シャーレの地下室の秘密   作:cheese hamburg

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色々準備と現状把握回



ハッカー集団の良心回路

「ごめんね、チヒロ。買い出しに付き合ってもらって…」

 

「ううん、大丈夫。外回りで遠出することも多いから全然平気。」

 

平日、キヴォトスのとある市内

仕事の合間を縫って先生はヒマリから送られてきた協力者の生徒と共に買い出しに来ていた

 

 

生徒の名は各務チヒロ

ハッカー集団ヴェリタスの副部長を務めており、部長であるはずのヒマリが特異現象捜査部に移ったため部長代理として実質的なトップになっている

実力は確かなのだが問題児の多いヴェリタス唯一の良心であり常識人

複数の企業ともセキュリティに関する営業や業務を行なっているヴェリタスの稼ぎ頭でもある

 

 

「寝具に食料、使い捨て歯ブラシなどなど…メモに書かれてるものはだいたい買えたかな。」

 

「休みの日まで後2日だけど…今度の顔合わせの時はカレーにするんだ。」

 

次のお泊まりに備えた買い出しを2人は行なっていたのだ

ミレニアム側の協力者はチヒロが最後であり、ようやくミレニアムは役者が揃うことになる

 

いよいよ2日後に迫ったお休みの日にヒナとミレニアム勢が顔を合わせて会議を行うのだ

トリニティ側の協力者はまだ決まっていないため、それを話し合いつつ、先生の実家の現状も把握しておかなくてはならない

 

「皆がどれくらい食べるかわからなくて…カレーならハズレもないし、安定して美味しいからね。…カレーが嫌いな子はいなかったよね?」

 

「ミレニアムの方は大丈夫。…確かに多人数の時はカレーが適任か。」

 

先生も含めて8人もの大人数が集まるのだ

さらに今後トリニティの協力者も増えれば9人以上にもなる

寝具などの生活必需品は今のうちに、多めに用意しておく必要があった

 

「それより先生、こんなに色々シャーレに送って大丈夫なの?連邦生徒会に怪しまれたりとかしない?」

 

急にこれほどの数をシャーレに運んで仕舞えば怪しまれるのではないかと危惧するチヒロ

シャーレは連邦生徒会に属する組織であるため、あまり大きな買い物をすると財務室から目をつけられてしまう

そんな質問に先生は大丈夫と大きく頷いた

 

「この間の時みたいな、災害用の備えって説明してあるから寝具類は大丈夫。食べ物類も生徒との交流に使うためって言ってあるし。」

 

私のお金から出せばまあ問題ないしね、と付け加える先生

最もな理由のため、確かに怪しまれることもなさそうだ

先生が生徒のためにたくさんお金を使ってしまうということは連邦生徒会にも広く知られているため、ほどほどにと軽く釘を刺される程度だろう

 

「なるほどね、まあ先生の日頃の行いのおかげか。ただ、お金はちゃんと後で払うからレシート捨てないでね?」

 

「あはは、大丈夫。シャーレの先生はそれなりにお給料も良いしユウカのおかげで貯金もできてるから、気にしなくていいよ。」

 

「絶対だめ、色々とお世話になるんだから、ちゃんと対価は支払わないと。せめて寝具代くらいは払わせてもらわないとこっちが困る。前に修学旅行みたいなものだって言ってたけど、それだって参加費ちゃんと払ってるんだから。」

 

でないとお金のない生徒達ばかり来ちゃうから、とチヒロはしっかりと告げた

先生は優しくてつい甘えてしまうが、その優しさに甘えすぎてはいけない

人はいずれ自立して生きていくものなのだから

先生にも甘やかしすぎるのは毒だと言い聞かせる

 

その後無事に買い出しを終えてシャーレに戻ってきた2人は、一旦地下室付近へ寝具類等をまとめて置いた後、本日の業務へと取り掛かった

 

「…なんであんなに大荷物を運んでたのかな…シャーレで何かあるのかな…」

 

 

「それにしても、本当によく来てくれたね。助かったよチヒロ。でも、自分の仕事は大丈夫?」

 

「ひと段落ついて、後は簡単なのばかりだったから大丈夫。部長も手伝ってくれたからね。」

 

