シャーレの地下室の秘密   作:cheese hamburg

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キヴォトスの中での話ばかりでしたが、ようやく本題に入れました

では、Rabbit小隊と先生の外の世界での一幕



Usagi Trip

 

◉Usagi Trip

 

シャーレに突撃した騒動の日から数日…

Rabbit小隊はぴょんこを連れ立って外の世界へと訪れていた

 

あの日は一度に色んなことがあったため改めて状況を整理するためにやってきた

…というのは建前で、他の目的があることはぴょんこと一緒に来たことからも明らかだったが指摘するような無粋なことはしなかった

 

自然豊かな場所に触れさせることは先生としても賛成だった

 

アロナとプラナからキヴォトス産の動物を連れていくのはまずいと苦言を呈されたが、絶対に逃がさないことを約束して、Rabbit小隊とぴょんこと一緒に転移した

 

 

 

 

 

「…信じられない、私は夢でも見てるのか?」

 

「どうしたのサキ?」

 

改めて訪れる外の世界

Rabbit小隊の皆は大小様々な反応を見せていたが、その中でもテレビの前で茫然自失としているサキの様子が気になったため声をかけた

 

するとサキはひどく狼狽えた様子で先生に状況を説明した

 

「だって先生!おかしい!おかしいだろ!

本当に外の世界の人達は銃を持っていないんだぞ!」

 

キヴォトス人にとって銃火器とは衣食住に並ぶほど生活にかかせないものである

高齢者だろうと幼稚園児だろうと金のないホームレスだろうとも絶対に銃は持っている

持っていなければならない

 

なのに外の世界の人々は本当に銃を携帯していなかった

 

そんな今までの人生で何があろうとも変わることのない絶対的なルールを真正面から覆す光景に、規律規則を重んじるサキは我慢ならなかった

 

「銃を常に携帯することはキヴォトスの一般常識だ。銃を持っていない人なんて、全裸徘徊する奴よりもおかしいんだぞ。」

 

 

「やめてサキ、その言葉は私に効く。」

 

 

サキは事実を言っているだけで、悪気は全くない

それだけキヴォトスの常識からは考えられない世界なのだ

 

だからこそ、キヴォトス人からは全裸で出歩くよりもおかしい変態集団に見えるという事実は先生の心を抉った

 

「くひひ、ほんと信じらんないよね〜。先生だけが特別な変態だと今まで思ってたのにさ〜。」

 

横からモエが揶揄うように話しかけてくる

モエもとても驚いていたが、サキほど動揺してはいないようだった

 

聞き捨てならないことを言われた先生はモエに抗議を始める

 

「モエは今までそんなふうに思ってたの!?私は変態じゃないよ!」

 

「「え?」」

 

心底驚いた顔をする2人

 

心外すぎる反応に言葉を続けようとした先生だったが…

 

「事故だって言ってたけどさ〜…私達がドラム缶風呂してた時に、覗いたくせに?」

 

「…私の鉄帽の匂いを嗅ごうとした件についてはどう弁明するつもりだ?」

 

「ごめんなさい。」

 

先生は即座に謝罪した

 

ドラム缶風呂は不幸な事故だったのだが、サキの件に関しては言い逃れできなかった

 

口論に勝利した2人のハイタッチする音が先生の耳に響いていた

 

 

 

「先生、そろそろぴょんこを庭に連れ出したいので来てください。」

 

「うん、わかった。それじゃ2人ともミヤコと一緒に庭に出てるね、何かあったら気兼ねなく呼んでね!」

 

先生はミヤコに連れられて庭に出てしまった

 

真面目なサキは頭痛を覚えながらも外の世界について分析をするためにテレビにかじりつき、モエは何か面白いものがないかとパソコンをいじりはじめた

 

するとまたしてもキヴォトス人からは考えられないものが目に入り、今度はモエが叫び声をあげた

 

 

「うげぇえ〜〜っっ!!?嘘でしょ、高すぎない!?」

 

 

「騒がしいぞ、モエ!どうしたんだ急に。というか、勝手にパソコンを使うのは…」

 

