シャーレの地下室の秘密   作:cheese hamburg

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現実はそんなに甘くないだろというツッコミはなしでお願いします…

何がバズるのかなんてわからないから多少はね…(震え声

時空が歪んでいますが、原作からして歪んでいるので気にしないでください

そして、今回長いです



ヒナ委員長の"演奏してみた"!

 

「先生、ふと疑問に思ったのですが」

 

 

始まりはヒマリのとある一言からだった

 

「私達キヴォトス出身の者は、この世界の人々から普通に見えるのでしょうか?」

 

「…というと?」

 

これまで多くの生徒達が、先生の故郷である外の世界へ訪れているがまだ誰も直接外の世界の人間と出会ったことがない

故に気になったことがあるとヒマリは話し始める

 

「もしこれから外の世界で活動することが必要になった際はヘイローを隠す必要がある、と考えていたのですが…

そもそも前提として私達の姿はヘイロー以外普通に見えるのか、と疑問に思いまして。」

 

キヴォトスに住む生徒達の頭上にある光輪"ヘイロー"

ヘイローは多種多様な姿をしており、基本的には頭の上に追従して存在している

ヘイローに実体はなく触れることはできない

そのため大きな帽子で隠そうとしてもすり抜けてしまう

 

どうにかして隠せないものかと思案していたのだが、そもそもとして前提が間違っていないかと気になったのだ

 

「外の世界の方々から私達は化け物として見えてしまったり、何も映らない、となってしまった場合話が大きく変わってきてしまいます。」

 

キヴォトスに住む者は外の世界の人々の目にどう映るのか

何も映らないのならばこそこそと隠れる必要は全くないのでむしろプラスだ

しかし前者の場合だと大変なことになってしまう

どこか変わった所のある人間と、人間に似た化け物では全く違うのだ

 

仮にヘイローを隠せたとして、意気揚々と外に出ても、普通の人間と同じように見えていなければ意味がない

ヘイロー以外のものが正常に見えているのか確かめなくてはならないのだ

 

「でも私からは普通に見えてるよ?皆可憐で可愛らしい生徒ばかりだ。」

 

「ふふ、そうでしょうとも!」

 

さらっと褒めてくる先生にドヤ顔で胸を張るヒマリ

先生の目からは生徒達はヘイローや羽などの動物的特徴のあるものを除いて、普通の人間と同じように見えている

 

「部長、話が脱線してる。…もしかしたら私達の姿を正しく見ることができたから、先生は連邦生徒会長に選ばれたのかもしれないって考えたんだ。」

 

「なるほど…」

 

近くにいたエイミが話の軌道を修正する

確かに連邦生徒会長が何十億人もいる外の世界の人間の中からただ1人、先生を選んだ理由は先生自身含め誰もわかっていない

 

「もちろん、先生の性格や人間性が大きな理由だとは思います。でなければ超法規的組織の長に、能力だけを見て就任させるなんてことは考えられないので。」

 

先生が先生だったからこそ連邦生徒会長は信頼してシャーレを任せたというのは大前提だ

だが、それとは別に先生に何か特殊な能力があったことも選ばれた理由かもしれない

 

なんにせよ、先生以外の外の世界の人間と関わった前例がないため判断できないのだ

 

「というわけで、これからそれを確かめてみませんか?」

 

「いいけど、具体的にどうするの?」

 

ヒマリの目的としていることはわかった

しかし、確かめるといっても一体どうするのだろうか

まさか、この家に知り合いを呼んで見てもらうのだろうか

不安そうにする先生へヒマリは、心配しなくても大丈夫だと答える

 

「簡単なお話です♪素顔や素性を見せずに匿名で大多数の方達に見て貰えばいいのです。そう…」

 

ヒマリは勿体ぶって言葉を区切り、息を吸った

 

 

「これから私達は動画作りをします!」

 

 

 

詳しい内容をヒマリは説明する

動画投稿ならば直接会うリスクを犯さずに確認してもらうことができる

ヘイロー以外、すなわち頭から下の体だけを映して、見て貰えばいい

 

もし仮に化け物が映っていた場合、動画を見た視聴者から間違いなく容姿がおかしいことを指摘されるだろうから

 

「この世界にはミレニアムはおろか、キヴォトスの存在すら知らない人が大半です。

例え連邦生徒会長だろうとトリニティ生徒会長だろうと七囚人だろうと、この全ミレニアム生徒の憧れの的であり最高の美少女である私であろうとも、顔さえ隠して仕舞えば何も問題はありません。私達の素顔は誰にもわからないでしょう。」

