闇深ハリーちゃんと綺麗なスリザリン   作:c.m.

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※2024/6/6誤字修正。
 万能目薬エリクサーさま、ご報告ありがとうございます!


1_06 プレゼントとビフォーアフター

 ハーマイオニーはその日以降、何処か今までにない自信がついたことをダフネは感じ取っていた。授業で自分に負け劣らずの優等生ぶりを発揮するのは何時ものことだが、心の何処かで以前にはなかった余裕というか、とにかく張り詰めていた部分が消えていることを悟ったのだ。

 

「ミス・グレンジャー、何か良いことでもありましたの?」

「え? う、うん。ちょっとね……ええと、誰にも言わないで欲しいんだけど、実は今、ちょっと文通に嵌ってて」

「まぁ!」

 

 これは予想外だったとダフネは嬉しそうに顔を綻ばせた。こんな風に照れていて、秘密にして欲しいということは間違いなくお相手は異性だろう。

 

「お話しできる日が来ましたら、ご紹介して下さいましね!」

「約束するわ」

 

 そわそわと初々しくも華やいだ表情に、ダフネも釣られて心地の良い気分になる。できることならば、この調子で多くの友達をハーマイオニーが作ってくれることをダフネは心から願った。

 

 

     ◇

 

 

 そうしたやりとりがなされている頃、ハリーは俄然クィディッチに夢中だった。

 入部してすぐのハリーは各種ポジションの練習をさせられたが、その中でもシーカーというポジションの適性が最も高いと知れると、すぐにシーカーに専念するよう部長から命じられた。

 シーカーはクィディッチという競技の中でも最も重要なポジションといって良く、空中を高速で飛び回る〈金のスニッチ〉なる羽がついた胡桃大のボールを掴む役目を持つ。

 クィディッチはこのスニッチを敵味方いずれかのシーカーが捕まえるまで続くが、捕まえた瞬間にゲームセットで、スニッチを掴んだチームにはその時点で一五〇点もの点数が入る。つまり、余程の点差が開かなければ、スニッチを掴んだ時点で勝敗が確定してしまうのだ。

 

 こう聞けば他のポジションなんて必要ないのではと思われるかもしれないが、スニッチは他のボールと比べ、特別小さい上に素早しっこい。

 おまけに相手チームのシーカーの妨害や、プレイヤーを箒から叩き落とそうとする〈ブラッジャー〉というボールも存在するから、空間把握と危険察知が特に重要視される。

 自分が先にスニッチを見つけても、それに相手が気付いて先に捕まえられても困るから、フェイントを織り交ぜた動きも必要だ。一直線に飛んだ日には、経験や技術が上の相手にはすぐ逆転されてしまうだろう。

 

 なのでハリーは徹底的にチームメイトの妨害やブラッジャーを躱す回避運動技術を第一に磨き、次にスニッチを見つけ出す目を養ったのだが、ハリーは一週間と経たず基本をマスターし、二週間で熟練の箒乗りもかくやという動きを見せ、なんと三週間目には上級生とレギュラー争いを始めだした。

 このダイヤモンドのような輝かしい天稟を前に部長だけでなくレギュラーも興奮し、ひと月後の選抜試験では四年生を抑えて一軍に加わってしまった。

 

 かくしてハリーはスリザリンの学級新聞に《天才シーカー少女誕生! 百年ぶりの最年少寮代表!》と一面まで飾ったのであるが、この快挙に惜しみない祝福を贈ったのはマルフォイやロン、パンジーらではない。

 寮代表が決定した翌日、ハリーが朝食を摂っていたところ、ハリーが入学時にペットとして購入した白フクロウのヘドヴィグが、ハリー宛にプレゼントを届けに来てくれたのだ。

 

「誰からだい?」

「えっと、待ってカードが……あれ? 宛名がない」

 

 ただ、紙袋の梱包からしてこれがクィディッチに使用する箒だということは誰の目にも明らかだった。マルフォイだけでなく周囲からも開けてみようよと催促されるまま包みを剥がせば、柄の先端には黄金の刻印が眩いニンバスシリーズの最新型、〈ニンバス二〇〇〇〉が顔を覗かせた。

 

「本物だ! 本物のニンバス二〇〇〇がポッターに送られてきた!」

 