「ハッキングも何もしてないよ、ただ軽く調べてただけだから!それよりも見てこれ!」

 

「当たり前だ、全く…なになに、〔銃大国で売られている拳銃の実際の相場について〕……は?」

 

モエから見せられた画面を見てサキは言葉を失った

そこにはキヴォトスではどこにでもあるようなありふれた拳銃が、とんでもない値段で売られている 

 

詐欺やフェイクニュースかと思ったが、決めつけは良くないと考え直してサキは考察する

 

 

「……ははーん、わかったぞ。偽装型だな?一見普通の銃に見えて隠された機能が…」

 

「はいこれ、スペック。特段変わった所はないね。」

 

「ならカスタマイズされたやつを紹介してるんじゃないのか?

ほら、この間もとある狙撃銃がオークションで高値で売られてたり…」

 

「市販の量産品だよ、だからアンティークものでもない。」

 

「…外の世界の有名人がこれを使って活躍したんじゃないか!?」

 

「見た感じ直近で、そんなニュースはないね。」

 

「希少な金属を使って作られてる、とか…」

 

「至って普通の金属みたいだよ。キヴォトスでもありふれてる。」

 

 

「じゃあなんでこんなに高いんだ!!?」

 

 

遂にサキは我慢できずに叫んだ

キヴォトス基準からして、普通にぼったくり価格である

 

これは外の世界とキヴォトスでは銃の価値と値段が違いすぎることに由来する

前述の通り、キヴォトスにおいて銃は衣食住に並ぶほどの生活必需品

女子高生がコンビニで気軽に買えるほどに銃や弾薬の値段が安いためだった

 

─無論キヴォトスとて、全ての銃が安いというわけではなく高額な物も確かに多く存在する

 

少数生産の希少な物やアンティーク品の他、自分には思い付かない奇抜なカスタマイズがマニアに受けて高値で取引されることがあるのだ

 

しかし、この銃は素体そのまんまの状態

高い銃には高いだけの理由が必要なのに、この銃には何もない

例えるなら、何も書かれていない画用紙が他の絵画と同じ値段で売られているような物

 

これじゃあ外の世界で売れてても、キヴォトスでは到底売ることはできない

 

そんな理由からモエやサキは納得できず、これほどまでに騒いでいるのだ

 

またしても外の世界とキヴォトスとの価値観の違いという壁にぶつかったサキ

理由について先生へ問い詰めることを誓いながら考えていたその時、頭の中に邪心が芽生える

 

(いや待て、私達の装備ってちょっとした物でも外の世界だと高く売れるのか…?)

 

rabbit小隊は基本的に金欠だ

最初期に比べれば圧倒的にマシにはなったが、それでも厳しいものがある

地獄の冬が来る前に暖房設備を準備することが目下の課題となっていた

 

だが、それを買い揃えるためのお金はどこにもない

 

そんな中で、自分達にとって使い物にならない装備でも外の世界で高く売れるなら──

 

 

そこまで考えた所で思い直し、ここまでに浮かんだこと全てを振り払うように頭を振った

 

「いやいやいや、ダメだダメだ!!」

 

「くひひ、サキも悪いこと考えるね〜?」

 

「頭をよぎっただけだ!SRTの隊員たるものが武器の横流しなんて正義に背くような真似を二度としてはいけない!そういうお前こそどうなんだ!」

 

考えていたことを察したモエにからかわれて、誤魔化すように矛先を逸らすサキ

モエはキョトンとした後すぐに破顔した

 

「わたしぃ?私もまあ、思いつきはしたよ。でもやらな〜い。そんなことしたら、先輩達に顔向けできないからね。」

 

「…ああ、そうだな。」

 

今は矯正局にいる先輩達に思いを馳せる

 

モエの言う通り彼女達に恥じるような真似をするわけにはいかなかった

 

「それに武器じゃなきゃいいんじゃない?例えば…そのサキの鉄帽でも高く売れそうじゃない?」

 

しんみりとした空気を払拭するために、生真面目で堅物な同期を茶化すモエ

すると堅物な同期は思った通りの反応を見せてくれた

 

「売るな!これは正式な備品だぞ!