 

プライバシーという観点に関しても問題はない

キヴォトスでは見る人が見れば気がつくかもしれないが、外の世界の人々には関係ないからだ

 

ヒマリは外の世界へ来て以来、ネットでキヴォトスに関連するワードをチヒロと協力して片っ端から調べたが何も情報は出てこなかったため、問題はないと判断した

 

「なるほどね…確かにそれなら大丈夫かも…」

 

生徒に万が一があるようなことであれば許可できないが、それなら大丈夫そうだと思った

 

近年の動画編集技術は目を見張るものがある

どこか変な所があったとしても、動画を編集加工して作りましたといくらでも誤魔化すことができる

まさか生きた翼や尻尾を持った人間がいるなんて、キヴォトスを知る前の自分も夢にも思わないだろう

 

反対意見が出ることもなく、具体的にはどんな動画撮るのかという話題に移る

 

「この超天才清楚系病弱美少女ハッカーの美声が織りなす、崇高な解説動画を撮っても良いのですが…おそらく大半の視聴者が話のレベルの高さについてこられないであろう、と思い没になりました。」

 

「単純につまんないだろうし、百歩譲って声の綺麗な変な人にしかならないよね。」

 

 

「変!!?」

 

 

聞き捨てならない言葉に憤慨したヒマリがエイミと喧嘩を始めてしまう

 

騒ぎを聞きつけて他に来ていた生徒達も集まってきたので、その間に事の経緯を先生は説明することにした

 

「なるほど…自分は正常だと思っていても、周囲からは全く違うものに見えてしまう…確かにそういった内容のゲームや漫画を見たことがありますね。」

 

「許可できるかは動画の内容によりますね。過激なものは絶対ダメです。例え見知らぬ場所であったとしてもミレニアムの品位を落としてしまいかねないものは許可できません!」

 

反応はそれぞれではあるが反対意見はなかったため、概ね動画作りには皆賛成だった

 

全員に説明し終える頃にようやく、2人の喧嘩も終わったようだ

 

「コホンッ…改めて具体的にどんな動画が撮るべきなのか、それを発表します。それは……

 

 

"演奏してみた"です!」

 

 

 

「なるほど、意外な案が出てきましたね…」

 

 

─演奏してみた

素人からプロまで幅広い人々が楽器を使って腕前を披露する動画のことだ

 

自分の演奏を聴いて褒めてほしいという承認欲求、単純に演奏するのが楽しいから、あわよくばプロにスカウトされるかもと様々な理由で人々は日々動画を投稿する

 

「演奏系動画であれば、楽器を持った身体だけ映しつつ顔は隠して動画を撮る人も多いです。顔だけを隠したまま、違和感なく姿を見てもらうことができます。」

 

実際に演奏している所を証明するために手元もしくは頭から下の身体全体を映した動画が多い

中にはコスプレをして撮る人もいるため、翼や尻尾があったとしても違和感はないだろう

 

「けど、なんでわざわざ演奏動画なの?」

 

「それはですねちーちゃん、先日も実感した通り外の世界とキヴォトスでは一般常識からして違いすぎているからです。

外の世界に合わせて雑談系の面白い動画を撮ろうとしても、その違いゆえボロが出る可能性が高いのです。まだキヴォトスの存在を秘匿しなければならない以上、それはよろしくありません。」

 

チヒロからの疑問に答えるヒマリ

キヴォトスに住む者が外の世界の一般常識に合わせて話すことは難易度が高すぎるのだ

 

キヴォトスジョークや笑い話はおろか世間話でさえ、この世界では全くもって洒落にならない

キヴォトスでは極めてよくある「この間コンビニ行こうとした時に銃撃戦に巻き込まれてさ〜」などと話始めて仕舞えば、空気が凍りつくことは間違いない

 

異様さ異質さといった話題性で言えば悪くはないのかもしれないが…

 

「私達は動画配信者として生計を立てたいわけではありません。多くの方に見ていただいて、反応を確かめることが目的なのですから。」

 

たった一本の動画だけではより多くの人々に見てもらうのは難しいため、何本か投稿する必要がある

続けて投稿した結果、変に話題を集めて陰謀論やら異世界論を考察されてしまっても困るのだ

 

その点演奏動画なら何も語る必要はなく、ボロを出す心配もない

 

