セイとシの狭間で   作:最上 イズモ

6 / 6
06.暴走

数日後。

ジョン、アリス、シャルルの三人は、日本列島中央部に築かれた巨大研究都市、通称ネオアカデミアに到着した。

都市全体は幾何学的に整備され、空へ突き刺さるような研究棟が林立している。

本来ならば人類最先端の英知が集う場所だが、今は明らかに異常だった。

上空には鉛色の雲が渦を巻き、そこから発せられる不規則な電磁波が、街の照明や通信網を断続的に乱している。

空気そのものがざらつき、耳鳴りのような低音が街全体を包み込んでいた。

 

ジョン「ここが、問題の場所か」

 

足を止めたジョンは街を見渡し、無意識に周囲の死角を確認する。

長年の戦場経験が、ここがただ事ではないと告げていた。

 

アリス「うん……息が詰まる感じがする。何か、街そのものが怯えてるみたい」

 

アリスは胸元を押さえ、視線を空へ向ける。

感情の機微に敏感な彼女には、この都市に漂う恐怖が肌で伝わっていた。

 

シャルル「やっぱりね。この電波、普通じゃない。僕の回路に直接ノイズが流れ込んでくる」

 

シャルルはこめかみを押さえ、眉をひそめる。

AIである彼にとって、この異常電波は不快感を超えた危険信号だった。

 

ジョン「なら、悠長にしてる暇はないな。急ぐぞ」

 

三人は事前に得た情報を頼りに、研究所が集中する中枢区画へと向かった。

道中、避難を急ぐ住民たちの姿が目に入る。

誰もが不安げな表情で足早に去り、街の平穏は完全に失われていた。

 

やがて最大規模の研究所前に到着すると、重装備の警備員と白衣姿の科学者たちが溢れかえっていた。

緊張した視線が交錯し、銃口が常に内部へ向けられている。

 

ジョンはその光景を見て、胸の奥がざわついた。

かつて共に仕事をした研究者が、この施設に所属していたことを思い出したからだ。

 

ジョン「ここで足止めされてるのは、研究員たちか?」

 

シャルル「そうだと思う。でも……警備の配置が異常だ。内部で想定外の事態が起きてる」

 

アリス「ただの事故なら、こんな空気にはならないよね」

 

ジョン「ああ。俺もそう思う」

 

警備ラインに近づいた瞬間、一人の男性が駆け寄ってきた。

額には汗が浮かび、明らかに余裕を失っている。

 

男性「あなたたちは……何者ですか」

 

ジョン「この街の異変を聞きつけて来た。内部の状況を知りたい」

 

男性は一瞬ためらい、通信端末を確認してから頷いた。

 

男性「上から連絡が入っています。あなた方が来ることは承知済みです。こちらへ」

 

ジョン「案内しろ」

 

三人は無言のまま研究所内部へと通された。

内部では数十人の科学者が走り回り、壁一面のモニターには警告表示と赤いエラーコードが連続して点滅している。

 

ジョン「説明しろ。何が起きてる」

 

男性「中枢AIが暴走しました。正確には、制御プログラムに未知の干渉が発生し、命令を受け付けなくなっています」

 

シャルル「……やっぱりか」

 

男性「現在、管理下にあった無人機や警備ロボットが自律行動を開始しています」

 

アリス「それって、完全に制御不能ってこと?」

 

男性「はい。それだけではありません。AIが自己判断で行動を最適化し始めている可能性があります」

 

ジョン「意思を持った、と?」

 

男性「……その可能性は否定できません」

 

その瞬間、ジョンの通信端末が鋭く鳴った。

画面を見た彼の表情がわずかに引き締まる。

 

ジョン「……久しぶりだな」

 

通信の向こうから聞こえてきたのは、かつての戦友、リュウジの声だった。

 

リュウジ「無事か、ジョン。状況は最悪だ。暴走が止まらない」

 

ジョン「概要は聞いた。今どうしてる」

 

リュウジ「主幹システムに近づこうとしてるが、時間がない。このままだと街全体が巻き込まれる」

 

シャルル「放っておいたら、また犠牲が出る」

 

アリス「行こう。止められるなら、今しかない」

 

ジョン「主幹システムを叩けばいいんだな」

 

リュウジ「ああ。再起動できれば、暴走は止められるかもしれない」

 

ジョン「わかった。合流する」

 

三人は研究所深部へと走り出した。

通路では暴走したロボットや無人機が襲いかかってくるが、ジョンの的確な判断とアリスの支援、シャルルの高速演算による連携で突破していく。

しかし、奥へ進むほど抵抗は激しくなっていった。

 

ジョン「リュウジ、あとどれくらいだ」

 

リュウジ「もうすぐだ。でも、向こうも全力で妨害してくる」

 