大体、これがそんなに高く売れるわけないだろう。」

 

(物そのものの価値だけじゃなくて、"誰が"使ってたかっていうのも重要なんだけど…ま、ダーティーすぎるし言わないほうがいいかな〜。)

「くひひ、それもそうだね〜。」

 

モエの言葉の裏の意味にサキは終始気づくことはなかった

勘違いさせたままの方が面白そうだと感じたモエも訂正することはしなかった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「一応ここにも野生動物はいるから気をつけて。」

 

「大丈夫ですよ、子うさぎ公園にも色々な動物がいるので慣れています。

…ふふ、見てください先生。ぴょんこがあんなに嬉しそうに跳ねてます。」

 

「本当だ、あれだけ喜んでくれるなんて…一緒に連れてきてよかったね。」

 

うさぎは犬などと違って必ずしも散歩に連れ出す必要はないが、広い草むらで走らせるとストレスの発散になるらしい

何よりぴょんこを何度も置いていくのは心苦しかったため一緒に連れてきたのだが、ぴょんこは嬉しそうに跳ねており連れてきて正解だったようだ

 

「いつもぴょんこには任務でひとりぼっちにさせがちだったので……いつか一緒に旅行に連れて行けたらと思ってたんです。改めてありがとうございます先生。」

 

「どういたしまして。うん、わかるよその気持ち。ペットも大切な家族だからね。」

 

「家族…ふふ、そうですね。」

 

ぴょんこを預ける時はヴァルキューレ生活安全局の生徒にお願いしていたが、自分達よりもそちらの方に懐いているように見えるのを密かに気にしていたのだ

そのためいつか旅行に連れて行けたら、と考えてはいたが時間的な余裕も金銭的な余裕もない

 

そんな中でわがままを叶えてくれた先生にミヤコは感謝した

 

「それにしても、外の世界は不思議ですね。姿形も同じ人間なのにヘイローの有無だけでここまで違うなんて。」

 

「そうだね、私も初めてキヴォトスに来た時は驚いたよ。」

 

本来であれば先生が育ってきた思い出の場所にも是非尋ねてみたかったが、安易に交流するわけには行かない現状がなんとも物悲しかった

こんなにも似ているのに、2つの世界には明確な壁がある

 

そんな寂しさを紛らわすようにミヤコは先生の手をぎゅっと握りしめる

 

「先生、気になりませんか?外の世界の人とキヴォトスに住む者が交わったら、どうなるのか…」

 

「うーん、そうだね。私以外にここからキヴォトスに行った人を知らないから、わからないなぁ。」

 

先生は自身以外に外の世界出身の人にあったことはないし、外の世界でもキヴォトスから来たという人に会ったことはなかった

 

考え込む先生にミヤコは体をぴたりとくっつけて、どこか熱を帯びた視線で先生を見上げた

 

 

「私は気になります。…ですからその、私と一緒に確かめてみませんか?

ウサギの繁殖は子供をたくさん産みすぎてしまうので大変だと聞きますが…私はウサギではないので…」

 

 

「まずは私以外にキヴォトスを知ってる人を探してみようかなー!うん!!

あっ、ハーネスはついてるけどぴょんことちょっと離れちゃったね!そばに行かないと!」

 

(交わるってそっち!?)

 

先生は大声ですっとぼけた

ミヤコの言わんとしていることを理解した先生は話を遮るように全力で誤魔化した

 

普通の人なら、君はまだ学生でしょミヤコ、そういうことは冗談でも言っちゃダメと注意するかもしれないがそれは悪手である

 

キヴォトスの肉食系女子は一度でも喰らいついたら絶対に離さない

時には鈍感なふりをすることで、いかに噛みつかれないようにスルーするかが重要なのだ

 

「むぅ…確かに医療関係者へ相談もなしではよろしくありませんね。

少し気が急いていたかもしれません、まずはキヴォトスと交流のある人を探した方が良さそうですね。……もし見つからなかったのなら、私達が初めての…ふふっ…

 