「でも部長、それだと演奏の感想ばかりで容姿について喋ってくれる人はいないんじゃない?」

 

「ふふふ…甘いですよエイミ。どこの世界にも関係のないことを言い始める人はいるのですよ…

指が長くて演奏に適していますねと言ったり、この手のしわを見るに演奏者の年齢は〜と考察し始めたり、性別を決めつけようとしたり…容姿について言及する人は必ず現れます。」

 

本来であればあまり嬉しくないコメントなのだが、今回に限ってはその限りではない

 

最悪そう言ったコメントがつかなかった場合でも容姿がおかしければ必ずツッコミが入るはずのため、立派な判断材料になる

 

「ところで楽器を弾けるような方はここにいるんですか?私はハンドベルくらいしか使ったことがないです…」

 

「数日いただければある程度はできると思いますが…今すぐは、如何なパーフェクトメイドであろうとも難しいですね。」

 

不安そうに話すセリナと現状を述べるトキ

 

コメントはできうる限り多くもらいたいものだが、ある程度のクオリティがなくては見るものも見てもらえない

 

ヒマリも演奏できる人がいないかもしれないことは想定しており、最悪自身が演歌を歌いそれを披露しようかとも思っていたが…

 

幸運なことに唯一楽器を演奏できる生徒が1人いた

 

「それならここに適任がいるよ!」

 

「…そうね、ピアノだったらそれなりに演奏することができるわ。」

 

ゲヘナ風紀委員長、空崎ヒナ

彼女はかつて万魔殿からの無茶振りにより、万魔殿が主催するパーティのオープニング演奏を命じられたことがあった

 

時間のない中ではあったが、ヒナはピアノを完璧にマスターし、パーティの演奏を成功させた実績がある

この中で演奏をするならば彼女以上の適任はいないだろう

 

 

 

 

 

「念のため確認します。ネットの世界は無法地帯です。心無いコメントも多くつく可能性はありますが大丈夫ですか?」

 

これは今更説明するほどのことではないが、とても大事なことなので確認しなくてはならない

 

匿名で投稿することができるのがネットの良い所であり、悪い所でもある

匿名であることをいいことに相手を好き放題罵倒し、ストレス発散に使ってしまおうなんて者も世の中にはいる

そしてそんなネットの声を気にしすぎて、落ち込んでしまう人もいる

 

そういった心無いコメントが来ても大丈夫かどうかヒナに確認をとった

 

「私の立場上恨みを買うことが多いから。誹謗中傷みたいなものにはなれてる。」

 

それに対してヒナは全く持って問題ないと告げる

自由と混沌を謳うゲヘナ学園は不良生徒ばかりでありそれを取り締まる都合上、ヒナは多くの問題児から恐れられている存在だ

 

立場上恨まれやすいことに加えて、生徒会たる万魔殿からも様々な嫌がらせを受けているため、そういったものには耐性があり仕方のないことだと飲み込めている

 

「それに、私には先生という心強い味方がいる。本当の私を知ってくれて、私以上に私のことを大切に思ってくれている人達がいることを、知っているから。」

 

ヒナは決して自分は1人ではないことを知っている

生徒の味方であることを誓っている先生がいつでも助けになってくれる

 

そしてヒナのことを気にかけて大事にしてくれるのは先生だけではない

帰宅部改めキラキラ部の2人、給食部の部長、風紀委員会の仲間達…

ゲヘナの数少ない善良な生徒達はヒナを支持し感謝している

誹謗中傷に対してヒナが怒らずとも、代わりに怒り心配してくれる人がいるのだ

 

 

ヒナは先日もあった出来事に思いを馳せる

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

それはとある不良グループを制圧に出向いた時のことだった

その日は多発する事件にチナツはもちろんアコも現場に直接出向かなければならないほど忙しい日だった

 

「ば、化け物め…」

「ちくしょう、この…白モップ女め!!」

 

ほとんど勝敗は決しており全員捕まえるのは時間の問題の中、苦し紛れに放たれる不良達の負け惜しみの一言

あまりピンとこない罵倒に首を傾げるヒナだったが…

 

 

「はぁあああああああっっっ!!!??取り消してください!今の言葉!!」

 

 

隣で別の部隊へ指示を出していたアコが激昂した

愛銃ホットショットを構えて今にも不良グループへ突撃しようとしている

 

「アコ落ち着いて、私は大丈夫だから。…アコ?アコ??」

 