 隣のハッフルパフのテーブルの生徒が大声を上げ、誰も彼もが箒を間近で見ようと食事も忘れて詰め寄っていたが、ハリーだけは宛名のない手紙の文字を指でなぞり、ハッと顔を上げる。

 いつもの席で、どんなに豪華な食事が出ても無表情で口にしているスネイプは、その日に限ってハリーが視線を向けた途端、気付かない振りをして食事を続けていた。

 

 

     ◇

 

 

「先生、ありがとうございます!」

「何のことか我輩にはとんと見当がつかんな、ポッター。お前を他のスリザリン生より贔屓したことなど、我輩の記憶にはないが?」

 

 他の生徒が耳にすれば、「嘘吐くんじゃねェッ……!」と絶叫したことだろう。

 しかしハリーはスネイプの性格を短いながら理解したため、敢えて深く追求せず「それでもお礼が言いたくなったんです!」と再び頭を下げた。

 

「僕、絶対クィディッチの優勝トロフィーを先生に贈ります!」

「スリザリンは既にして四連覇を達成しているぞ、ポッター。お前が不甲斐ないプレーをすれば、この記録は途絶えるだろうな。七年生はさぞ悔いが残ろう。もしやすれば、卒業前に最高記録を掴み損ねるのだからな」

「胸に刻みます! 激励、ありがとうございました!」

 

 再び運動部らしくキビキビと頭を下げて、背を向けて去っていくスネイプを見送ると、ハリーは思い切り箒を抱きしめた。

 自分の為にこんな素敵な、そして高価な贈り物をしてくれた。口調こそ厳しくとも、いつも自分を見守ってくれている。

 そんなスリザリンの先生を、ハリーは心から素晴らしい大人だと思った。

 

 

     ◇

 

 

「それはまた、スネイプ先生も奮発したな……」

 

 最新型の箒を、しかも個人所有となると備品扱いにはできないので間違いなく自腹を切っただろう。値段を知っているだけに、マルフォイとしてもここまでするとは思わなかった。

 仮に箒を進呈するとしても、ハリーの体格に合ったスイープの七番辺りだろうと考えていたし、最悪マルフォイが進呈することも視野に入れたいただけに、驚きもひとしおだ。

 

「でもハリー、よくスネイプ先生の字って分かったわね?」

 

 パンジーも〈ハリエット・ポッター宛、競技用箒〉とだけ記されたカードを確認したが、普段黒板に書くスネイプの筆跡と異なるだけに、あっさり見破ったハリーの観察眼には舌を巻いたものである。

 

「確かに意図的に崩してるけど、ここの跳ね上がり方とかそのままだったよ?」

 

 確かにそう言われればそうかもしれないが、だとしても普段から注視していなければ絶対に気付けない。誰より授業をしっかり聞いているダフネですら、言われればそうかもしれない、ぐらいの特徴で、マルフォイにしたって箒を贈る人間を消去法で選んで、おそらくスネイプだろうと考えた程度だったのだ。

 

「……ひょっとして先生、お金で交際しちゃうオジ様タイプなのかしら?」

「むぅ、パンジー。前々から思ってたけど、スネイプ先生に当たりが強くない?」

 

 頬をリスのように膨らませるハリーは可愛い。可愛いが、だからこそパンジーは心配なだけである。他意はない。ちょっとホグワーツから先生が一人追放されないか心配しているだけだ。

 ロリコンとかストーカーとか性犯罪者とか禁じられた関係とか脳裏に浮かんだりはしていない。繰り返す、他意はない。

 ちょっと脳裏に魔法警察にしょっ引かれて、日刊預言者新聞の一面を飾ったスネイプ先生を想像した程度だから他意はない。

 

「マルフォイ様、男性の視点から見て、どう思われます?」

「ドラコ、言いたいことあるなら言いなよ」

 

 ダフネは問い、ハリーはむくれながらマルフォイを睨んだ。対してマルフォイのジャッジは。

 

「……まぁ、心配ないと思うよ? 確かにハリーに対して甘いというか、少しばかり僕らより情が強いところはあるけど、本当にそれだけって感じで邪な感じはなかったから」

 

 女が男の視線を感じるように、男はどういう意図で男が女にアプローチするかはそれとなく察しがつく。しかし、その理屈で言うとスネイプの行動はどうにも回りくどすぎるように見えた。