あからさまに誤魔化す先生の反応を見て、ミヤコはイロハやワカモといった強力なライバルの存在に焦っていたことを自覚し反省した

 

焦らず、けれど着実に、決して油断せず外堀を埋めていく

そう決意して、先生と共にぴょんこの元へと向かった

 

 

 

 

 

 

 

『絶対に、絶対に!ぴょんこさんを逃さないでくださいね!』

 

『同意、片時も目を離してはいけません先生。』

 

(ハーネスもちゃんと握ってるし大丈夫だよ。そこまで心配しなくともいいんじゃないかな…?)

 

可愛らしいぴょんこの姿に癒される先生達とは裏腹に、OS二人組はハラハラして気が気でなかった

 

『改めて言いますが、キヴォトス産の生き物はこの世界の生き物とは比べ物にならないくらい強いんです!』

 

『時に先生、キヴォトスの空に浮かぶ巨大な光輪…あれもヘイローだということはご存知でしたか?』

 

キヴォトスの空全域に存在する丸い模様

キヴォトスの上空を照らしている光輪もまたヘイローだという事実を知らず先生は首を振った

 

外の世界出身の先生は知る由もありませんでしたね、とプラナはキヴォトスについて説明していく

 

『キヴォトスに住まう者達は、ヘイローがなくてもキヴォトスという土地そのものに根ざす巨大なヘイローの加護によって守られています。生まれながらにして体内に神秘の核とも呼べるものが宿っているのです。』

 

『キヴォトスという土地そのものに、ヘイローが神秘が宿っているんですよ!』

 

(だからそこで生まれた生き物は強い…)

 

ヘイローがなくとも大人達や野生動物達が生徒と同様に硬いのはそういう理由があったのかと驚く先生

 

互いに神秘の核を持っているため、食物連鎖というものがキヴォトスでは成立している

神秘の核があるから銃弾を受けても死なずに済んでいる

 

『もし万が一、逃げて繁殖でもすれば最後…』

 

『この世界の肉食獣の牙が折れるほどの硬さを持った最強のウサギさんたちが誕生してしまいます!』

 

(ようやくわかった、それはまずいね!異常な硬さを持ったウサギ達として指名手配されちゃう!)

 

ことの重大さをようやく理解した先生

うさぎは1年間に6回以上、4匹から10匹ほどの子供を産むほど繁殖力の高い生き物として知られている

もしぴょんこが逃げてこの世界で子孫を残して仕舞えば、ぴょんこの持つ神秘を受け継いだ子供達が誕生してしまう

 

キヴォトスで直接生まれた生き物に比べれば弱く徐々に薄まってはいくものの、それでも神秘を一切持たないこの世界の生き物に比べれば脅威である

 

絶対に逃してはならないとハーネスを握る手を強めた

 

「ふふ、ぴょんこは良い子なのでそんなに強く握りしめなくても逃げませんよ?…そういえば、ミユはどこに行ったんでしょうか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

モエやサキが外の世界とのギャップに驚き、先生とミヤコが散歩していた中、ミユはというと

 

先生の家とはいえ見知らぬ場所にどこか落ち着かず、暗くて狭い場所を探して回り…

 

「ふわぁ…温かくて、狭くて暗くて落ち着く…」

 

早めに準備していたこたつを見つけて中に入り、満喫していたのだった

 

 

 

 

 

 

 

 

◉霞沢ミユの不思議な1日

 

『近年、猪による獣害が相次いでいます。原因はやはり天敵となる野生動物がいないせいだと考えられており──』

 

「皆ちょっとゴミ出しに行ってくるね。留守をお願い。」

 

「ああ、了解した。ところで先生、ニュースによると野生動物の出没が相次いでいるらしい。気をつけろよ。」

 

「そうだね、この時期は特に見かけやすいから気をつけるよ。ありがとうサキ。」

 

以前はこの大きな家を1人で使っていたが、今では多くの生徒達が訪れているため自然とゴミが増えてきた

そろそろ捨てに行かないと溢れてしまう

 