「ただの負け惜しみです。勝手に言わせておけば…天雨行政官!?」

 

「ちょっ、アコちゃん気持ちはわかるけど止まれー!?」

 

「イオリも聞いていたでしょう!?ヒナ委員長を馬鹿にして…絶対に許しません!!」

 

ヒナやチナツの諌める言葉も耳に入らず、止めに入ったイオリを巻き込んで不良グループへ駆け出してしまった

 

幸い不良グループはすぐに鎮圧されたが、アコは執拗に銃を撃って取り消しなさいと怒り狂っていた

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

代わりに怒ってくれたのは嬉しいが…あれはやりすぎだった、と苦笑する

 

かつてのヒナならこんなふうに過去の思い出に浸ることなどできなかった

日々仕事に没頭するだけの毎日から、部下と交流し思い出話をすることができるくらい心の余裕ができていた

 

変わったのはヒナだけではない

風紀委員会の忙しい日々は変わらないが、以前とは明らかに空気が変わった

 

風紀委員の皆ともっと自然にコミュニケーションが取れるようになったし、雰囲気が明るくなった

先生が来るとチナツは自然な笑顔が増え、イオリは不機嫌そうにしながらも尻尾を揺らしてどこか嬉しそうにしている

 

ストレスの溜まりやすいアコもイラついた様子でシャーレへと向かった次の日、とても晴れやかな顔をして登校してきた*1

 

先生がキヴォトスへ訪れてからゲヘナ風紀委員会はより良く強く変わったと断言できる

 

「だから大丈夫。全く持って問題はないわ。」

 

先生へ視線を一瞬向けた後、力強く断言するヒナ

 

その言葉に甘えさせてもらい、今回撮る演奏動画の主役はヒナに決まった

 

 

 

 

早速撮影のための準備を進める

実際にどれほどヒナが演奏できるのか確認した後、後日機材を持ち込むことになった

 

肝心の楽器についてだが、以前のクラフトチェンバー騒動でたまたま製造されたピアノがあったためそれを利用することにした

 

「まずは、リハーサルを行いましょう。」

 

ピアノのサイズ感、ペダルを踏むのに補助器は必要かどうか確認し、軽く音を鳴らしてみる

 

一通り試した結果演奏するのに支障はなかったため、記憶している中で自信のある曲を弾いてみることにした

パーティ会場で披露したあのとっておきの曲

 

「それじゃ弾いてみるわ──」

 

 

 

 

「…想像以上のものでした。」

 

「うん、凄く綺麗な演奏だった。」

 

初めてヒナの演奏を聞く生徒達は演奏のレベルの高さに驚いていた

このクオリティなら目の肥えた現代人にも通用するだろう

 

「ゲヘナのパーティーでも大絶賛でしたから、まあ当然でしょう。あのマコト先輩も何も言えずに本気で悔しがってましたからね。」

 

かつてのパーティーで演奏を聞いていたイロハは以前よりもより上手くなった演奏に感心していた

 

先生に褒められたこともあって、ヒナのピアノに対するモチベーションは上がっており暇を見つけては練習をしていた成果が現れていた

 

 

演奏に関しては問題ないことがわかったため、動画撮影時に着る服装について話し合う

ピアノの演奏動画では手元だけを映す場合と横から身体とピアノを映す、といったパターンがある

今回は後者のパターンを採用するため、どんな服装にすべきか考えなくてはならない

 

「一応、風紀委員長の服装はやめておいたほうがいいと思う。」

 

「…そうね、個人を特定できる服装は避けた方がいいわ。」

 

「それもそうなんだけど…うん。」

 

隣の行政官の服装ばかりが目立ってしまっているが、ヒナの服装もなかなかに際どいものだ

具体的に言うとスカートが少々短過ぎる

 

ピアノを演奏する時の都合上、座った状態になるため中身が見えてしまわないか気が気でない

 

そんな事実にヒナは全く気が付いていないが、無理に恥ずかしい思いをさせることもないと思い先生は勘違いを正さなかった

 

「…けどどうするべきかしら。私服はあまり自信がないのだけれど。」

 

「なら、パーティーの時の様にドレス姿なんてどうです?」

 

「なるほど、確かにドレス姿ならインパクトはバッチリでしょう。」

 

普段の仕事が忙し過ぎて私服姿にあまり自信のないヒナ

代替え案としてドレス姿で演奏することを提案された

 