 正直なところ、ハリーぐらい純粋なタイプならもっと楽に好感度を稼ぐ方法は幾らでもあっただろう……いやまぁ、単純にスネイプのコミュニケーション能力とか女性経験とかで色々その辺り難しいのかもしれないが、それはともかく。

 

「……振り返るに、僕らが先生を変な目で見てしまったのは、第一印象が全てだったんだよ」

 

 今にして思えば、視線そのものは別に変質者のそれではないし、そんな素振りも今のところ全くない。にも関わらず、誤解を生んだ理由の全ては先に語った第一印象。

 もっと簡潔に述べるならば。

 

見た目(ビジュアル)の問題だろうな、全ては」

 

 この感想には皆「うわ、ぶっちゃけたよ」と言わんばかりの顔つきである。ただ、マルフォイの言うことも分かるというか尤もな話だ。

 

「変に伸ばした髪は薬品でベタついてて気持ち悪いし、黒っぽい服装で常にジメジメしていて、おまけに終始仏頂面だろう? あれでは慈愛の眼差しも変質者の視姦に早変わりだ。

 背も高くて顔の造形だって悪くないのに、本人のセンスが全ての要素をマイナスに変換している。あれで好印象は無理だ。僕が女性なら告白される前から、お断りの言葉を十通りは考えてるね」

「ねえドラコ。いま君、スリザリン生でもスネイプ先生が聴いたら二〇〇点ぐらい減点されそうな発言してるって気付いてる?」

 

 常に何処に出ても恥ずかしくないよう、徹底して身だしなみを気をつけている男子からの渾身のダメ出しには思わずハリーもツッコまざるを得なかった。

 世の中には言って良いことと悪いことがあると思う。たとえ全て本当のことでも、口に出さない優しさというか、一片の慈悲というか、手心というものをマルフォイは持った方が良いとハリーは感じた。

 まぁ、そう感じるということはビジュアルがもう色々とダメだという点にハリーも完全同意しているという証拠な訳だが。正直毎日ちゃんと身体を洗ってるか心配になるぐらいには。

 

「うん、じゃあさ。つまりスネイプ先生が格好良くなったら、万事解決ってことで良いんだよね?」

 

 それなら任せてと、ハリーは強く胸を叩く。

 その日から、ハリーのファッションの勉強が始まった。

 勿論、男性の視点という意味で言いだしっぺのマルフォイにも協力を仰いだ上で。

 

 

     ◇

 

 

 月日というものは経つのが早いもので、特に生活環境が変わると一気に加速してしまう。それは規則だとか習慣だとか、細かい環境の変化に適応するために時間を考えず学び続ける必要があるからなのだろう。

 何が言いたいかといえば、本日は既にハロウィンだということである。大広間に限らずホグワーツ城の至るところで黒とオレンジの飾りつけで溢れ返り、この祭日の準備期間だけはホグワーツの各寮の色までもが塗り代わり、教師と生徒が一丸となって楽しむのだ。

 

 そして、そんな和気藹々と賑わう場には明らかに似つかわしくないと評判の黒づくめのローブを纏い、いっそ吸血鬼のコスプレでもすればいいのにと影で囁かれるスネイプはといえば……。

 

「何を見ているのだ、諸君? 折角の催しの日に我輩の顔など眺めても楽しめるものでもあるまい?」

 

“いや誰だよアンタ……!?”

 

 全校生徒の心が、今この瞬間一つとなった。ハロウィンパーティーが本格的に始まるのは正午からで、午前中には授業が時間割通り存在する。存在するが、誰もが時間割か教室を間違えたか、それともスネイプそっくりな身内が代打で授業を始めに来たんじゃないかと疑った。

 薬品でベタついていたロン毛は丁寧にカットして爽やかに流され、黒のローブは最先端モードの明るい色調へと変わっていた。

 口調やら目つきやらは普段通りの筈なのに、平時のあの陰鬱な感じが全くしない。

 これまでの魔法薬の教授が不審者オーラ全開の陰キャなら、今の教授はインタビューを受ける映画俳優もかくやという劇的ビフォーアフターで、勿論仕掛け人は渾身のドヤ顔を晒すハリーだ。

 

