01:契約
屋敷の私室。
今まさに、ジョンは自分のメイドにナイフを突きつけられていた。
距離は一歩分。
刃先は喉元。
冗談では済まされない近さだ。
ジョン「ねえ、なんでメイドのあんたにナイフ突きつけられているの?」
アリス「だってぇ、暇なんだもん」
ジョン「だからってナイフで脅すのはおかしいだろ!」
アリス「じゃあお昼寝する?」
アリス「特別に抱き枕にしてあげるよぉ」
ジョン「誰もそんなこと言ってないだろ!」
ジョン「メイドならもっとこう、家事とかしろよ!」
アリス「家事ってなに?」
ジョン「掃除したり、洗濯したり、料理作ったりすることだよ!」
アリス「ふ~ん……でもわたし必要ないしぃ~」
アリス「したことないしぃ~」
ジョン「じゃあなんでメイド服着てるの?」
アリス「だってぇ~かわいいから」
ジョン「メイド長に言うよ」
アリス「お姉ちゃんはわたしに甘いから大丈夫だよ」
ジョン「そういう問題じゃないんだよなあ……」
アリス「そんなことより遊ぼうよ!」
ジョン「まったくもう……」
ジョン「じゃあ、なにして遊ぶ?」
アリス「えっとね!」
アリス「暗殺ごっこ!」
ジョン「却下」
アリス「なんでぇ?」
ジョン「なんでって……」
ジョン「そもそも暗殺ごっこってなんだよ……」
アリス「えっとね」
アリス「まずわたしがナイフでジョンを刺すでしょ?」
アリス「それでジョンがわたしを殺すの」
ジョン「それ遊びじゃなくて殺し合いだよね!?」
アリス「え?」
アリス「でもこれ、おままごとだよ?」
ジョン「いやいやいやいや!」
ジョン「どこがおままごと!?」
ジョン「完全に殺し合いじゃん!」
アリス「だってジョンは不死身でしょ?」
アリス「だから平気だよ!」
ジョン「そういう問題じゃないんだよなあ……」
アリス「んじゃ屋敷使った鬼ごっこ!」
アリス「もちろん、私が鬼ね!!」
そう言うと、アリスはどこからともなくナイフを取り出した。
ジョン「!?」
アリス「にひひ……」
アリス「さあ逃げて!」
ジョン「ちょっと待て!!」
ジョン「なんでナイフなんて持ってるんだ!?」
アリス「え?」
アリス「護身用?」
ジョン「いやお前メイドだろ!」
アリス「細かいことは気にしないの!」
ジョン「細かくないし!!」
アリス「ほらぁ!」
アリス「早く逃げないとナイフがグサッといっちゃうよぉ?」
ジョン「くっ……」
ジョンは咄嗟に背を向け、廊下へ飛び出した。
背後から軽い足音が迫る。
狭い廊下に、笑い声が反響する。
アリス「あはははっ!」
アリス「待ってぇ~!」
ジョン「くそっ!」
ジョン「捕まったら殺される!」
速い。
遊んでいるだけなのに、殺気の質が違う。
このままでは追いつかれる。
仕方ない。
あれを使うしかない。
ジョンは急停止し、振り返った。
そして両手を大きく広げる。
ジョン「さあ、捕まえてごらん?」
アリス「えっ?」
アリス「なんで?」
ジョン「いいから早く!」
アリス「う、うん……」
警戒しながら、アリスが一歩ずつ近づく。
次の瞬間、ジョンは一気に距離を詰めた。
ジョン「捕まえた!」
両腕でアリスを抱き止める。
アリス「きゃああっ!?」
そのままジョンは走り出し、近くの部屋へ飛び込んだ。
ドアを閉め、息をつく。
ジョン「ふぅ……」
ジョン「危ないところだったぜ……」
アリス「もお~!」
アリス「いきなり何するのぉ!」
ジョン「だって、こうしないと捕まるだろ?」
アリス「むぅ……」
アリス「じゃあ次は私が鬼ね!」
そう言った瞬間、再びナイフがきらりと光り、アリスが襲いかかる。
そんなやり取りを何度か繰り返していると、屋敷に来客があった。
客間。
訳ありそうな雰囲気をまとった男が、ソファに腰を下ろしている。
山本「実はな」
山本「数ヶ月ほど、日本で護衛をお願いしたい」
山本「金ならいくらでも出す」
ジョン「なるほど」
ジョン「では依頼人一号として」
ジョン「なぜ護衛が必要になったのか、教えていただけますか?」
山本「ある組織から命を狙われていてな……」
ジョン「それはどんな組織ですか?」
山本「詳しくは言えないが、犯罪組織だ」
ジョン「なるほど」
ジョン「ではなぜSPを雇わないんです?」
ジョン「その方が安全だと思いますが」
山本「それはできない」
山本「表立って護衛をつけると、不便な身分なんでね」
ジョン「理解しました」
ジョン「では具体的な依頼内容をお願いします」
山本「期間は四ヶ月」
山本「その間だけ護衛を頼みたい」
山本「報酬は弾む」
ジョン「なるほど……」
ジョン「ちなみに、おいくつですか?」
山本「27だ」
ジョン「……もっと若く見えますけどね」
山本「よく言われるよ」
山本「まあ、よろしく頼む」
山本「報酬は前金100万ドル」
山本「護衛期間は1ヶ月1000万ドルでどうだ?」
ジョン「うーん……」
ジョン「少し安すぎませんか?」
山本「では前金300万ドル」
山本「護衛期間は1ヶ月6000万ドルでどうだ?」
ジョン「う~ん……」
ジョン「もう少し上がりませんか?」
ジョン「こちらも生活がかかっているので」
山本「なら前金500万ドル」
山本「護衛期間は1ヶ月8000万ドルだ」
ジョン「……わかりました」
ジョン「それでお願いします」
山本「よし!」
山本「契約成立だな!」