確かにわざわざドレスで演奏するような人はいないため与える印象はすごいのだが…

 

「いや、それはダメだよ。」

 

先生はとても真剣な顔をしていた

着るドレスの種類にもよるが、少々露出や刺激が強すぎる

 

ネットは楽しいものではあるが、同時にとても恐ろしいものだ

電子の海に一度流してしまったものは二度と消すことができない

ネットタトゥーにならないよう、大人としてしっかりと諌めなくてはならない

 

 

「ヒナの美しいドレス姿を、不特定多数に見られてしまうなんて耐えられない…!」

(ネットは怖いからね、普通の格好でいいと思う。)

 

 

先生、感情がこもりすぎて本音と建前が逆になる

 

 

残念なことに、独占欲丸出しのヤバい人になってしまった

そんな言葉を突然投げかけられたヒナは…

 

「んなっ…!なっ、なに言って…あ、あぅうっ…!」

 

顔を真っ赤に染めてフリーズしてしまった

羞恥と喜びの混じった乙女の顔をしており、まともに返事を返すことができない

 

…先生も先生なら、恋する生徒も生徒であった

 

「ちょっと先生!何言ってるんですか!?そんな羨ま…コホンッセクハラです!!」

 

「へぇ、先生はドレス姿がお好きなんですね〜…」

 

「…私はメイドですが、先生が望むならドレスを着るのをやぶさかではありません。」

 

そして先生の失言に、先生を憎からず思っている生徒達が反応して激しく問い詰める

 

穏やかな話し合いから一転して修羅場と化す先生の家

 

比較的冷静な生徒が先生と共に落ち着かせようとするが、うまくいかない

こういう時に頼りになるヒナは完全にショートしてしまっている

 

「はいはい、落ち着いてください。まったく…」

 

すぐには止められないことがわかっていたため、ある程度時間がたってから諌めるのに参加するイロハ

 

先生が予想外の反応を見せたことがイロハも気に食わない

今度私もドレス着てきてやりましょうか、とムっとしながら考えを巡らす

まずはこの甘い空気を纏う風紀委員長を元に戻すため、必殺の言葉を繰り出した

 

 

「今のやりとり、そちらの行政官に送りますよ?」

 

「「絶対にやめて。」」*2

 

 

甘酸っぱい雰囲気は無事霧散した

 

 

ヒナが元に戻ったため、騒ぎが収まるのにそう時間はかからなかった

 

 

…結局服装については、素性がバレないようミレニアムの古い制服が貸し出されることとなった

 

機材等、必要なものを準備してから後日撮影することにして会議は終了した

 

 

 

 

 

 

 

そして日にちは流れ、撮影日当日

 

「ヒナさん、体調に問題はありませんか?具合が悪くなったらすぐに言ってくださいね!」

 

「ええ、問題ないわ。ありがとう。」

 

セリナは演奏前のヒナのコンディションチェックを行っていた

 

今回は動画という形のため、パーティーで演奏した時ほどではないが、それでも初めてのことは緊張してしまうものだ

救護騎士団の活動の中で培われたメンタルケアを行いヒナをサポートする

 

 

「そうね…ここでいいわ、ノア。まずはこの位置で試してみて、必要に応じて調整していきましょう。」

 

「おお…すごいね、2人とも。こんなにスムーズに取り付けができるんだ。」

 

「ミレニアム学園のトップたるセミナーの生徒として当然です!」

 

「出来上がった物を正当に審査するためには最低限の知識や技能は必須ですから、ある程度はできますよ。本職にはかないませんが。」

 

撮影用のカメラやマイク、集音器のセッティングを行うユウカとノア

本職のエンジニア部達には及ばないものの、一般人とは機材の使い方や知識の量は比べものにならないほど優れている

慣れた手つきで準備を着々と進めていった

 

 

「先生、ちょっといい?先生も試し撮りした動画をチェックしてみてほしい。特に音質に注意を向けてみて。」

 

「わかった、どれどれ…」

 

試し撮りした動画をパソコンで操作しているヒマリとチヒロ

パソコンはミレニアムから持ち出したセキュリティシステム抜群の高性能タイプを使っている

キヴォトス製のパソコンも外の世界のWi-Fiに繋げられることがチヒロの調査により判明しているため今回持ち出してきた

 

試し撮りした動画を先生も確認すると、雑音もブレもない精度の高い動画に仕上がっていた

 

「すごいね、ピアノの音色だけが透き通って聞こえる!高音質動画ってやつだね!」

 

