば良いのに。親しい人以外が入る場面では、マルフォイ様に名前さえ呼ばせないのよ? 〈お立場を衆目に示す必要がございますので〉って」

「確かに、あの二人は凄かったなぁ」

 

 ああも筋金入りの従者っぷりが毎日続く事を考えると、息が詰まりそうだとハリーは一般人の感性ながらに思った。クラッブとゴイルにしてみれば尽くし甲斐のある主を見出しているのだとしても、マルフォイとしてはもう少し砕けて欲しいというが本音だろう。

 それに、マルフォイが友人に飢えているというのも、初対面のロンに対して積極的に関わっていたところからも十分に納得できる話で、あれは本当に友達が欲しくて、つい熱を上げてしまったのだろうと遅まきながら理解できた。

 

「ああ、ごめんなさい。こんな愚痴なんて。ええと、つまりね? 別にファーストネームが悪い訳じゃないし、仲良くもして欲しいのよ?

 ただ、あと二年したらグリーングラスの許婚……私達と同期の、ダフネ・グリーングラスの妹が入ってくるから、その時にはご友人としての親愛表現だって所を押さえていて。ダフネには私から説明しておくから」

「う、うん。ごめんね、色々と世間知らずで……」

「これぐらい、どうってことないわ。私達、もうお友達でしょう?」

 

 しゅん、と叱られた仔犬のようになってしまったハリーに、パンジーは優しく微笑む。知らない世界のことで戸惑うのは分かるし、もしもパンジーがいきなり非魔法族(マグル)の世界で暮らさなくてはならなくなったとしたら、きっとハリーの比ではない程の醜態を面白おかしく晒し続けていただろう。

 相手の立場に立たず、〈自分達の常識〉を押し付けて非難するほどパンジーは狭量でも歪んでもいない。パーキンソン家の息女として、それに相応しい気位は身に着けているつもりだ。

 ただ、ハリーとしてはそうした部分より〈友達〉というワードの方が重要だったようで、ヒマワリのような笑顔でこくこくと頷いた。

 

「う、うん! 友達だよね、僕達!」

 

“あらやだ、この子可愛い”

 

 どうやら友人関係に飢えていたのはマルフォイだけではなかったらしい。そう思えば〈真の友を得る〉というスリザリンに入ったのも十分納得だ。これでもう少し奔放かつ前向きだったら、きっとグリフィンドールに入っていたことだろう。

 

「ミス・ポッター、宜しければ、私も貴女をハリーと呼んでも良いかしら?」

「勿論だよ! 僕も、パンジーって呼んでいいかな!?」

 

 ハリーに尻尾があれば、ブンブンと勢いよく振っていただろう。マルフォイのことがなくとも、たとえ彼女が暗黒の時代を終わらせてくれた英雄でなかったのだとしても、きっとパンジーはハリーを好きになって仲良くしたいと思ったに違いない。

 

「光栄だわ、ハリー。そろそろ寝室へ行きましょうか。私だけじゃなくて、同室の皆ともお友達になりに行かないと」

 

 差し伸べられた手を取って、ハリーは立ち上がる。何処までも優しい淑女の笑顔は、彼女の名前の由来に相応しい、パンジーの花のようだと思った。

 




 この世界のスリザリンはフレンドリーで居心地最高の模様
(なおコンプレックスこじらせたお辞儀様は考慮の外とする)
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