ジョン「それで……依頼内容は具体的にどのようなものですか?」
山本「それは言えないんだ」
山本「まあ、護衛中にわかると思うぞ?」
ジョン「そうですか……」
ジョン「では最後に一つだけいいですか?」
山本「なんだ?」
ジョン「その依頼、本当に私でいいんですか?」
山本「どういう意味だ?」
ジョン「私は確かに不死身ですが……」
ジョン「戦闘能力は皆無です」
ジョン「護衛には不向きですよ」
山本「いや、問題ない」
山本「むしろ君のようなタイプが適任なんだ」
ジョン「そうですか……」
ジョン「わかりました」
ジョン「それでは、これからよろしくお願いしますね!」
山本「ああ!」
山本「こちらこそよろしく頼むよ!」
二人は固く握手を交わした。
その手の温度に、契約の重みが確かに伝わってくる。
ジョンは山本を連れ、屋敷の案内を始めた。
屋敷内。
山本「おおっ!」
山本「これは凄いな!」
山本「まるで映画の中にいるようだ!」
ジョン「喜んでもらえたようで何よりです!」
山本「本当にありがとう!」
山本「もう大満足だよ!!」
ジョン「ははっ、それは良かったです」
そのとき、廊下の奥から足音が響いた。
次の瞬間、勢いよく駆けてきた影が山本に飛びつく。
アリス「ねえ!」
アリス「遊んでよ!」
山本「おおっ!」
山本「可愛い子じゃないか!」
アリス「お姉ちゃんはわたしに甘いから大丈夫だよ」
ジョン「……大丈夫じゃないと思うけどな」
山本「ところで、この子は誰だ?」
ジョン「ああ、この娘はアリスです」
アリス「わたし、アリスって言うの!」
アリス「よろしくね!」
山本「おおっ!」
山本「元気な子だな!」
山本「私は山本だ、よろしくな!」
ジョン「この子はこう見えてもメイドなんですよ」
ジョン「まあ、メイドらしいことはしてませんが」
山本「そうなのか!?」
山本「どこで働いてるんだ?」
アリス「えっとね」
アリス「お屋敷で働いてるの!」
山本「おおっ!」
山本「じゃあ私の専属になってほしいくらいだ!」
アリス「いいよ!」
アリス「お姉ちゃんがいいって言ったらね」
ジョン「おいおい」
ジョン「勝手に決めないでくれよ……」
山本「はっはっは」
山本「冗談だ」
山本「そんなに目くじらを立てないでくれ」
ジョンは曖昧に笑った。
この人、本気だったな。
二人は客間へ移動し、腰を落ち着ける。
ジョンは手慣れた動きで紅茶を淹れた。
ジョン「どうぞ」
山本「ありがとう」
山本「いただきます!」
ジョンは向かいに座り、改めて問いかけた。
ジョン「ところで、護衛期間の四ヶ月の間」
ジョン「どこで生活するんですか?」
ジョン「ホテルではさすがに不用心でしょうし」
山本「ああ、それなら心配いらない」
山本「すでに手配済みだ」
ジョン「そうですか……」
山本は立ち上がり、窓の外に目を向けた。
小雨が静かに屋敷を包んでいる。
山本「ちょうどいい機会だ」
山本「今から時間はあるか?」
ジョン「ええ」
ジョン「大丈夫ですよ」
二人は雨の中、屋敷を出た。
車に乗り込み、目的地へ向かう。
車中。
ジョン「どこへ行くんですか?」
山本「まあ、着いてからのお楽しみということで」
しばらく走ると、車は停まった。
潮の匂いが鼻をつく。
港だった。
山本「おお、来たな」
ジョン「ここは……港ですか?」
山本「ああ」
山本「ここで船を手配している」
二人は船着き場へ向かう。
そこには、一隻の大型船が静かに停泊していた。
でかいな。
山本は船長らしき人物と短く言葉を交わし、こちらを振り返る。
山本「乗船手続きは済ませた」
山本「来週から出航だ」
山本「東京の横須賀、米海軍港に停泊する予定だ」
ジョン「はい」
ジョン「わかりました」
山本はジョンの手を握り、深く頭を下げた。
山本「頼むぞ」
ジョン「いや、その……」
ジョン「米軍がいるなら、私いらないのでは?」
山本「いや」
山本「米兵だけじゃ足りないこともある」
山本「それに君は不死身だからな!」
ジョン「まあ……」
ジョン「それもそうですね」
二人は船に乗り込み、客室へ案内された。
広く、豪奢な内装が目に飛び込んでくる。
ジョン「おお……」
ジョン「すごいですね!」
山本「気に入ってくれたようで何よりだ」
ジョンは荷物を置き、ベッドに腰を下ろした。
そのとき、山本が声をかける。
山本「なあ、ジョン」
山本「ちょっといいか?」
ジョン「どうしましたか?」
山本「実は聞きたいことがある」
ジョン「なんでしょう?」
山本は神妙な表情で口を開いた。
山本「アリスの過去についてなんだが……」
ジョン「……はい」
山本「彼女はどうしてここに来たんだ?」
山本「親御さんはいないのか?」
ジョンは少し沈黙し、やがて答えた。
ジョン「さあ……」
ジョン「わかりませんね」
山本「そうか……」
山本「じゃあ、どんな風に育ってきたのか教えてくれないか?」
ジョンは遠い記憶を手繰るように、ゆっくり語り始めた。
ジョン「彼女は、俺が引き取った奴隷だった」
山本「奴隷?」
ジョン「ああ」
ジョン「ある組織に売られていた」
山本「本当か!?」
ジョン「本当さ」
ジョン「俺が助け出した」
ジョン「奴隷は数人いた」
ジョン「アリスと、彼女がお姉ちゃんと呼んでいるフレディリカ」
ジョン「それと、エミリが一人」
ジョン「役割も決まっていた」
ジョン「フレディリカとエミリは炊事などの家事担当だ」
山本「では、彼女は?」
ジョン「護衛兼、俺の暗殺」
山本「はあ?」
ジョン「正確には、暗殺任務の遂行者だ」
山本「どういうことだ?」
ジョンは椅子に腰を下ろし、静かに続ける。
ジョン「俺は不死身だ」
ジョン「だが、不死身でも死ぬことはある」
ジョン「心臓を刺される」
ジョン「首を落とされる」
ジョン「だから俺は常に護衛を雇っている」
山本「なるほど……」
山本「それで彼女は?」
ジョン「俺の暗殺任務の遂行者だ」
山本「なぜ、彼女がそんなことを?」
ジョン「簡単だ」
ジョン「俺が不死身だからだ」
山本「……?」
ジョン「俺はもう数百年」
ジョン「こんなクソみたいな世界にいる」
ジョン「死ねない」
ジョン「それが恐れられ、疎まれ、利用される」
山本「……」
ジョン「正直なところ」
ジョン「もう疲れたんだ」
ジョン「こんなクソみたいな世界で生きるのに」