「ヴェリタスには録音、盗聴の大好きな困ったさんがいますからね。ね、ちーちゃん?」

 

「…盗聴機の隠し場所を探し出したりで自然と、ね。」

 

先生の賛辞は嬉しいのだが…

上達した経緯はヴェリタスのとある問題児のせいでもあるため、2人は苦笑した

 

 

 

「それじゃあカウントダウンを始めますよ〜…10秒前。」

 

最後に残ったイロハとトキ、先生がアシスタントとして参加する*3

 

イロハはカウントダウンを行い、トキはレフ板の準備をする

光の当たり方や影の濃さで視聴者に与える印象はがらりと変わってしまうからだ

 

コンディションはバッチリ

撮影機材に漏れはない

パソコンも不調なし

 

一部の隙もない万全の状態で、動画撮影が行われた──

 

 

 

 

「通して見てみましたが…完璧な仕上がりではないでしょうか?」

 

「そうね、これが…今の私が出せる演奏だと思うわ。」

 

「うん、凄くいいと思う!」

 

あれから数時間、どうせ撮るなら最高の仕上がりのものを、と張り切って撮り続けた生徒達

 

結果ミレニアム脅威の技術と弛まぬ努力により、雑音もブレもない完璧な演奏動画を完成させることに成功した

 

次に撮影したものに映ってはいけないものが映っていないか念入りにチェックする

素顔や場所を特定できてしまうものが反射して映ってしまうのは初心者によくあることだ

一度でもネットの世界に流れて仕舞えば、消すことは難しい

 

入念にチェックを受けて問題がなかったため無事、動画は投稿された

 

 

タイトルはシンプルに 【演奏してみた①】

 

色んな案が出たが、リスクを考えて必要最低限の情報だけで動画は作られた

動画時間が長くならないよう、一曲ずつこまめに撮られた動画を投稿していく

 

初投稿かつ無名の状態から出されているため、投稿してすぐに有名に、とはならなかったが…

動画の完成度の高さに、じわじわと注目され再生数を伸ばしていく

 

動画にはたくさんのコメントがつき、高評価も増えていった

 

その中には演奏を褒めるだけでなく、容姿について言及するコメントも現れ始めた

本来の演奏動画ならば、動画の内容に関係のないコメントだが、今回に限っては重要な参考資料になるためありがたかった

 

 

>その翼かっこいいですね!なんのコスプレですか?

 →なんか生き物みたいに動いてない?

  →合成でしょ、よくあるCGだよ

 

>かなり背が低いけど、小学生かな?

 

>制服を着た…ドラゴン娘?

 →尻尾ないし、ヴァンパイアじゃない?

  →いやこの可愛い感じはサキュバスだ!

 

>見たことない制服だけど、改造?それともアニメ?

 

>お手手ちっちゃくて可愛い〜

 

 

コメント欄を見る限り、先生達の見え方と相違はなく可愛いや翼がかっこいいといったコメントが多くみられた

ある程度加工して取ったヒナの歌声も、声が綺麗だと好評だった

 

無事実験は成功、外の世界でもヘイローや角等を除けば生徒達の姿は普通に見えることが証明された

 

 

 

 

 

だが、想定外の事態が発生する

 

「先生、問題が発生しました。」

 

「一体どうしたの!?何が起こったの!?」

 

神妙な顔をしたヒマリとチヒロ

詳しく話を聞くと、ヒナの演奏動画が必要以上に話題を集めてしまったらしい

 

ヒナの演奏技術の高さ、キヴォトスにあるヒット曲等も使ったため、外の世界では聞いた事のない曲の数々

 

最高性能の機材を使って取られたことがよくわかるほど、高画質高音質で完成度の高い動画に仕上がっていたことが原因だった

 

本気でプロを目指しているのか、はたまた新しい企業の宣伝活動か

ネット上で様々な憶測を呼び、すわ新たな動画配信者の誕生かと囁かれている

 

またヒナの年齢が若いこともあるせいなのか…

嘘か本当かはわからないが、無名ならばぜひお話ししませんかとスカウトじみたコメントもついている始末

 

「…冷やかしじゃないか一応調べてみたけど本物みたい。」

 

「キヴォトスの有名楽曲もこちらの世界で通用する事が証明されたのは収穫の一つではありますが…著作権等の問題もありますしあまり良い事ではありませんね…」

 