シャーレの仕事もひと段落し、帰り支度をしながら先生はチヒロに声をかけた

チヒロは外回りの営業や仕事をメインに行なっているため、時期によっては本当に忙しくて連絡も取れないのだ

そのためチヒロも連絡が取れるまで時間がかかると思われたのだが、ヒマリが手伝ってくれたおかげもあって、今回はすぐに連絡が取れたようだった

 

「部長の考えていることは、全部はわからないけど大切な話の時はすごくわかりやすいから。事情も全部聞いてるから大丈夫。」

 

「そっか、ならよかった。じゃあ誰かに見られる前に移動しちゃおうか。一旦地下室に置いた荷物も送らないといけないしね。」

 

「了解、早く行こっか。」

 

シャーレ内の最後の施錠確認も終わったため、後は襖まで向かうだけだ

その際チヒロは楽しそうに階段を降りていた

 

「嬉しそうだね、チヒロ。」

 

「…うん、ヒマリからすごく自然豊かでいい場所だって聞いてるから楽しみ、かな。最近は仕事の合間に郊外で日向ぼっこしたりしてたからね。」

 

「そっか、結構アウトドア好きなんだ。」

 

「ずっと篭りっぱなしじゃ身体に悪いから、自然とね。」

 

転移した先の景色は果たしてチヒロのお眼鏡にかなうのかどうか気にしながら、2人は転移していった

 

 

「…どうだったかな、チヒロ。」

 

「……想像以上だった。星空がすごかったし、夜の暗さでもこれだけわかるんだから、日中はもっと綺麗なんだろうね…」

 

たった数分でこれほどの景色が見られるとは思わず、チヒロは目を奪われていた

思わず本来の目的を忘れてしまいそうになるくらい綺麗だったが、チヒロのプロとしての意識が本来の目的を思い出させる

景色を楽しむのもそこそこに、先生のパソコンの点検にとりかからなくては

 

「早速今後の対策を考えないとね。パソコンを見せてもらってもいい?」

 

「うん、どうぞ。あ、パスワードはね…」

 

先生から告げられたパスワードに一瞬眉をひそめるチヒロだったが、問題点は最後にまとめて言うことにした

パソコンを操作するチヒロの顔がどんどんと険しくなっていく

少しばかりの時間が経ち、無言で操作するチヒロの手が止まった

 

「……先生、先生のパソコンについてなんだけどさ。」

 

平坦な声を出すチヒロの顔を見てギョッとする

チヒロの顔から感情がなくなり、眼鏡がきらりと白く反射して光っているのだ

よくヴェリタスの子達がやらかした時や失言した時に見る表情に先生は焦った

 

「えっと、何か問題があったかな。」

 

「…正直言ってありすぎる!」

 

やはりチヒロは怒っていたようだ

ヒマリがなるべく早く来てほしい、と言ってたわけだと頭をかいていた

 

「職場じゃなくて実家だから、まあしょうがないかもしれない。けど、このままじゃ絶対ダメ。ちょっと調べたけど外の世界でもこのセキュリティソフト、だいぶ古いよね。ウィルスもハッカーも日々進化していくものなんだから最低限の準備はしておかないと。」

 

あくまでも娯楽に使う物で、仕事に使う物ではなかったため、先生はあまり気にしていなかった

なによりアロナ達がとても優秀だったため、そのままにしておいてしまっていたがいつの間にやら相当古くなっていたらしい

 

『あぅう…ごめんなさい先生。褒められてしまってつい…』

『私達がいる時にしか起動しないので、強く指摘したことはありませんでした…』

「私の方こそごめん、2人のせいじゃないから気にしないで…」

 

謝る2人に小声で応じる先生

その間、問題点を少しずつ丁寧にチヒロは説明していった

 

「なにより先生…パスワードが簡単すぎるよ。前にも言ったけど、もっと複雑なものに変えなきゃダメ。そのシッテムの箱の力はすごいけどさ、それがないとセキュリティがザルすぎるよこのパソコン……本当にあの子達が来る前に来れてよかった。」

 

チヒロの思う子達が来れば、変なアプリを組み込んだり、盗聴できるよう細工したり、勝手にデスクトップの背景を弄ったりしかねない

電源を切っておいて、起動できないようにするしかなくなってしまう

 

