セイとシの狭間で   作:最上 イズモ

2 / 6
02:過去

ジョン「それで……依頼内容は具体的にどのようなものですか?」

 

山本「それは言えないんだ」

山本「まあ、護衛中にわかると思うぞ?」

 

ジョン「そうですか……」

ジョン「では最後に一つだけいいですか?」

 

山本「なんだ?」

 

ジョン「その依頼、本当に私でいいんですか?」

 

山本「どういう意味だ?」

 

ジョン「私は確かに不死身ですが……」

ジョン「戦闘能力は皆無です」

ジョン「護衛には不向きですよ」

 

山本「いや、問題ない」

山本「むしろ君のようなタイプが適任なんだ」

 

ジョン「そうですか……」

ジョン「わかりました」

ジョン「それでは、これからよろしくお願いしますね!」

 

山本「ああ!」

山本「こちらこそよろしく頼むよ!」

 

二人は固く握手を交わした。

その手の温度に、契約の重みが確かに伝わってくる。

 

ジョンは山本を連れ、屋敷の案内を始めた。

 

屋敷内。

 

山本「おおっ!」

山本「これは凄いな!」

山本「まるで映画の中にいるようだ!」

 

ジョン「喜んでもらえたようで何よりです!」

 

山本「本当にありがとう!」

山本「もう大満足だよ!!」

 

ジョン「ははっ、それは良かったです」

 

そのとき、廊下の奥から足音が響いた。

次の瞬間、勢いよく駆けてきた影が山本に飛びつく。

 

アリス「ねえ!」

アリス「遊んでよ!」

 

山本「おおっ!」

山本「可愛い子じゃないか!」

 

アリス「お姉ちゃんはわたしに甘いから大丈夫だよ」

 

ジョン「……大丈夫じゃないと思うけどな」

 

山本「ところで、この子は誰だ?」

 

ジョン「ああ、この娘はアリスです」

 

アリス「わたし、アリスって言うの!」

アリス「よろしくね!」

 

山本「おおっ!」

山本「元気な子だな!」

山本「私は山本だ、よろしくな!」

 

ジョン「この子はこう見えてもメイドなんですよ」

ジョン「まあ、メイドらしいことはしてませんが」

 

山本「そうなのか!?」

山本「どこで働いてるんだ?」

 

アリス「えっとね」

アリス「お屋敷で働いてるの!」

 

山本「おおっ!」

山本「じゃあ私の専属になってほしいくらいだ!」

 

アリス「いいよ!」

アリス「お姉ちゃんがいいって言ったらね」

 

ジョン「おいおい」

ジョン「勝手に決めないでくれよ……」

 

山本「はっはっは」

山本「冗談だ」

山本「そんなに目くじらを立てないでくれ」

 

ジョンは曖昧に笑った。

この人、本気だったな。

 

二人は客間へ移動し、腰を落ち着ける。

ジョンは手慣れた動きで紅茶を淹れた。

 

ジョン「どうぞ」

 

山本「ありがとう」

山本「いただきます!」

 

ジョンは向かいに座り、改めて問いかけた。

 

ジョン「ところで、護衛期間の四ヶ月の間」

ジョン「どこで生活するんですか?」

ジョン「ホテルではさすがに不用心でしょうし」

 

山本「ああ、それなら心配いらない」

山本「すでに手配済みだ」

 

ジョン「そうですか……」

 

山本は立ち上がり、窓の外に目を向けた。

小雨が静かに屋敷を包んでいる。

 

山本「ちょうどいい機会だ」

山本「今から時間はあるか?」

 

ジョン「ええ」

ジョン「大丈夫ですよ」

 

二人は雨の中、屋敷を出た。

車に乗り込み、目的地へ向かう。

 

車中。

 

ジョン「どこへ行くんですか?」

 

山本「まあ、着いてからのお楽しみということで」

 

しばらく走ると、車は停まった。

潮の匂いが鼻をつく。

 

港だった。

 

山本「おお、来たな」

 

ジョン「ここは……港ですか?」

 

山本「ああ」

山本「ここで船を手配している」

 

二人は船着き場へ向かう。

そこには、一隻の大型船が静かに停泊していた。

 

でかいな。

 

山本は船長らしき人物と短く言葉を交わし、こちらを振り返る。

 

山本「乗船手続きは済ませた」

山本「来週から出航だ」

山本「東京の横須賀、米海軍港に停泊する予定だ」

 

ジョン「はい」

ジョン「わかりました」

 

山本はジョンの手を握り、深く頭を下げた。

 

山本「頼むぞ」

 

ジョン「いや、その……」

ジョン「米軍がいるなら、私いらないのでは?」

 

山本「いや」

山本「米兵だけじゃ足りないこともある」

山本「それに君は不死身だからな!」

 

ジョン「まあ……」

ジョン「それもそうですね」

 

二人は船に乗り込み、客室へ案内された。

広く、豪奢な内装が目に飛び込んでくる。

 

ジョン「おお……」

ジョン「すごいですね!」

 

山本「気に入ってくれたようで何よりだ」

 

ジョンは荷物を置き、ベッドに腰を下ろした。

そのとき、山本が声をかける。

 

山本「なあ、ジョン」

山本「ちょっといいか?」

 

ジョン「どうしましたか?」

 

山本「実は聞きたいことがある」

 

ジョン「なんでしょう?」

 

山本は神妙な表情で口を開いた。

 

山本「アリスの過去についてなんだが……」

 

ジョン「……はい」

 

山本「彼女はどうしてここに来たんだ?」

山本「親御さんはいないのか?」

 

ジョンは少し沈黙し、やがて答えた。

 

ジョン「さあ……」

ジョン「わかりませんね」

 

山本「そうか……」

山本「じゃあ、どんな風に育ってきたのか教えてくれないか?」

 

ジョンは遠い記憶を手繰るように、ゆっくり語り始めた。

 

ジョン「彼女は、俺が引き取った奴隷だった」

 

山本「奴隷?」

 

ジョン「ああ」

ジョン「ある組織に売られていた」

 

山本「本当か!?」

 

ジョン「本当さ」

ジョン「俺が助け出した」

 

ジョン「奴隷は数人いた」

ジョン「アリスと、彼女がお姉ちゃんと呼んでいるフレディリカ」

ジョン「それと、エミリが一人」

 

ジョン「役割も決まっていた」

ジョン「フレディリカとエミリは炊事などの家事担当だ」

 

山本「では、彼女は?」

 

ジョン「護衛兼、俺の暗殺」

 

山本「はあ?」

 

ジョン「正確には、暗殺任務の遂行者だ」

 

山本「どういうことだ?」

 

ジョンは椅子に腰を下ろし、静かに続ける。

 

ジョン「俺は不死身だ」

ジョン「だが、不死身でも死ぬことはある」

 

ジョン「心臓を刺される」

ジョン「首を落とされる」

 

ジョン「だから俺は常に護衛を雇っている」

 

山本「なるほど……」

山本「それで彼女は?」

 

ジョン「俺の暗殺任務の遂行者だ」

 

山本「なぜ、彼女がそんなことを?」

 

ジョン「簡単だ」

ジョン「俺が不死身だからだ」

 

山本「……?」

 

ジョン「俺はもう数百年」

ジョン「こんなクソみたいな世界にいる」

 

ジョン「死ねない」

ジョン「それが恐れられ、疎まれ、利用される」

 

山本「……」

 

ジョン「正直なところ」

ジョン「もう疲れたんだ」

 

ジョン「こんなクソみたいな世界で生きるのに」

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。