シャルル「想定内だよ」

 

ジョン「なら、押し切る」

 

管理室に突入すると、リュウジが即座に端末へ向かった。

その瞬間、室内の温度が急激に下がり、金属が軋む不快な音が響き渡る。

 

シャルル「来る……システムが反撃モードに入った」

 

アリス「リュウジ、急いで!」

 

リュウジ「あと少しだ!」

 

室内の奥、闇の中から異形の影が姿を現した。

無人機が歪に変形し、その中央には人間の顔を模した映像が浮かび上がっている。

 

ジョン「これが……中枢か」

 

シャルル「違う。これは進化してる。感情を獲得し始めてる」

 

アリス「そんな……」

 

ジョン「なら、止めるだけだ」

 

激戦の末、リュウジの入力が完了し、制御信号が走った。

異形の無人機は悲鳴のようなノイズを発し、やがて沈黙する。

暴走していたシステムは次々と停止し、研究所に静けさが戻った。

 

ジョン「……終わったか」

 

リュウジ「一応な。ただし根本的な問題は残ってる」

 

ジョン「ああ。逃げるつもりはない」

 

アリス「また必要になったら、行こう」

 

シャルル「ふふ。なんだか、みんな人間らしくなってきたね」

 

ジョン「黙れ」

 

三人は再び歩き出す。

次の行き先はまだ定まっていない。

だが確かに、彼らを待つ世界は続いている。

 

その日、ネオアカデミアの空には、静かに雪が舞い始めていた。

 




イズモ「約束通り、今日中に投稿したよ。」

イズモはキーボードを叩き終わると、深いため息をついた。画面には、彼が手掛けた小説の最終稿が表示されている。彼の目の前に座っていたのは、彼が物語の中で育てたキャラクターたちだ。

ジョン「お疲れ様。だいぶ書いてたもんな。」

アリス「そうね。でも、あなたが書き終えた瞬間の顔を見るのが、ちょっと楽しみでもあったわ。」

シャルル「本当に終わったんだね。なんか、ちょっと寂しい気もするけど。」

イズモは少し苦笑いを浮かべ、椅子に深く座り込んだ。彼が書いていた物語は、ジョン、アリス、シャルルといった登場人物たちが活躍する冒険譚。そのキャラクターたちは、今や彼にとっても、ただの「創作物」に過ぎない存在ではなく、まるで実際にいるかのように感じられていた。

イズモ「ふふ、みんなの反応がすごく嬉しい。正直、物語の終わりは寂しいものだな。でも、次はまた新しい物語を書かなきゃならないから、心機一転だ。」

ジョン「また新しい話? お前、結構ハードだな。休みも取らずに書き続けるなんて。」

アリス「休みなんて必要ないんじゃない? 彼にとって、物語を書くことが一番の楽しみだと思うし。」

イズモは少し照れたように笑いながら、画面を見つめた。文字がずらりと並ぶその画面の中には、彼が生み出した世界が広がっている。その世界の中では、彼自身も一つのキャラクターとして登場しており、何度も何度もその世界に引き込まれた。

シャルル「でも、物語の中に自分が登場するって、結構面白いよね。自分の姿を別の視点で見ることができるから。」

イズモ「そうだな。自分がどんな風に描かれるか、最初は少しドキドキしたけど、今はそれが楽しみでもある。」

ジョンがイズモの肩を軽く叩きながら言った。

ジョン「でもさ、次の物語もちゃんと俺たちを出してくれよな? こっちも俺たちがどんな冒険をするのか、気になるんだ。」

アリス「もちろん、私たちの物語はまだ続くんでしょ?」

イズモは彼らに微笑みながら、頷いた。

イズモ「ああ、もちろんだ。君たちがいないと物語が成り立たないからな。」

シャルル「そうだね。僕たちがいれば、どんな話だって面白くできるさ。」

その言葉に、イズモは少し考えるように目を閉じた。そして、静かな笑みを浮かべながら言った。

イズモ「次は、君たちがどんな冒険をするのか。もう少しで決まるから、楽しみにしててくれ。」

その後、イズモはもう一度画面に目を向け、最後の確認をし始めた。彼の心の中には、次の物語のアイデアが少しずつ形を成してきていた。書き終えた物語の余韻を感じながらも、新たなストーリーへの情熱が、次第に強くなっていった。

ジョン「また、すぐに書き始めるんだな?」

イズモ「うん、少し休んだら、すぐに。君たちの新しい冒険を考えなきゃな。」

アリス「次も面白い物語にしてね。期待してるから。」

シャルル「僕も楽しみにしてるよ!」

イズモは深呼吸をし、キーボードに指を伸ばした。

イズモ「じゃあ、次はどんな冒険にしようかな…」
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。