熱心にニュースを見ては情報収集を行なっていたサキからの情報をしっかりと頭に入れる

 

「なかなか量がありますね、お手伝いしましょうか?」

 

「そこまで遠くないし大丈夫!ささっと捨ててくるよ!」

 

ミヤコが手伝いを申し出てくれたが、もう既に色々と手伝ってもらっていたためこれくらいは大丈夫と先生は断った

 

 

「…またブロック!?こんぐらい、いいでしょー!?プロテクト頑丈すぎ〜!」*1

 

 

…その間モエは変わらずパソコンに張り付いており、チヒロ達が設定したセキュリティに阻まれては悲鳴をあげていた

 

 

 

トランクにゴミを入れて、出発しようとする先生

その時後部座席から声が聞こえてきた

 

「あの…先生。」

 

「わっ!?びっくりした!ミユ、乗ってたんだね!?」

 

いつのまにか後部座席に乗っていたのはミユだった

姿を見かけないのでまたこたつの中に入っていたのかと思ったが、こっそりと乗っていたらしい

 

「その、私何もできなくて…この間も全然ダメダメだったので、少しでも役に立ちたいんです。だからお手伝いさせてください。」

 

ミユは元々落ち込みやすい、ネガティブな性格している

この間のワカモ襲撃の際もすぐ倒されて何もできなかったことを気に病んでいるようだった

 

「じゃあお手伝いをお願いしようかな。それとミユの狙撃能力には助けられたことまあたくさんあるし、ダメなんかじゃないよ。自信を持って。」

 

「はい…気を遣ってくれてありがとうございます…」

 

「ちゃんと本心だから安心して。それじゃ出発するよ。」

 

無闇に連れていくのは良くないことだが、今のミユを放っておくわけにはいかない

お手伝いしたことで少しでもミユの気が晴れるならと思い、連れていくことにした

 

しっかりとフォローの言葉を伝えてから、先生は車を発進させた

 

 

 

 

「あそこにおばあさんとおじいさんが……本当に銃を持ってないんですね…」

 

「この距離で見えるの!?本当にミユは目がいいんだね…!」

 

車を走らせる中、外の景色を眺めていたミユの言葉に驚く先生

遥か遠くにある畑に立っている米粒のような人影もミユは正確に見分けられたらしい

 

狙撃能力だったり、隠密能力だったりとスナイパーとして非常に優秀なはずの彼女がどうして自身の強みに気が付かないのか

 

外の世界でもいた自身の才能に気付かずに腐ってしまった人々を思い出し、ミユを褒める先生だった

 

 

 

 

 

無事ゴミ捨て場へと着いた

ちょうど周りに人がいなかったため、誰かが来る前に急いでゴミを捨てる

アロナとプラナのおかげで監視カメラの位置や範囲を把握しているため、ミユがばれる心配もない

 

ミユにバケツリレー式で手伝ってもらったためすぐ終わったが、本人はまだまだ浮かない様子だった

 

「そうだ!ミユ、ちょっと寄り道していってもいいかな?」

 

「…?はい、大丈夫です、けど。」

 

なんとかうまく励ませられないか考えていた先生だったが、いい案を思いついた

ミユ自身の実力に問題はないため、自分に自信がないことと運が悪いと思っていることがネックになっている

 

運気を呼び寄せるアイテムを渡して、自信がつくようにしてあげればミユも前向きになってくれると考えたのだ

 

「実はこの近くには神社があってね。開運、厄除けのお守りで有名なんだ。それがあればミユの心配事も全部吹き飛ぶんじゃないかな?」

 

「ふえっ…そんな悪いです!でも、それがあれば…うまくいくのかな。」

 

「きっとうまくいくよ!」

 

ミユは後ろ向きに思いつつも、お守りに心惹かれているようだ

 

そんな反応を見て、善は急げとばかりに先生は車を発進させた

 

 

 

 

「うん、着いた。じゃあ買ってくるよ、ちょっと待っててね!」

 

