シャーレの地下室の秘密   作:cheese hamburg

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─数時間前のゲヘナ

「遂にこの日が来たわね…」

「予想はしていましたが、やはり学園は荒れていますね…」

「それも仕方のないことかと。先生はゲヘナ学園に訪れる機会も多かったですから…お世話になった人も数多くいるでしょう。」

「生徒会長の銅像を送ることがゲヘナ学園総意の感謝の気持ちなんて…先生をよく知る生徒ほど受け入れられないでしょうね…」

「私達は事前に知っていたから、心穏やかにいられますが…何も知らされずにいたのなら、彼女達と同じように万魔殿へ猛抗議していましたね。」


「大変だ委員長!緊急事態だ!」

「どうしたんですかイオリ!?」

「特別牢に入れていた奴らが脱走したって連絡が入った!」

「わかった、すぐ対処に向かう。誰が脱走したの?」

「脱走したのは───!」



「マコト議長大変です!学園中から万魔殿に向けて抗議の声が上がっています!」

「な、何ぃぃイイっっ!!!!?なぜだ!?完璧なマコト様の計画に何の問題があったと言うんだ!?
なぜこれほどまでに学園が荒れて…風紀委員会は一体何をしているっ!?」

(はぁ〜…わかりきっていたこととはいえ、だーるい…
…まあ、これでマコト先輩がシャーレを探ったりなんだりしてる暇もないのは救いですかね。
そう思わないとやってられませんよ、ほんと。)




動乱編
波乱の幕開け


 

─連邦生徒会本部、サンクトゥムタワー

 

 

「──以上で手続きの方は終了になります、お疲れ様でした先生」

 

「ふぅ…やっと終わった…」

 

先生は連邦生徒会の本部へと訪れ、リンと書類のやりとりをしていた

 

─七神リンは連邦生徒会の主席行政官であり、失踪した連邦生徒会長に変わって実質的なトップを務めている

真面目で優秀な生徒ではあるのだが、多忙からのストレスにより毒舌になってしまうのが玉に瑕

 

連邦捜査部シャーレは連邦生徒会の直轄組織である為、何も報告しないわけにはいかない

各学園からシャーレに届く贈り物についての手続きや受け取り方法の確認について進めていたのだ

 

「今回は特別に許しますが…今度からは必ず、先に私達へ声をかけてください先生。報連相は社会人の基本ですよ、ある程度決まってから来るのではなく計画が立った時点で報告してください。」

 

「はい、突然仕事を増やして申し訳ございません…」

 

先生は即座に謝罪した

秘密を護るためには必要なことだったとはいえ、多忙を極める連邦生徒会へさらに仕事を増やしてしまったことに罪悪感を覚えてしまう

 

しかし、リンはその点に関しては問題ないと首を振った

 

「それもそうなのですが…私が伝えたいことはそうではありません。

…私個人としても連邦生徒会としても、あなたにお礼をしたかったのに先に話を進められては困ると言っているんです。」

 

「えっ。ええっ、そんな!感謝状とかもうすでに受け取っているよ?」

 

シャーレの先生にお礼をしたいのは各学園に限った話ではないと告げるリンに先生は驚いた

キヴォトスの空が元に戻り、キヴォトス内の運行が全て正常に戻ったあたりで先生は褒賞や感謝状などを受け取っていた

 

故に連邦生徒会からのお礼はすでに完了しているも同然なため、気にも止めていなかったのだが…

 

「それでもです、先生。貴方の存在無くしてあの災害を乗り越えることはできませんでした。

今の連邦生徒会だけでは、あれほど多くの生徒達から協力を得ることはできなかったでしょう。多くの生徒達と絆を結んだ貴方がいたからこそ、今こうして平穏な毎日を送ることができているのです。本当に感謝しています。」

 

「それは生徒達皆の頑張りがあってこそだよ。でも、そうだね…ありがとう。」

 