「とにかく、このパソコンは今のままじゃ絶対にダメ。電子戦に心得のある生徒、というかパソコン得意な生徒に絶対触らせたらダメ。今度ヒマリと一緒に対策考えて決めるから。悪いけどそれまでは絶対に待ってて。」

 

チヒロは強めに先生に釘を刺す

生徒ファーストのこの人は、ちょっとでも悲しそうな顔を見てしまえば対応が甘くなってしまうことをよく知っていた

いつか問題児達が来るかもしれないその時に備えて言っておく必要があった

 

…前回パソコンを使った時に、ヒマリもこのパソコンの脆弱性に気がついてはいたが、新しい演歌に美味しいご飯と楽しいイベントの数々に浮かれてしまっていた

楽しい気分に水を差したくなかったと本人は言い訳していたが

 

「うん、ごめんねチヒロ。よろしくお願いするね。」

 

「…うん、任された。また今度説明するから、長くなることは覚悟しておいてね。」

 

「お、お手柔らかに…」

 

その日はもう遅かったので、次にヒマリと一緒に来た時に"お話し"することを約束して、2人は寝床についた

 

 

 

 

 

「へぇ…外の世界の物も中々…」

 

次の日の朝、チヒロはパソコンを操作しながら何かを呟いていた

先生が近くに来ても気づかないため、よほど集中して見ているようだ

 

「おはよう、早いねチヒロ。」

 

「あ、おはよ先生。ごめんね、起こしちゃった?」

 

時計を見るとまだ早朝くらいの時間だった

寝巻きではなく、いつもの服装にすでに着替えていることからだいぶ早い時間から起きていたらしい

 

「ううん、自然と目が覚めちゃって…何を見てたの?」

 

「これ。外の景色眺めてたらつい…ね。」

 

パソコンの画面を見ると、アウトドア用品について書かれたページだった

山とその麓に立てられたテントが大きく写っている

 

「大人数用のアウトドア用品みたいだけど大丈夫?」

 

「大丈夫、これはヴェリタス全員分合わせて考えてるものだから。」

 

その言葉に先生は驚いた

先生の知る限り、チヒロを除いたヴェリタスの子達は全員が超インドア派

唯一グラフィティが好きなマキは外に出ることもあるが、基本は部屋でパソコンをいじっている

アウトドアのイベントには欠片も興味を示しそうにないのだが…

 

「この間の晄輪大祭の時、うちの部員があまりにも体力がなさすぎたからね…ハレはカフェイン中毒が心配だし、いつか強引に外に連れ出した方がいいかもしれないと思って。」

 

晄輪大祭でヴェリタスは騎馬戦に参加したのだが、騎馬を維持するだけで精一杯であり不甲斐ない結果に終わった

騎馬の上を担当していたハレは、テーブルの上を空のエナジードリンクが埋め尽くす光景が日常茶飯事になるくらいは深刻なカフェイン中毒である

放っておけばずっと部室の中に篭りっぱなしなのが目に見えたため、いつか強引に引っ張り出す必要がありそうだとチヒロは思っていた

 

「だから先生、もしその時が来たら引率をお願いしてもいい?先生がいればあの3人もついてくると思うから。」

 

当然あの3人は反発するだろう

だが先生が来るとなれば話は別になる

素直に懐いてるマキやハレ、先生の声を録音したがっているコタマは嬉々としてついてくる筈だ

そう思いながら聴くと、先生は嬉しそうに返事を返してくれた

 

「そんなの私の方からお願いするよ!皆と旅行なんて楽しそうだね!」

 

「ならよかった。うん…私も楽しみ、かな。」

 

真っ直ぐな先生の言葉に照れくさそうに応じるチヒロ

いずれ来るかもしれないその日がとても楽しみに感じた

 

──後に、出不精すぎる3人を強引に連れ出すその時が数ヶ月もしないうちに来ることになろうとはチヒロは夢にも思っていなかった

 





淡々としたお話でしたが、それでも書いてて楽しかったです

キャンプチヒロ実装まで一年近く待たないといけないのかー…
そしてチヒロはなぜ頑なに脱がないのか
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