駐車場に着くと既に何台か車が停められていた

車の中は当然無人で、何人かの人がお参りしているようだ

ミユに車の中でヘイローが見られないよう、隠すことを伝えてから先生はお守りを買いに行った

 

(先生、どんなお守り買ってくるんだろう…楽しみだな…)

 

先生の言葉とお守りの存在に勇気づけられ、幾分か明るい気持ちで待機する

少しワクワクしながら車内で先生を待っている間、不思議な感覚が湧き上がってくることにミユは気づいた

 

(それにしてもなんだろう、凄くふわふわする…

風邪ひいちゃったのかな…でも、体がだるいというよりは力が湧いてくるような…)

 

最初は気持ちが浮き足だっているせいかと思ったが、それとは別に力がみなぎるような不思議な感覚を味わっていた

 

 

 

そんな感覚にミユは戸惑っていると、神社の方から多くの人が近づいてくる気配を感じた

 

(あ、人の気配…隠れなきゃ。でもなんだか焦ってるような…どうしたんだろう。)

 

混乱しているような、普通ではない足音に違和感を感じたミユは聞き耳を立てた

 

 

「落ち着いて離れてください!現在境内に野生の猪が出て大変危険です!安全が確保されるまで決して近寄らないでください!!!」

 

 

なんと猪が現れてしまったらしく、慌てて多くの人達が逃げてきた

 

こちらの世界でも、野生動物による獣害はあるんだなと少し怯えながら、車内で隠れ続ける

 

その時、ミユは気がついた

車へと向かってくる気配が微塵もない

 

つまり、逃げてきた人達の中に先生がいない

 

「はっ…せ、先生っ…!!?」

 

 

 

 

 

『先生、境内に残っている人はもういません!』

 

『先生も速やかに逃げてください。』

 

「そうだね、でも今背中を向けたら突っ込んでくるよね…!」

 

先生は神社の人達と協力して避難を手伝っていたのだが、最後に1人逃げ遅れてしまっていた

 

目の前には興奮してしまっている大小様々な猪の群れ

まさか本当に出てくるとは思わなかった自身の考えの甘さを先生は恥じる

 

先生自身はシッテムの箱による加護があるため、怪我をしてしまう心配はない

しかしこのまま逃げ出した時に、猪達が一緒に着いてきてしまうのはよろしくない

走りたくなる気持ちを抑えて少しずつ距離を取る

 

ゆっくりと静かにその場から離れようとするが、既に興奮してしまっていた猪達が突進してきていた!

 

 

「や、やぁあああああっっ!!!」

 

 

その時声を上げながら走ってきたミユが立ちはだかり、突っ込んできていた猪を吹き飛ばした!

 

「ええっ!?ミ、ミユ!?」

 

突然走ってきたミユが猪達を吹き飛ばしたこともそうだが、それ以上に驚愕することがあった

 

ミユのヘイローが力強く光り輝いていたのだ

 

「せ、先生!下がってください!」

 

『こ、これは…!?』

 

『ミユさんがパワーアップしてますっ!?』

 

怯んだ猪達は突然のことに驚きながらも、すぐに向き直って──後悔した

 

何かがいる

視界の一部がぐにゃりと歪んで姿形を捉えることができないが、圧倒的な気配を放つ何かがそこにいる

 

この世界の生き物が出すとは思えない気配と迫力を放つ、得体の知れない何かに猪達は恐怖した

 

「あ、あっちに行って…!」

 

ミユは精一杯威嚇して追い払おうとする

得体の知れないものが動き出すのを見て、既に戦意を喪失していた猪達は蜘蛛の子を散らすように逃げていった

 

騒がしかった境内は静けさを取り戻し、他に野生動物の姿はない

安全を確認した後、ミユは先生へと振り返った

 

「先生無事で…あっ、ごめんなさい!!」

 

無我夢中でここまできたミユは先生の無事を確認してすぐに我に帰った

この世界では姿を晒してはいけないのに、外に出てきてしまった

 

不安と後悔で頭の中がいっぱいになり、謝るミユ

 

「謝らないでミユ、助けに来てくれてありがとう。ミユは本当に勇気のある良い子だね。」

 

