シャーレの地下室の秘密   作:cheese hamburg

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─トリニティでの一幕

「ナギサ様、お忙しい所失礼します。申し訳ないのですが、少々お時間よろしいでしょうか。」

「?構いませんよ。一体どうしたのですか?」
(紅茶を飲む音

「シスターフッドの歌住サクラコ様から"2人きり"でお話しがしたいとの連絡が…」

「…………そ、そうですか…わかりました。ではスケジュールを確認してから、後日改めて連絡いたしましょう。」(紅茶を持つ手の震える音

「…その、できる限り"早急に""お話し"がしたいとのことで…"懸命な判断"を"お願い"いたします、と…」

「ごふっ!ごほっ、けほっけほっ!」

「ナ、ナギサ様!?」




「では皆さん、私はこれからナギサ様と"とても大切なお話し"をしてきます。"何があっても"中に入ってはいけませんよ?」

「「「わかりました!」」」

(サ、サクラコ様は一体何を…!?)

(詮索してはなりませんよ…サクラコ様には私達の想像もつかないお考えがあるのです…!)


※サクラコ様は先生に良い報告ができるようはりきっているだけです



天使の園の長たる少女

 

先生宅を訪れた後、協力を約束してくれたサクラコはトリニティへと戻っていった

 

シャーレ室内で仕事をこなしつつ、進展を待っていた先生の元へサクラコから連絡が届く

 

予想よりも早くサクラコはナギサへアポを取ってくれたらしく、シャーレ当番の日に詳しく話し合うこととなった

 

先生からもナギサへ連絡を取ると、サクラコさんから事情をお聞きしました、後ほど詳しく話し合いましょう、と返信が来た

 

 

 

そして、迎えたシャーレ当番当日の日

これからシャーレでナギサと話し合いをする…

 

 

…前に、思わぬ人物から先生に電話がかかってきていた

 

「突然連絡してすまないね、先生。」

 

「ううん、大丈夫だよ。どうしたのセイア?」

 

─通話先の相手は百合園セイアだった

トリニティの生徒会ティーパーティー、3つある分派の一つ、サンクトゥス分派のリーダーを務める少女

ペットにシマエナガを飼っており、ピンと立った狐耳がチャームポイントの少女だ

 

「今回連絡したのは、先生に伝えなくてはいけないことがあったからなんだ。」

 

セイアから告げられた言葉に先生は息を呑んだ

セイアがこうして連絡してきたのだからよほどのことなのだろう

心して続きを促した

 

「先生が多忙なのは知っている。皆のため尽力していることも。それでもあえて忠告させてもらおう。」

 

かつて言葉が足りず、すれ違ってしまったことを反省して丁寧に話すセイア

勘違いされないように前置きとして先生の日々の頑張りはわかっていることを告げてから本題に入った

 

「今行っていることに、あまり時間をかけすぎないことだ。先生も知っていると思うが、"彼女"は気が短い。地頭は悪くないのに、面倒を嫌ってすぐ短絡的な行動を起こす。おまけに思い込みも激しい…困ったことにね。」

 

「…セイア?もしかして全部知ってるの?」

 

セイアのまるで全てを知っているかのような話ぶりに驚く先生

こちらの計画は既に筒抜けだったのかと冷や汗が流れる

そんな先生の反応を察してか、セイアの苦笑する声が聞こえてきた

 

「いいや…知っているのはシャーレで夜な夜な生徒達が集まり、何かを行なっている、ということだけだよ。

安心したまえ、詳しい事は私にもわからない。

…けれど、今先生達が行なっている事は悪いことではない。むしろ悪戯に暴いてしまう方が不味いだろう、とそんな"予感"がしているだけさ。」

 

百合園セイアはかつて未来を予知する力を持っていたが、紆余曲折あってその力を永久に失った

その代わりに、驚異的なまでの直感能力を獲得していた

 

今回もその直感が働いたため、先生に連絡をかけたのだという

 

「彼女っていうのはやっぱり…」

 

「ああ、先生の想像の通りだ。

私とナギサで留めて置けるように努力はするが…長くは持たないだろう。彼女にはできることなら先生からのフォローがあると望ましい。」

 