すぎた謙遜は相手を不快にさせる

そう告げられたことのある先生は素直に受け止めた

その反応にリンは満足そうに頷く

 

「なんにせよ、くれぐれも次回からは必ず連邦生徒会に相談してから事を進めてください。シャーレは連邦生徒会に属する組織なのですから。」

 

シャーレは生徒達全員のためにある組織ではあるが、あくまでも連邦生徒会に属する組織

 

最後に戻るべき場所を忘れることのないように釘を刺した

 

「…では、伝えるべき事は全て話しました。お互いの業務に戻りましょう。先に失礼します。」

 

「うん、またね。色々とありがとうリンちゃん」

 

「…だから、リンちゃんはやめてください」

 

積もる話もあるが、先生もリンも仕事が山積みで残っている

 

何かあれば互いにひと段落ついてから、と約束してリンは忙しそうに部屋を後にする

 

 

─先生はそれほど信頼してくれるリンに申し訳なく思った

本来ならば連邦生徒会にこそ、本当の目的である襖について話したかった

 

しかし、連邦生徒会はひどく不安定な状態だ

不知火カヤの起こしたクーデターによって一時期連邦生徒会は2つに割れてしまった

そのカヤのせいでカイザーに掌握されてしまったこともあった

迂闊に話せば、連邦生徒会内にまだ残っているかもしれないカイザーやカヤのシンパである職員によって外部に情報が漏れてしまうかもしれない

まだまだ落ち着きを取り戻していない連邦生徒会にさらなる負担や労力をかけることは避けたかった

 

いずれ早いうちに真実を話せるようにすることを誓いながら、先生も部屋を後にした

 

 

 

「あっ…!せ、先生!お疲れ様、です…!」

 

「こんにちは、アユム。今日も頑張ってるね、毎日お疲れ様。」

 

手続きを全て終えて帰ろうとする道中、先生はアユムと遭遇した

 

岩櫃アユム

調停室の室長を務める少女であり、常にたくさんの書類と仕事に追われている

連邦生徒会を代表して処理しきれない仕事を先生へ依頼することが多い過労死仲間

ある意味連邦生徒会の中では最も交流が多い生徒ともいえる

 

「いえ、そんな!先生もいつもキヴォトス中を駆け回ってお疲れ様です。」

 

「ははは…お互い様だよ。アユムも体を壊さないように気をつけて。」

 

「はい、お互いに気をつけましょう…ってああそうでした!忘れる所でした、先生こちらをどうぞ!」

 

「どうしたの?…これは万年筆?」

 

一度書類を置いて、ポケットから出した物を先生へと手渡した

渡されたプレゼントは書類のサインなどに使える高級万年筆だった

 

「いつも先生にはいろんな仕事を手伝ってもらって、たくさんお世話になってますので。私からもこれを…」

 

「そんな気にしなくていいのに…でも、ありがとう!ありがたく受け取るね。」

 

「はい!ぜひ受け取ってください!

本当はもっとお話ししたいのですが今は時間がないので…では、また近いうちにお会いしましょう。」

 

「そうだね、また近いうちに話そう。ありがとうアユム!」

 

沢山の書類を再び抱えてアユムは仕事へと戻って行った

 

 

 

「あれ?先生だ、おつかれー。」

 

「やあ、モモカ。こんにちは。」

 

アユムと別れて間もない頃、先生は交通室所属幹部の由良木モモカと遭遇した

常にお菓子を食べており、堂々と仕事を押し付けてはサボろうとする怠け者

しかし、連邦生徒会に選ばれただけあってその能力は優秀であり有事の際には仕方なく動き活躍する少女だ

 

「いやー、今日もいつも通り忙しそうだね?」

 

「ははは…そういうモモカもいつも通りマイペースだね?」

 

「まーねぇ…ああ、そうだ。はいこれあげる」

 

「これは、ポテトチップス?」

 

モモカが先生に手渡したのは未開封の明太子チップスだった

 