そんなミユを先生は優しくなだめてお礼をいった

ミユがどうして外に出てしまったのかもちゃんと理解している

 

普段とは違って銃も持っていないのに、自分を助けるために勇気を出して助けに来てくれた生徒をどうしてせめることができようか

猪から護ってくれたことに心から先生は感謝を伝えて頭を撫でた

 

 

 

「あっ、お客さんご無事でしたか!?」

 

「えっ、あっはい!……ミユ、私の後ろに隠れて。」

 

そんな時、神社の関係者の人が来てしまったので急いでミユを背中に隠す

 

距離的に見られてしまったことは想像に難くなく、どうやって誤魔化そうかと必死に考える先生に住職が口を開く

 

「よかった…他のお客さんは無事避難しています。残っていたのは貴方1人だけです、無事で本当によかった。」

 

「えっ…?」

 

「あ、あの私…私もいるんですけど…?」

 

ミユが思わず先生の背中から顔を出して問いかけるが、全く反応がなかった

ミユの姿どころか、声さえも聞こえていないのだ

 

─その後も警察官などが訪れたが、その場にいる誰もがミユの存在に気が付かなかった

 

(こんなに近くにいるのに、誰も気が付かない…姿どころか声さえ聞こえていない…!?)

 

『報告、ミユさんの神秘が著しく高まっています。』

『私達も油断したら見失ってしまいそうです!』

 

普通ではない状況に不安を隠せないミユを安心させるように先生は彼女の手を強く握った

 

ミユは少し驚いたものの、顔を綻ばせ緊張を和らげたのだった

 

 

 

 

 

結局あの後誰一人としてミユの存在に気がつくことはなかった

嬉しい誤算ではあったが、疑問は残る

 

神社の安全が確保されるまで境内に入ることはできないので、待ちながら原因について考察する

 

(ねぇ2人とも、どうしてミユの姿が見えなくなってしまったんだろう…?)

 

そんな問いかけをすると、優秀なAI二人組はこれまでの状況から導き出した考えを語ってくれた

 

『これは推測になりますが…先生は神域というものをご存知ですか?』

 

(神社の境内とか…神の宿る場所、だよね?)

 

神域とは文字通り神の領域を表したものであり神社の境内、場合によっては島全体が該当する場合もある

 

しめ縄や鳥居、柵などを用いて常世と現世の境界を敷いており結界としての役割も果たしている

 

『はい、その認識であっています。実はこれまでも神域と呼ばれる場所で、神秘に似た別種の力が宿っていることを確認していました。』

 

(そうだったの!?)

 

『はい!この力は外の世界だけでなく、キヴォトスでも同様に神社や教会といった場所で観測してました!』

 

なんとキヴォトスで観測されている不思議な力が外の世界にも存在していたことに驚く先生

 

具体的にどういったものなのかプラナ達は考察を話す

 

『これはいわゆる信仰心による力…長い年月をかけて積み上げられてきた人々の想いによって生み出されたものだと考えられます。』

 

『具体的な根拠やどういった原理なのかは、はっきりとはわかりませんが…今まで観測された場所から見て間違いないと思っています!』

 

神社でお参りすれば幸福が訪れるというのはあながち間違いではないんですよと、アロナは付け加える

 

神社に訪れる人が多いほどこの不思議な力はより濃く大きなものとなり、人々に作用することがあったらしい

 

『もう一つ、この力にはとある法則が見られました。それは神秘のより強いものに反応して集まる性質があったのです。それを裏付けるように神秘を持っていない先生にはほとんど集まる様子が見られませんでした。』

 

(そうか、普通の人間にはキヴォトスの人ほど信仰心によって生まれた力が反応しないから、外の世界ではたくさん溜まっていって…)

 

キヴォトスでは住人全員が神秘を持ってる存在のため、ほとんど溜まらずに神秘に紛れて消費されていた

 

しかし、キヴォトス人が全員神秘を持っている

のに対して外の世界の人々は誰一人として神秘を持っていない

 

(ミユはヘイローを、神秘を持っていたから集まっていた力が反応したんだ…)

 

そこに唯一神秘を持った存在であるミユが現れたことによって、ミユ1人に溜め込まれた力が注ぎ込まれたのだ

 

(もしかして…ミユの持っていた神秘がこの神社の神様とよく似ていたのかな?)