ここまで人物名を直接出さず、抽象的な表現ばかりだったが誰のことを指しているのか先生は言われずとも理解していた

 

天真爛漫で感情的になりやすい彼女は、セイアの言う通りいつ乱入してきてもおかしくない

 

「わかった。私からも連絡を入れるし、近いうちに顔を出すよ。忠告ありがとうセイア!」

 

「すまないがよろしく頼むよ先生。ではまた、近いうちに会おう。」

 

「うん、その時はよろしく。またね!」

 

セイアからの忠告を忘れずにメモした後、お礼を言ってから通話を終了する

セイアからの忠告を心に秘めた所で、シャーレに来客を告げる呼び鈴が鳴った

 

待ち人がタイミングよくシャーレに到着したらしい

 

 

 

 

「やあナギサ久しぶり!きてくれて嬉しいよ。」

 

「お久しぶりです先生。私もお会いできて嬉しいです。」

 

お嬢様らしく優雅に言葉を返す彼女は桐藤ナギサ

 

トリニティの生徒会ティーパーティー、フィリウス分派のリーダーを務める他、最高権力である「ホスト」も務めている少女

本来であればセイアが務めるはずだったホストを諸事情により代わりに引き受けており、トリニティにおける事実上の最高権力者である

 

 

「積もる話はありますが、場所を変えましょうか。外には各校の放った密偵やドローンがいるかもしれませんから。

移動した後にゆっくりとお話ししましょう。」

 

 

 

2人で地下室へと降りていく

外の世界へ向かう方法もサクラコが事前に伝えてくれていたため、とてもスムーズに行動することができた

 

「自分でもとても信じがたい話だと思うけど、よく信じてくれたね。」

 

「サクラコさんはこういった時に嘘をつくような方ではありませんから。呼び出された時は何事かと思いましたが…

それに、先生も突拍子もないことで生徒を騙すような人ではないでしょう?」

 

サクラコは秘密が多く、何かと怪しい言い回しをしたりするがつまらない嘘をついたりはしない*1

そして、先生も同様に生徒のためを思って嘘をつくことはあっても騙すようなことはしないと信頼している

だから、突拍子もないことでも自然と信じることができた

 

「ははは…そう言ってくれると嬉しいね、ありがとう。…そういえば、ナギサが来るちょっと前にセイアから連絡がきたよ。」

 

「セイアさんから?…ああ、話の内容は察しました。彼女のことについてですね?」

 

一応ナギサにもセイアから電話が来ていたことを伝えておく

するとそれだけでナギサは電話の内容を把握した

それだけ彼女のことで、2人は頭を悩ませているらしい

 

「うん、それと私達が夜活動していたことも知っていたみたい。」

 

「なるほど、それもお伝えしたのですね…申し訳ありません先生。セイアさんのいう通り深夜のシャーレで何かが起きている、という情報は私達も掴んでいました。」

 

セイアはこちらから話す前に、トリニティ側で行なっていたことを全て話していたようだ

 

ナギサはトリニティの諜報員から、夜な夜なシャーレに生徒が集まり何かしていることは知っていた

隠すつもりもなかったため、正直に全て白状する

 

「お気を悪くさせて申し訳ありません、

ですが、カイザーの時のように何かあってからでは遅いと思い、探らせていました。大丈夫だろうとは思いましたが、万が一があるかもしれないことを考えてしまうと不安で…

…あくまでも外からシャーレの様子を確認しているだけで、先生のプライベートを侵害するような真似は決してしていません。」

 

「そっか。それを聞いてちょっと安心したよ。」

 

先生も薄々察していたため、驚きは少なかった

そもキヴォトスには私利私欲のために先生のことを盗聴、盗撮するよからぬ生徒が既にいる

そのため、とても悲しいことに先生は耐性ができてしまっていた

それぐらいなら全く気にならないと苦笑しながら返事を返した

 

「あまりよくないことだけど、私の為を思ってくれたことだし…私も皆に隠し事をしていたから、今回はお互い様ということで。」

 

「ありがとうございます。先生の寛大な処置に感謝します。」

 