「ま、先生には指名手配犯捕まえてもらったりなんだりとお世話になってるからね〜。日頃のお礼ってやつ?」

 

「いいの?モモカの気に入ってる物なのに。」

 

明太子チップスは箱で何度も注文するほどモモカにとってお気に入りのお菓子だ

本当に受け取ってしまっていいのかと先生は尋ねる

 

「いーの、いーの。皆ご大層な物贈らなきゃって頭悩ませてるけどさー。そういうのはお別れ会とかそういう時に渡せばいいんだよ。

いつもの日常の延長線上くらいのやつ渡して、これからもよろしくって、それくらい軽い方が気兼ねしなくていいし楽でしょ?」

 

「あはは、そうだね。ありがとうモモカ。」

 

もらうには恐縮してしまうような重たい物をもらうよりもこういった物の方が確かに気楽だった

 

シャーレには色んな生徒が訪れるため、お菓子の類はあればあるほど良い

先生自身もお菓子を食べるため、非常にありがたかった

 

「ただし!その分これからも色々と頼りにさせてもらうかんね〜?」

 

「お、お手柔らかにね?」

 

「ひひっ、んじゃまたね。お仕事頑張って〜。」

 

これからも遠慮なく依頼することを告げられ、少し不安になる先生

 

そんな姿を見て、いたずらっぽい笑みを浮かべながらモモカは歩き去っていった

 

 

 

 

「あら、先生。こんにちは。」

 

「こんにちはアオイ。」

 

次に出会ったのは財務室長の扇喜アオイだった

連邦生徒会内の予算管理は彼女の仕事であり、非常に真面目かつクールな言動が目立つ

一時期は先生とあまり関わりがなかったが、とあることを理由に近頃頻繁に交流している

 

「ちょうど良かったわ、先生に渡したいものがあったの。受け取ってちょうだい。」

 

「いやぁ、今日は受け取ってばかりで申し訳ないね…これは、電卓かな?」

 

アオイから受け取ったのは電卓だった

経理、会計関係から人気の多機能モデルで有名な物だった

 

「今時色々なアプリも出てきてるし計算機は必要ないかもしれないけど…以前パソコンのページを開き過ぎてよくわからなくなってたり、フリーズして困っていたでしょう?そんな時にこういった物があれば便利だと思うからぜひ使ってちょうだい。」

 

「すごく助かるよ、ありがとう!」

 

シャーレに計算機がないわけではないが、最新式の便利アイテムはどれほどあってもいい

予備があると思えば、精神的にも余裕が生まれるため非常にありがたい

 

先生からの感謝の言葉にアオイは満足そうに微笑んだ

 

「ところで先生、今1人かしら?」

 

「うん、さっきまでアユムやモモカとすれ違ったけど今は1人だよ。」

 

「そう、なら良かったわ。」

 

周りをキョロキョロと見渡して誰もいないことを確認すると先生に抱きつきそうなほど距離を近づけた

 

「わわっ!ア、アオイ!?」

 

「もう、私達の仲でしょう?そんなに驚かないでちょうだい、私も傷つくのよ?」

 

そのまま口を先生の耳元へと近づけていく

誰にも聞かれないように声をおとして、囁くように話し始める

 

「また(リン先輩が)色々と溜め込んでしまっているのよ…近いうちにまた"あれ"をしにくるわ。先生、お願いね?」*1

 

「!…わかった、あれのことだね?大丈夫、任せて。その時になったらよろしく頼むねアオイ。」

 

「ええ、こちらこそよろしくね。ふふふ…ありがとう♪

それじゃあまた会いましょう、お仕事頑張って。」

 

そう言ってパチンとウインクをするとアオイもまた自分の仕事へと戻っていった

 

先生はその後も色んな職員と軽い挨拶や世間話をしながら、連邦生徒会を後にするのだった

 

 

 

 

 

 

 