 

先生はゲマトリアの黒服と会話した時のことを思い出す

黒服はホシノのことを、暁のホルスと呼んでいたのだ

 

ホルスという存在は外の世界にも馴染みがあり、エジプト神話における天空の神を意味している

 

それと同じようにミユに秘められた神秘に近い存在が祀られているのではないかと考えた

 

『申し訳ありません、そこまではわかりません。

ですが…日本の気質、八百万の神々、全てのものには神が宿るという概念ととても相性が良かったのだと思われます。』

 

『ミユさんもたくさんいらっしゃる神様の1人が訪れてきたのだと勘違いしてしまったのかもしれませんね。』

 

なんにせよ初めて連れてきたのがミユさんでよかったですと、アロナは締め括った

気配を消す神秘を持ったミユだから、変に目立つことなく姿を隠す結果となってくれた

 

今後外の世界の神聖な場所に生徒を連れてくる際には、慎重に動かなくてはならないことを先生達は知ることとなったのだった

 

 

 

少し寄り道するはずがまあまあ時間がかかってしまったため、ミヤコ達を心配させないように先生は一報を入れた

 

無事連絡を終えたのちに何事もなく終われたことに、2人で感謝の気持ちを込めて神社にお参りした

 

 

──手を合わせて祈っていると、それに応えるように爽やかな風が吹き抜けていった

 

 

 

 

 

「あっ…」

 

「どうしたのミユ?」

 

車で神社から離れていくにつれて、今まで感じていた浮遊感が無くなっていくことをミユは感じた

 

自分の体が元に戻っていくことに安心感を感じる

 

「さっきまで感じていた…その、ふわふわした感じがなくなりました。」

 

「そっか、良かった…じゃあ多分ミユの姿が皆にも見えるようになったと思うから隠れててね。」

 

「はい…ずっと透明だと不安になっちゃうから戻って良かったです…」

 

影が薄いことを気にしているミユは本当に透明人間になってしまったことを恐れていたため、元に戻って心の底から安堵した

 

 

思いがけない外の世界での出来事に、色んな意味で忘れられない一日になりそうだとミユはお守りを握りしめていた

 

 

*1
チヒロとヒマリ合作によるもの。コユキでもない限り解除するのは非常に困難。





Q.ミヤコさん色ボケすぎないですか?

A.原作からして2人きりの無人島で繁殖した兎の話を始める子なのでありかなと思いました


Q.外の世界に神様はいるの?

A.詳しくは不明です
いるかもしれないし、いないかもしれない
ただ、神秘に似た信仰心による力が存在するのは確かです

メタいことをいうと唐突なオリキャラ神様は出てきません


Q.キヴォトスでは信仰心による力は溜まらないの?

A.キヴォトスでは全員神秘を持ってる神様みたいなものなのですぐ使われます
なのでほとんど溜まらずに神秘に紛れて循環しています

外の世界は神秘を持つ者が現代において1人も存在しないため、減る量が少なく溜め込まれていました


Q.それほどの力が注ぎ込まれたらミユは神様に近い存在になってしまうのでは?

A. 生徒の姿をとっている以上、上限値が決まっています
なのでどんなに力を与えられてもものすごい神秘をもった生徒という枠からは外れません

ただし、いわゆる"人の姿"というテクスチャを剥がされた状態で受けたならば、おそらくは…


Q.どうして先生だけはミユを見失わなかったの?

A. "ミユの存在(姿形)を知っていて"、"その存在を信じているため"知覚できました

この状態のミユは写真や動画にも映らず、大人にも姿は見えませんが、動物達や感受性の高い子供になら感じ取ることができるかも

かなり拡大解釈入ってますが、原作の時点で自動ドアのセンサーも反応しないって相当だなと思ったので…

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