互いの秘密を共有して許し合ってから、2人は転移装置の前までたどり着く

憂いや後ろめたさといったものを解消してから、快く2人は転移していった

 

 

 

 

「……ところで、どうしてセイアもナギサも彼女彼女って、名前で呼ばないの?」

 

「ああ見えて地獄耳な所があるんですよ…自身に対する陰口などは特に。ですので迂闊に名前を出せないんです。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

本日の転移も無事完了

例に漏れず初めて見る先生の実家と外の景色にナギサもいい反応を見せてくれた

 

「椅子の具合はどう?」

 

「とても良い具合です。わざわざご用意してくださってありがとうございます先生。」

 

早速、外の世界について説明する前に立ったままだと疲れてしまうので腰掛ける2人

 

畳に直接座るのは、慣れていない人だと疲れてしまうためナギサには普段使っているような物に近い椅子を準備した

側から見てもナギサの様子はとてもリラックスしているように見えた

 

頑張ってクラフトチェンバーで作った甲斐があったと先生は安堵する

 

その後はニュースや観光ガイド、新聞に地図を見せて外の世界について紹介することにした

 

「ふむ…先生のいらっしゃった外の世界は、百鬼夜行ととてもよく似ている気がします。」

 

「そうだね、今いる私の故郷…日本っていうんだけど、キヴォトスの中では百鬼夜行が一番文化的にも近いと思うよ。」

 

外の世界に関する資料を眺めながら、所感を述べるナギサ

通貨は同じ円が使われていること、同じ言語が通じていることなど共通点は多々あるが、建物や文化、成り立ちを見ると百鬼夜行が一番近いように見えた

 

─ふと、爽やかな風が流れ込んだことで外の景色に目を向ける

 

「…とても綺麗で素敵なお家だと思います。…ですが、この庭の荒れようは少し…いえとても勿体無いですね…」

 

トキ達と手をつけたが、まだまだ荒れている庭を見て悲しそうな声を出すナギサ

ナギサの趣味はガーデニングであり、トリニティの美しい庭園の手入れをしたこともある

 

そんなナギサからすると、これだけの土地と恵まれた気候の中でありながら手をつけずに荒らしてしまっている現状には許し難いものがあったようだ

 

「色々と忙しくて手がつかなくてね。"あはは…"」

 

「う゛っ…」

 

「ナギサ!?」

 

突然むせてしまったナギサに駆け寄る先生

近づいてきた先生に片手をあげて問題ないことをアピールする

 

先生のフレーズ、笑い方にトラウマが蘇ってしまったらしい

エデン条約を巡る一連の事件の中でできた傷は未だに癒えていないようだ

 

「し、失礼しました。大丈夫です、お気になさらず…」

 

ナギサとて、いつもこうして笑い声に反応しているわけではない

ただ、親しい間柄の人に対しては過敏に反応してしまうのだ

 

自身に何か落ち度はなかったか、嫌われたくない、そんな不安にナギサは苦しめられていた

 

…そんなナギサをただ黙って見ていることは先生にはできなかった

 

「ナギサ!ちょっと待っててね!」

 

毎日の激務とストレスで疲れ果てたナギサのためにリフレッシュしてもらおう

そう考えた先生はとある物を準備し始めた

 

 

「先生、これは一体…」

 

「これは、ハンモックだよ!」

 

先生が用意したのは木と木の間に吊るしたハンモックだった

ハンモックには自然な揺れがリラックス効果とストレス軽減の効果があることを思い出したのだ

 

「私も小さい頃よく使っていてね。大人になった今でもリラックスしたい時に使っていたんだ。ちゃんと綺麗にしてるから、ナギサもぜひ試して見て欲しいな!」

 

ずっと寝ていると逆に体に悪いが、短時間のお昼寝程度なら非常に高い効果を期待できる

病気もストレスも寝ることが何よりも一番の薬になるのだ

 

色々な体勢を試してもらい、一番心地よいと感じる正しい寝方で横になってもらった

 

「自分が気持ちいいと感じる体勢になったら、力を抜いてリラックスしてね。」

 

「ええと…こんな感じでしょうか?」

 

言われるがままにハンモックに身体を預けて力を抜く

先生の勢いに困惑していたナギサだったが、ふと空を見上げる

 