『報告、予定していた全ての記念品が無事シャーレに到着したようです先生。』

 

『皆さん順調に設置作業を進めてるみたいですよ!』

 

「そっか、じゃあ私も早く戻って手伝わないとね!」

 

シャーレへと戻るためバス停へと向かう途中、先生はアロナ達からの報告を聞いていた

ナギサやユウカといった管理職につく生徒達は学園内での手続きや説明を行い、トキやエイミといった他の生徒達は届いた贈り物の設置作業を行なっていた

 

早く自分も手伝いに行こうと足を早める中、モモトークの通知が鳴り響く

 

ピロロン♪

 

『わわっ!?』

 

『再び報告、ナギサさんとヒナさんから同時に連絡が来たようです。』

 

「ええ?珍しいね。一体なんだろう…」

 

アロナが驚いて声を上げる中、プラナが淡々と状況を説明する

ほとんど同時にナギサとヒナから緊急の連絡が入ったらしい

 

突然の連絡に驚きながらも、内容を確認しようとする

 

─その時だった

 

先生の後方からクラクションの音が聞こえる

振り返れば爆音をかき鳴らしながら、猛スピードで車が接近してきているではないか!

 

 

「先生、ごきげんよう!!!美食探訪の時間ですわ!!!!!」

 

 

「え」

 

大声で先生を呼んだのは美食研究会部長の黒舘ハルナ

美しい銀髪の髪に赤い瞳を持ち、言葉遣いも相待って優雅なお嬢様然とした生徒だが…美食に反するものは容赦なく爆破し更地に変える危険なテロリストだ

 

あっけに取られ、ろくに反応することができない先生に車から降りてきた生徒達が駆け寄ってくる

 

「確保ーっ!!」

「ちょ〜っと時間もらうわよ先生!!」

 

「わぁあっ!?イズミ!?ジュンコ!?」

 

先生に掴みかかってきたのは美食研究会の二年生と一年生、イズミとジュンコ

獅子堂イズミは天真爛漫な性格でなんでも食べるグラマラスな少女

しかし、いわゆるゲテモノ料理も好んで食べる味覚音痴であり度々変なものを口にしている

 

赤司ジュンコは美食研究会においてツッコミ役に回る事の多い比較的常識人な少女

しかしあくまでも比較的であり、その本質は他のテロリストメンバーと何ら変わりなく空腹時には機嫌が悪くなるため要注意

 

あれよあれよという間に縛られて車へと乗せられる先生

 

「アカリさん!出してください!」

「はーい♡フルスロットルで飛ばしちゃいま〜す!」

 

先生が乗り込んだことを確認したハルナは同じく美食研究会所属のアカリに指示を出す

鰐渕アカリは常に笑みを浮かべる明るいお姉さんだが、その実態はハルナにつぐ危険人物

美食のためなら手段を選ばず、ブラックホールと揶揄されるほどの大食いフードファイターでもある

 

アクセルをベタ踏みして、急発進する車

 

状況をなんとか理解しようとするあたりを見渡す先生は自分の他にも誰か乗せられていることに気がついた

 

「い、一体何が…あれ、隣にも誰か…」

 

 

(눈_눈)

 

 

「フ、フウカ…」

 

隣の席には全てを諦めた少女がそこにいた

いつものように猿轡をはめられ、声を出すこともできないようだ

 

そんな間にも車はぐんぐんと加速し、固まる市民達を尻目に遠くへと走り去ってしまう

 

 

「ひ、人が攫われたぞー!?」

「今のって先生じゃない!?」

「だ、誰か警察に連絡をー!!」

 

 

もうすでに車に乗せられていた給食部のフウカと共に先生は美食研究会に攫われてしまうのだった

 

 

 

 

 

 

「改めてごきげんよう先生。お会いできて嬉しいですわ。」

 

「う、うん。私もこんな形でなければ嬉しかったな…」

 