 パンジーやダフネにも頼って魔法界の流行を調べ上げ、スネイプ先生の顔立ちからできる限り似合いそうな髪型をチョイス。とにかく女性が一緒にいても援助交際とかパパ活容疑で魔法省に通報されないような、そんな印象を与えられるよう徹底して爽やかナイスミドルを演出できるよう厳選と試行錯誤を繰り返すこと一週間。

 

 ハリーはスネイプの空いた時間を狙ってスネイプの研究室へ乗り込み、ニンバス二〇〇〇のお礼と称して、まずは薬品汚れを取り除くスプレー状の洗髪薬の作成だとか、シミ汚れや臭いも落とせる魔法を呪文研究会の伝を借りてダフネから習得し、スネイプが頼んでもないのに甲斐甲斐しく世話を勝手に焼き始めた。

 

「うん、やっぱりスネイプ先生はもっと髪で顔を隠したりしない方がカッコイイですよ!」

 

 と、無邪気に褒めては流行の髪型を勧めたり、少しずつ明るい色のローブや革靴を勧めていった。

 

「余計な世話だ、ポッター。学生の本分は勉強であるし、ニンバスを贈った酔狂な御仁とて、その時間を練習に注ぎ込めと苦言を呈するだろう」

「はい! 授業の予習復習は済ませてきましたし、ちゃんとペース配分を守って練習をしていますから、まだ洗ってないローブを出してください!」

「我輩は来るなと言っておるのだ! 減点されたいかポッター!」

「そういえばダフネのパパが合わないからって使わなかったローブ用の生地を持ってきてくれたんですけど、良かったら一着仕立ててみませんか? 丁度呪文研究会が服飾の魔法に凝っていまして」

「教師の発言を無視するな厳罰に処すぞ!」

「はい、髪のセット終わりました。元の髪質も油分が多かったですが、これぐらいならちゃんとした洗髪剤とケアで十分サラサラにできます! でも、薬品でベタついて顔にかかるのはご不快でしょうから、この際バッサリやっちゃいましょう!」

「勝手に切るな! 止せ、やめろポッター、スリザリン一〇点減点! 魔法抜きでトイレ掃除追加だ!」

「トイレ掃除ならいつもしてましたよ、ダーズリー家で家事は一通り覚えてますから。このお部屋も埃っぽいから掃除しますね。お掃除呪文は楽ですけど、手作業の方が細かいところに目が届きますし」

「……っ、ええいっ! 勝手にするが良かろう! 言っておくが宿題は待たんぞポッター!」

 

 そんな感じで延々とあしげく通いつめ、スネイプ先生大改造計画は遂に完成したのでありましたとさ。結果。

 

 

     ◇

 

 

「変われば変わるもんだなぁ……」

「ミス・ポッターがニンバス二〇〇〇のお礼に色々したんだと」

「あ! やっぱりあれスネイプ先生か! まあ他に贈りそうなのダンブルドア校長先生ぐらいだけど、スリザリンにエコ贔屓はしないだろうしなぁ」

 

 とまぁ、こんな感じでイメチェン初日から大好評であった。この後も劇的ビフォーアフターを果たしたスネイプ先生はマクゴナガルをはじめ、多くの先生から「是非その凛々しい姿を保ってください」だとか。

 

「生徒の模範となる素晴らしい身だしなみですな。以前のお姿は、まるで闇の魔法使いのような風体で宜しくありませんでしたが、今はどなたが見ても立派な紳士でいらっしゃる」

 

 と。ホグワーツに住むゴーストたちから褒めちぎられたりだとか。

 

「あら、素敵な殿方ですこと。今度お話の時間を設けて頂けませんこと?」

 

 肖像画の御婦人方からアプローチを受けたりと、まぁ大人気が続いて引き返せなくなるのであった。

 




※原作だとハロウィンでも授業は午前と午後両方ありますが、別に物語に影響がないので短縮しました。

※以前のハリポタクロスオーバーでも、スネイプ先生をアラン・リック氏にイメチェンするネタはやったのですが、この作品自体、以前の作風ではどうしてもできなかった少年少女の物語だとか、各種小ネタをやりたいが為に出したものなので、二番煎じでもやりたいネタは突っ込んでいこうと思っています。
(ちな、イメチェン予定の人物はあともう一人います)
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