─枝の間から降り注ぐ木漏れ日と秋の日の穏やかな気候がなんとも心地良かった

 

(気持ちいい風…)

 

徐々に増してくる眠気に抵抗することなく身を委ねていく

ナギサは深い眠りに落ちていった

 

 

 

 

そよ風に吹かれて、自然と目を覚ます

気がつけば、夢を見ることもないくらい熟睡していたようだ

 

これほどまでに心地良く目覚めることができたのは久しぶりだった

 

「…おはようナギサ。よく眠れた?」

 

「…はい、おかげさまでぐっすりと眠れました。」

 

先生の声が近くから聞こえた

体を起こして先生の方を見ると椅子に座って本を片手に、柔らかな笑みを浮かべてこちらを見ている

 

ずっとそばで見守ってくれていたらしい

おかげでナギサは思う存分体を休めることができた

 

(やはり、先生のお側にいるととても安心します。)

 

本来ならばあり得ない外の世界への訪問という

非日常に現実を忘れられたことも要因の一つだろう

だが、一番の理由はきっと先生という心から信頼できる人がそばにいてくれたから──

 

「…本当に気持ち良く眠ることができました。ありがとうございます先生。先生にはお世話になってばかりですね。」

 

ナギサは心からの感謝を告げる

最初は先生を裏切り者を見つけ出すために利用して騙すような真似までしたというのに、大切な生徒だからという理由で分け隔てなく接して困ったことがあれば助けてくれる

先生には本当に頭が上がらなかった

 

「そんな気にしないで。」

 

先生として当たり前のことをしているだけなのだから気にしなくていいと伝える先生

 

とは言っても真面目なナギサのことだ

今日のお礼をどうやって返そうかと考えを巡らせていることだろう

 

生徒達には普段から充分過ぎるほどお返しをもらっているのだから気にしなくて良いのに、と先生はある言葉を付け加えた

 

「お礼を言うのはこちらの方だよ。おかげでナギサの可愛い寝顔や寝言も聞けたからね!」

 

「───────」

 

冗談めかして、場を和ませようと先生はよく考えずに言い放ってしまった

 

聞いた瞬間ピシリと笑顔のまま固まるナギサ

先生の放った一言に眠気は吹き飛び、脳が一気に覚醒する

 

やがて言葉の意味を完全に理解したナギサは硬直から立ち直ると、ハンモックからゆっくりと降りた

 

「ふ、ふふふ…そうでしたか…ふふ…」

 

「あれ?どこに行くの?」

 

先生からの問いに答えずにハンモックを降りると、ゆらゆらと揺れながら敷居を上り、畳の上を進むナギサ

そのまま机の上に置かれているお煎餅を手に取ると、先生に向かって走り出した

 

 

「…今すぐに忘れてください!先生!」

 

「待ってナギサ落ち着いて!お煎餅を口に突っ込もうとしないで!?」

 

 

先生が静止の声を上げるが、耳まで真っ赤に染めたナギサは止まらない

寝てる間にどんなことを言ってしまっていたのか、いや内容はどうでもいい、何がなんでも先生には忘れてもらう

この瞬間、ナギサは長としての立場を忘れて先生を追いかけ回した

 

 

結局2人が疲れ果てるまで、この追いかけっこは続いたのだった

 

 

 

 

 

『ナギサさんは恥ずかしがりやさんですね。私なんて、しょっちゅう先生に寝顔や寝言を聞かれてますよ!』

 

『…アロナ先輩はもう少し羞恥心を覚えるべきだと思います。』

 

*1
サクラコから呼び出された時はだいぶ胃に負荷がかかったが





先生のデリカシー?
そこになければないですね
というか原作からしてわざとデリカシーないこと言って好感度調整してる疑惑があるからなこの人…

自然豊かな場所のハンモックはいいぞ…(実体験)
流石に暑い日は厳しいですが、秋のちょうどいい気候の時におすすめです

まだそれほど時間も経っていないのに、トラウマの傷がそうそう簡単に癒えるわけないですよね

ナギサ様はしょっちゅう脳破壊されてる気がして…可哀想だから、たまには労われてほしいと思います
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