「それについては申し訳ありませんわ…ですが私達にはどうしても許せないことがあり、このような手段を取らざるを得なかったのです…」

 

強引な手段で連れてきたことを謝罪するハルナ

 

しかし、今回ばかりは止むに止まれぬ事情があったのだと先生に説明した

 

「きっかけは三大校からそれぞれ先生に対する感謝の品をお送りしている、という話をお聞きしたことなのです。

ですが、あのような…あのような、趣味の悪い銅像が私達を代表した感謝の気持ちだなんて…到底納得できませんわ!!」

 

「うん、ない。あれはない。」

 

「ふつーに、悪趣味極まりないですよね〜?」

 

「もっと、たくさんのご馳走を用意するとか、そっちの方が嬉しいよね!?」

 

ハルナは怒りを抑えきれずに拳を震わせる

アカリ達からも不満の声が爆発していた

 

彼女達もまた黄金のマコト像に納得のいかないゲヘナ生の1人だった

 

今まで通りゲヘナでの権威を示すためにやっていることなら好きにすればいい

だが、それが先生に関わることであれば話は変わってくる

 

先生に好意を持つ者としては、あの贈り物がゲヘナ学園総意のものだと思われては到底納得するわけにはいかないのだ

 

「ですから、先生。これから私達プロデュースの美食探訪の旅へお付き合いいただきたいのです。どうか、私達の本当の誠意をぜひ受け取ってください。」

 

「そんな、お礼を言いたいのはこちらの方だっていうのに…」

 

やり方は強引だったが、ハルナ達の思いを知りジーンとする先生

 

かつての異変の時、美食研究会とフウカは獅子奮迅の活躍を見せてくれた

美食研究会とフウカの活躍なくして、今の平和はない

 

「フウカも含めて皆の活躍がなかったら、今のキヴォトスはないよ。」

 

「それは先生も同じことでしょう?ですが、そのお言葉はとても嬉しいですわね。」

 

「うんうん、頑張った甲斐がありました♡」

 

「宇宙食を食べられなかったのは残念だけどね!」

 

「試しに敵を齧ってみたけど美味しくなかったね〜…」

 

「ムムゥ〜…」

 

喜びをあらわにするハルナとアカリ

せっかくだから宇宙食を食べてみたかったと談笑するジュンコとイズミ

縛られた状態でなければ良かったのに、と心底ため息をつきたいフウカ

 

 

─和やかな雰囲気になってはいるが、現状攫った者と攫われた者の関係のため大変よろしくない状況であることは変わっていないことのだが…キヴォトス暮らしで感覚がズレてしまった先生は気づかない

 

 

「そこまで言われたら、答えないわけにはいかないね。よし、わかった!今日一日は皆と一緒に過ごさせてもらうね。」

 

そういうことならばと賛成の意思を示す先生

今日一日は美食研究会の皆のために使うと決めた

 

しかし、ハルナはそんな先生の言葉にキョトンとした顔を返す

 

「あら、先生。それほど短い時間で終わると思われていたなんて心外ですわ。

私達の感謝のおもてなしがその程度で終わるはずがないでしょう?」

 

「そ、そうなんだごめん!えっと、じゃあどれくらいなのかな?」

 

では、どれほどの期間を予定しているのかハルナ達へ聞き返す先生

 

1日2日、長くとも3日までならなんとかなるだろう

1週間ほども予定してるなら要相談

一度戻って書類や仕事を全て片付けてからになるかもしれない

 

先生は呑気にもそんなことを考えていたのだが…

 

 

「そうですわね、軽く4週間程度は見積もりを立てておりましたわ。」

 

「え……」

「んむぅっ!?」

 

先生は絶句した

 

いくらなんでも長すぎる

隣にいたフウカもそれほどかかるとは知らなかったらしく、猿轡越しから驚愕の声をあげていた

 

先生の困惑をよそにハルナは話を進めていく

 

「そんなに心配そうな顔をなさらなくても大丈夫ですわ。4週間逃げ切れるようにちゃんと逃走ルートも組んでまいりましたから。

自治区外へと逃げて仕舞えば、いかな風紀委員会といえどそう簡単に追うことはできません

まずはブラックマーケットに向かって痕跡を消したのちに、別の車をハイジャックして──」

 

「そっちの心配じゃないよ!?4週間も何もしなかったら、仕事が滞って大変なことになっちゃうよ!?