まだキヴォトス人の姿を現実で本当に見られるわけにはいかないため、穏便にお引き取りしてもらった

外の世界にないキヴォトスの有名な曲をピアノアレンジしたりもしていたため、許可なく収益可するのはよろしくない*4

 

ただヒナは風紀委員会の仕事で忙しく、本人がいないところで断ってしまった

そんな負い目があったため、先生が責任を持ってヒナに事情を説明することを2人に伝えた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ええ、断ってしまって構わないわ。有名になりたいとか、そういう理由でピアノを始めたわけじゃないもの。」

 

「そっか…わかった、じゃあそうさせてもらうね。」

 

委員会活動の終わった深夜になって、ようやくヒナに事情を話すことができた先生

ヒナと先生以外の生徒はおらず2人きりで話していたが、ヒナの将来はまだ決まっておらずピアニストになろうと思っていたわけではないので問題ないと答えてくれた

 

「それに…そんなことよりももっと大切なことがあるもの。ねえ先生…私の演奏を聴いて、どうだった?」

 

確かにたくさんの人達から評価されることは嬉しくはあるが、それよりももっと大切なことがある

 

一番聞いて欲しい人はどう思ってくれたのか

恐る恐る先生に感想を尋ねるヒナ

 

「私ももちろんすごいと思ったよ!あの日聞いた時よりももっと綺麗な演奏で…感動したよ!」

 

「ふふ、ありがとう先生。すごく嬉しい。」

 

ほのかな不安を吹き飛ばす暖かな言葉に笑みが溢れるヒナ

 

そんな暖かな気持ちに触れたせいか、我慢しがちなヒナにしては珍しいわがままを先生に伝えたくなってしまった

 

 

「ねえ先生」「ねえヒナ」

 

 

そんなヒナと先生が声を出すのは同時だった

先生と被ってしまい慌てて謝るヒナ

 

「あっ、ごめんなさい…先生から先に言って。」

「…ううん、私達が思っていることはきっと同じだと思うよ?せっかくだから2人同時に言ってみようよ。」

 

先生は自身が求めていることと、ヒナがしたいことは同じだと確信していた

せーの、と先生が掛け声を入れる

戸惑いつつも本当に一緒だったら嬉しいなと思いながら、ヒナは先生に合わせて言葉を紡ぐ

 

 

 

もしよかったら、また私の演奏を聴いてくれない?

もしよければ、またヒナの演奏を聞かせてくれない?

 

 

「…ふふっ。」

「…あはは。」

 

 

「「喜んで。」」

 

 

 

 

 

 

ヒナは演奏の準備を始め、先生はシッテムの箱を部屋に置きにいく

アロナの存在は先生しか知らないのだが、それでも今は2人きりの方がいいと思ったのだ

 

『ずるいです先生!私もヒナさんの演奏が聞きた』

『今回は我慢しましょう先輩。…先生、どうぞごゆっくり。』

 

「ありがとうプラナ。ごめんね2人とも、また今度ね。」

 

シッテムの箱の中にいる2人に謝りながら、机の上に置く

起動状態のままであれば、よほど離れすぎない限りバリア等の護りは消えないため問題ない

 

部屋に戻ると、ヒナはピアノの椅子に腰掛けて先生が来るのを待っていた

 

─これで準備は整った

 

 

「心を込めて演奏します…」

 

 

先生が深く頷くのを見て、ヒナはピアノに手を触れる

 

 

〜♩〜〜♪〜〜♪ 

 

 

満点の星空と月明かりが照らす2人だけの世界に、少女の優しい歌声と音色が響いていた──

 

*1
何故か音のする紙袋を持っていた

*2
先生と甘雨アコの大変さを知る生徒達

*3
イロハはごねてサボろうとした

*4
なるべくフリー楽曲を使ったりと問題にならないよう配慮はしていたが





というわけで、キヴォトス人はヘイロー、翼や尻尾等以外は普通の人間と同じように認識されるという回でした

獣人やロボ民もそのまんまの姿で認識されます

ミレニアムの高品質な機材を使っているので、画質も音質も最高クラスの演奏動画ならプチバズりできそうかな〜、と
後筆者がピアノアレンジ好きなのもあります、ブルアカbgmのピアノアレンジ聞いてて楽しいですよ

ヒナがどんな曲を弾いて、歌ったのか気になる方は「陽ひらく彼女たちの小夜曲」を調べてみよう!
ドレスイベは最高でした…
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