だ、誰か助けてーーー!!」

 

「んもう、先生。そんなに照れなくてもいいではありませんか〜♪」

「まずはどこに行こうかな~?楽しみだね!」

「ゲテモノ料理は勘弁してよね、イズミ。」

 

たまらず先生は助けの声を上げた

4週間の間に起こるであろう混乱と溜まりまくる仕事を考えただけで発狂しそうになる

 

美食研究会は一度考えたことは基本曲げないため、説得が成功する可能性は限りなく低い

 

誰かの助けを期待する他ないため、近くに有力な人がいないか祈りながら声を出す

 

 

─そんな時、進行方向の斜め前にあった壁が爆音と共に弾け飛んだ

 

 

「わぁあああっ!なになに!?」

「砲撃!?どこから!?」

「もう見つかってしまいましたか…減速して追いつかれるよりも、ここは思い切って突っ込んでください!」

「はーい、アクセル全開です!」

 

美食研究会は突然の出来事に砲撃だと思い込み、追いつかれないようあえて車を走らせる

ブラックマーケットまで逃げ切れれば後はどうとでもなると砂埃の中へ突っ込んだ

 

そんな中で先生だけはとある違和感を覚えていた

 

(本当に砲撃?…いや、あれは壁の内側から弾け飛んだような……)

 

砲弾が風を切るような音が聞こえなかったのだ

ならばヒナの銃撃かとも思ったが、個人で破壊できるヒナの場合レーザーのように壁が貫通されるので違う

 

個人で破壊するにはあまりにも破壊された壁の範囲が大きすぎたため、弾着までの音を聞き逃したと考える方が自然である

 

 

だが、先生はそんな常人離れした芸当をこなせる存在を知っている

あれはまるでそう、かつてアリウスのカタコンベの中でみた時と同じ─

 

 

「つかまえ、たっ!」

 

 

煙の中から聞こえてくる少女の声と何かが凹む音

 

ギャルルルルル

 

瞬間、車が激しい音を立てて空転する

 

「ええー!車が動かないよー!…って、誰かが車を引っ張って止めてるー!?」

 

「んなぁっ!?どんな馬鹿力よ!?」

 

「──ようやく、追いついたね…あのさ」

 

後ろに乗っていた2人は背後から車を押し留める少女に驚愕する

少女は車の荷台を握り潰さんばかりに力を込めながら、獰猛な笑みを浮かべた

 

「私の大切な先生に何してるのかな?ゲヘナのテロリスト達?」

 

(ミ、ミカ!?あれ、それにもう1人誰かいる…?)

 

現れた少女はトリニティの聖園ミカだった

 

ただでさえゲヘナ嫌いである彼女は、よりにもよって先生に危害を加えられたことで完全に怒髪天をついていた

 

そんな激昂する彼女のそばにもう1人、人影があることに気がついた先生

砂埃が徐々になくなることでその姿が露わになる

 

「やれやれ…ようやく追いついたね、無事かい先生?

それといい加減おりてもかまわないかい、ミカ?」

 

(セッ、セイア!!?)

 

もう1人の人影は同じくティーパーティー所属の少女、百合園セイアだった

 

─なぜかミカの小脇に抱えられた状態で

 

 

*1
※総決算のことです





─数時間前のトリニティ

「んも〜〜っ!!ナギちゃんってば、な〜んか隠し事してるな〜って思ったら〜…
こんなこと裏で進めたなんて!!私も先生にするお礼を考えたかったのに!!」

「落ち着きたまえ、ナギサにもそれ相応の考えがあったのだろう。過去のことがあるというのに、それでも私達に内密で話を進めていたのだからね。」

「…珍しいね、セイアちゃんがそんなこと言うなんて。エキスポ前までは反抗期真っ盛りのイヤイヤフォックスだったのに。
明日は雪どころか槍でも降るのかな?」

「…相変わらず君は人を怒らせることに関しては天才的な口を持っているねミカ。やはり別の者に話にいくべきだったよ。」

「あれ、何か大切なお話があった感じ?」

「はぁ、今すぐにでも変えたい所だが…他の者よりもやはり事情を知っているかつ、腕っぷしに自信のある君に伝えた方が話が早いな。
─単刀直入にいうと嫌な予感がしている。虫の知らせ、というやつだね。このままでは先生によくないことが起こってしまう、そんな予感が。
だから、すぐにでも─」

「えっ!うそ、それほんと!?早く言ってよセイアちゃん!
その予感がする場所へ案内して!急いで先生の所に行かなくちゃ!!」

「待て、私を抱き抱えるな。自分で走れるし、こんな姿を他の生徒に見られたらまずいだろう!?話を聞くんだ!
ああ、もう…ミカ、本当に君というやつは──!」





「ミカ、先生がテロリストに攫われたというニュースが出てきた。やはりそうか、当たってしまったか…杞憂に終わってくれればよかったのだが…」

「先生…!早く助けないと!それでどこに行けばいいのセイアちゃん!?」

「少し待ちたまえ、今知り合いに連絡をとっている。」

「えっ、セイアちゃんにそんな友達なんていたの?イマジナリーフレンドとかじゃなくて?」

「…君には親しき中にも礼儀あり、口は災いの元、ということわざについて教え込んだ方がよさそうだ。
おっと、繋がった…やあ、久しぶりだね。エキスポ以来かな?ニュースは見たかい?
…ああ、そうだ。私達も足取りを追っているところでね。ちょうど今この辺りにいるんだが…
…さすが、仕事が早いね。わかった私達はこのルートへ向かってみよう。情報に感謝するよ。」

(エキスポ…?そういえばセイアちゃん変なお土産買ってきてたし、ミレニアムの子かな?)

「ミカ、予測される逃走ルートがこれだ。私達はここに向かう。おそらくこの道が正解だと私の勘がいっている。」

「…オッケー!飛ばすよセイアちゃん!」




「ミカ、ショートカットしよう。時間があまりない、目の前の壁を何個か超えた先に出てくるはずだ。」

「えっ、それはちょっと…流石にまずいんじゃないかな…
あまり無闇に破壊したらナギちゃんに怒られるし、壊すのは良くないよ。」

「ここまで来たらもう、ナギサから怒られるのは確定している。今更一つや二つ増えたところでどうということはないだろう?
やってしまえ、ミカ。今は先生を助けることが何よりも大事なはすだ。」

「それもそうだね。じゃあ、いくよ…えいっ!!!」



─先生誘拐の連絡が来る前

(ふぅ…わかっていましたがやはり忙しいですね…ミネ団長が来てしまった時は思わずサクラコさんの方へ投げてしまいましたが、大丈夫でしょうか…?)

ピロン


「おや、モモトーク?セイアさんからですね、一体なんでしょ──」


─やぁ、ナギサ突然失礼するよ
今回連絡をした理由について詳しく説明したいところだが、時間がないため端的に今の状況を伝えよう

─ミカに抱き抱えられる形で外に出た

─心配することは何もない。大事にならないよう、うまく誤魔化しておいてくれ


「た、大変ですナギサ様!ミカ様がセイア様を抱えて、外に走り去っていったとの報告が!
これは、まさか誘拐!?ミカ様がもしかしてまた…!?」


(セ、セ〜イ〜ア〜さ〜ん〜!!?ミ〜カ〜さ〜ん〜!!?)
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